15 / 26
TREDICI
しおりを挟む※冒頭と終盤以外は第三者目線になります。
――――――――――――――――――――――――――――
「え、エド‥‥? 本当にエドなんですの‥‥?」
「そうよ。 ふふ‥‥ すごいでしょ?」
なんのことやらって思うでしょ? ふふふ、実は今、ワタシはリズの目の前で絶世の美女になっているの。
事の起こりはあのアイオスと練習試合をした数日後の淑女教育で、お茶会を開く際の手順とマナーの授業の時、講師のアマンダ女史の一言から始まったらしいわ。
***************************
「――――― それでは課題として皆様一人一人が主催したお茶会を開いていただいて、その様子をレポートにまとめて提出してくださいましね。 提出期限は1ヶ月以内といたしますわ。 何か質問のある方はいらっしゃるかしら?」
アマンダ女史がそう言って教室の中をぐるりと見渡すと、元気よくガタンと立ち上がり、右手を高く上げて「はい! せんせー!」と言う声が教室内に響いた。
貴族の令嬢として、『慎み』や『たおやかさ』は持ってしかるべき。 当然そう言った行為は注目されるのだ。 もちろん悪い意味で。 そして今、その注目の的になっているのは、ピンクブロンドの見目麗しい、アンジェリカ・フォン・アグウスだった。
――― ごらんになって、なんてはしたないんでしょう。 ――――
――― あの方‥‥ 最近王太子殿下と特別に懇意になさってるって噂の方ですわよね。 ―――
――― まああ‥‥ あの噂は本当でしたの? ――――
――― なんでも市井の生まれらしいですわよ。 生まれが卑しいと言葉遣いに表れますわねぇ。 ――――
声を潜めて嘲けたり、くすくすと冷笑を向ける女生徒達。 あまりの出来事に一瞬驚き、固まっていたアマンダ女史も、気を取り直すと教室内のそんな様子を窘めた。
「コホン。 皆さまお静かに! アグウス伯爵令嬢。 元気があるのはよろしゅうございますが、 貴族令嬢としていささかはしたないですわ。 いついかなる時も優雅で気品のある行動を心がけて下さいましね。」
「あ‥‥ ご、ごめんなさい‥‥。」
アンジェリカは顔を赤くして俯くと、謝罪の言葉を口にした。 いたたまれなそうにしている様子に同情したのか、アマンダ女史がふう‥‥と溜息を一つ吐くと、先ほどより柔らかな言い方でアンジェリカに話しかける。
「それで、アグウス伯爵令嬢は何かご質問がおありなのでございましょう?」
「あ、はい! お茶会にお呼びするのは男子生徒でもいいんでしょうか? 何人くらい招待すればいいですか? あ、あと場所はどうすればいいですか?」
「”男子生徒” ではなく、”殿方” ですわね。 今回は親睦の意味合いもございますので、同級のご令嬢同士で行ってくださいまし。 どうしても人数が揃わない場合はご親類やお知り合いのご婦人でしたらよしと致しますわ。 人数はそうですわね‥‥ 4人以上といたしましょうか。 場所は学園内のカフェテリア、寮内のプライベートルームなど利用してくださいませね。」
「は、はいっ。 ありがとうございますっ。」
アンジェリカはほっとしたように息を吐き出すと、おもむろに横を向いた。 隣にはエリザベスが座っており、アンジェリカはにっこりと麗しい笑顔を作り胸の前で手を組んだ。
「エリザベス様! あの、お願いがあるんですが‥‥っ」
「わたくし、ですか? なんでしょう?」
「私のお茶会に参加してもらえませんか?! 私‥‥ まだあまりお友達がいなくて‥‥ 頼めるのがエリザベス様しかいないんですっ!」
伏し目がちに悲しそうに俯く姿を見てエリザベスの心が少し疼いた。
(言葉使いや立居振る舞いで噂になっていますものね‥‥。)
「わたくしでよろしければ、喜んで伺いますわ。 お友達にも声をかけてみますね。」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
***************************
「~と言う事があったんですの。」
リズったらとんだお人よしだわ。 まあ、そこも可愛い所なんだけど‥‥。 しかしヒロインちゃんは何を考えているのかしら‥‥。 ちょっと気になるところが多すぎるわね。 ワタシもそろそろ本気で動いた方がいいわね‥‥。 差し当たりお父様とアノ人に手紙を送ろうかしらね。
「はぁ~~‥‥ なるほどね‥‥。 うーん‥‥‥ わかった、ワタシも行くわ。 そのお茶会。」
「ええ? 殿方は参加できないのよ?」
「ふっふーん。 だーいじょうぶよ。 まーかせて!」
さーーて、前世以来の女装ね。 何を着ようかしら‥‥。 ワタシの髪に合って体形をカバーできるドレスと‥‥。 瞳の色に合わせて淡いグリーンにしようかしら。 ノドぼとけを隠すのに喉まである襟元にして、デコルテラインは透け感のある総レースで男っぽい鎖骨周りを隠して‥‥ 袖は長めのパコダスリープにして、マーメードのドレスがいいわね。 あとはメイク。 メイク道具はどうしようかしら‥‥ ジョージに言ってペルフェーナのラインナップから持ってこさせようかしらね。 ふふ。やだ、楽しくなってきたわぁ~!
ノリノリでドレスのデザインやら、メイクの確認やらしていたらあっと言う間にお茶会当日になっちゃったわ。 こっそり顔を髪で隠して侍女服を着て、女子寮のリズの部屋に入れてもらった。
髪色と同色のウィッグを作って緩めに結い上げ、ドレスを着てメイクを施せばあっという間に絶世の美女の誕生よ。 我ながらこの美しさ‥‥ マジで怖いわぁ‥‥。
「さあ、行くわよ! リズ!」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる