上 下
89 / 198

79話.選挙と出来レース

しおりを挟む
 ギルドの依頼で貴族の息子ボルグを『恐怖!! 氷の大陸ツアー』に案内してから……約1ヶ月の月日が経った。

 その1ヵ月の間に注文していたモノが色々と出来上がっていた。
 最初に、新しい風呂用に注文していた特注の壺を食器屋から受け取り。
 次に、金物屋に注文していた。
 アイスクリーム用の金属製の冷凍庫と、ドリンク用の冷蔵庫が完成していた。
 そのついでに、冷蔵庫用と冷凍庫用の魔道具を魔道具屋へ受け取りに行った。

 エミリー達に注意されて狩りに行く回数が半減した為、主にお店の業務を見て回っている事が多くなった。
 相も変わらず――飲食店である二号店と、大浴場施設の三号店ともに売り上げは好調である。
 二号店と三号店の売り上げ好調は町全体にも影響をしていた。

 理由は簡単だった。
 皆が身体を清潔にする為に施設を使う――それは男も女も変わらない。

 この町の住民は低価格で施設が使える為、歓楽街の人間も使用が出来る。
 施設内では無料で石鹸を使えるのが特に大きい利点だ。
 清潔感のある女が抱けるということで、遠出して[セカンタの町]に来る男達が増えたことにより、お金が回りやすくなっていたのだ。
 あとは、大きな施設ができたことにより、各テナントへの就職をする人間も増えた事も要因の一つだろう。
 そんな色々な要因が重なり町全体の景気が良くなっていた。

 ドリンクショップのテナントの前で、ドリンク用とアイス用の金属製冷蔵庫を組み立てていると、製造担当のレイモンドとマカロンがこちらに興味を示してきた。

「社長。それなんですか?
 両方とも穴が、六つずつありますけど?」と、レイモンドが聞いてきた。

「ん、これは冷蔵庫と冷凍庫だよ」

 フタを外して中に、冷凍庫の魔道具と冷蔵庫の魔道具を、別々に取り付けて、魔石を入れてスイッチを入れた。

「六つずつ穴空いてるのは?なんでですか?」と、次はマカロンが聞いてきた。

 私は、専用の金属桶を計12カ所の穴に差し込んでいった。

「「おーー」」と、製造担当の両名が感嘆の声をあげた。

「これで、この場所にいても冷凍庫と冷蔵庫が扱えるわけだ」

「まだ、商品のアイスは一種、ドリンクは三種ですよね?」

「ドリンクは三種は固定で、コーヒーとフルーツジュースは単体で売れるだろう?
 アイスクリームに関しては君達の工夫で種類を増やしていってくれ」

「「わかりました」」と言って、二人はお互いにどっちの商品が採用されるか、互いに火花を散らしていた。

 そんな感じで二人に移動式冷蔵庫の使い方を指導していたら。
 この町のギルド長と町長が私の元にやってきた。

「やぁ、ハジメ君。
 このお店も好調みたいだね」と、ギルド長のマルコが言った。

「おかげさまで、良い商売させていただいてますよ」

「二人とも、今日はどのようなご用件でしょう?」

 町長のミルコさんが突拍子もない事を言い始めた。

「前にも言ったと思うが、キミに町長になってもらいたい」と、言ってきた。

「えーと、確かに聞いたような気がしますけど……
 冗談じゃなかったんですね。何故?  私なのでしょうか?」

「私の任期が今年で終わるので、この町の活性化に努めてくれているキミに町長を継いでもらいたいのだよ」

「町長の仕事をやるとなったら……
 お店の経営ができなくなったりしませんかね?」

「それは大丈夫だ。君の下に二人の副町長という人材を立てていい。
 その人材に町の仕事を任せればいいよ」

「なるほど……。
 それでも町長になろうとすると、選挙みたいなモノがあるのでは?」

「あぁ、それはね。
 ハジメ君は気にしなくていいんだ」と、マルコさんが言った。

「どういうことですか?」

「君が町長になると言ってくれるのなら、ギルドは君を推す事で既に決定している。
 それに現町長の公認でもあるし、当然のように教会も君を推す事は確実だろう。
 それにトドメは君の飲食店とこの施設だ。この町に住んでいる人間なら誰も争わないよ」

「へぇ……」

「そうなると、勝ち目がないので誰も町長選挙に出ようとしないのさ……
 約1名を除いてな」

「え、 一人はいるんですか?」

「発明をして飯を食ってる変わり者でな……発明の収入で毎回選挙に出て来る人なんだ」

「その人の名前は?」

「名前はドクタージッパーという。
 毎回こりずに町長選挙に出てくる変わり者だよ」

 あぁ、現実にもいたなぁそういう人……
 すごい人なんだけど――へんな取り上げられ方しかしないから、あの人の凄さは伝わらないんだよなぁ。
 おっと、思考が脱線してしまった。

「へぇ、面白いですね。
 その人に凄く興味あります」

「君も変わり者だな。
 変わり者同士、話しが合うのかもしれんな?」

「心外だなぁ……私は至って常識人のつもりですけど?」

「「そう思ってるのは君だけだよ」」

「そうですか。
 それはいいとして、そんな担ぎ上げ方されると私が受けないといけないんですよね」

「そうしてもらえると助かる」と、ミルコが言ってきた。

「お二人と教会からも支持をもらっているのなら――私が出ましょう。
 ただし、私が当選した際は副町長は、ミルコさんとスミス神父にやらせますからね」

「ハジメ君。そこは今この場にいる私じゃないのかい?」

「流石に、兄弟で副町長は拙いでしょ。色々と……」

「まぁ、確かにそうだな」と言って、ミルコが納得していた。

「マルコさんは、ミルコさんに口利きができますし。
 教会側もスミス神父が意見を出せるので、バランスがいいでしょ」

「バランスまで取るのか君は……?」

「そりゃそうでしょ!! 
 偏ると倒れるだけですから、最終判断を出す私が苦労するんですよ」

「私は、まだ町の為に仕事が出来るのか……」と、感慨深くミルコさんが言っていた。

「ミルコさん。
 まだ隠居するような歳じゃないでしょうに、まだまだ働かせますから覚悟してくださいね!!」

「楽隠居できないみたいだな……兄さん」「あぁ」

「それで選挙活動とかは、しないといけないんですか?」

「いや、ギルド側で勝手にやっておくから別にしなくても大丈夫だよ。
 まぁ仕事の合間にたまにでもいいんで、顔を出してくれるとありがたいかな」

「まぁ、それくらいなら大丈夫ですよ」

「それじゃ期間はいつから?」

「二週間後に、一週間の告知期間がある――それから、一週間後に投票と開票だ」

「1ヶ月後には、この町の町長が決まるんですね」

「あぁ、そうだ。
 町長が決まると[サドタの街]から、リストア様が新町長に挨拶に来るぞ!!」

「うげっ!! その時は、二号店と三号店ともに店休日にしよう」

「あぁ、それがいいだろうね」と、マルコが言った。

「町長の仕事は、この町を住みやすくすればいいんですよね?」

「単純に言えばそうだな」と、ミルコがあっさりと答えた。

「なら、いつも通りやっていけば問題ないですね」

「それじゃ、二週間後によろしく頼むよ」とミルコが言って、二人はこの場を離れた。

 ギルド長と町長との会話を一部始終を聞いていた。
 隣のテナントのキャリーと、ドリンクテナントのレイモンドとマカロンであった。

「社長。町長になるんですか?」と、キャリーが聞いてきた。

「うーん、そうみたいだね……
 半ばなし崩し的に」

「「この町も安泰だな(ね)」」と、レイモンドとマカロンが言った。

「まぁ、私が出来る事をするだけです。それじゃ、この件をスミス神父にも伝えて来るから。
 レイモンドとマカロンは、その移動式の冷蔵庫と冷凍庫の使い方を覚えてね」

「「はい」」と、二人から返事が返ってきた。
 二人が冷蔵庫と冷凍庫の扱いが出来るのを確認した後、私はこの場を離れ教会へ移動した。

 教会へ入ったら、スミス神父が話かけてきた。

「さっき、ミルコがウチに来てくれて話をしていったよ。
 ハジメ君が、この町の町長を引き受けてくれるんだってね」

「あー、それなんですけど……
 副町長って形で、ミルコさんとスミス神父にお願いしたいんですけど、大丈夫ですか?」

「ハジメ君らしい人選だね――引き受けるよ。
 この件を教会に伝えて、ここで働いてくれる神父をコチラに派遣してもらうとするよ」

「お手数かけますが、お願いします」

「まぁ、基本的に町長の業務はミルコがするんだろ?」

「はい、そのつもりですよ。
 経験者ですから、ガンガン働いてもらいますとも」

「アハハハ!! 程々にして上げてくれよな……
 アイツは頑張りすぎるところがあるから」

「それじゃあ。スミス神父がフォローして上げてくださいね」

「参ったね。一本取られたよ」

「ギルド長からも聞いたと思うが、教会側も全面的に君を推していく事になる」

「それなら負けられないですね」と、言ったら。

「いや、その前に敵がいない……」と、スミス神父に返された。

 そうですか……
 コレが、出来レースってヤツなんだなぁと実感しながら自宅へ帰った。

 家に帰り――二人に今日の出来事を伝えた。

 ……
 …………

「ハジメさんが、町長になるんですね」

「お兄ちゃん、町長って偉いの?」

「あはは、そんな偉くないさ。
 今までは会社を見てたのを今度は町全体をみてくれってだけだよ。
 町の仕事はミルコさんとスミス神父にほぼ丸投げだし」

「ハジメさんらしくやれば、結果はついてくると思いますよ」

「そっか……エミリーに、そう言われて安心したよ。
 それで、ちょっと気が早いけど選挙が終わった翌日に[サドタの街]から、貴族のリストア様が来るらしいので、二号店と三号店は店休日にするから。
 ここから外に出ないようにしてね」

「「はーい」」と、二人は返事してくれた。まぁ二人とも会いたくないだろうし妥当かな?

「内心としては、私もそんな人に会いたくないんだけどね」

「それは、仕方ないですよ……
 気持ちを切り替えていきましょう。晩御飯が出来てますんでみんなで食べましょう」

「そうだね」と言って、三人でテーブルを囲んで料理を食べた。
 
 二週間後には選挙かぁ……
 まさか私が立候補する事になるとは思わなかったなぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

覇者となった少年 ~ありがちな異世界のありがちなお話~

中村月彦
ファンタジー
よくある剣と魔法の異世界でのお話…… 雷鳴轟く嵐の日、一人の赤子が老人によって救われた。 その老人と古代龍を親代わりに成長した子供は、 やがて人外の能力を持つに至った。 父と慕う老人の死後、世界を初めて感じたその子供は、 運命の人と出会い、生涯の友と出会う。 予言にいう「覇者」となり、 世界に安寧をもたらしたその子の人生は……。 転生要素は後半からです。 あまり詳細にこだわらず軽く書いてみました。 ------------------  最初に……。  とりあえず考えてみたのは、ありがちな異世界での王道的なお話でした。  まぁ出尽くしているだろうけど一度書いてみたいなと思い気楽に書き始めました。  作者はタイトルも決めないまま一気に書き続け、気がつけば完結させておりました。  汗顔の至りであります。  ですが、折角書いたので公開してみることに致しました。  全108話、約31万字くらいです。    ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。  よろしくお願いいたします。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~

黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。 ※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。

処理中です...