75 / 415
人間達の抗い
74 東方の三国
しおりを挟む
ラフィスフィア大陸の東側に、国土を隣接する三国が有る。大陸東海岸沿いに面するシュロスタイン王国。同じく東海岸沿いに面し、シュロスタイン王国の南側にアーグニール王国。その二国の西側、両国に面する様に位置する、建てに長い国土を持つグラスキルス王国。
この三国は、資源を巡って古くから対立を繰り返して来た。
シュロスタイン王国とアーグニール王国は、大陸東側海域の漁業水域を巡って争いを繰り返す。海の無いグラスキルス王国は、大陸東側海域の漁業水域を狙う。逆にグラスキルス王国の持つ大きな鉱山を、湾岸二国が狙う。
諍いの絶えなかった三国は、二十年前の悪夢をきっかけに不戦協定を結ぶ。それ以降二十年に渡り、この三国間で戦争は起きていなかった。
そしてこの三国には、一人ずつ高名な将軍が存在する。
シュロスタイン王国にはモーリス将軍。
アーグニール王国には、ケーリア将軍。
グラスキルス王国には、サムウェル将軍。
その強さは一騎当千。彼の魔法は天を割き、刃は地を割る。その将軍達の存在が大きな抑止力となり、平和を維持していたと言っても過言ではない。
そして混沌の神グレイドスに操られ、隣接した三国が帝国に攻め入った時、真っ先に動いたのは、この三人の将軍達だった。
いずれ、混乱は東の地にも訪れる。戦争回避の為に動き始めた三人の将軍は、それぞれの国で反逆罪に問われ投獄された。
そして抑止力の無くなった三国は、三つ巴の戦争状態に陥る。そして、たった数日で数千人死者を出す。それでも終わらない戦争の影響は、国中に広がっていく。
東の三国は、今にも潰えようとしていた。
☆ ☆ ☆
「ゲートで来たのは良いけど、ここ何処だよペスカ?」
「知らないよ。エルラフィア王国じゃ無い事は確かだね」
「そうなのか?」
見た事も無い風景に、ペスカでさえも首を傾げる。故郷であるエルラフィア王国の、海岸であれば直ぐにわかるであろう。ゲートから出で、直ぐに見た景色は海。そしてキャンピングカーは、海岸付近に降り立った。
たったこれだけの情報で、現在地などわかりはしない。
「ねぇ、お兄ちゃん。セリュシオネ様は、大陸各地の混乱を収めて欲しいって言ってたよね」
「言ってたな」
「それって、エルラフィア王国に着くまでの道中、全ての戦争を止めろって意味だったりして」
「まさか、んなこたぁねぇだろ。無茶振りにも程が有るぜ」
「でもさ、見た事ないんだよ。エルラフィアでこんな海岸」
「お前、意外と地理に詳しくねぇのか?」
「まぁ私の本分は、研究だからね。見た事が有る風景は、エルラフィアの周辺と、帝国周辺くらいかな」
「帝国には、海がねぇのか?」
「あるよ、南側にね。ただ、すっごく熱いんだよ。東南アジアみたいにね」
「そっか。じゃあ、こことは違うんだな」
呑気な会話を繰り広げていても、ペスカは今いる場所の検討はついていた。先の話しに出た、ライン帝国の南方に面する海は、とても波が静かである。そして、数十キロにも渡り、長く続く砂浜は観光名所にもなっている。
対してこの海岸は、見渡す限りの岸壁が続き、荒波が打ち付けている。ペスカの知識が確かなら、ここはアンドロケイン大陸のマールローネから、最短距離の場所。ラフィスフィア大陸の東海岸沿いである。
「うぉ~! ショートカットは、海だけか~! せめてもう少し情報ぷり~ず~!」
「五月蠅いよ、ペスカちゃん」
「空ちゃ~ん。だって~」
「なぁに、ペスカちゃん」
「これって丸投げだよね? 何がどうなってるか、自分達で調べて、対処しろって事だよね?」
「仕方無いよ、ペスカちゃん。何か月もかかるはず航路が、短縮出来たと思えば良いじゃない」
「まったく、女神様ってどうしてこう、中途半端に丸投げするかな。翔一君、とりま十キロ位でサーチかけて」
一先ずペスカは、周囲の探索を翔一に指示する。翔一が車内の魔石をコントロールし、探知の能力で周囲のマナをスクリーンに映し出す。するとスクリーンには、青く点滅する光が集まってる場所が数か所ほど見つかる。
「ペスカ、この光の集まりは何だ?」
「この青い点滅は、多分集落だね。この数だと村だと思うよ」
「ペスカちゃん、もう少し距離を広げてみるかい?」
翔一が尋ねると、ペスカは軽く頷く。翔一が探知の範囲を広げると、スクリーンには次々と、光の点が映し出される。現地点から南西方向に進むに連れ、光は青から赤に変わり、真っ赤な光の塊が映し出されている所が数か所ほど有った。
ペスカは、少し考え込む様に腕を組んで、スクリーンを見つめている。そして翔一は、険しい表情で問いかけた。
「ペスカちゃん、どう思う?」
「間違いなく、赤の数か所は、戦争中だね。しかもかなり大規模だと思うよ!」
「マジかよペスカ! もう少し優しく兄ちゃんに教えてくれ」
「もぅ! しょうがないなぁ~。翔一君のサーチを利用して、マナの使用状況だけじゃ無くて、攻撃の意思を色でスクリーンに投影させてるんだよ。青が平和、赤が危険」
「じゃあこの紫色の集まりは?」
「そこそこ戦う気満々な人達の集まり!」
「お~。じゃあ青いのは、戦う意思が無い奴らの集まりって事か?」
ペスカは冬也に向かって頷き、話しを続けた。
「翔一君には、広域でサーチして貰ったからね。今スクリーンに映ってるのは、ざっと百キロ位の広域マップかな」
「ペスカ。マップって地図っぽいの何もねぇぞ」
「良いんだよ。お兄ちゃんの癖に、細かい事気にしないの! ラフィスフィア大陸の地図を手に入れたら入力するもん!」
ペスカ達は南西方面で一番近い青い光の集まりを目当てに、車を走らせる事に決めた。数キロ走らせると、海風の影響が薄れ始める。辺りは平野となり、段々と畑が見え始めた。
しかし畑に近づくと、ペスカ達は明らかな違和感を感じる。作物は一様に枯れ果て、かなりの間手をかけられていない様子が見て取れる。
「お兄ちゃん。ちょっと止めて」
ペスカが車から降りて、農作物や土の状況を確かめる様に歩き回る。
「ペスカ、何かわかったか?」
「うん。暫く手入れされて無い。それよりも、土地が汚染されかけてる」
ペスカに続いて、冬也達も車から降りて周囲を見渡す。冬也は敏感に感じた。この辺りの空気が何か淀んだ感じがすると。疑問に思った空が、ペスカに問いかける。
「ねえ、ペスカちゃん。この辺りには、大地の神様はいないの?」
「いるよ。フィアーナって女神様が」
「それなのに、大地が汚染されてるってどういう事?」
「多分だけど、女神の加護が薄れているのと、グレイラスのせいだね」
ペスカは空達に、想定される事態を聞かせた。
東京で自分達を助ける為に、女神フィアーナは大きな力を使った。その為、女神フィアーナは神気を失い、ラフィスフィア大陸中から加護が薄れている可能性が有る。
その上、混沌の神グレイラスの手によって、大規模な戦争が起きている。戦争で発生した悪意や恐怖が伝播し、国中の人々が恐慌状態に陥る。
大きく二つの要因により、周囲のマナが淀み始め、作物を枯らせ、大地を汚染させた。
「このまま汚染が進むと、自然的なモンスター発生が起きるね」
「ちょっと待て、不味いだろそれ!」
「かなり不味いね」
「何とかならねぇのか」
「私が物理的にどうこう出来る次元じゃ無いよ」
冬也が慌てて問いただすが、ペスカは首を横に振る。
「ペスカ、フィアーナさん呼び出すか?」
「お兄ちゃん。それじゃ根本的な解決にはならないんだよ」
「冬也。多分ペスカちゃんは、戦争を終わらせる事が一番の解決だって、言いたいじゃ無いかな?」
「ペスカちゃん。戦争を終わらせるって言っても、どうするの?」
空の質問に答える前に、ペスカは少し咳払いをする。
「ここが大陸の東なら、頼れる人がいる! ウルトラレアクラスの凄い人!」
「ペスカちゃん。ソーシャルゲームじゃ無いんだから」
「うっさい、空ちゃん。お兄ちゃんなら判るよ。ウルトラレアは、シグルドクラスって事ね」
「おぅ。そいつは頼もしいな! 直ぐに会いに行こう!」
「お兄ちゃん、馬鹿なの? 大陸の東ならって言ったでしょ? まぁ、大陸の東で間違いないとは思うけどさ。先ずは、情報収集ね」
再びペスカ達は、青い点滅の集合地点へ車を走らせる。そして数時間程で、集落に到着する、しかし集落の状態は、余り良いとは思えなかった。
ただ、呆然と立ち尽くす男。地べたに突っ伏してる男。口を開け、空を仰いでいる女。膝を抱え蹲り震える子供達。集落の人々は、とても活発とは思えない。寧ろ精気が抜け、だらりとする姿が多く見られる。
「あ~。何だか酷いね」
車から降りたペスカの呟きに、冬也達は頷いた。
「どうする? 俺が活を入れるか?」
「止めてお兄ちゃん! あの状況で神気を受けたら、みんな死んじゃう! 私に任せて!」
ペスカは笑顔を浮かべた後、近くに落ちていた木の棒を拾い、クルクルとバトンの様に振り回し、クルリと回ってポーズを決めた。
「元気でろでろ、でろりんちょ!」
光がペスカから飛び出し、村中を包み込む。人々からは、精気の抜けた様な表情から、やや活気を取り戻した様に見えた。立ち尽くしていた男は、我に返って歩き出す。空を仰いでいた女は、キョロキョロと辺りを見回している。子供達はゆっくりと立ちあがった。
「ペスカの魔法、すげぇな!」
冬也は感想と共に、ペスカの頭を撫でる。しかし空と翔一の反応は、今ひとつだった。
「うゎ~、ペスカちゃん。それ魔法少女?」
「そうだね。ペスカちゃん流石に年齢、いでっ!」
ペスカは俊敏な動きで、翔一にデコピンを食らわせる。余計な一言で、お仕置きを受けた翔一は、額を抑えて蹲った。
「どうだ! お兄ちゃん直伝のデコピンの味は! 乙女に年齢の事を言っちゃ駄目なんだよ!」
「ペスカちゃん。なんで僕だけ!」
翔一は額を抑えて蹲る。冬也は翔一の肩を優しく叩いた。
「仕方ねぇよ。ペスカだし」
「冬也。意味が解らないよ」
ただ間違いなく村人達には、多少精気が戻った様に見える。
詳しい話しを聞くと、ほとんどの村人達が、数日まともな食事を取っていない事がわかる。多少は元気が戻ったと言っても表情が暗く、ふらついて歩く者が多いのはそのせいだろう。
急いで冬也と空は麦粥を作り、村人達を集めて振舞った。麦粥を食べた村人達からは、僅かに体力が戻って来た様で、少しずつ笑顔を見せ始める。
そしてペスカは、一人の女性から話を聞いていた。
「こんな辺境の村では、教えられる事は少ないわ」
「何か噂でも良いんだけど、知ってる事は教えて」
「そうね。モーリス将軍が捕らえられたって噂を聞いたわね」
「うそっ!」
「噂よ、噂。でもモーリス将軍がいれば、戦争は起きて無かったんじゃ無いかしら」
女性の言葉に、ペスカの表情が強張った。モーリス将軍の名前で、現在地が明らかになる。ここはシュロスタイン王国。女性の話しでは、王国の北東に位置する村だという。
また、村中の人々の気力が段々と失われていったのは、アーグニール王国、グラスキルス王国と三国間で戦争が起き始めてからだとも、女性は語っていた。
「ペスカ。まさか、モーリス将軍ってのが鬼強い人か?」
「そう。この国の将軍! まさか捕まってたなんて」
「どうする? 助け出すか?」
「そうだね、助け出そう。それで、戦争を止めてもらうの!」
勢い良く拳を掲げるペスカに、翔一が質問する。
「その将軍って人が、戦争を起こしている張本人って可能性は無いのかい?」
「あの将軍に限って、有り得ないね」
「万が一その将軍に問題が無かったとして、それだけ影響力の有る人なのかい?」
「この国の将軍だよ。鬼強いんだよ。翔一君なら覇気だけで、おしっこ漏らすよ」
「漏らさないよ!」
翔一はモーリス将軍の姿を幻視し、少し震える。
「兎に角、出発! 目指せ、王都!」
食料配給の後片付けを済ませた空が合流し、皆が車に乗り込む。ペスカは村人から聞き出した王都の方角と、車のスクリーンに映る光の点を照らし合わせる。
「恐らく、この赤紫の塊が王都だね」
「ペスカ、地図は?」
「こんな寂れた村に、地図なんて大層な物無かったんだよ!」
ペスカが手を払う様な仕草で冬也に答えると、冬也は仕方なく赤紫の塊に向けて車を走らせる。
目指すは、シュロスタイン王国の王都。戦争終結に向けた、ペスカ達の冒険が始まった。
この三国は、資源を巡って古くから対立を繰り返して来た。
シュロスタイン王国とアーグニール王国は、大陸東側海域の漁業水域を巡って争いを繰り返す。海の無いグラスキルス王国は、大陸東側海域の漁業水域を狙う。逆にグラスキルス王国の持つ大きな鉱山を、湾岸二国が狙う。
諍いの絶えなかった三国は、二十年前の悪夢をきっかけに不戦協定を結ぶ。それ以降二十年に渡り、この三国間で戦争は起きていなかった。
そしてこの三国には、一人ずつ高名な将軍が存在する。
シュロスタイン王国にはモーリス将軍。
アーグニール王国には、ケーリア将軍。
グラスキルス王国には、サムウェル将軍。
その強さは一騎当千。彼の魔法は天を割き、刃は地を割る。その将軍達の存在が大きな抑止力となり、平和を維持していたと言っても過言ではない。
そして混沌の神グレイドスに操られ、隣接した三国が帝国に攻め入った時、真っ先に動いたのは、この三人の将軍達だった。
いずれ、混乱は東の地にも訪れる。戦争回避の為に動き始めた三人の将軍は、それぞれの国で反逆罪に問われ投獄された。
そして抑止力の無くなった三国は、三つ巴の戦争状態に陥る。そして、たった数日で数千人死者を出す。それでも終わらない戦争の影響は、国中に広がっていく。
東の三国は、今にも潰えようとしていた。
☆ ☆ ☆
「ゲートで来たのは良いけど、ここ何処だよペスカ?」
「知らないよ。エルラフィア王国じゃ無い事は確かだね」
「そうなのか?」
見た事も無い風景に、ペスカでさえも首を傾げる。故郷であるエルラフィア王国の、海岸であれば直ぐにわかるであろう。ゲートから出で、直ぐに見た景色は海。そしてキャンピングカーは、海岸付近に降り立った。
たったこれだけの情報で、現在地などわかりはしない。
「ねぇ、お兄ちゃん。セリュシオネ様は、大陸各地の混乱を収めて欲しいって言ってたよね」
「言ってたな」
「それって、エルラフィア王国に着くまでの道中、全ての戦争を止めろって意味だったりして」
「まさか、んなこたぁねぇだろ。無茶振りにも程が有るぜ」
「でもさ、見た事ないんだよ。エルラフィアでこんな海岸」
「お前、意外と地理に詳しくねぇのか?」
「まぁ私の本分は、研究だからね。見た事が有る風景は、エルラフィアの周辺と、帝国周辺くらいかな」
「帝国には、海がねぇのか?」
「あるよ、南側にね。ただ、すっごく熱いんだよ。東南アジアみたいにね」
「そっか。じゃあ、こことは違うんだな」
呑気な会話を繰り広げていても、ペスカは今いる場所の検討はついていた。先の話しに出た、ライン帝国の南方に面する海は、とても波が静かである。そして、数十キロにも渡り、長く続く砂浜は観光名所にもなっている。
対してこの海岸は、見渡す限りの岸壁が続き、荒波が打ち付けている。ペスカの知識が確かなら、ここはアンドロケイン大陸のマールローネから、最短距離の場所。ラフィスフィア大陸の東海岸沿いである。
「うぉ~! ショートカットは、海だけか~! せめてもう少し情報ぷり~ず~!」
「五月蠅いよ、ペスカちゃん」
「空ちゃ~ん。だって~」
「なぁに、ペスカちゃん」
「これって丸投げだよね? 何がどうなってるか、自分達で調べて、対処しろって事だよね?」
「仕方無いよ、ペスカちゃん。何か月もかかるはず航路が、短縮出来たと思えば良いじゃない」
「まったく、女神様ってどうしてこう、中途半端に丸投げするかな。翔一君、とりま十キロ位でサーチかけて」
一先ずペスカは、周囲の探索を翔一に指示する。翔一が車内の魔石をコントロールし、探知の能力で周囲のマナをスクリーンに映し出す。するとスクリーンには、青く点滅する光が集まってる場所が数か所ほど見つかる。
「ペスカ、この光の集まりは何だ?」
「この青い点滅は、多分集落だね。この数だと村だと思うよ」
「ペスカちゃん、もう少し距離を広げてみるかい?」
翔一が尋ねると、ペスカは軽く頷く。翔一が探知の範囲を広げると、スクリーンには次々と、光の点が映し出される。現地点から南西方向に進むに連れ、光は青から赤に変わり、真っ赤な光の塊が映し出されている所が数か所ほど有った。
ペスカは、少し考え込む様に腕を組んで、スクリーンを見つめている。そして翔一は、険しい表情で問いかけた。
「ペスカちゃん、どう思う?」
「間違いなく、赤の数か所は、戦争中だね。しかもかなり大規模だと思うよ!」
「マジかよペスカ! もう少し優しく兄ちゃんに教えてくれ」
「もぅ! しょうがないなぁ~。翔一君のサーチを利用して、マナの使用状況だけじゃ無くて、攻撃の意思を色でスクリーンに投影させてるんだよ。青が平和、赤が危険」
「じゃあこの紫色の集まりは?」
「そこそこ戦う気満々な人達の集まり!」
「お~。じゃあ青いのは、戦う意思が無い奴らの集まりって事か?」
ペスカは冬也に向かって頷き、話しを続けた。
「翔一君には、広域でサーチして貰ったからね。今スクリーンに映ってるのは、ざっと百キロ位の広域マップかな」
「ペスカ。マップって地図っぽいの何もねぇぞ」
「良いんだよ。お兄ちゃんの癖に、細かい事気にしないの! ラフィスフィア大陸の地図を手に入れたら入力するもん!」
ペスカ達は南西方面で一番近い青い光の集まりを目当てに、車を走らせる事に決めた。数キロ走らせると、海風の影響が薄れ始める。辺りは平野となり、段々と畑が見え始めた。
しかし畑に近づくと、ペスカ達は明らかな違和感を感じる。作物は一様に枯れ果て、かなりの間手をかけられていない様子が見て取れる。
「お兄ちゃん。ちょっと止めて」
ペスカが車から降りて、農作物や土の状況を確かめる様に歩き回る。
「ペスカ、何かわかったか?」
「うん。暫く手入れされて無い。それよりも、土地が汚染されかけてる」
ペスカに続いて、冬也達も車から降りて周囲を見渡す。冬也は敏感に感じた。この辺りの空気が何か淀んだ感じがすると。疑問に思った空が、ペスカに問いかける。
「ねえ、ペスカちゃん。この辺りには、大地の神様はいないの?」
「いるよ。フィアーナって女神様が」
「それなのに、大地が汚染されてるってどういう事?」
「多分だけど、女神の加護が薄れているのと、グレイラスのせいだね」
ペスカは空達に、想定される事態を聞かせた。
東京で自分達を助ける為に、女神フィアーナは大きな力を使った。その為、女神フィアーナは神気を失い、ラフィスフィア大陸中から加護が薄れている可能性が有る。
その上、混沌の神グレイラスの手によって、大規模な戦争が起きている。戦争で発生した悪意や恐怖が伝播し、国中の人々が恐慌状態に陥る。
大きく二つの要因により、周囲のマナが淀み始め、作物を枯らせ、大地を汚染させた。
「このまま汚染が進むと、自然的なモンスター発生が起きるね」
「ちょっと待て、不味いだろそれ!」
「かなり不味いね」
「何とかならねぇのか」
「私が物理的にどうこう出来る次元じゃ無いよ」
冬也が慌てて問いただすが、ペスカは首を横に振る。
「ペスカ、フィアーナさん呼び出すか?」
「お兄ちゃん。それじゃ根本的な解決にはならないんだよ」
「冬也。多分ペスカちゃんは、戦争を終わらせる事が一番の解決だって、言いたいじゃ無いかな?」
「ペスカちゃん。戦争を終わらせるって言っても、どうするの?」
空の質問に答える前に、ペスカは少し咳払いをする。
「ここが大陸の東なら、頼れる人がいる! ウルトラレアクラスの凄い人!」
「ペスカちゃん。ソーシャルゲームじゃ無いんだから」
「うっさい、空ちゃん。お兄ちゃんなら判るよ。ウルトラレアは、シグルドクラスって事ね」
「おぅ。そいつは頼もしいな! 直ぐに会いに行こう!」
「お兄ちゃん、馬鹿なの? 大陸の東ならって言ったでしょ? まぁ、大陸の東で間違いないとは思うけどさ。先ずは、情報収集ね」
再びペスカ達は、青い点滅の集合地点へ車を走らせる。そして数時間程で、集落に到着する、しかし集落の状態は、余り良いとは思えなかった。
ただ、呆然と立ち尽くす男。地べたに突っ伏してる男。口を開け、空を仰いでいる女。膝を抱え蹲り震える子供達。集落の人々は、とても活発とは思えない。寧ろ精気が抜け、だらりとする姿が多く見られる。
「あ~。何だか酷いね」
車から降りたペスカの呟きに、冬也達は頷いた。
「どうする? 俺が活を入れるか?」
「止めてお兄ちゃん! あの状況で神気を受けたら、みんな死んじゃう! 私に任せて!」
ペスカは笑顔を浮かべた後、近くに落ちていた木の棒を拾い、クルクルとバトンの様に振り回し、クルリと回ってポーズを決めた。
「元気でろでろ、でろりんちょ!」
光がペスカから飛び出し、村中を包み込む。人々からは、精気の抜けた様な表情から、やや活気を取り戻した様に見えた。立ち尽くしていた男は、我に返って歩き出す。空を仰いでいた女は、キョロキョロと辺りを見回している。子供達はゆっくりと立ちあがった。
「ペスカの魔法、すげぇな!」
冬也は感想と共に、ペスカの頭を撫でる。しかし空と翔一の反応は、今ひとつだった。
「うゎ~、ペスカちゃん。それ魔法少女?」
「そうだね。ペスカちゃん流石に年齢、いでっ!」
ペスカは俊敏な動きで、翔一にデコピンを食らわせる。余計な一言で、お仕置きを受けた翔一は、額を抑えて蹲った。
「どうだ! お兄ちゃん直伝のデコピンの味は! 乙女に年齢の事を言っちゃ駄目なんだよ!」
「ペスカちゃん。なんで僕だけ!」
翔一は額を抑えて蹲る。冬也は翔一の肩を優しく叩いた。
「仕方ねぇよ。ペスカだし」
「冬也。意味が解らないよ」
ただ間違いなく村人達には、多少精気が戻った様に見える。
詳しい話しを聞くと、ほとんどの村人達が、数日まともな食事を取っていない事がわかる。多少は元気が戻ったと言っても表情が暗く、ふらついて歩く者が多いのはそのせいだろう。
急いで冬也と空は麦粥を作り、村人達を集めて振舞った。麦粥を食べた村人達からは、僅かに体力が戻って来た様で、少しずつ笑顔を見せ始める。
そしてペスカは、一人の女性から話を聞いていた。
「こんな辺境の村では、教えられる事は少ないわ」
「何か噂でも良いんだけど、知ってる事は教えて」
「そうね。モーリス将軍が捕らえられたって噂を聞いたわね」
「うそっ!」
「噂よ、噂。でもモーリス将軍がいれば、戦争は起きて無かったんじゃ無いかしら」
女性の言葉に、ペスカの表情が強張った。モーリス将軍の名前で、現在地が明らかになる。ここはシュロスタイン王国。女性の話しでは、王国の北東に位置する村だという。
また、村中の人々の気力が段々と失われていったのは、アーグニール王国、グラスキルス王国と三国間で戦争が起き始めてからだとも、女性は語っていた。
「ペスカ。まさか、モーリス将軍ってのが鬼強い人か?」
「そう。この国の将軍! まさか捕まってたなんて」
「どうする? 助け出すか?」
「そうだね、助け出そう。それで、戦争を止めてもらうの!」
勢い良く拳を掲げるペスカに、翔一が質問する。
「その将軍って人が、戦争を起こしている張本人って可能性は無いのかい?」
「あの将軍に限って、有り得ないね」
「万が一その将軍に問題が無かったとして、それだけ影響力の有る人なのかい?」
「この国の将軍だよ。鬼強いんだよ。翔一君なら覇気だけで、おしっこ漏らすよ」
「漏らさないよ!」
翔一はモーリス将軍の姿を幻視し、少し震える。
「兎に角、出発! 目指せ、王都!」
食料配給の後片付けを済ませた空が合流し、皆が車に乗り込む。ペスカは村人から聞き出した王都の方角と、車のスクリーンに映る光の点を照らし合わせる。
「恐らく、この赤紫の塊が王都だね」
「ペスカ、地図は?」
「こんな寂れた村に、地図なんて大層な物無かったんだよ!」
ペスカが手を払う様な仕草で冬也に答えると、冬也は仕方なく赤紫の塊に向けて車を走らせる。
目指すは、シュロスタイン王国の王都。戦争終結に向けた、ペスカ達の冒険が始まった。
0
お気に入りに追加
360
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
聖女は傭兵と融合して最強唯一の魔法剣士になって好き勝手に生きる
ブレイブ31
ファンタジー
勇猛な女傭兵と、聖なる力を宿した聖女が、壮絶な悪魔たちとの戦闘での負傷によりひとつの体に融合してしまう。
≪剣の達人と凄まじい天使の力を行使できる最強唯一の魔法剣士≫が誕生する。
しかしその結果、司祭の謀略により聖王国を追放されてしまう。
逃げた先の国で天使の力を使い依頼をこなしていき、いつのまにか周りからも≪天使≫、≪英雄≫と言われる存在になっていく。
自分達への望みのため動いていたが、いつのまにか世界を巻き込む大騒動を巻き起こしてしまう物語
毎日20:10に更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる