陽のあたる場所

こたろ

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溺れる魚

溺れる魚3

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「…え、どうしよ…。」


震災当日、コンビニで深夜に仕事が終わった宇野さんは家が遠くて帰れなくなっていた。


「…でも頑張れば歩いて帰れるかもだし…。」


「は?

宇野さんそりゃ危険だからっ!!

こんな深夜に1人じゃ危ないからっ!!」



俺は昔から痴漢やら性犯罪に敏感だから、

深夜の女性の1人歩きはなるべくさせたくないと考えている。



「そうだよ、宇野ちゃん。

フクくんに泊めてもらったら?


さすがに俺が宇野ちゃんを家に泊めるのはまずいからさ(笑)


フクくんなら安心だろ?」



バイト先のコンビニで俺の性別を知る人は

店長とロクさんと宇野さんとランさんの4人だ。


つまり店長と宇野さんは俺の性別が"女"と知っているから、店長も勧めてきたわけだ。



「多分今日は宗介も帰って来れないだろうし、

もし宗介がいてもアイツは手ぇ出すような奴じゃないんで(笑)」




宇野さんは迷いながらも結局俺の家に泊まることにした。


「福永くんありがとね。」



こうゆう時、ちゃんと信用されてる事が嬉しくもあり、

ちょっとだけ切なかったりもする…。



結局性別を知られてしまうと、"本当の男"として扱われなくなってしまうという事が…。



それから俺は真央とメールで連絡がついたし、

夕方には偶然にも母親に電話が繋がったし、

とりあえず他の身内はmixiにログインした形跡があったから、

みんなの無事を確認し、少し安心して眠ることにした。




あ、そうだ…

高円寺の仕事場は大丈夫だっただろうか……?



少し気になったけど、明日の朝出勤すれば分かるし、

特に深く考えず、俺はそのまま眠りに就いていた--。






そして震災翌日の朝、宇野さんは俺んちからコンビニに出勤して、

俺は高円寺の仕事場に出勤した--。
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