父が腐男子で困ってます!

あさみ

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家庭訪問と犬系男子

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夏休みの宿題をする為の、家庭訪問という名の、友人宅訪問がスタートした。

尾崎家は普段からよく集まっているので飛ばして、第一回目は奏の家に行く事になった。
駅前で待ちあわせたメンバーは、了、奏、ミズキ、響の四人だった。

みんなで話しながら住宅街の道を進んだ。
奏の家はマンションの6階だという事だった。

「両親は共働きで夜まで帰ってこないから、気を遣わなくて良いよ」
奏が言うとミズキが呟く。
「じゃあ、4時か5時位に帰ったら良いかな?」
「えー俺はカナデのお母さんに会いたかったな!」
響が叫んだ。
「え、なんで?」
奏は首を傾げる。
響は頭の後ろで手を組んでニコリと笑う。

「だってカナデのお母さん、絶対美人でしょ?」
「なるほど!」
了は手を打ちたい気分だった。確かにそうだ。
これだけの美少年の親だ。きっとすごい美形に違いない。好奇心をくすぐられる。
「確かにお母さん、会ってみたいな。いや、お父さんもすっごいイケメンなんじゃない?」
了は期待を込めた目で奏を見る。
「いや、うん……普通よりは良いかもしれないけど、でもイケメンで言ったら、リョウのお父さんには負けると思うよ」
「ああ! 確かにリョウのおじさんもイケメンだよな!」
響が派手に頷いた。

「えー、父さんイケメンか? いや、まぁ、そうかもなんだけど中身がだいぶイタイからなぁ」
了は宗親を普通の親だと思っていた頃を懐かしく思いだした。
あの頃は若くて格好良い父親だと思っていた。
現在はただの腐男子。ちょっと、いや、かなりおかしな変人という認識になっている。

「でも実際にご両親に会うのは緊張するし、迷惑だろうから夕方には帰るな」
了が言うと奏は頷いた。

途中のコンビニでお菓子や昼飯を買ってから家に向かった。
ファミリー向けの普通のマンションと聞いていたが、横幅の長い大きなマンションだった。
「結構大きいマンションじゃない?」
奏はエントランスの自動ドアを開けながら首を振る。
「そうでもないよ」
「なんかカナデのイメージだとタワーマンションとかに住んでそうだよな」
「タワマン? 俺が?」
「うん、芸能人はタワマンってイメージ」
響に言われて奏は苦笑した。
「有名芸能人になったらそうかもね。でも俺は売れてない芸能人モドキだからね。あと芸能界目指す子役って、逆に貧乏人が多いよ」
「え、そうなの?」
エレベーターを待ちながらみんなで奏を見る。

「家が貧乏だからバイトしたいけど、年齢的には出来ない。でも芸能人には小学生でもなれるからね、ちょっと顔が良い子は家計を助けるためにモデルから始めるって子もいるよ」
奏の話し方から、実際に知り合いか友人に、そんな人がいたんだと思った。

「はい、ついたよ」
奏が部屋のドアを大きく開けてくれた。
了は初めての奏の家に緊張しながら入った。

「ここが俺の部屋だけど、宿題するのはリビングの方が良いかなって思ってる」
「カナデの部屋見てみたい!」
響が大声で告げた。
「別に良いけど、普通だし面白くないよ」
奏はドアを開けた。
「わー、本当だー普通だ……って、ぜんぜん普通じゃないよ!」
響が叫んだ。了も後ろから覗き込む。
「え……」
部屋の一面に了の写真が飾られていた。
「何このストーカーの家っぽいの!? つーかそこの棚に飾られてるのってリョウのアクリルスタンド? もはや祭壇みたいなんだけど!?」
響が全力で突っ込んでいた。
当の了は突っ込む声も出なかった。
部屋の中に入り、飾られたポスターサイズの写真やパネルやグッズを見た。

「えっと、この写真に見覚えがあるんだけど?」
呟く了に奏は頷く。
「うん、全部、リュウのお父さんが作ってくれたんだ。いつもはこんなにいっぱいは飾ってないんだけど、せっかくリョウが来るなら飾っておこうかと思って」
「そこって逆じゃない? 俺が来るならしまっておこうって思わない?」
奏は首を振った。

「そうは思わないよ。リョウに嘘つきたくないから、飾って眺めてるの隠すとかしたくなかった。それにグッズや写真を飾っていてもリョウなら気持ち悪いとか、ストーカーみたいとか言わないって知ってるから」
奏の信頼に胸が熱くなる。

「え、俺も本当にストーカーって思ってるワケじゃないよ? キモイとか思ってないよ?」
言い訳する響に奏は微笑む。
「わかってるよ、冗談で突っ込む位は普通だよ。それに突っ込んでもらえない方が逆にイタイしね」

了は飾られた写真を眺めた。中にはキスしているような絶妙な角度の写真や、デコちゅー写真も混ざっている。
ミズキに見られたら誤解されるのではと怖くなる。

「この部屋の中にあるグッズは、リョウのお父さんにもらった物だけど、ミズキも同じようにもらってるんじゃない?」
「え?」
奏の発言に了は振り返ってミズキを見た。

「うん、俺の所にもあるよ。うちには俺とリョウの2ショットとか、リョウの寝顔のパネルとか」
「寝顔っていつ撮ったんだ!?」
了は突っ込んだ。
普段、部屋に鍵をかけて寝ていない。宗親なら写真は撮り放題だなと思った。
今度から風呂は特に気をつけようと思った。

「ミズキも部屋にグッズ飾ってるのか?」
響が問いかけるとミズキは首を振った。
「俺はあんまり部屋に物を置かない主義なんだ」
「あーなる程、なんかわかる気がする」
響が頷いていた。

部屋の見学が終わるとリビングに移動した。
リビングの一角に家族写真が飾られていた。
「おお、これは!」
響が飛びついた。
「うわ! やっぱ、お母さん美人!」
奏の両親の結婚式の写真のようだった。
「やっぱ、おじさんもイケメンだよ。うちの父さんよりもずっとイケメンなんじゃない?」
了の言葉に奏は首を傾げる。
「まぁ、そのヘンは好みもあるしね、でもうちの親の方が年が上だからね、今はリョウのお父さんの方が格好良いと思うよ。やっぱり少しリョウに似てるし」
奏は了の事が好きな分、贔屓のフィルターが入っているのではないかと思った。

「これはカナデの子供時代? 小さい時から整った顔だな」
ミズキが呟いた。ケーキを持った奏を囲んだ家族写真だった。
「本当だ。今と同じように綺麗だな」
子供時代からの美形ぶりに、了は感心してしまった。
他にも七五三や、入学式などの写真も飾られていた。
仕事で撮ったらしい、ミズキの最近の写真やグッズもある。

「なんかカナデの部屋のリョウの祭壇に近い物を感じるな。血は争えないって言うか」
見つめながら響がまじまじと呟いた。
家族写真をこうやって部屋に飾る家もあるが、飾らない家も多い。
親の影響で奏も写真を飾る事には抵抗がないのだろう。
でも自分の写真ばかりを飾られるのは、ちょっと恥ずかしいというか、気まずい。

「カナデの部屋のリョウの写真って後で片付けるのか? 両親に見られないウチにしまった方が良いんじゃないか?」
響が振り返って奏に聞いた。
「ああ、ぜんぜん大丈夫だよ。いつも日替わりで何枚か飾って過ごしてるから」
「両親公認なの!?」
つい了は突っ込んでしまった。
恥ずかしくて親御さんには絶対に会いたくないと思う。

「ああ、大丈夫だよ。ほら、うちの親もこうやって写真飾るの好きだし」
「それは家族写真だし! 飾ってもおかしくない程の美形一家だし!」
「ん? リョウも美形だと思うよ」
素で答える奏に突っ込む。
「いや、そもそも息子が友人の男の写真飾ってたらご両親もビックリだよ!?」
「ああ、それも大丈夫。芸能界は同性愛も多いから、最初から気にしてないよ。そもそも気にする両親なら芸能界入れないって」
そういうものなのだろうか。


宿題は順調に進み、夕方前には今日の目標まで完了した。
奏が駅まで送ってくれるというので、全員でマンションを出た。

駅前の大きな通りに出た時だった。
「あ!」
響が大きな声を出して指をさした。
「あれってもしかして?」
指さされた方向に、ケーキ屋を覗きこむ二人組の男女がいた。
「あれは小清水さんの知り合いの……」
了はその後、なんと言って良いのか悩んだ。
小清水隼人の元ストーカー、今は小清水隼人のためのストーカーと言っていた、佐川みどりがいた。
隼人には下僕と言われていたが、生徒会の便利屋のような存在の元気な少女だ。

「なんか背の高い男子と一緒だけど、彼氏とか?」
ミズキが呟いた。
みどりの隣にはがっしりとした体格の男子がいた。
みどりが小柄な分、余計に大きく見える。
二人でフィギュスケートのペアを組んでいそうな体格差だ。

「やーやー、こんにちは!」
響が遠慮なく声をかけに行った。
二人がこちらに気付いた。
「おお! 会長のお気に入り君達じゃないですか? こんな所で会うとは、運命を感じますね。早速、会長に画像送信します!」
勝手に写真を撮ると、みどりは送信していた。

「みどりちゃん、こちらの男子は誰なの? 生徒会のお仲間かな? それとも彼氏?」
遠慮なく響が聞いている。
「ああ、そっか、知らないよね。私の弟のキイ君だよ。ちなみに君達と同じ学年だよ」
「え、みどりちゃんて年上だったの?」
響の問いにみどりは腰に手を当てて胸を張る。
「みどりは会長と同じ2年生だよ」
「もしかして弟さんも俺達と同じ学校?」
了の呟きに、キイ君と言われた少年は軽く頭を下げた。

「初めまして、佐川貴一と言います。お噂は姉や会長から聞いています。まぁ、それよりも前から、目立つんで、あなた方の事は知ってましたが」
目立つのはみんながイケメンのせいだなと、了は思った。自分は地味だから目立つはずはない。

「キイチも生徒会なの?」
いきなり呼び捨てで響が訊ねた。
「えっと、今は違うんだけど、でも夏休み明けからはそうなるかも」
了は興味を引かれた。
彼も隼人にスカウトされているという事だろうか。そしてそのスカウトを受ける予定なのか。

「姉が会長にはお世話になっているし、まぁ、僕も姉の行動を見張れるので、生徒会に入っても良いかなって思ってます」
その言い方だと普段から姉が問題を起こしていると感じる。

貴一は真面目な印象だった。
ハチャメチャな姉を軌道修正する役目のように見える。
おそらく仕事も出来るタイプなんだろう。苦労人っぽいけど。
みどりと見比べて、対照的な姉弟だなと思った。

「んでは、みどり達はケーキを買って帰るんで、またねです。あ、会長によろしくです!」
二人は覗いていたケーキ屋に入っていった。

改札の前で奏と別れ、それぞれ帰途についた。


5時すぎに了は家に帰りついた。
玄関の横に、すでに見慣れた自転車が置かれていた。
先日電車代の心配はいらないと言っていた隼人は、ここ何回か自転車で通ってきていた。

家に入るとリビングに隼人の姿が見えた。
宗親が了を出迎える。

「お帰り、丁度良かったよ。隼人君もう帰るって言ってたから、せめてリョウが帰るまでいたら良いのにって話してたんだ」
「……小清水さんは俺じゃなくて、父さんの客だろ? 別に俺を待ってなくても良いと思うんだけど」 
「それは違う! 父さんはお前と隼人君の仲ももちろん応援してるんだ!」
両肩を掴んで言われた。
「この前はミズキやカナデを応援してただろ?」
「だからみんなを公平に応援してるんだよ!」
「いや、だって、小清水さん俺に興味ないし。応援されても困るでしょ」
隼人はソファから立ち上がった。

「いや、他に攻の要員がいないなら、今日は俺が君を口説こう」
真顔で言われた。
「あなたはBL妄想の為なら、自分の身も惜しみませんね!? ある意味凄いんですけど!?」
「大丈夫だ。雰囲気を楽しむためだから本当に手を出したりはしない」
言いながら隼人は了の顎を掴んで顔を寄せる。
唇がどんどん近づいてくる中、宗親はカメラを構えている。
「手を出さないって、唇つきそうなんですけど!?」
顔を背ける了を、隼人は両手で頬を掴んで追いかけてくる。

「まぁ、キス位は問題ないだろう。良い作品を作るためなら実際にキスするのが役者というもの」
「誰も役者じゃないんですけど!?」
「現実世界でのBLというのは、ただ黙って受け身でいたら、なかなか見られるモノではないんだ。努力があって、やっと叶うモノなんだ。俺は夢の実現には努力は惜しまない主義だ」
「努力するモノ間違ってますよ! 普通に勉強だけ頑張って下さい!」
「リョウ、そんなに叫ばないでくれ。君の唾液が顔にかかる」
隼人は了から手を放して、自分の頬に触れていた。
「うわ、スミマセン」
目の前にいるのに大声で突っ込んでしまった。確かに顔に唾がかかっていそうだ。

「まぁ、良いよ。君の唾液をじっくりと味わうとしよう」
隼人はペロリと舌を出して唇を舐めた。
イヤラシイ仕草だった。
さらに先ほど唾液を拭っていた指先まで舐めている。
恥ずかしくて顔から火が出た。
「もうやめて下さい!」
了は顔を覆ってリビングのソファに突っ伏した。
「これ以上、イケメンが破壊力ある事するのやめてくれませんかね?」
ソファのクッションを抱きしめながら、隼人を恨めしく睨んだ。

「はは、君はまったく良い反応をしてくれるね! さすが先生の育てた世界最高の受だ!」
「いや、俺は受とかじゃないから! あと攻でもないから!」
「ふふふ、そういう反応だよ、受は嫌がるから受なんだよ。ノリノリだったらつまらないのがBLなんだよ」
「知らないよ、そんなの!」
了は全力で突っ込んだ。

「まぁ、俺は健気な誘い受けも好きだけどな。BL初心者の隼人君がそういう王道の受が好きなのもわかるよ。俺も基本は王道が好きだからね」
「先生!」
宗親と隼人が握手を交わしていた。
了にはまったく理解が出来なかった。


「そういえば、さっきみどりさんに会いましたよ」
了に言われて隼人は首を傾げた。
「みどり?」
「えっと、佐川みどりさん、生徒会の……」
「ああ、下僕か」
「失礼ですね! 名前位ちゃんと覚えてあげて下さいよ!」
「大丈夫だ。彼女が下僕という存在に満足しているからね」
こんな人が生徒会長で大丈夫だろうか。
いや、でも人知れず素行不良の生徒を更生させているんだっけ?

「それと弟の貴一君も一緒でした」
「なんだ、もうキイチと会ったのか」
呟いた後で隼人は了を見つめる。
「それで、彼はどうだった?」
「どうって……」
了は小首を傾げて考える。

「みどりさんと正反対って感じでしたね。背が高くて、性格も落ち着いてて仕事も出来そうな印象でした。元気いっぱいで猪突猛進なみどりさんと逆って感じで……」
「そんな事を聞いてるんじゃない! 新たな攻としてのキイチの感想を聞いたんだ!」
「え?」
隼人は怒ったように拳を握りしめる。
「当たり前だろ? 君の周りに男が一人増えたら、それすなわち新たな攻だろう?! 主人公に絡まないモブなんか、この俺が生徒会に用意するわけないだろう!?」
「まさか仕事が出来るという理由ではなく、そんな理由で彼を生徒会に入れようとしてるんですか!?」
隼人は呆れたように了を見る。

「何を言ってるんだ? この俺が仕事も出来ないヤツを生徒会に入れると思うか? 当然、彼は仕事も出来る優秀な生徒だ。その上で素朴だが癒される犬系男子で新たな攻にピッタリだったワケだ。まさに一石二鳥。妄想パラダイスだ!」
突っ込む気力が出なかった。
この人、本当に素行不良の生徒を救っているのだろうか?  
本当はBL妄想の餌食となる人物を日々探しているだけではないんだろうか?

「改めて聞こう。それでキイチは君の好みのタイプだったかな?」
「まだ聞いてくるんですか!?」
「父さんも聞きたいぞ」
宗親まで会話に入ってきた。
了は全否定する。
「ないから、そういうBL的な発想は! 普通に穏やかそうで話しやすそうで、友達になれそうって思っただけだよ!」
「なんだ、そうなのか」
隼人はがっかりしたように肩を落とした。けれどすぐに顔を上げる。

「でもキイチはリョウの事を気になるって言っていたぞ」
「え?」
予想外の発言に隼人を見つめる。

「俺が聞いた時には、すでに君の事を知っていたよ」
「それは、カナデとか目立つ友達がいるからじゃ……」
「リョウの事をあのキレイな顔の人って言ってたな」
「き、キレイとか、ないと思うしっ!」
顔が熱くなった。照れ臭くてどもる。

「美人だし、モテそうだし、もうヒビキ君やカナデ君と付き合ってるのかな? 僕なんか相手にされないかな? って心配してたな」
「それ全部嘘ですよね! キイチ君がかわいそうだから、BL妄想に巻き込むのはやめてあげて下さい!」
了は必死に止めた。
「まぁ、確かに最後は俺の妄想だが前半は事実だぞ」
「え?」
「リョウの事を美人でモテそうだと言っていたのは事実だ。これは押せば落ちるぞ。頑張るんだリョウ!」
「いや、なんで俺が頑張らないといけないの? 別に俺はキイチ君と付き合いたいって思ってないし、そもそも彼もそんなつもりで言ってないと思うから。あと俺を美人って言う位なら、小清水さんの事をもっと美人とかキレイって言うと思いますよ! ここはぜひ、自分で妄想して下さい!」
隼人は眉を顰めた。室内の温度が数度下がった気がした。

「何を言ってるんだ? 俺もキイチも設定は攻だから、妄想のしようがないんだが? それに俺は主人公総受が好きなんだ。脇カプには興味がない」
「ハヤト君! やっぱり君は俺の心の友だ!」
宗親が隼人の両手を握りしめていた。
「そうだよな! 一度このキャラは攻となったら受にはならない! そうだよ、それが良いんだよ! 脇カプもいらない! 何故なら主人公総受けは正義なんだよ!」
「その通りです!」
了は二人の言っている事がさっぱりわからなかった。

「取りあえず早く帰って下さい」
了は置いてあった隼人のカバンを持って玄関に向かう。
「父さんも、早く晩御飯の支度しないと食べるの遅くなるよ? 遅い時間に食べると太るよ。中年は一度太るとなかなか痩せないよ」
「今すぐご飯を食べよう!」
宗親は美意識が高かった。


隼人を見送る為に了は家から出た。隼人は自転車を掴んで目の前の道路に向かう。
「じゃ、気をつけて帰って下さい」
「ああ、ありがとう」
隼人の事だから自転車を乗る時にはヘルメットを被っているのかと思ったが、違った。
転んだら危ないし、本心から気遣う言葉が出る。
「そこの道は車が結構通るから、よく確認して下さい。あと歩行者にも気をつけて下さい。突然飛び出す子供とか、何もない場所で転ぶ老人もいるので」
隼人はクスリと笑った。
「母親みたいだな」
「心配してるんですよ! 転んで頭とか打たないようにして下さいね!」
「はは、大丈夫だよ、俺の着ているこの服の、襟みたいに見える部分は実はエアバッグなんだ。転ぶと自動的に開いて頭を守ってくれる」
「最先端ですね!」
そんな物が売っているとは知らなかった。安全そうだが高そうだ。時代は進化しているんだな。ハイテクだ。

「じゃあ、また」
了が言うと隼人は微笑んだ。さわやかな笑顔だった。
普通にしている分には本当に格好良い人だなと思ってしまう。

「生徒会のことだが、君には本気で入ってもらいたいと思ってるんだ」
「だから俺は入らないって……」
隼人の目が真剣なものになる。
「BL妄想抜きで、君は俺達生徒会に必要な人材だと思ってるんだよ」
「え?」
いつもと違い、真面目な雰囲気の隼人に言葉がでない。
隼人は笑った。

「夏休が終わるまでには、口説き落としてみせるよ」

自信満々の態度にドキドキさせられてしまった。
イケメンはこれだからズルイと了は思った。


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