父が腐男子で困ってます!

あさみ

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1・カミングアウト

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6月のその日は尾崎了の16歳の誕生日だった。

16歳にもなって誕生日会を開催しようと言われた時は、恥ずかしくて嫌だと思った。
でも父親の宗親にどうしてもと懇願されて了は折れた。
普段は適当で能天気な雰囲気の父親だったが、男手一つで自分を育ててくれたのだ。
心の中ではずっと感謝して尊敬していた。そんな父親に高校生になった記念の16歳の誕生日は特別だ、人生に一度の大イベントだ、なんて言われて渋々だが承諾してしまった。
そもそも16歳は人生に一度と言われたが、17歳だって18歳だって一度きりだ。
16歳の何が特別なのかわからない。
もしかして16歳になったら何か特別な血が目覚めるとかそういう設定だろうか。
悪魔の血が目覚める。吸血鬼ハンターの力が現れる。前世の仲間が迎えにくる約束の日。
そんなラノベの設定が思い浮かんだ。
けれど特に事件が起きる事はなく一日は平穏に過ぎた。

集まった友人達に囲まれ、父親の作った豪華なご飯やケーキを食べ、たくさんの誕生日プレゼントを貰った。
友人はみんな男性ばかりだった。
ちょっと情けない話ではあるが、了には親しい女友達はいない。
中学の同級生でもある近所の幼なじみと、高校に入ってから親しくしている友人の合計三人にしか声をかけていなかった。
一応他にも友人はいるが、誕生日会という16歳男子高校生がするにしては恥ずかしいイベントに、呼んでも良いと思える人間はなかなかいなかった。

いっそこの誕生日会が豪華客船で行われるイベントクラスの催しであったなら、逆に友人をたくさん呼ぶ事も出来ただろう。
だが尾崎家はそんな大金持ちではなかった。
貧乏ではなかったが普通の家庭だ。
バツイチの父と16歳の高校生の息子が暮らす、ごく普通の家庭だと、この日までは思っていた。


夜。
友人たちが帰った後で、父親の宗親と軽い夕食をとった。
昼間の誕生日会でたくさん食べたので最初はお腹も減っていなかったが、時間が経つにつれて多少小腹がすいた。
誕生日会で余った食材がメインだったが、残り物だという事も気にならず美味しく食べた。
食後には宗親がおしゃれなティーカップに紅茶まで淹れて出してくれた。
さすがは誕生日。サービスが良いなと思った。
冷蔵庫の麦茶をマグカップで勝手に飲むというのが通常だ。
四人掛けのダイニングテーブルに座ってテレビを見ていると、宗親が向かいに座りテレビのボリュームを絞った。
「ん?」
何か普段と違う雰囲気を感じた。
なんとなくなだが嫌な予感がする。
少しだけ早くなる心臓を意識しながら父親の顔を見る。

実の父親である尾崎宗親。現在確か38歳だったはずだ。同級生の父親と比べても大分若いし、十分に顔が整った男だ。
5歳年上の母と結婚し、その後離婚して男手一つで自分を育ててくれた父親だが、血のつながった親で間違いない。
間違いないはずだよな? と了は考える。
今の今までそう聞いてきたし、信じて疑っていなかった。
顏も似ているし、体つきも似ているし、遺伝的なつながりを確かに感じていた。
けれどこの重苦しいような空気は、それが嘘だったと言われそうな雰囲気だ。
ついゴクリと唾を飲み込む。

「改めで誕生日おめでとう」
宗親は美しい笑顔でそう告げた。
普段はもっとふざけた感じに話す人だから、畏まった感じで言われるのは怖かった。

「お前ももう高校生。そして今日は記念すべき16歳の誕生日。俺はこの日をずっと待っていたんだ」
両手を組んで、その上に顔を乗せて宗親は言った。
これは間違いない。何か重大な告白をされる。
いろんな想像が頭に浮かんだ。最初に考えていたような前世とか、悪魔とか吸血鬼とかそんなライトノベル的な内容ではない。
「実はお前は血の繋がらない養子だった」「今日からお前は母さんと暮らせ」「借金があって夜逃げをする事になった」「人を殺してしまった」
そんな言葉を言われるのではないかと身構えた。
自分の心臓の音がどんどん大きくなる。
組んでいた手を宗親は解いた。

「実は父さんは腐男子なんだ」

言われた言葉がうまく吞み込めなかった。
「えっと……」
自分のこめかみを指で押さえてみた。
そう、了はその言葉を知っていた。
腐男子。
BL。いわゆる男同士の恋愛を好む女の人の事を腐女子と呼んで、更にそれを好む男の人の事を腐男子と言う。
そう、それは知っている。特に興味がなくてもこの時代、ネットをしていれば目にして知る機会はある。
あるんだが。
「腐男子……・って、あの、俺の思ってる言葉で間違ってない? なんか父さん最近の若者言葉とかネット言葉を間違って覚えていたりしない?」
「リョウ、お前は父さんを何だと思っている? ミステリー作家だぞ? マイナージャンルで、売れてないとか言われても、文章を扱う仕事だ。そんな俺が言葉を間違うわけないだろう? まぁ、間違った文章を読者につっこまれることも多いが」
「間違うんじゃん!?」
「そこは気にするな。肝心の腐男子の意味は間違って使ってないから」
「そう……間違ってないんだ」
ため息をつきたかったが了は堪えた。

今時、人様の趣味や思想を悪く言うのは良い事とはされない。
どんな趣味を持っていても否定するのは良くない事だ。
だからそう冷静に、冷静に。
了は自分に言い聞かせながら言葉を探した。

「それはまぁ、別に良いんじゃないかな? そういう本読んだりするのも良いと思うよ」
「ああ、了はそう言ってくれると思ってたよ!」
明るく言われた。
拍子抜けした。重々しい空気で告白されるから、何かもっと重大な事を言われるんだと思っていた。
いや、でも大丈夫かな? もしかしてまだ何かある?

「えっと、父さん、腐男子なのは別に良いんだけど、その……もしかしてホモなの?」
ホモなだけなら良いが、昔からだとするとやっぱり自分は実の子供ではなくて、養子なのでは?
そんな心配をしていると宗親は大声で笑いだした。
「あはは、何言ってんだよ。お父さんは超女好きだぞ。ホモとか同性愛者じゃないぞ。だからお前という息子がいるんじゃないか」
了はほっとした。
「え、えへへ、そっか、そうだよな」
「そうだよ。自分の恋愛対象と趣味は別物だよ。俺は単純に想像したり見たりするのが好きなんだよ。自分が何かするとか、そんなのは問題外。物語の世界や他人がホモホモしてるのが大好きなだけだ」
ハートマークが見えそうな位、良い笑顔で宣言された。ちょっとどん引く。

「へ、へー、そ、そうだったんだ。うん、まぁ、家計に影響ない程度に本とか買ってくれよ。あ、イベントとか行くのも別に反対しないよ。なんか世の中では薄い高い本が売られてるって何かで見たし」
「さすがは我が息子! 理解のある良い家族だ! 俺の育て方の賜物! 俺の子育て最高! 俺ってば超天才!」
「えっと自画自賛がすぎませんかね」
突っ込みながら気づいた。
父が腐男子である事と、自分の誕生日の関係性がよく分からない。

「父さんの趣味は別に良いけど、何でわざわざ俺の誕生日にそんなカミングアウト始めたの?」
宗親はテーブルに向き直り、了の顔を覗きこむ。
「本当は高校入学式の日に言おうか悩んだんだ! でもここは自然に任せる事にしたんだ。変にリョウに意識させてしまうのもどうかと思ったし!」
入学式に意識?
何の事か話が読めない。
「えっと?」
先を促すように呟いた。すると宗親は了の手をぎゅっと握ってきた。

「父さんは今日、ものすごく感動したんだ! お前の友達の小沼ミズキ君! 大人びたイケメンじゃないか! しかも寡黙で穏やかで、陰で主人公を支えるようなしっかり者の雰囲気! 俺は親友ポジションの攻の秘めた恋は大好物だ! 応援したくなる! もう一人の遠山響君も明るくて良い子じゃないか! クラスの中心的な存在で活発で物怖じしない性格。そういう子は恋に落ちると直情型でストレートに思いをぶつけてくるんだよ! なんだそれ? もう父さん、そんなシチュエーション萌え死んじゃうよ!? それに幼なじみの小石川剛輝君! 剛輝君てあのゴウ君だよな! 昔からよく遊びに来てて、お前と二人でイタズラしてた! 暫く見ないうちにイケメンになっちゃって、父さんはもう泣きそうだった! あんな美少年たちにリョウが囲まれて過ごしているって思うだけで、父さんは嬉しくて毎日美味しくご飯を食べて生きていける! イヤ、だが欲を言えば早くお前たちのラブラブが見たくて仕方ない! なぁ、リョウは誰が好きなんだ? 寡黙な親友ポジションのミズキ君? 明るいヒビキ君? やんちゃなゴウ君? 父さんは誰を選んでも応援するぞ! いっそ全員と付き合ったって文句は言わない! いやむしろ大歓迎だ!」

ちゃぶ台をひっくり返す所だった。
だが現代社会にちゃぶ台はなく、握られていた手を乱暴に振りほどくに留めた。
「誰も恋愛って意味で好きじゃないよ! 全員友達! お・と・も・だ・ち!」
わざわざ一文字づつ切って友達を強調した。

「何で誕生日会なんて開いたか疑問だったけど、俺の友達を見るのが目的だったんだな!?」
「フフフ、まぁそんな所だよ。かわいい息子の交友関係は気になるものだろう? どんな子に囲まれているか分かれば、妄想も膨らむというモノ」
「ちょっと待ってよ! さっきから内容に納得いかないんだけど!?」
了は拳を握りしめて、強い瞳で父親を見つめる。
「父さんが腐男子なのは良いよ! 個人の趣味だもんな! でもそれに俺を巻き込むなよ! 俺は腐男子でも同性愛者でもないんだからさ!」
「想像位良いじゃないか……」
ポツリとちょっと寂しそうに宗親は呟いた。

「これでも今日までこの思いを隠してきたんだ。息子のお前に嫌な思いはさせたくないと思ってさ。でも好きなモノを好きだと言えないストレスがお前にはわかるか? もしも家族がこの趣味を受け入れてくれたら、一緒に語れたらどんなに楽しいだろうって想像して、でも我慢してたんだ。今までは……」
先ほどまでとは違い、しゅんとして大人しくなった父親に了の胸は痛む。
確かに今日まで、宗親は腐男子という事は隠し、普通の父親として接してきてくれた。
父が腐男子だったとは、まったく気づかなかったし考えた事もなかった。
そう思うと今日までの16年間、父に我慢を強いてきていた事を申し訳なく思えてきた。

そうだよ、男手一つでここまで育ててくれたんだもんな。
了は今までの生活を思い出した。
父はミステリー作家をしていたが、正直、それほど儲かる仕事ではなかった。
人気の流行作家、いわゆるドラマとか映画の原作になるような作家はごくわずかで、ミステリーが大衆受けするジャンンルではない事を了も知っていた。
会社員などして生活した方が楽な位だ。でも片親で家事もしなければならない事も踏まえ、父は家にいる事ができる作家を続けていた。
そんな苦労も考えると、これ位の妄想は許してあげようという気持ちになった。
実際自分に害があるわけではない。ただの妄想だ。言ってしまえば叶わない儚い夢なんだ。そんな夢位、父親に与えてあげても良いだろうと思ってしまった。

「わかった、良いよ」
「え?」
驚いたように宗親は顔を上げた。
「想像であって、害はないし、うん、まぁ、そういう空想位は良いかなって……」
そもそも父は小説家だ。空想や妄想は仕事柄得意というか止まらないんだろう。
了は寛大な気持ちになっていた。
宗親は先ほどまでと違い顔を明るくさせた。
「ありがとう、リョウ! さすがは俺の息子だ、優しく寛容な美少年!」
「美少年は褒めすぎ」
了は照れて顔を赤くする。
「謙遜するな、美少年だぞ! 俺が手塩にかけて理想の受に育てあげたんだ、もはや受のエリート! 最高の受キャラだ! 熱っ!」
ティーカップの中身を思わずぶちまけていた。
幸い温度は下がってぬるくなっている。
「酷いよリョウ! 父さんに何すんだよ!」
「妄想は許したが嫌悪感は変わらなかったんだからしょうがないだろ! これでも妥協したんだからな!」
「フっ……」
宗親は紅茶で濡れた髪をかきあげた。美形なので変にサマになっている。 

「まぁ、これ位の困難は父さんも覚悟の上だ。お茶をかけられる位どうって事ないよ。というか想像してしまったよ。お前にお茶をかけられたのがゴウ君なら、濡れた体をお前に舐めさせる罰を与えるだろうかとか、お前がかけられた側なら、ミズキ君がかいがいしくタオルで拭きながら、ついお前の体に欲情してしまったりするのだろうかと……」
「あーー! もう良い、分かりました! 俺の負けです! それ以上の想像は頭の中でして下さい!」
了は宗親には敵わないと認めた。
これ以上張り合うと自分のメンタルがやられてしまう。


タオルで身体を拭き、再度お茶を淹れてきた宗親は了の前にティーカップを置く。
言い争っても家族だ。仲直りは早い。
「ありがと」
礼を言ってお茶を一口飲む。
「そういえばさっき、最初はカミングアウトは高校の入学式にしようと思ってたとか言ってたよな?」
「ああ」
宗親もお茶を飲みつつ答える。
俺の高校入学までは一応趣味を隠してはくれてたんだよな。そう思いながらしみじみと父親を見つめる。
高校生ともなれば大人として、現実を受け入れてもらえると考えたんだろうか?

「個人的な趣味だが、俺は学園モノBLが大好物なんだ。リアルタイムで高校生男子がイチャイチャすると思ったら黙っていられないと思った」
ブーッ!
了はお茶をふきだしていた。拭いたばかりの宗親の顔がまた濡れていた。
「フフフ……こういうプレイはミズキ君やヒビキ君の為にとっておいて良いんだぞ?」
了はその発言を無視した。
「最初は入学式で見つけたイケメンを、お前の友達兼恋人候補としてお勧めしながら、カミングアウトしようと思ったんだが、ここは自然の流れに任せた方が運命的で素敵な恋愛になるだろうと考えなおしたんだよ。父さんはお前がどんな人間と友達になるか心配だったんだが、今日の三人を見て安心した。みんな良い子達だったぞ!」
宗親は満面の笑みだった。
恋人候補とか、入学式に邪な気持ちで来ていたとか、どん引きする要素は含まれていたが、自分の友達を褒められたのは単純に嬉しかった。

「でも欲を言えば、もっと大勢の友達を連れてきて欲しかったな」
真面目なトーンで言われたので、了は素直に答える。
「そりゃ学校にはもっと普通に話す友達はいるよ。でも本当にすっごい仲が良い友達っていうのは限られてくるもんだと思うんだよ。確かに友達いっぱいも良いけど、友達って量より質だと思うんだよな」
困った時に助け合える、何でも相談できる。そんな友達は人生にそう多くは出来ない気がしている。
「リョウの言う事も確かだな」
宗親が納得してくれたのを嬉しく感じた。

「でもさ、恋人に関してはもっと大勢の中から選んだ方が良くないか?」
「は? ちょっと待ってよ。恋人の話はしてないんだけど?」
再びイラつきながら声を出す了に、宗親は携帯を翳した。
「これを見てくれ!」
「ん?」

画面をむけられて思わず覗き込む。
入学式での、まだ着慣れない制服姿の初々しい自分がいた。
最近は少子化の影響もあって、高校の入学式に父兄が参加する学校が多い。了の学校もそうで、その日のうちに父兄の役員も決められていた。
「かわいい我が子の写真だな?」
「おっと、違った。こっちだった」
宗親が画面をスクロールする。
出てきたのは金髪に近い茶色の髪の超絶美少年だった。
了の友人ではないが、目立つ人物なので存在は知っていた。

「父さんが見た限り、新入生で一番の美少年は彼だった」
それについては同意だった。髪の色も目立つが、それ以上にとにかく美しい顔をしていた。
もちろん長い手足でスタイルも良い。
噂では芸能活動をしているらしいとか、いないとか、まぁそんな話も聞こえてくる程の人間だ。

「父さんはこの少年をお前の恋人に推したい!」
「無理だよ! 何ふざけた事言ってんだよ! 俺が同性愛者でこいつの事が好きだったとしても、とても付き合えるレベルじゃないから! こんなイケメンと俺が並んだら公開処刑そのものだろ!」
「リョウ! お前は自分を低く見すぎだ! お前は公平に見てイケメンだ! 美少年だ!」
「父さんは家族だからそう思うだけだって! 世間はそんな風には思わないって!」
今日一番の大声になった。
剛輝やミズキや響は友人だ。だからまだ可能性でもないが、想像はできるかもしれないが、そんな芸能人らしい人物と自分がなんて想像もできない。
恐れ多いというかバチが当たりそうだ。いや、ファンに知られたらイジメられたり殺されたりするレベルだろう。
「ちょっとその人はもう別格だから、芸能人だと思って、俺との妄想はやめて下さい」
つい敬語になる。
「芸能人なら想像位良いと思うのになー」
ぼやきながら宗親は携帯を弄っていた。素直に引いてくれたのだろうか。
そう思っていたら再び携帯画面を向けられた。

「これを見てくれ!」
覗いてみるとまたも美形の少年がいた。
「これは……」
これも知っている人間だった。
入学式で新1年生に挨拶をしていた、生徒会長サマだ。
「……勘弁してください」
これも恐れ多いレベルの人間だった。
まず知性がにじみ出ている。一般人が話しかけてはいけないオーラが半端ない。
先ほどの芸能人と生徒会長サマと、どっちが近寄り難いかと言われれば生徒会長サマだ。
芸能人にはサイン位貰いに行けそうな気がする。いや、小心者の俺には無理だけど。

「父さんが面食いだって事はよく分かったけど、俺のような庶民がそんな美形達に近づけると思わないでくれよ」
「リョウ! 諦めたらそこでゲーム終了だぞ!」
「名セリフを使ってはいけない事柄だと思うよ。まず相手に迷惑だから」
「でもこの先3年もあるんだ! 友達になる可能性はあるだろ!」
「生徒会長って2年生だから、3年も一緒に過ごせないから」
「なら尚更頑張ろう! 限られた時間を一生懸命に過ごすんだ! 叶わぬ身分違いの恋に身を焦がす! それもまた青春だろう!」
「俺はそんな目的で高校入学してないんだけど」
父親に突っ込むのが疲れてきた。

思えば今日は昼間から友人たちとはしゃいで過ごした。しゃべり疲れたというのもある。
幸い今日は日曜だったが、明日は学校がある。
「もう、寝る。お休み」
短く言うと、了は椅子から立ち上がった。
「ちょっと待ってくれ、まだ他にも見せたい写真があるんだ!」
「……つーか父さん、それって盗撮じゃないの?」
宗親は携帯を胸に抱きしめる。
「何を言う! これは息子の入学式の記録だ! それに未来の友人を写真に撮ってたってだけだ! 父兄の特権だ!」
「……警察に捕まりそうな事は、これ以上しないでくれよ」
念のため言っておいた。



翌日。了は学校に行くと教室にいるミズキに声をかけた。
ミズキは真面目なので、いつも朝一番に登校してきている。
「昨日はありがとう!」
「こちらこそ」
そう答えるミズキの腕を引っ張る。
「なに?」
「ちょっと真面目な話があるんだ……」
了はミズキを人気のない廊下の奥まで連れていった。

昨夜は父親の腐男子だと言うカミングアウトに驚いて、友人達の事まで気が回っていなかった。
けれど一日経って、もしかしたら友人達も宗親からおかしな事を言われてたんじゃないかと心配になった。
「あのさ、うちの父親の事なんだけどさ……」

了はミズキに宗親が腐男子だった事を説明し、おかしな妄想を告げられなかったか聞いてみた。
「いや、おじさん俺には普通だったよ。気を遣ってくれてるの分かったし、リョウの事大事にしている良いお父さんだなって羨ましく思ってた」
「あ、ほ、本当? 良かった」
変な発言をしていなかった事も安心したが、父を褒めてもらえた事が嬉しかった。
「でも腐男子……っていう言葉、俺、初めて聞いたよ」
「あ、うん、そうだろうな」
社交的な響には説明不要だと思っていたが、どちらかと言うと天然飄々としたミズキには「腐男子」が何か分かるようにちゃんと説明しないといけないと感じていた。
さすがに教室で父親が腐男子なんて話はしたくなかったから、廊下まで呼び出したのだが正解だった。

「まぁ、人の趣味……性的嗜好? みたいなもんだからな、俺も否定はしないけど特殊だからさ。ごめんな、朝から変な事で呼び出して悪かったな。さ、戻ろう」
教室に向かおうとしたら腕を掴まれた。
「ん?」
振り返ると真面目な顔をしたミズキと目が会った。
「どうした?」
ミズキは了を廊下の壁に向かって押し付けた。思いがけない行動をされドキリとする。

「腐男子って言葉、今、初めて知ったけど、でもリョウ、俺も、もしかすると腐男子かもしれない」
「え?」
了は驚愕に目を見開いていた。

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