父が腐男子で困ってます!

あさみ

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ハヤトと生徒会

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夏休み最終日。
了は必死に自由課題の宿題をやっていた。

先日、友人達が帰った後で、隼人が了に教えてくれた自由課題は、簡単に言うと読書だった。


「え、読書? もしかして読書感想文ってヤツですか?」
了が訊ねると、隼人は頷いた。

「簡単に言えばそうだが、俺がやった自由課題はただの読書感想文じゃないよ。夏休みの間に100冊の本を読んで、感想と共に提出したんだ」
「100冊!?」
了は叫んでいた。
隼人は平然とした顔で続ける。

「本のタイトルと作者名にあらすじ。そして最後に感想を書いた。まぁ、休みの間に100以上読んでいるから楽勝なんだが」
「俺はぜんぜん楽勝じゃないです! そもそも今から100冊も読めないです!」
隼人は了を指さした。

「君には下地があると言っただろう?」
「下地とは?」
「基礎という意味だよ。君は先生の書斎にあるミステリーをほとんど読んでいるんだろう? だったら、あとは感想を書くだけだ。これなら2日もあれば出来るだろう?」
「た、確かにいけるか?」
了は自分の顎をつまんで考える。
「でも、読書感想ってけっこう書くの時間かかる気がする……」
弱気になっていると隼人に肩をつかまれた。

「君なら出来るよ」
「え?」
了は真顔で見つめ返した。
「君はあの宗親先生の息子だ。普段から本を読んでいるし、文章を書くのもおそらく得意なはずだ。君なら間違いなく出来るよ」
隼人ははっきりと言い切った。
その言葉に了は勇気をもらえた。なんだかやれそうな気がする。

「それに別に100冊じゃなくても良いんだよ」
「え?」
隼人はニコリと笑った。

「俺が100冊だったって言うだけだ。本の数は50だって30だって別に良いんじゃないか?」
「そっか! そうだ、うん!」
了も笑顔になった。
これは100冊読んで提出しろという宿題ではない。自由課題なんだ。だったら出来る所までやれば良い。

「まぁ、俺のように100冊でやれば先生を驚ろかす事は出来ると思うけどね」
隼人は格好つけて前髪をかきあげてみせた。
「確かにそうですけど、俺は時間がないんで、取り合えず30冊位でやってみたいと思います!」

宗親の書斎の本なら30冊以上楽に読んでいる。あとは内容を思いだしながら感想を書くだけだ。
「俺、今から頑張ります! 小清水さん、本当にありがとうございます!」
「ああ、頑張ってくれ」
隼人は了の頭に手を乗せた。
思わず胸が高鳴った。

なんだこの少女漫画みたいな行動は!?
てかBL漫画とか小説の読みすぎなんじゃないか!?
頼むから俺を相手にやらないでくれ。変にドキドキするじゃないか!
了は心の中で突っ込んでいた。

「ん? どうした?」
「いや、なんでもないです。というか、小清水さんて美形だし、話さなければ本当にモテるんじゃないかなって思いました」
「ああ、心配無用だよ。すでに十分モテているから」
「自分で言うし!」
「事実だから仕方ないだろう?」
隼人はリビングのソファで足を組んで髪をかきあげる。

「だが俺は人の心を操るのが得意だからね。上手くかわして揉め事が起こらないように過ごしているよ」
みどりの事を思いだした。ストーカーだったと言っていたのに、今では下僕扱いだ。
「えっと……恋人は作らないんですか?」
好奇心で聞いてみた。

「恋人? この俺にそんなモノが必要だと思うのか? 俺単体で神のように完成された存在だと言うのに?」
「あなたは新世界の神ですか!? 黒い殺人ノート持ってる系ですか!?」
「冗談だよ」
了の突っ込みを隼人は軽く流した。

「それより今から作業した方が良いんじゃないか? 君がどれ位のペースで文章が書けるかわからないが、夏休みは残り一日だからな」
「今すぐやります!」




そして夏休み最終日。
了は必死に宿題をやっていた。

宗親の書斎から本を移動して、ダイニングテーブルで作業を進めた。
身内の物は恥ずかしいので宗親の本は省いてある。

比較的内容を覚えている本を選んだのだが、感想を書くのは時間がかかった。
内容を確認しようと開くと、うっかり読みふけってしまうので注意が必要だ。

「やっぱ、この本良いよな」
読み返しながら改めて思った。
お気に入りの作家『秋月アキラ』の代表作だ。
現代版の怪人20面相と少年探偵団のような作品で、毎回奇怪な事件が起こる。
「とにかくキャラが良いんだよな」
了は呟きながらお気に入りのシーンを読む。
少年探偵団のリーダー各の少年、涼介が活躍する所だ。主人公の一人である涼介は作中ではリョウと呼ばれている。
まるで自分が主人公になったかのようで、読むのが楽しみだった。

了は秋月アキラの本を中心に書き進めた。
思いの他順調だった。
父親に似たのか文章を書くのはまったく苦ではなかった。


「順調に進んでいるようだな」
いつものように家に来ていた隼人に声をかけられた。
了は作業の手を止めて隼人を見る。

「お陰様で助かってます!」
隼人はテーブルに置いてあった本に目を止めた。
「アキラ先生の本か」
隼人はふっと表情をやわらげた。
「やっぱり君とは好みが合うな。その本も俺の好きな本の一つだ」
「この本良いですよね! ラストが少し切ないけど、イヤミスってほどでもないし!」
「ああ、やっぱりイヤミスも知ってるんだな」
「え、あ、そっか。普通の人にはイヤミスは通じないか」
イヤミスとは読後にイヤな気持ちになるミステリーの事だ。最近はやりのジャンルの一つでもある。

「俺はあんまイヤミス好きじゃないんですよね。やっぱり最後はハッピーエンドであって欲しいんで」
「同感だ。俺もイヤミスは好きじゃないよ」
「わかりますよ。小清水さん主人公総受けBL好きですもんね。それって絶対イヤミス嫌い系ですよ」
「何故わかる? 君もBLを読んでいるのか?」
「違いますよ! 父さんがよく言ってるんですよ、だからです!」
了は慌てて否定した。
でも実際は若干BLも読んだ事がある。ミステリーだと思って読みだしたら、少しそういう内容が入っていたというのがあった。
宗親のBL本を開いて、パラパラと見た事も一応ある。

 「それはそうと、小清水さんは最終日までウチで過ごしてるんですか? 他に行く所とかないんですか? そもそも一緒に遊ぶ友達はいないんですか?」
隼人は了のいるテーブルに手をついて屈み込んだ。
了の顎を指先で掴んで顔を寄せる。

「ここに来る理由なんか一つだよ。君に会いに来ているに決まっているだろう?」
真顔で言われて心臓が跳ねた。
了は顔を赤くしたまま隼人の手を振り払う。

「もうあなたのBLネタには付き合いませんよ! 俺は無視します!」
「十分反応してるようだけど?」
ニヤニヤと笑う隼人のボディに拳を入れる。もちろん軽くだが。

「ああ、骨が折れたようだ。これは責任を取ってもらわないと。君が俺の手となり足となり、風呂やトイレまでべったりと寄り添い、世話をしてくれるのかな?」
「しないですよ。つーか、他の人間がいない時に自分でBLごっこするのはやめて下さい。そういうのは誤解を生みますよ!」
「誤解? 何の誤解だ?」
隼人は首を傾げた。

「だから、あなたが俺の事を好きなんじゃなかっていう誤解です!」
「そんな誤解を誰がするっていうんだ? 君の周りの人間はみんな俺が腐男子だと知っているだろう?」
「それはそうですが、俺が勘違いする事もあるでしょう!?」
「君が勘違い? どんな?」
「だから、俺の事好きなんじゃないかって!」
言って気付いた。
なんだか恥ずかしい発言だった。顔が熱くなった。

「君は俺に好かれてるって誤解するのか?」
「えーと、この話はもうイイです。やめましょう」
了は顔をそらし、手元にあった本を掴む。

「別に君の事が好きなのは事実だが?」
了は顔をテーブルに打ち付けた。
「それが誤解の元ですよ! BL妄想のため、理想の受けとして楽しんでるんでしょ!?」
「そうだが、それも好きの一種じゃないかな? 一番の推しなんだから」
了はもう会話を諦めた。
ドキドキしてしまった気持ちを返してくれと言いたい。
いや、そもそも隼人の趣味を分かっていてドキドキしてしまった自分をバカだと思った。


「楽しそうだな」
ニコニコしながら宗親が現れた。

「そろそろお茶にしようと思ってたんだ。今日のデザートはプリンだぞ」
了はテーブルに出ていた本やノートを片付けようとする。
「あ、リビングテーブルに出すからそのままで良いよ」
宗親がお茶の準備を始めたのでソファに移動した。
隼人はむかい側に座る。

「こうやって見ると、君達は本当にお似合いな」
プリンを運びながら宗親が呟いた。

「二人共すっきりした顔立ちで、雰囲気も近いし、どう見ても恋人同士だよ!」
「いや、男同士で恋人同士には普通見えないから! それは父さんと小清水さんだけの目線だから!」
突っ込んでいると隼人が呟いた。
「俺的には金髪×黒髪のカナデ×リョウとか、年下×年上のレン×リョウとか、ああ、でも忍ぶ恋って感じで、ミズキ×リョウも良いんだよな」
「あなたは黙ってて下さい!」
叫んだ後で了は出されたプリンに手を出した。もう食べて気を紛らわすしかない。


「そういえば、先生は秋月アキラ先生とは面識はないんですか? 出版社のパーティーとかで会う機会はあるんじゃないですか?」
隼人の問いにスプーンを持つ宗親の手が止まった。

「……さぁ、秋月アキラ? 会った事ないなー。そんな作家」
宗親の反応が少し気になった。
そんな作家、なんて言いながらすべての本が書斎に置かれている。
知っているし本を読んでいるのも間違いがない。それを誤魔化すのは、逆に意識しているからだろう。
同じ作家としてライバル視しているのかもしれない。
了はデリケートな問題な気がしたので、それ以上は突っ込まない事にした。


夕方前に、了は帰宅する隼人を見送りに玄関まで行った。
「宿題は終わりそうか?」
「お陰様で」
隼人は微笑んだ。さわやかな美しい笑顔だった。
腐男子発言をしなければ、本当に美形なのに残念な人だ。

「新学期が始まったら、君は生徒会メンバーだな」
忘れたかった事を思いださされた。
「はぁ、まぁ約束なんで」
隼人はニコリと笑う。
「今後もよろしく頼むよ」
「……はい」
普通の会話だとちょっと緊張した。隼人が美形すぎて、うっかりすると見惚れそうになる。

「あ、そうだ!」
靴を履いた隼人が振り返った。顔の近さにドキリとした。
玄関の段差のせいで、いつもより顔が近い。
隼人は真剣な顔をしていた。
「さっき言った事だけど……」
「さっき?」
首を傾げる了に隼人は頷いた。

「君と俺がお似合いだと言われた時の事だ。俺は君にはカナデ君やレン君、ミズキ君が良いって言ったが、それは嘘だ。いや、嘘ではないな。言葉が足りなかった」
ドキンと心臓が鳴った。
隼人は真剣な目をしている。自分ではなく、奏や蓮太郎やミズキの名を出した事を訂正したいというのは、それはつまり。
ドキドキと心臓がどんどん早くなる。
これは告白なんだろうか?
隼人も自分の事を好き? そんな事があるか?
逃げ出したいような気持で了は口を開いた。
「あ、あの……」
「俺はちゃんと、シオンさんの事も応援している! シオン×リョウも正義だと思ってる!」
「さっさと帰って下さい!」
了は隼人を押し出し、玄関のドアを閉めた。

一人になった了はため息をついた。
「俺、なんであの人が俺に告白するなんて思ったんだろう?」
脳がBLに毒されているなと思った。




新学期になった。
クラスメイトとは久しぶりの再会だった。
見た目が劇的に変わったという生徒もなく、みんなが楽しそうに夏の思い出を語っていた。

宿題を無事提出した了は安堵していた。
生徒会に入るのは予定外だったが、受けた恩は返さなければならない。





生徒会の最初の集まりは新学期早々の金曜日に行われた。
初めての場所に緊張しながら、了は生徒会室に向かった。
緊張しながらノックしてドアを開いた。
隼人の顔が見えた。
それだけで安堵した。
知らない場所に知っている人間がいるというのは、それだけで安心できる。

「待っていたよ。そこの席に座ってくれ」
了は隼人に促された手前の席に座った。
テーブルには知らない人物が3人座っていた。
男子が二人に女子が一人だった。
全員知らない顔だ。

ノックと共にドアが開いた。
「失礼します!」
大きな声で挨拶して貴一が入ってきた。了に気付くとすぐに笑顔を向けてくる。
「キイチはリョウの横に座ってくれ」
指示した後で、隼人はホワイトボードの置かれた窓際に立つ。

「全員そろったようなんで始めようか」

「みどりもいますよ!」
準備室のような部屋から、勢いよくみどりが出てきた。隼人の元ストーカーで貴一の姉だ。
みどりは順番に席にお茶を配っていった。了は軽く頭を下げる。

「まずは現生徒会メンバーから紹介しよう。俺が生徒会長の小清水隼人だ」
貴方の事は知ってますよ。内心で突っ込んだが黙っていた。
隼人が目を向けると一人の男子生徒が口を開いた。

「副会長の相馬ミツルです」
ニコリともしない挨拶だった。クールというか暗い感じの少年だった。
寡黙そうなので隼人の懐刀的存在なんだろうと思った。

その隣に座っていた少女が軽く頭を下げた。
「同じく副会長の、日村夏帆です。よろしくお願いします。あ、ここにいる現メンバーはみんな2年生です」
やわらかく上品な雰囲気だった。
副会長はバランスをとるために男女二人いる学校が多い。
見た感じ、性別の他に明暗、剛柔という反対の印象の二人だった。
その二人の向かいに座っていた人物が声を出した。
「会計の戸坂誠です」
地味な雰囲気の小柄な少年だった。
漫画やドラマに出てくる生徒会は、隼人のような美形の集まりというイメージがあるが、それとは真逆のイメージだった。
どちらかというと教室の隅にいそうなタイプに見えた。
ちなみに了は自分の事もクラスの隅にいるタイプだと思っている。

現メンバーの紹介が終わると隼人は了と貴一に目を向けた。

「では改めて、先日生徒会を辞めた伊藤君の代わりの人物を紹介しよう」
伊藤君というのが、響と遊ぶために嘘をついたという人なんだろう。
「新しい会計にはそこにいる佐川貴一君にやってもらう」
貴一が立ち上がって頭を下げた。
「佐川貴一です。いつも姉がお世話になっています。姉共々よろしくお願いします!」
元気な挨拶だった。
この後に挨拶するのは緊張する。

「その隣にいるのは尾崎了君だ。彼には庶務をやってもらう」
了は立ち上がった。
「尾崎リョウです。よろしくお願いします。あの、それで……庶務って何するんでしょう?」
了は後半隼人に話しかけていた。

会長、副会長、会計、書記は聞いた事があるし、何をするのかなんとなく理解できる。
でも庶務とはなんだろう?
具体的に何をするのか想像できなかった。

「ああ、庶務か、庶務と言うのはこれという仕事は決まっていない。要は雑用だな」
「ちょっと待って下さいよ! じゃあ、俺いなくても良いんじゃないですか? そもそも雑用はみどりさんがやってるんですよね!?」
「言っただろう。みどり君は下僕だから庶務ではない」
「だから生徒会長が下僕とか言っちゃダメでしょ!?」
了はついいつもの調子で突っ込んだ。
隼人は平然としている。

「そもそも君を生徒会に入れるのは、仕事の為ではなく俺の癒しの為だからな」
「癒しとは?」
誠が呟いた。

「ああ、リョウにはイケメンの恋人候補がたくさんいるからな。彼がここに来ると、リョウ目当ての少年たちが集まり、自然とBL展開が見られるだろう?」
「ああ、そういう……」
誠と夏帆が納得したようにうなずいている中、ミツルが大きく舌打ちした。
了はビクリとしてミツルを見る。
鋭い目で睨まれていた。
どうやら彼に良く思われていないようだ。それもそうだろう生徒会でBLネタとかおかしいだろう。

「ちょっと小清水さん、こんな場所で変な発言はやめて下さい! みなさんドン引きじゃないですか!? 貴方は、生徒会では品行方正で立派な生徒会長で通ってるんじゃないんですか!?」
隼人は堂々と胸を張る。

「俺は自分が腐男子である事を、ここにいるメンバーには伝えてある。そもそも我が校は同性間の恋愛を禁止していないし、いかなる差別も禁止している。同性愛も腐女子も腐男子も差別される事ではないんだ!」
「差別じゃなくてTPOとか、恥じらいとかそういう問題なんですけどね!」
ついいつもの調子で突っ込んでいたが、周りの生徒達は驚きの様子で了を見ていた。

「会長にここまで突っ込めるなんてすごい新人だね」
誠の言葉に夏帆も頷く。
「なかなか楽しい感じかも」
「後輩のくせに生意気だな」
ミツルは相変わらず不機嫌そうだった。

「そういうわけで今後はこのメンバーで仕事を進めるから、みんな今後ともよろしく」
隼人が強引にまとめて締めた。

今日は紹介だけで解散となった。
部屋から出ようとすると、隼人に声をかけられた。
「せっかくだから一緒に帰ろう。部屋を片付けて鍵を閉めてから行くから昇降口で待っていてくれ」
有無を言わせない感じだった。


貴一と話しながら、了は昇降口に向かった。
「君も生徒会に入る事にしたんだね」
「まぁ、いろいろあって」
「僕は入ってもらえて嬉しいよ。やっぱり同じ年の人がいるって心強いし、最初は緊張するしさ」
「そうだね」
確かに貴一がいるのは心強かった。
「今後は生徒会も一緒だし、他の人達みたいに仲良くしてもらえると嬉しいな」
「うん、こちらこそよろしく」
了は差し出された手を握った。大きな手だった。
おそらく貴一は学校にいる友達の中では一番体格が良く、背も高い。
剛輝の方が少し高く見えるが180センチ位はありそうに見えた。

「僕もみんなみたいにリョウって呼んでも良い?」
「あ、うん、じゃあ、俺もキイチって呼ぶよ」
昇降口に辿り着いた。
「会長と帰るんでしょ? じゃあ、また」
貴一は了を置いて帰っていった。

了は昇降口前のベンチで携帯をいじりながら隼人を待っていた。
気配を感じて見上げると、ミツルが立っていた。
了は身構えた。
生徒会室でもそうだったが、ミツルは了への敵意を隠そうとしていない。

「尾崎了、お前のせいで会長はおかしくなったんだよな?」
「おかしく?」
「腐男子とかBLとかさ。お前と会うまでは、あの人は格好良い人で尊敬してたのにさ」
正確には了ではなく宗親のせいだ。
でも彼からしたらどっちでも同じかもしれない。
黙っているとミツルは叫ぶように言った。
「あの人は元々はあんな変態じゃなかったんだよ!」

変態って尊敬する人に向ける言葉じゃないんじゃない?
そう思ったが了は堪えた。

「会長が決めた事だから文句は言わない。でも俺はお前が嫌いだからな。覚えておけよ」
ミツルは拳を握りしめてそう言うと立ち去った。
その姿が見えなくなると、了は息を吐いた。

「なんか前にもこんな事あった気がするな」
蓮二郎にも最初は嫌われていた。
それにカフェオレを持った女の子に文句を言われた事があった。
意外と自分は嫌われやすいんだろうか。

廊下の角から隼人が歩いてくるのが見えた。
顔はもちろんだが歩く姿勢もキレイだった。
他の人間と違い、隼人は凛とした空気を纏っていた。

ああ、仕方ないなと思った。
あんな風に人目を惹く人間と親しくしていれば、どこかしらで恨みは買う物だ。
隼人も奏もそれ程に人目を惹く人物だ。
そういうのが嫌で奏はグレていた位だ。
もしかしたら隼人や奏と距離を取ったら、ああいう嫌がらせや負の感情を向けられる事は減るのかもしれない。
けれど。

「待たせたな、じゃあ行こうか」
「はい」
了は立ち上がって隼人の後について行く。

誰かに嫌われたり、嫌がらせをされても、そんな事で友人を遠ざけるのはおかしい。
どんな嫌な事があっても友達は大事にするものだ。
了はそう思った。





家に着いた了は鍵を開けるとドアを開いた。
「ただい……」
声が止まった。

廊下に宗親が居た。
その宗親にいわゆる壁ドン姿勢で知らない男が立っていた。
キス寸前というような光景に見えた。

「え?」
了は声も出せずに固まってしまった。
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