幸せのDOLCINI

紗衣羅

文字の大きさ
上 下
24 / 26

VENTIDUE

しおりを挟む
*エド視点の一人称→三人称になります。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


結局リズは1時間ほど経ってから目を覚ましたの。
眠ってしまう前の自分の発言を全部覚えていたのか、目覚めてから涙目でワタシ達に謝ってきたわ。
気にしなくてもいいのにねぇ。
まあ、そんなところもリズなのよね。

「ちょっと待っててね」

そうリズに言ってワタシはお母様のところへ向かった。
あ、お茶会はもう終わっててローズブレイド兄妹は家に帰したわよ。

「お母様エドです。入ってもいいかしら?」
「あら、あなたがここに来るのは珍しいわね。どうぞ」

お母様の執務室に許可を取って入ると、書類に通していた目をワタシに向けてニヤっと笑った。

「ふふっ…さっきねぇ、ウイリアムが教えてくれたんだけどエリザベスちゃんがまだ我が家にいるんですって?」
「え、ええ、そうなの。それでお母様に相談しようと思って」
「いいわよ」
「えっ」

お母様?エスパーかなー?まだ何も言ってないんだけどー?

「我が家にお泊まりさせるって事でしょう?」
「…なんでもお見通しね… 怖いわお母様…」
「もちろんいいわよ。なんならそのまま既成事実作ってうちの子にしちゃいなさい」
「!!!? おっ……オカアサマ何を…」

動揺しているワタシをニヤニヤと見ていたお母様が、急に真顔になって「冗談よ」だって。
本当に何を言い出すのやら… リズはワタシのかわいい幼馴染ってだけよっ!
いや、マジで妹みたいなもんなんだってば!………本当よ?

「まったく… お母様も人がわるいわね。 ま、それじゃリズにそう話して来るわ。 ああ、ウイリアムにアシュレイド家へ知らせるよう言っておいてくださる?」
「うふふ、エドったら照れちゃってぇ。アシュレイド家ね、わかったわ」

いろいろ言われたけどリズの事は無事許可が取れたし、リズのところに戻ろうかしらね。
廊下を歩きがてら通りかかった侍女にリズが泊まる事を伝えて、部屋と湯あみの準備を指示した。

「リズ待たせちゃったわね。今日はもうウチに泊まっていきなさい。アナタのお家には伝言を頼んであるから大丈夫よ」
「よろしいんですの?」
「もちろんよ。実はお母様ってリズの事相当気に入ってるみたいでね、泊めるって言ったらニコニコと喜んでいたわよ」
「まあ…!おばさまにお礼を言わないといけませんわね。…本当は家に居たくなかったから嬉しいわ。エドありがとう」
「ふふ、いいのよ。うちでゆっくり休んでいきなさいな」




*********




「な…お姉様がエドナーシュ様のお屋敷に泊まるですって?!」

エリザベスの帰りが遅いのが気になったアリサが、アシュレイド公爵家の執事長に尋ねたのだ。 
先程オルベール家の使いが来て、エリザベスがオルベール家に泊まる事を門番に伝えられ、門番から執事長に伝えられたばかりである。

「なんでもエリザベスお嬢様がお茶会中に気分が悪くなったとかで、そのまま休ませられるそうです」
「ひどいわ!エドナーシュ様は私の婚約者になる方なのに!…きっと仮病に違いないわ!連れ戻してよ!」
「ですが…オルベール家はこの国の筆頭公爵家ですし、なにより私にそういった権限はございませんので…」
「~~~~~~っ! 何よ、使えないわね!もういい!お父様にいいつけてやるんだから!」

怒りのあまりドスドスとひどい音を立ててアリサがその場を去ると、扉の影からエリザベスの専属侍女であるマギーが出てきた。

「執事長」
「おや、マギーですか。今の話を聞いていたのですか?」
「ええ、エリザベス様は今日お帰りにならないのですね。テレサにもその旨伝えておきます。それよりも…」

マギーは無表情で殺気を若干纏わせながら、コテンと首を傾げて執事長を見た。どうしても聞き捨てならない事を聞いたからだ。

「私の空耳でしょうか?アリサ様がエドナーシュ様の婚約者になると、そう聞こえた気が致しますが?」

マギーからの圧が凄い。執事長の背中にはダラダラと冷や汗が流れる。
まるでへびに睨まれたカエルのようである。

「そ…れは、旦那様がどうも…アリサ様にそう言ったらしいですね… ははっ… 私もね、無謀だと思うのだけどね…」
「そうですか…わかりました」

目が笑っていない笑顔で綺麗に礼をすると、マギーはその場を離れた。

(こわいこわいこわい! あのマギーとテレサの侍女コンビだけはほんと怖い…)

『我らが主のエリザベス様に仇なすものに容赦は無用』の彼女達は、何気に執事長にも恐れられる、アシュレイド家最強侍女コンビだったらしい。

マギーは先程の件をテレサに伝えると「オルデール家にも伝えたほうがいい」と意見が一致し、早速エドナーシュ宛に手紙をしたためた。

「本当にあのバ…旦那様はろくな事しやしないわね」
「まったく… まあ、あのオルデール家が旦那様の思うとおりにはならないと思うけど…エリザベス様がまたお心を痛めないか、それだけが心配だわ」



**********



同時刻、王都に一番近い町の中を走る1台の馬車があった。 
馬車には若く気品のある女性と、お仕着せを着た妙齢の女性が乗っていた。
お仕着せを着た女性が、じっと窓の外を眺めている若い女性に声をかける。

「お嬢様、今日はここで一泊して明日には王都に入ります」
「そう…やっとここまで来れたのね。長かったわ…」
「はい…今日はゆっくりとお体を休めてくださいね。明日から忙しくなりますからね」
「ええ、ありがとう」

(やっと…ここまでこれた… 大丈夫よね。運命はここまでは追ってきやしない…わよね?)





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

処理中です...