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混乱の東京
384 邪神ロメリア ~アルキエルの敗北~
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邪神ロメリアの高笑いが響く。
その声を聞いて、その姿を見て、意識を保っていられる人間は皆無であろう。
空の強固な結界が、邪神ロメリアを封じている。それをクラウスが補助をし、更に頑強にしている。更にブルが、仲間達を守る様に結界を張っている。
そんな幾重にも張られた結界をもってしても、邪神ロメリアから放たれる邪気は、仲間達の意識を奪おうとする。
霊感の強いエリーや陰陽師達は、顔を青ざめさせ、ガタガタと全身を震わせている。霊感の無い林や安西、佐藤ら警察チームでさえ、死人の様に蒼白になっている。
雄二の体からは、纏った炎が消えている。美咲の作り出したシールドは、完全に失われた。かつて、邪神ロメリアと対峙した空や翔一でさえも、歯をガチガチと鳴らしている。
それは、戦う力を備えた異界の住人達も、同様であった。
レイピアとソニアは、神を除けばロイスマリアの中でも最強の部類に入るだろう。その二人が、怯えた様に体を縮こませている。ゼルは全身の肌を粟立て、恐怖に耐えている。
空達と同様に、旧メルドマリューネの地で邪神ロメリアを目にし、兄であるクロノスを倒したクラウスでさえ、全身を震わせている。
その力は、かつての比ではない。当然だ。どれだけの悪意を集めたと思っている。
人間、亜人、魔獣とロイスマリアの住人を全て合わせても、地球で暮らす人口の半分にも満たない。その地球全土で戦争を起こし、星を包む程に広がった悪意を全て取り込んだのだ。それは、比べるまでも無い事だ。
しかも、これが上限ではない。戦争は未だに続いている、言わば更に力を増すのだ。
かつて数多の神を消滅させたアルキエル。そのアルキエルを倒した冬也。そして冬也の眷属であり、多くの信仰を集めて神へと至ったブル。
三柱の神でさえ、言葉を失っていた。
間近で結界を張っていた空は、賢明に意識を保ち結界を張り続ける。しかし、結界には大きな罅が入り、今にも壊れようとしている。
罅から漏れ出た邪気は、冬也の神気に染まった大地を、侵食しようと広がっていく。
そんな状況下で、アルキエルは冬也に目配せをすると、単独で飛び出した。
さもありなん。旧高尾一帯は、冬也の神域になっている。冬也が大地に力を注ぐのを止めれば、数秒で邪気が日本中に広がり、死の国へ変えるだろう。そして数分と経たずに、邪気は世界中へ広がり、人類の歴史は終わりを告げる。
ましてや、佐藤ら一般人がこの場に居るのだ。ブルが結界を張り続けていなければ、邪気に食われて死に絶える。更には、かつて神であった遼太郎からは、完全に神気が失われている。
今、戦えるのは自分しかいない。アルキエルは、そう考えたのだ。
アルキエルの判断は、間違いではない。ただ、相手が強くなり過ぎた。
アルキエルが大剣を振りかぶり、邪神ロメリアに目がけて振り下ろすまで、コンマ数秒も経っていない。剣を極めたレイピアとソニアでさえ、アルキエルの動きを目で追う事が出来ていない。
しかし、大剣は邪神ロメリアに届く事は無かった。そして気がついた時には、アルキエルの胴が、邪神ロメリアの片腕によって貫かれていた。
「がぁっ。かっ」
アルキエルの全身に激痛が走る。もがく様な声が、口から漏れ出る。
そして神気のパスを通じて、痛みが冬也とブルへ伝わる。二柱の神は、その苦痛に顔を歪めた。
その姿を見て、瞬間的にアルキエルは、神気のパスを切ろうとする。しかし、冬也はそれを許さない。
アルキエルの攻撃が届かない相手なのだ。力の供給を止めれば、それこそ勝つ事は不可能になる。
「この馬鹿が。てめぇの力なんざ必要ねぇんだ」
「馬鹿はてめぇだアルキエル! てめぇだけで、戦おうとしてんじゃねぇ」
神気を通して、感覚を共有し、力を分け与える。眷属とは、血を分けた肉親以上の存在である。そして眷属を失えば、大きく力を削がれるのも必然である。
かつてドラグスメリア大陸で、邪神ロメリアの残り滓が暴れた際。女神ミュールが直接対処出来なかったのは、山の神ゼフィロス達が痛手を負ったからに他ならない。
それは、深い絆で繋がっていると言っても、過言ではない。
そんな光景を笑い飛ばすとすれば、目の前にいる邪神ロメリアしか存在しない。
「痛いかい? 痛いよね? 僕が受けた痛みは、こんなもんじゃないよ。アルキエル、君の神格をここで粉々にしてもいいだけどね。それじゃあ僕の気がすまないだ。混血のガキが苦しむ顔を、もっと見たいんだ。わかるかい? 君はあのガキを苦しめるだけの存在なんだ」
「てめぇ!」
「アルキエル。吠えても、結果は変わらないよ。それと糞ガキ! こんな出来損ないを、眷属にした事を後悔するんだね」
「雑魚野郎が、ほざくんじゃねぇ!」
「ハハハ。体を貫かれてる奴が、よく言うよねぇ。痛いなら、素直に痛いって言いなよ。でも、止めないけどさぁ。言ったろ? 苦しむ顔が見たいんだよぉ!」
邪神ロメリアは、醜く顔を歪ませながら、アルキエルを挑発する。その口元は、横に割かれた様に広がり、歪んだ笑みを湛える。幾度も辛酸を舐めさせられた意趣返しなのだろう。
同時にそれは、絶対的な力の差を疑って止まない、自信の現われでもある。
アルキエルは、邪神ロメリアの挑発を真正面から受け止めた。そして、大剣を持たない方の手で、邪神ロメリアの腕を掴む。握りつぶす程に力を籠めて、ゆっくりと体から腕を引き抜いていく。激痛が走ろうとも、無視をする。
邪神ロメリアは、アルキエルのプライドを大きく傷つけた。
戦いの神なのだ、戦いに置いて負ける事は許されない。しかも、主を侮辱されたのだ。敗北よりも、遥かに屈辱である。
邪神ロメリアの腕を、完全に体から引き抜くと、アルキエルは腕を掴んだまま、片方の手で大剣を振りかぶる。邪神ロメリアの動きを止め、至近距離で大剣を勢いよく振り下ろす。
絶対に外す事の無い渾身の一撃が、邪神ロメリアに迫る。しかし、邪神ロメリアは、微動だにしない。
もしここが冬也の神域でなければ、日本はおろかユーラシア大陸、果ては南北アメリカ大陸まで水底に沈める、そんな破壊力を持った一撃である。
しかし邪神ロメリアは、掴まれていない方の手で、大剣を軽々と受け止めた。それは、アルキエルだけでなく、冬也やブルにも衝撃を与えた。
有り得ない。
冬也の頭に過ったのは、その一言である。
冬也でさえ、アルキエルの全力を受け止める事はしない。受け止めれば、全身が粉々になる事がわかっているから、必ず躱すのだ。
その一撃を、簡単に受け止める。そんな事が有ってたまるか。冬也とブルは唖然とし、声を出す事が出来なかった。
邪神ロメリアは、大剣を掴んで振り回すと、アルキエルごと放り投げる。一方で冬也とブルの体は、動いていた。
アルキエルの実力を、信じていない訳では無い。だが最善を尽くすなら、三柱で一気に叩くべきだ。
冬也の選択は、間違っていない。しかしそれは、アルキエルが求める選択ではない。放り投げられたアルキエルから、神気を通じて意志が伝わって来る。
まだ負けてねぇ。俺が冬也以外に負けるはずがねぇ。だから信じろ。冬也、お前は神域を維持しろ。ブル、お前はみんなを守れ。
俺は切り札じゃねぇ。まだペスカの奴が居やがる。あいつの企みが終わるまで、時間は俺が稼いでやる。その為には、ここが奴の領域になっちゃいけねぇんだ。
わかるだろ、冬也、ブル。
確かに奴は俺だけじゃ倒せねぇ。だけど時間稼ぎには、お前達の協力が必要なんだ。
冬也、力の使い所を間違えるなよ、お前の出番はまだ先だ。露払い位は、俺にさせてくれ。頼む、冬也。
常に居丈高な態度を取るアルキエルが、殊勝な願いを伝えて来たのだ。聞き入れない訳がない。
冬也とブルは立ち止まる。そして、それぞれの役割を果たすべく、神気を高めた。少しでも、アルキエルが楽に戦える様に。
アルキエルは、空中で体勢を整える。そして、着地するや否や、大剣を構える。そんなアルキエルを見下す様に、邪神ロメリアは言い放った。
「まだわかってないのかい? 流石に君は強いからね、消滅させない様に戦うのは、難しいんだよ。だって簡単に消滅させちゃあ、クソガキの苦しむ顔が見られないだろ? いい加減、足掻くのは止めて、嬲られなよ! 疲れちゃうじゃないか」
酷く舐めた口振りである。事実、勝つ見込みが無いのだから、反論のしようがない。そして、この相手に対してだけは、虚勢を張るだけ無駄なのだ。
アルキエルは、邪神ロメリアの言葉を意に介さず、戦う姿勢を崩さない。邪神ロメリアは、少し溜息をつく様な仕草をした後、邪気で剣を作り出した。
「君みたいなのは、心が折れるって事を知らないからね。仕方ないから、君の土俵で戦ってあげるよ。まぁ戦いの神と言っても、そこに転がってる人間に成り下がった馬鹿も居る位だしね。手段を問わずに、勝ちに執着する所だけは、認めてあげてもいいけどさぁ。ただそれだけなんだよ、実際はさぁ」
長ったらしく続く、邪神ロメリアの言葉を遮るかの様に、アルキエルは再び駆けだす。
そして、目にも止まらない速さで、大剣が降り下ろされる。しかし邪神ロメリアは、軽々と大剣を受け流すとアルキエルの体に傷を作る。
アルキエルが大剣を振り下ろす度に、体に傷が増えていく。それでもアルキエルは、戦う事を止めない。時間を稼ぐと言ったから? いや、譲れない想いがあるから。
その時、アルキエルの頭には、かつて倒した勇者の姿が浮かんでいた。
「そうか、てめぇもこんな気持ちだったのかも知れねぇな。圧倒的な力を前にして、臆する事無く立ち向かう。確かにてめぇは勇者だ、シグルド。てめぇを殺した俺が、負ける訳にはいかねぇよな。てめぇともう一度戦うまで、消滅する訳にはいかねぇよな」
既にアルキエルは、全力を使い果たしていた。
体に大穴を開けられ、全力の一撃は止められ、何度も繰り出す攻撃は尽く往なされ、そして大量の傷を受けた。
神気はもう、使い果たしている。その上、冬也から送られてくる、神気の供給を拒んでいた。冬也は切り札だ、神気を食い潰す訳にはいかない。そんな理由で、供給を断っていた。
そんな空っぽの状態では、顕現する事さえ難しい。だがアルキエルを支えていたのは、意志の力であった。
絶対に負けない。その意思が、アルキエルの足を踏み出させる。動かせない体を使い、大剣を振り下ろさせる。
いつ倒れてもおかしくない、いつ消滅してもおかしくない、だが決して倒れない、攻撃の手は緩めない。そんなアルキエルに対し、邪神ロメリアが焦れ始める。
見たかったのは、そんな光景じゃない。地べたに這いつくばって逃げ惑う姿なのだ。だが、アルキエルは勇敢に戦い続ける。真逆の光景を見せられても、面白いはずがない。
邪神ロメリアは、初めて理解したのだろう。どれだけ嬲っても、無駄だという事に。どれだけ傷をつけても、アルキエルが戦いを止めない事に。
そして、狙いを変える。神格を破壊して、この下らない戦いを終わらせようと。
だが、狙いを変えた瞬間に、隙が生まれる。
これまで後の線で、応じ技に徹していた邪神ロメリアが、攻撃を仕掛ける。その出端を狙い、アルキエルは最後の力を振り絞って、大剣を振るった。
アルキエルの大剣は、邪神ロメリアの剣を打ち払い、体に僅かな傷を作る。決して消える事の無い、破邪の意志を籠めた傷である。
そして、アルキエルは前のめりになって、倒れ伏した。
アルキエルは敗北した。ペスカが到着するまでの時間を、稼ぐ事は出来なかった。しかし、ほんの僅かでも、邪神ロメリアの体に傷を付けた。
それは、勝つ見込みが無い戦いに差し込んだ、一条の光となる。
それでもまだ、邪神ロメリアの優位は揺るがない。
過酷な戦いは、始まったばかりであった。
その声を聞いて、その姿を見て、意識を保っていられる人間は皆無であろう。
空の強固な結界が、邪神ロメリアを封じている。それをクラウスが補助をし、更に頑強にしている。更にブルが、仲間達を守る様に結界を張っている。
そんな幾重にも張られた結界をもってしても、邪神ロメリアから放たれる邪気は、仲間達の意識を奪おうとする。
霊感の強いエリーや陰陽師達は、顔を青ざめさせ、ガタガタと全身を震わせている。霊感の無い林や安西、佐藤ら警察チームでさえ、死人の様に蒼白になっている。
雄二の体からは、纏った炎が消えている。美咲の作り出したシールドは、完全に失われた。かつて、邪神ロメリアと対峙した空や翔一でさえも、歯をガチガチと鳴らしている。
それは、戦う力を備えた異界の住人達も、同様であった。
レイピアとソニアは、神を除けばロイスマリアの中でも最強の部類に入るだろう。その二人が、怯えた様に体を縮こませている。ゼルは全身の肌を粟立て、恐怖に耐えている。
空達と同様に、旧メルドマリューネの地で邪神ロメリアを目にし、兄であるクロノスを倒したクラウスでさえ、全身を震わせている。
その力は、かつての比ではない。当然だ。どれだけの悪意を集めたと思っている。
人間、亜人、魔獣とロイスマリアの住人を全て合わせても、地球で暮らす人口の半分にも満たない。その地球全土で戦争を起こし、星を包む程に広がった悪意を全て取り込んだのだ。それは、比べるまでも無い事だ。
しかも、これが上限ではない。戦争は未だに続いている、言わば更に力を増すのだ。
かつて数多の神を消滅させたアルキエル。そのアルキエルを倒した冬也。そして冬也の眷属であり、多くの信仰を集めて神へと至ったブル。
三柱の神でさえ、言葉を失っていた。
間近で結界を張っていた空は、賢明に意識を保ち結界を張り続ける。しかし、結界には大きな罅が入り、今にも壊れようとしている。
罅から漏れ出た邪気は、冬也の神気に染まった大地を、侵食しようと広がっていく。
そんな状況下で、アルキエルは冬也に目配せをすると、単独で飛び出した。
さもありなん。旧高尾一帯は、冬也の神域になっている。冬也が大地に力を注ぐのを止めれば、数秒で邪気が日本中に広がり、死の国へ変えるだろう。そして数分と経たずに、邪気は世界中へ広がり、人類の歴史は終わりを告げる。
ましてや、佐藤ら一般人がこの場に居るのだ。ブルが結界を張り続けていなければ、邪気に食われて死に絶える。更には、かつて神であった遼太郎からは、完全に神気が失われている。
今、戦えるのは自分しかいない。アルキエルは、そう考えたのだ。
アルキエルの判断は、間違いではない。ただ、相手が強くなり過ぎた。
アルキエルが大剣を振りかぶり、邪神ロメリアに目がけて振り下ろすまで、コンマ数秒も経っていない。剣を極めたレイピアとソニアでさえ、アルキエルの動きを目で追う事が出来ていない。
しかし、大剣は邪神ロメリアに届く事は無かった。そして気がついた時には、アルキエルの胴が、邪神ロメリアの片腕によって貫かれていた。
「がぁっ。かっ」
アルキエルの全身に激痛が走る。もがく様な声が、口から漏れ出る。
そして神気のパスを通じて、痛みが冬也とブルへ伝わる。二柱の神は、その苦痛に顔を歪めた。
その姿を見て、瞬間的にアルキエルは、神気のパスを切ろうとする。しかし、冬也はそれを許さない。
アルキエルの攻撃が届かない相手なのだ。力の供給を止めれば、それこそ勝つ事は不可能になる。
「この馬鹿が。てめぇの力なんざ必要ねぇんだ」
「馬鹿はてめぇだアルキエル! てめぇだけで、戦おうとしてんじゃねぇ」
神気を通して、感覚を共有し、力を分け与える。眷属とは、血を分けた肉親以上の存在である。そして眷属を失えば、大きく力を削がれるのも必然である。
かつてドラグスメリア大陸で、邪神ロメリアの残り滓が暴れた際。女神ミュールが直接対処出来なかったのは、山の神ゼフィロス達が痛手を負ったからに他ならない。
それは、深い絆で繋がっていると言っても、過言ではない。
そんな光景を笑い飛ばすとすれば、目の前にいる邪神ロメリアしか存在しない。
「痛いかい? 痛いよね? 僕が受けた痛みは、こんなもんじゃないよ。アルキエル、君の神格をここで粉々にしてもいいだけどね。それじゃあ僕の気がすまないだ。混血のガキが苦しむ顔を、もっと見たいんだ。わかるかい? 君はあのガキを苦しめるだけの存在なんだ」
「てめぇ!」
「アルキエル。吠えても、結果は変わらないよ。それと糞ガキ! こんな出来損ないを、眷属にした事を後悔するんだね」
「雑魚野郎が、ほざくんじゃねぇ!」
「ハハハ。体を貫かれてる奴が、よく言うよねぇ。痛いなら、素直に痛いって言いなよ。でも、止めないけどさぁ。言ったろ? 苦しむ顔が見たいんだよぉ!」
邪神ロメリアは、醜く顔を歪ませながら、アルキエルを挑発する。その口元は、横に割かれた様に広がり、歪んだ笑みを湛える。幾度も辛酸を舐めさせられた意趣返しなのだろう。
同時にそれは、絶対的な力の差を疑って止まない、自信の現われでもある。
アルキエルは、邪神ロメリアの挑発を真正面から受け止めた。そして、大剣を持たない方の手で、邪神ロメリアの腕を掴む。握りつぶす程に力を籠めて、ゆっくりと体から腕を引き抜いていく。激痛が走ろうとも、無視をする。
邪神ロメリアは、アルキエルのプライドを大きく傷つけた。
戦いの神なのだ、戦いに置いて負ける事は許されない。しかも、主を侮辱されたのだ。敗北よりも、遥かに屈辱である。
邪神ロメリアの腕を、完全に体から引き抜くと、アルキエルは腕を掴んだまま、片方の手で大剣を振りかぶる。邪神ロメリアの動きを止め、至近距離で大剣を勢いよく振り下ろす。
絶対に外す事の無い渾身の一撃が、邪神ロメリアに迫る。しかし、邪神ロメリアは、微動だにしない。
もしここが冬也の神域でなければ、日本はおろかユーラシア大陸、果ては南北アメリカ大陸まで水底に沈める、そんな破壊力を持った一撃である。
しかし邪神ロメリアは、掴まれていない方の手で、大剣を軽々と受け止めた。それは、アルキエルだけでなく、冬也やブルにも衝撃を与えた。
有り得ない。
冬也の頭に過ったのは、その一言である。
冬也でさえ、アルキエルの全力を受け止める事はしない。受け止めれば、全身が粉々になる事がわかっているから、必ず躱すのだ。
その一撃を、簡単に受け止める。そんな事が有ってたまるか。冬也とブルは唖然とし、声を出す事が出来なかった。
邪神ロメリアは、大剣を掴んで振り回すと、アルキエルごと放り投げる。一方で冬也とブルの体は、動いていた。
アルキエルの実力を、信じていない訳では無い。だが最善を尽くすなら、三柱で一気に叩くべきだ。
冬也の選択は、間違っていない。しかしそれは、アルキエルが求める選択ではない。放り投げられたアルキエルから、神気を通じて意志が伝わって来る。
まだ負けてねぇ。俺が冬也以外に負けるはずがねぇ。だから信じろ。冬也、お前は神域を維持しろ。ブル、お前はみんなを守れ。
俺は切り札じゃねぇ。まだペスカの奴が居やがる。あいつの企みが終わるまで、時間は俺が稼いでやる。その為には、ここが奴の領域になっちゃいけねぇんだ。
わかるだろ、冬也、ブル。
確かに奴は俺だけじゃ倒せねぇ。だけど時間稼ぎには、お前達の協力が必要なんだ。
冬也、力の使い所を間違えるなよ、お前の出番はまだ先だ。露払い位は、俺にさせてくれ。頼む、冬也。
常に居丈高な態度を取るアルキエルが、殊勝な願いを伝えて来たのだ。聞き入れない訳がない。
冬也とブルは立ち止まる。そして、それぞれの役割を果たすべく、神気を高めた。少しでも、アルキエルが楽に戦える様に。
アルキエルは、空中で体勢を整える。そして、着地するや否や、大剣を構える。そんなアルキエルを見下す様に、邪神ロメリアは言い放った。
「まだわかってないのかい? 流石に君は強いからね、消滅させない様に戦うのは、難しいんだよ。だって簡単に消滅させちゃあ、クソガキの苦しむ顔が見られないだろ? いい加減、足掻くのは止めて、嬲られなよ! 疲れちゃうじゃないか」
酷く舐めた口振りである。事実、勝つ見込みが無いのだから、反論のしようがない。そして、この相手に対してだけは、虚勢を張るだけ無駄なのだ。
アルキエルは、邪神ロメリアの言葉を意に介さず、戦う姿勢を崩さない。邪神ロメリアは、少し溜息をつく様な仕草をした後、邪気で剣を作り出した。
「君みたいなのは、心が折れるって事を知らないからね。仕方ないから、君の土俵で戦ってあげるよ。まぁ戦いの神と言っても、そこに転がってる人間に成り下がった馬鹿も居る位だしね。手段を問わずに、勝ちに執着する所だけは、認めてあげてもいいけどさぁ。ただそれだけなんだよ、実際はさぁ」
長ったらしく続く、邪神ロメリアの言葉を遮るかの様に、アルキエルは再び駆けだす。
そして、目にも止まらない速さで、大剣が降り下ろされる。しかし邪神ロメリアは、軽々と大剣を受け流すとアルキエルの体に傷を作る。
アルキエルが大剣を振り下ろす度に、体に傷が増えていく。それでもアルキエルは、戦う事を止めない。時間を稼ぐと言ったから? いや、譲れない想いがあるから。
その時、アルキエルの頭には、かつて倒した勇者の姿が浮かんでいた。
「そうか、てめぇもこんな気持ちだったのかも知れねぇな。圧倒的な力を前にして、臆する事無く立ち向かう。確かにてめぇは勇者だ、シグルド。てめぇを殺した俺が、負ける訳にはいかねぇよな。てめぇともう一度戦うまで、消滅する訳にはいかねぇよな」
既にアルキエルは、全力を使い果たしていた。
体に大穴を開けられ、全力の一撃は止められ、何度も繰り出す攻撃は尽く往なされ、そして大量の傷を受けた。
神気はもう、使い果たしている。その上、冬也から送られてくる、神気の供給を拒んでいた。冬也は切り札だ、神気を食い潰す訳にはいかない。そんな理由で、供給を断っていた。
そんな空っぽの状態では、顕現する事さえ難しい。だがアルキエルを支えていたのは、意志の力であった。
絶対に負けない。その意思が、アルキエルの足を踏み出させる。動かせない体を使い、大剣を振り下ろさせる。
いつ倒れてもおかしくない、いつ消滅してもおかしくない、だが決して倒れない、攻撃の手は緩めない。そんなアルキエルに対し、邪神ロメリアが焦れ始める。
見たかったのは、そんな光景じゃない。地べたに這いつくばって逃げ惑う姿なのだ。だが、アルキエルは勇敢に戦い続ける。真逆の光景を見せられても、面白いはずがない。
邪神ロメリアは、初めて理解したのだろう。どれだけ嬲っても、無駄だという事に。どれだけ傷をつけても、アルキエルが戦いを止めない事に。
そして、狙いを変える。神格を破壊して、この下らない戦いを終わらせようと。
だが、狙いを変えた瞬間に、隙が生まれる。
これまで後の線で、応じ技に徹していた邪神ロメリアが、攻撃を仕掛ける。その出端を狙い、アルキエルは最後の力を振り絞って、大剣を振るった。
アルキエルの大剣は、邪神ロメリアの剣を打ち払い、体に僅かな傷を作る。決して消える事の無い、破邪の意志を籠めた傷である。
そして、アルキエルは前のめりになって、倒れ伏した。
アルキエルは敗北した。ペスカが到着するまでの時間を、稼ぐ事は出来なかった。しかし、ほんの僅かでも、邪神ロメリアの体に傷を付けた。
それは、勝つ見込みが無い戦いに差し込んだ、一条の光となる。
それでもまだ、邪神ロメリアの優位は揺るがない。
過酷な戦いは、始まったばかりであった。
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辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
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本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
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さぁ、どん底から這い上がろうか
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※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
聖女は傭兵と融合して最強唯一の魔法剣士になって好き勝手に生きる
ブレイブ31
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勇猛な女傭兵と、聖なる力を宿した聖女が、壮絶な悪魔たちとの戦闘での負傷によりひとつの体に融合してしまう。
≪剣の達人と凄まじい天使の力を行使できる最強唯一の魔法剣士≫が誕生する。
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自分達への望みのため動いていたが、いつのまにか世界を巻き込む大騒動を巻き起こしてしまう物語
毎日20:10に更新予定!
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
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山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
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その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
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