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1巻
1-3
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すぐそばで悲鳴が聞こえた。白の鳴き声だ。
咄嗟にそちらを見ると、いつの間にかすぐ近くの木々の間に、蜘蛛の魔物がぶら下がっていた。
だが俺は恐怖で足が竦み、震え、事態を見守ることしかできない。蜘蛛の魔物から俺を庇う傷ついた白を、ただ見ているだけだった。
そんな俺の前で、白は蜘蛛の魔物が吐き出した酸をよけることもせず、前脚で振り払ってさらに傷つき、また酸を吐き出されては払いのける。
再び白に攻撃をしようとした瞬間、蜘蛛の魔物の姿がブレた。
え? と思った時にはすでに白の前にエリルの姿があり、蜘蛛の魔物は無残に切り裂かれていた。その直後、後ろから蛇の魔物の断末魔の叫びが響き、戦闘が終わったことを知る。
「ハッ! し、白っ! お前怪我したんじゃっ! 俺を庇ってっ」
エリルが褒めるかのように喉を鳴らしながら白の顔を舐めているのを見て、やっと我に返った俺は、慌てて白に駆け寄ろうとした。
それなのに一歩を踏み出した途端、震えた足がもつれて倒れ込みそうになり、白の体に受け止められてしまった。
「白、お前……。ごめんな、俺を庇ったせいで怪我までして。脚、大丈夫なのか? ちょっと見せてくれ」
自分の情けなさをつくづく痛感しながら、そのまま座って白の脚をそっと手に取る。
酸が当たった場所を見ると毛が溶けていて、ヒドイところだと地肌が見え、赤くなっていた。
「ごめん、ごめんな、白。俺がしっかりしていなかったせいで……。せめてお前と契約して意思疎通ができていたら、怪我しないで済んだだろうに……。本当にごめんな」
ペロペロと舐めてくれる白を抱きしめて、ただ謝ることしかできない自分に腹が立つ。
これまで何度か魔物と遭遇したが、その度に白や他の皆が倒してくれて、ほとんど身の危険を感じることなく森を進むことができていた。
だから、つい勘違いしてしまったのだ。俺は何もできなくても、皆と一緒なら森を進むのは大して危なくない、と。
その考えが、いかに甘かったことか。
森は危険だ。人は弱く、木々や草だって脅威になり得る。ましてや山で自由に生きる獣に、ただの人間がかなうわけがない。
――人は森では用心深くならねばならん。息を潜め、気配を殺し、異変を感じたらすぐに退路か避難場所を確保しろ。生き残るために、常に考えろ。
山歩きをしている時、猪を狩る猟銃を持ちながら、祖父は俺にそう告げた。
その言葉の重さを、今さらになって思い知らされる。
何もできずにいた俺は、エリルに促され、その背に乗り森を引き返した。
家に着くと、出迎えてくれた爺さんに事情を説明し、白の怪我を見てもらう。
そして、『死の森』がいかに危険な場所なのかを、爺さんから懇々と諭されたのだった。
◆ ◆ ◆
「よし、いくぞ、白」
ゆっくりと濃密に練り上げた体内魔力を、全て右手に集める。
魔力がじんわりと滲みだして仄かに光る手を、目の前に座る白の額へそっと載せた。
この世界に落ちてから約一年の時が経ち、出会った時はまだ大型犬よりもちょっと大きいくらいだった白は、もう俺の背丈を超えていた。
「今日からお前の名前はスノーティアだ。ずっと一緒にいてくれてありがとう。待たせてごめんな。これからもよろしくな!」
『スノーティア! 私はスノーティアなの!』
頭の中に直接、少し舌ったらずな少女の高い声が響いた。
その瞬間、右手の光がパッと強く輝き、スノーティアの額の中へ吸い込まれていく。
俺は手を離し、白からスノーティアとなった、白銀に輝くフェンリルの子供の様子を窺った。
どこも変化はなく、しきりに嬉しそうに尻尾を振っている姿を見て安堵する。
「どうだ? 爺さん、俺の契約は成功したか?」
「頭の中にこの子の声が聞こえたんじゃろう? だったら大丈夫だ。話しかけてみたらどうじゃ?」
「よし。スノーティア、普段はスノーとティア、どっちで呼んだ方がいい?」
『んー、どっちでもいい。アリトの好きな方でいいよ?』
「おおっ! 凄いな、本当に契約すると話せるようになるのか。じゃあスノーって呼ぶよ。スノーは『雪』って意味なんだ。雪は白くてふわふわしているから、ピッタリかなと思ってつけたんだよ」
『うん! 雪、ふわふわ! スノーなの』
嬉しそうに俺の顔へ鼻先をすり寄せてくるスノーを、そっと抱きしめて撫でる。
「スノーか。いい名を貰って良かったの」
従魔契約とは、自分の高濃度の魔力を相手に与え、相手が受け入れればその魔力で二人の間にパスができるという魔法だ。
パスを繋ぐには、契約の時につけた名前を魔力で刻み込む必要がある。
こうやって無事に契約を成功させて、スノーと会話ができるようになると、あの時のことを思い出さずにはいられない。
西側の森に行き、魔物に怯えて動けずにいた俺を庇って、スノーが怪我をした日。
オースト爺さんに小言を言われながらも、俺は治療の仕方を教わった。
白の怪我の原因は蜘蛛の魔物の体液だったので、どう治療したらいいかわからず、俺は何もできずに戻ってきたのだ。
オースト爺さんに薬草や薬の知識を教わっていながら、傷の手当ての仕方さえ知らずに危険な森へ入っていた自分を恥じた。
この世界には、即時治癒できる回復魔法はない。どんなにイメージを強く持っても、傷口の再生などは人の組成を全て理解できていないと無理だということだ。病気も同じで、原因と治療方法を完璧に理解していないと治せない。だから当然、飲めば怪我や病気が治るという即効性の薬もない。
一般的に治療に使うのは、浄化の魔法だ。汚れを落として清潔にすることを徹底してイメージすれば、ばい菌や病原菌を殺す作用に繋がるからだろう。害となる菌を殺し、身体に術者の魔力を浸透させて患者本人の魔力に刺激を与え、回復力の上昇を促すのだ。
しかし、治療となる浄化魔法を使える人は少ないらしい。
切り傷にも浄化を掛ければ、大きな傷でなければ回復力の上昇により血は止まる。ただ、裂けた肌が塞がるわけではないから、傷口には薬を塗って手当てしなければならない。
治療の仕方を教わった時、爺さんが研究している薬にも、外傷用や、魔法による回復力の向上でも改善されない病気用など、様々な種類があることを知った。
俺が少しずつ学んでいたのは、よく使う薬草の種類くらいだったけれど、改めて教わったことで、今まで爺さんにどれだけ甘えていたのかを自覚した。
だから決意したのだ。魔物を一人で倒すことはできなくても、せめて皆が戦っている時に、自分の身を守る術を身につけよう、と。
あの日、しょげかえっていた俺は爺さんに尻を叩かれ、予定通りに皆が狩ってきた獲物を捌いてトンカツを作った。
そして夕食後、俺は爺さんの部屋に行き、弓と攻撃魔法の使い方を教えて欲しいと願い出たのだ。
「……無理をしなくてもいいのじゃぞ? お前さんは戦う必要のない世界に育ったのじゃ。儂は好きでここに住んでいるのであって、お前さんには街で暮らすという選択肢もある。今は子供じゃからすぐに独り立ちする必要もないし、これからどう生きるかはじっくり考えればいい」
「……ありがとう。爺さんには本当に感謝しかない。爺さんは、この世界に落ちて何もわからない俺に、『これからどうする?』とは聞かなかった。おかげでのんびり甘えて、ここでの暮らしに慣れることができたんだ。けれど俺は、自分で生き方を選ぶ強さが欲しい。だからお願いします。俺に戦う術を、この世界でも一人で立てる力をください」
姿勢を正して頭を下げた俺に、爺さんはしばらくそのまま黙っていた。
「……ハァ。お前さんが……アリトがそう決めたのなら、儂は協力しよう。年を重ねた儂にできることは、若者を教え諭すことだけじゃからな。生きる道の選択は、本人にしかできん。なら周りはそれを応援して見守るだけじゃ。明日、練習用の弓を作ろう。言っておくが、儂はエルフとしては異端だと自覚しておるものの、弓へのこだわりはそこらのエルフには負けんからな? やると決めたからには、とことん教える。覚悟しておくのだぞ」
「ありがとう、爺さん。いや、オースト師匠。……師匠は俺の祖父に似ているよ」
だから、その前を向いて真っ直ぐ立ち向かう背中に、憧れてしまうのだ。
「それは嬉しいのう。どこの世界でも爺さんは爺さんで、通じるものがあるのじゃな。まあ儂の方が、年季はかなーり入っておるがのう」
「見た目はオースト師匠の方が断然若いけれどな。トンカツもいくら植物油で揚げたとはいえ脂っこいのに、あんなに食べられるんだものなー」
「ほっほっほっ。トンカツか。あれならいくらでも食べられるぞ。とても気に入ったから、また作っておくれ」
「ああ。揚げるにしても、衣や揚げるものによって色々な種類があるんだよ。味付けでも結構違うしな。まあ向こうと同じ材料はないが、採れるもので作ってやるよ」
「おう。楽しみじゃ」
この世界で会えたのが、オースト師匠で良かった。
スタート地点でこんな素敵な出会いがあったのだ。後ろを振り返るのは止めて、この世界で前に進んでいこう。
「そうじゃ。攻撃魔法は魔力を完璧に制御できないと、危なくて教えられん。だから基礎の魔力操作を徹底してやるのじゃぞ」
「ああ、わかった。気合を入れてやるよ。白とできるだけ早く契約したいからな」
それからは、毎日の日課が変わった。
朝昼晩と、時間があれば魔力操作の練習。そして昼間は体力向上を目的とした運動と、弓の鍛錬に励んだ。
運動はまずラジオ体操をし、ストレッチをじっくりやってから、広場をぐるぐるとランニング。
もちろん、食材の確保は必要だから野草を採りに行ったりもしたが、無理をせずに家の近場だけに留めた。
夜には薬草のことや薬の作り方、傷の処置の仕方などを本格的に教わり、オースト師匠と二人で研究したりもした。
そうした訓練の日々を過ごし、やっと今日、白と契約の日を迎えられたのだ。
『アリトー、アリトー、今度スノーに乗ってね! ちゃんとアリトのことを乗せて森を歩くの!』
「ありがとうな、スノー。じゃあ頼むよ。でも最初はスノーに乗る訓練からだなー。明日からやるか?」
『うんっ! 私ももっと大きくなって、ちゃんとアリトのこと守るの!』
「うわっ、ちょっ、スノー! もうスノーの方が大きいんだから、あんまりじゃれると俺が窒息しちゃうよっ!」
尻尾を振りつつ身体にのしかかってきたスノーに舐められ、顔が涎まみれになりながら笑う。
『大きい? まだスノー小さいよ? アリトも小さい?』
「アハハハハ。小さいな。でも俺はいくら大きくなっても、スノーのようにはなれないよ」
『そうなの? でも大丈夫! スノーがお母さんみたいにもっと大きくなって、もっともっと強くなるの!』
俺の上からどいたスノーが、嬉しそうにパタパタと尻尾を揺らした。
「……なあ、スノー。なんで俺がこの世界に落ちて来た時、気づいて来てくれたんだ?」
確かオースト師匠は、スノーが突然走り出したと言っていた。師匠にも、その理由はわからなかったと。
『んん? あの時、誰かに呼ばれた気がしたの。だからお爺ちゃんに止められたけど、走って向かったの。なんかあったかいものを感じるなと思ったら、そこにアリトがいたの! アリト、あったかいよ。だからスノー、ずっとアリトと一緒にいるの!』
「そうか……。あったかい、か。ありがとうな、スノー。俺を見つけてくれて。俺を選んでくれて。師匠と会わせてくれて。俺もスノーの隣でずっと胸を張っていられるよう、頑張るよ」
『うん! スノーはずっとアリトの隣にいるの!』
やっと最初の目標である、スノーと契約することができた。
だが、まだこれからだ。俺の従魔になってくれたスノーに、相応しい主人であるように。守られるだけでなく、いざという時は大切なものを自分で守れるように。
次はそれを目標に頑張っていこう。
第四話 オウル村
ヒュンッ。……ビシッ。
狙い定めて射た矢は、広場に置いた木の的から少しずれたところに突き立った。
「……外したか」
「動いてない的を、このくらいの距離で外してどうする。森では木と木の間を、針の糸を通すかのように射るのだぞ」
「そうだよなー……。よし、もう一本」
スノーと契約してから半月が経った。相変わらず俺は修練の日々を送っている。
そのおかげで、ついに矢を射る距離が広場の端から端までになった。
最初の頃は十メートルも飛ばすことができなかったが、オースト師匠にビシバシしごかれて、今ではかなりの距離まで届く。
再びつがえ、じっくりと狙いをつけて放った矢は今度こそ的に当たったが、中心より少し外側だった。
「うーむ。ちょっとズレとるが、まあいいじゃろう。次は動く的じゃな。スノー、飛ばしてやれ」
『うん! アリト、行くよーっ!』
「おう、……っと」
返事をする前に森の中から広場の中央へ一斉にバラバラと飛んで来た石を狙って、次々と矢を射る。
そして即座に魔力を練ると意識を風に向け、石と矢が近づいた時にそっと風を操るように魔力を解き放った。
すると矢が石の脇を通り過ぎそうになった瞬間、軌道が少しずれて石に向かっていく。
「うーむ。ほとんど当たらない。まだまだだな……」
結局当たったのは数個だけで、大半の矢はそのまま地面に落ちた。
弓を習い始めてまだ一年も経っていないことを考えれば、こんなものかと思わないでもないのだが……。
「だがアリトは器用だの。儂らでも、追い風の魔法を使って矢を加速したりはするが、軌道修正は滅多にやらん。矢が速すぎて対応しきれないからの」
「……エルフは普通に射って当たるから、修正がいらないだけだよな。軌道修正不可能な速さで射るとか、かろうじて見える距離にある的に当てるとか、俺には到底無理だから。まあエルフにしてみれば、俺のやり方は邪道だろうけど」
そう、俺が使ったのは風を操る魔法だ。魔力操作がやっと形になり、魔法の発現が早くなったからこそできるようになったこと。
ただ、俺の認識より矢のスピードが速かったり、距離の感覚が誤っていたりで成功することは少ないのが現状だ。
時間を掛けて狙いを定めるなら、自分の魔力を矢に宿して射ることもできるが、次の矢には魔力操作が間に合わない。実践で使いものになるまでは、まだまだ遠い道のりだ。
弓の修練が終わると、魔法の訓練に取りかかる。主に、自分の魔力操作だが。
重要なのは即座にイメージを固めて魔力を操作し、魔法を発現させることだ。
水、火、風を生み出す魔法については、やっとそれなりに発動できるようになった。
水は空気中の水分を集めるイメージ。火は火気を集めて一気に燃やすイメージ、といった具合だ。風は一番得意……というか、満足に操作できるのが風くらいしかないというか。
土を操る魔法も、地面に手をついて使えば、落とし穴を作ることや少し地面を隆起させることはできるようになった。
あとは照明やフラッシュの魔法などを光を収束するイメージで発現し、ある程度は維持できるようになったし、自分の影を意識して闇を操り、気配の隠蔽もできる。まあ、動いたらすぐ気づかれてしまいそうな精度だが。
攻撃魔法を教わることになった時、オースト師匠に俺が想像する魔法の話をしたら、だいたいその通りのイメージで再現してくれた。広範囲の殲滅魔法の話もしたが、エルフでも再現できるのは、風と木を操る類の魔法だけだろうとのことだ。それに、さすがに瞬時に発現させるのは無理らしく、結局オースト師匠は殲滅魔法を実践しようとはしなかった。
とりあえずオースト師匠が使ってみせた、ボール系、アロー系、カッター系の魔法は、使えるようになりたいのだが、即座に魔力を属性変換させるのが難しい。こう、もうちょっと何かを工夫すれば、発動が格段に早くなる気がしているのだが。
まあ、今は魔力操作を完璧にできるようになるのが先決だろう。
ちなみに、夜に勉強している薬作りも、今ではこの辺りで採れる薬草を使って作れるようになった。図鑑を見ながら師匠の解説を聞き、この森にない薬草の処理の仕方も教わっている。
そのまま生で使う薬草や、乾燥させたほうがよいもの、あるいは薬草の根や茎だけを使う場合もある。
適した処理をした薬草に自分の魔力を込め、薬草の魔力と調和させて効能を引き出すことで、薬が完成する。その一つ一つの手順を、師匠からしっかりと教わっているのだ。
また治療の仕方なども、浄化魔法を含めて前よりも本格的に習っている。
「よし。そろそろ昼飯を作らないと。今日はこの間の鳥の魔物の肉を使って、から揚げにでもするかな。夜の分も欲しいし、多めに揚げるか」
トンカツを出して以来、揚げ物がお気に入りのオースト師匠に、卵があれば他の種類の揚げ物も作れると言ったら、すぐに村へ買い出しに行った。その時初めて、家から一番近いというその村に俺も連れていってもらったのだ。
一番近いといっても、ここから北へ向かって森を出て、さらに半日以上歩いた場所にある……らしい。俺は正直、今でも距離はよくわからないのだ……。
なぜかと言えば、村には歩いて行ったわけではないからである。
オースト師匠は、ロックバードという軽く十メートルはある大きな鳥型の従魔を呼んだと思ったら、驚いている俺を担いで乗せ、即座に空へと飛び立たせた。
高さと速さに恐怖し、叫んだところまでは覚えているのだが……気づけば村に着いていたのだ。
空の旅が衝撃的すぎて、異世界で初めての集落訪問! というイベントが、何だか呆気なく終わったよな……。
その村はオウル村という名で、小規模だがそれでも家が三十戸ほどあった。
パン屋と雑貨屋の二軒だけだが店もあり、そこで食料と調理器具を買い足して帰ってきたのだ。
その時に初めて狼の獣人を見て、俺のテンションが上がったのはいい思い出である。
おっさん獣人だったのに、本当に犬耳と尻尾があるのを見て、思わず飛びつきそうになってしまった。
まあ、思い出話はいいとして、今は昼飯を作らないとな。
台所に移動した俺は、早速料理を始めた。
塩と胡椒に似た香辛料で鳥の魔物の肉に下味をつけ、それに衣をつけて油に投入する。様子を見つつ揚げ、肉に火が通り衣がきつね色になったら完成だ。俺は醤油味が好きなのだが、いつか食べられる日が来るだろうか。
「よし、できたぞ」
「ではいただきます、じゃ」
いつの間にかオースト師匠が椅子に座っていて、テーブルに置く直前に皿のから揚げをつまみ食いした。まったく……。
「から揚げ、最高じゃのう。お、そうだアリトよ。明日は村に行くからの。今日の午後、森へ行くなら、シラン草も採っておいてくれんか」
「わかった。見かけたら採っておくよ。村に行くなら、必要なもののリストを作るから買ってきてくれ」
「何を言っておるのじゃ。アリトも行くのじゃよ」
「はあ? 別に俺が行かなくたっていいだろ。店で売っている食料なんて、いつ見てもそんなに変わらないし」
「ダメじゃ。儂を師匠と呼ぶなら師匠命令じゃ。明日は昼食を食べたら行くからの」
「……よく食った後すぐに、ロクスに乗る気になるよな」
そう、オースト師匠は毎回、ロックバードのロクスで村へ行く。
あれから何度か村に連れていかれ、俺もやっと気絶はしなくなってきた。
だが、いくらオースト師匠が風魔法で周囲を覆い、ロクスから落ちないようにしてくれているとはいえ、あのスピードを手すりも何もない状況で体験したいとは思わない。
ロクスの羽毛はふわふわ滑らかしっとりしていて、触り心地は最高なんだけどな! うん。いいもふもふなのは間違いない。
「ほっほっほっ。アリトがいつまで経っても慣れないだけじゃ。スカっとする! くらいに思わんのか」
「いつかそうなるとは到底思えないな……」
まあ、こうなったオースト師匠は、俺が何を言ったところでどうせ担いででも連れていくのだ。仕方がないから、今日の採取は明日の分まで集めるとするか。
もっとも、村に行くのがイヤなのは、ロクスに高速で運ばれることだけが理由ではないのだけどな……。
俯くと一年前も着ていた服が目に入り、思わずため息をついた。
ここしばらく、ずっと気になっていること――その原因は、俺が落ち人だからかもしれない。
もやもやとした感情が湧き上がりそうになるのを抑え、目の前のことを片付けるために動き出した。
『えー、アリト、明日はおでかけなの? だったらスノーも一緒に行くの!』
『いいや無理だ。だってスノーは大きくなったから、もうロクスに乗れないだろう? それに村にも入れないし』
『ええっ! それじゃあスノーはアリトとずっと一緒にはいられないの? 大きいと強いのに!』
『そうだなー。村とか人が集まる場所には、大きいと入れてもらえないんじゃないかなー』
『んむぅ。大きい方がいいと思ったのにー』
今日の森の採取について来てくれたのは、エリルと豹系の魔獣のチェンダ。それとリスに似た魔獣のラルだ。ラルは小型だから、木々の間を飛び回って上から警戒してくれている。
チェンダは俺が皆と出会った初日に、エリルの次に撫でさせてくれた個体だ。チェンダも結構な頻度で、俺の採取について来てくれている。
森ではもう二度と油断しないと、スノーと念話で話しながらも警戒し、食用の野草、頼まれたシラン草などの薬草を採取して回った。
『アリト!』
スノーが警戒を促す声を上げ、スウッと前に出るのと同時に、俺は手に持っていた薬草を素早くカバンに突っ込み、肩に担いでいた弓を手にして矢をつがえる。
警戒しながら待っていると、前方の茂みから地響きを立てて猪系の魔物が突っ込んできた。
そいつをヒラリとかわしたチェンダが、すれ違いざまに前脚で胴体を切り裂く。さらに木の上からラルが魔法で蔓を伸ばして絡めとると、待ち構えていたエリルが咬みついた。
断末魔の叫びを上げて倒れた後、ピクピクと痙攣する魔物を見つめ、警戒を解くことなく矢を構えたままチェンダに告げる。
「チェンダ。その魔物の肉は美味しいから、今から一度家に持って帰ってくれるか? 俺は少し来た道を戻ったところで、チェンダが帰ってくるのを待っているから」
「ギャウッ」
頷いて一声鳴くと、軽々と魔物を咥えたチェンダが足音もなく家の方へと消える。
魔獣は魔法も使いこなせるため、チェンダは風魔法で咥えた獲物を浮かせて走っていった。
ちなみにラル以外は、今倒された猪系の魔物も含めて俺よりも大きい。チェンダが四メートルくらい、倒した猪系の魔物も二メートル以上あっただろう。
『アリト、こっち』
流れた血の臭いで他の魔物が集まってくる危険性が高いから、すぐにこの場を離れなければならない。
俺は弓を手に警戒しながら、スノーとエリルに誘導されて移動した。
『ここでいいって、アリト』
「ああ、ありがとう、スノー」
来た道から少し外れた木々の間で立ち止まり、チェンダの帰りを待つ。その間も警戒は怠らず、もちろん俺も周囲に注意を払った。
契約をして言葉を交わせるようになってから、スノーが皆の通訳をしてくれている。そのおかげもあって、随分スムーズに森で採取できるようになった。
弓を持ち、自分の魔力をいつでも使えるように溜めて待機していると――
ピクン。
その時に反応できたのは、視覚よりも優先して、魔力の気配を探って警戒していたからだろうか。ババッと弓に矢をつがえて、上に向けて構える。
『アリト、どうしたの? 敵意のある気配は感じないよ?』
「ん? そうなのか? なんだかこちらを窺っている気配があった気がしたのだけれど……」
スノーがそう言うなら気のせいかな?
けれど、弓を下ろしても、なんだか上が気になってチラチラ目が行ってしまった。
『あ、チェンダが戻ってきた』
「わかった。じゃあ残りを採取して戻ろう」
その後、何事もなく採集を終わらせて家に帰ったけれど、あの時の気配がなぜかずっと気になったままだった。
◆ ◆ ◆
咄嗟にそちらを見ると、いつの間にかすぐ近くの木々の間に、蜘蛛の魔物がぶら下がっていた。
だが俺は恐怖で足が竦み、震え、事態を見守ることしかできない。蜘蛛の魔物から俺を庇う傷ついた白を、ただ見ているだけだった。
そんな俺の前で、白は蜘蛛の魔物が吐き出した酸をよけることもせず、前脚で振り払ってさらに傷つき、また酸を吐き出されては払いのける。
再び白に攻撃をしようとした瞬間、蜘蛛の魔物の姿がブレた。
え? と思った時にはすでに白の前にエリルの姿があり、蜘蛛の魔物は無残に切り裂かれていた。その直後、後ろから蛇の魔物の断末魔の叫びが響き、戦闘が終わったことを知る。
「ハッ! し、白っ! お前怪我したんじゃっ! 俺を庇ってっ」
エリルが褒めるかのように喉を鳴らしながら白の顔を舐めているのを見て、やっと我に返った俺は、慌てて白に駆け寄ろうとした。
それなのに一歩を踏み出した途端、震えた足がもつれて倒れ込みそうになり、白の体に受け止められてしまった。
「白、お前……。ごめんな、俺を庇ったせいで怪我までして。脚、大丈夫なのか? ちょっと見せてくれ」
自分の情けなさをつくづく痛感しながら、そのまま座って白の脚をそっと手に取る。
酸が当たった場所を見ると毛が溶けていて、ヒドイところだと地肌が見え、赤くなっていた。
「ごめん、ごめんな、白。俺がしっかりしていなかったせいで……。せめてお前と契約して意思疎通ができていたら、怪我しないで済んだだろうに……。本当にごめんな」
ペロペロと舐めてくれる白を抱きしめて、ただ謝ることしかできない自分に腹が立つ。
これまで何度か魔物と遭遇したが、その度に白や他の皆が倒してくれて、ほとんど身の危険を感じることなく森を進むことができていた。
だから、つい勘違いしてしまったのだ。俺は何もできなくても、皆と一緒なら森を進むのは大して危なくない、と。
その考えが、いかに甘かったことか。
森は危険だ。人は弱く、木々や草だって脅威になり得る。ましてや山で自由に生きる獣に、ただの人間がかなうわけがない。
――人は森では用心深くならねばならん。息を潜め、気配を殺し、異変を感じたらすぐに退路か避難場所を確保しろ。生き残るために、常に考えろ。
山歩きをしている時、猪を狩る猟銃を持ちながら、祖父は俺にそう告げた。
その言葉の重さを、今さらになって思い知らされる。
何もできずにいた俺は、エリルに促され、その背に乗り森を引き返した。
家に着くと、出迎えてくれた爺さんに事情を説明し、白の怪我を見てもらう。
そして、『死の森』がいかに危険な場所なのかを、爺さんから懇々と諭されたのだった。
◆ ◆ ◆
「よし、いくぞ、白」
ゆっくりと濃密に練り上げた体内魔力を、全て右手に集める。
魔力がじんわりと滲みだして仄かに光る手を、目の前に座る白の額へそっと載せた。
この世界に落ちてから約一年の時が経ち、出会った時はまだ大型犬よりもちょっと大きいくらいだった白は、もう俺の背丈を超えていた。
「今日からお前の名前はスノーティアだ。ずっと一緒にいてくれてありがとう。待たせてごめんな。これからもよろしくな!」
『スノーティア! 私はスノーティアなの!』
頭の中に直接、少し舌ったらずな少女の高い声が響いた。
その瞬間、右手の光がパッと強く輝き、スノーティアの額の中へ吸い込まれていく。
俺は手を離し、白からスノーティアとなった、白銀に輝くフェンリルの子供の様子を窺った。
どこも変化はなく、しきりに嬉しそうに尻尾を振っている姿を見て安堵する。
「どうだ? 爺さん、俺の契約は成功したか?」
「頭の中にこの子の声が聞こえたんじゃろう? だったら大丈夫だ。話しかけてみたらどうじゃ?」
「よし。スノーティア、普段はスノーとティア、どっちで呼んだ方がいい?」
『んー、どっちでもいい。アリトの好きな方でいいよ?』
「おおっ! 凄いな、本当に契約すると話せるようになるのか。じゃあスノーって呼ぶよ。スノーは『雪』って意味なんだ。雪は白くてふわふわしているから、ピッタリかなと思ってつけたんだよ」
『うん! 雪、ふわふわ! スノーなの』
嬉しそうに俺の顔へ鼻先をすり寄せてくるスノーを、そっと抱きしめて撫でる。
「スノーか。いい名を貰って良かったの」
従魔契約とは、自分の高濃度の魔力を相手に与え、相手が受け入れればその魔力で二人の間にパスができるという魔法だ。
パスを繋ぐには、契約の時につけた名前を魔力で刻み込む必要がある。
こうやって無事に契約を成功させて、スノーと会話ができるようになると、あの時のことを思い出さずにはいられない。
西側の森に行き、魔物に怯えて動けずにいた俺を庇って、スノーが怪我をした日。
オースト爺さんに小言を言われながらも、俺は治療の仕方を教わった。
白の怪我の原因は蜘蛛の魔物の体液だったので、どう治療したらいいかわからず、俺は何もできずに戻ってきたのだ。
オースト爺さんに薬草や薬の知識を教わっていながら、傷の手当ての仕方さえ知らずに危険な森へ入っていた自分を恥じた。
この世界には、即時治癒できる回復魔法はない。どんなにイメージを強く持っても、傷口の再生などは人の組成を全て理解できていないと無理だということだ。病気も同じで、原因と治療方法を完璧に理解していないと治せない。だから当然、飲めば怪我や病気が治るという即効性の薬もない。
一般的に治療に使うのは、浄化の魔法だ。汚れを落として清潔にすることを徹底してイメージすれば、ばい菌や病原菌を殺す作用に繋がるからだろう。害となる菌を殺し、身体に術者の魔力を浸透させて患者本人の魔力に刺激を与え、回復力の上昇を促すのだ。
しかし、治療となる浄化魔法を使える人は少ないらしい。
切り傷にも浄化を掛ければ、大きな傷でなければ回復力の上昇により血は止まる。ただ、裂けた肌が塞がるわけではないから、傷口には薬を塗って手当てしなければならない。
治療の仕方を教わった時、爺さんが研究している薬にも、外傷用や、魔法による回復力の向上でも改善されない病気用など、様々な種類があることを知った。
俺が少しずつ学んでいたのは、よく使う薬草の種類くらいだったけれど、改めて教わったことで、今まで爺さんにどれだけ甘えていたのかを自覚した。
だから決意したのだ。魔物を一人で倒すことはできなくても、せめて皆が戦っている時に、自分の身を守る術を身につけよう、と。
あの日、しょげかえっていた俺は爺さんに尻を叩かれ、予定通りに皆が狩ってきた獲物を捌いてトンカツを作った。
そして夕食後、俺は爺さんの部屋に行き、弓と攻撃魔法の使い方を教えて欲しいと願い出たのだ。
「……無理をしなくてもいいのじゃぞ? お前さんは戦う必要のない世界に育ったのじゃ。儂は好きでここに住んでいるのであって、お前さんには街で暮らすという選択肢もある。今は子供じゃからすぐに独り立ちする必要もないし、これからどう生きるかはじっくり考えればいい」
「……ありがとう。爺さんには本当に感謝しかない。爺さんは、この世界に落ちて何もわからない俺に、『これからどうする?』とは聞かなかった。おかげでのんびり甘えて、ここでの暮らしに慣れることができたんだ。けれど俺は、自分で生き方を選ぶ強さが欲しい。だからお願いします。俺に戦う術を、この世界でも一人で立てる力をください」
姿勢を正して頭を下げた俺に、爺さんはしばらくそのまま黙っていた。
「……ハァ。お前さんが……アリトがそう決めたのなら、儂は協力しよう。年を重ねた儂にできることは、若者を教え諭すことだけじゃからな。生きる道の選択は、本人にしかできん。なら周りはそれを応援して見守るだけじゃ。明日、練習用の弓を作ろう。言っておくが、儂はエルフとしては異端だと自覚しておるものの、弓へのこだわりはそこらのエルフには負けんからな? やると決めたからには、とことん教える。覚悟しておくのだぞ」
「ありがとう、爺さん。いや、オースト師匠。……師匠は俺の祖父に似ているよ」
だから、その前を向いて真っ直ぐ立ち向かう背中に、憧れてしまうのだ。
「それは嬉しいのう。どこの世界でも爺さんは爺さんで、通じるものがあるのじゃな。まあ儂の方が、年季はかなーり入っておるがのう」
「見た目はオースト師匠の方が断然若いけれどな。トンカツもいくら植物油で揚げたとはいえ脂っこいのに、あんなに食べられるんだものなー」
「ほっほっほっ。トンカツか。あれならいくらでも食べられるぞ。とても気に入ったから、また作っておくれ」
「ああ。揚げるにしても、衣や揚げるものによって色々な種類があるんだよ。味付けでも結構違うしな。まあ向こうと同じ材料はないが、採れるもので作ってやるよ」
「おう。楽しみじゃ」
この世界で会えたのが、オースト師匠で良かった。
スタート地点でこんな素敵な出会いがあったのだ。後ろを振り返るのは止めて、この世界で前に進んでいこう。
「そうじゃ。攻撃魔法は魔力を完璧に制御できないと、危なくて教えられん。だから基礎の魔力操作を徹底してやるのじゃぞ」
「ああ、わかった。気合を入れてやるよ。白とできるだけ早く契約したいからな」
それからは、毎日の日課が変わった。
朝昼晩と、時間があれば魔力操作の練習。そして昼間は体力向上を目的とした運動と、弓の鍛錬に励んだ。
運動はまずラジオ体操をし、ストレッチをじっくりやってから、広場をぐるぐるとランニング。
もちろん、食材の確保は必要だから野草を採りに行ったりもしたが、無理をせずに家の近場だけに留めた。
夜には薬草のことや薬の作り方、傷の処置の仕方などを本格的に教わり、オースト師匠と二人で研究したりもした。
そうした訓練の日々を過ごし、やっと今日、白と契約の日を迎えられたのだ。
『アリトー、アリトー、今度スノーに乗ってね! ちゃんとアリトのことを乗せて森を歩くの!』
「ありがとうな、スノー。じゃあ頼むよ。でも最初はスノーに乗る訓練からだなー。明日からやるか?」
『うんっ! 私ももっと大きくなって、ちゃんとアリトのこと守るの!』
「うわっ、ちょっ、スノー! もうスノーの方が大きいんだから、あんまりじゃれると俺が窒息しちゃうよっ!」
尻尾を振りつつ身体にのしかかってきたスノーに舐められ、顔が涎まみれになりながら笑う。
『大きい? まだスノー小さいよ? アリトも小さい?』
「アハハハハ。小さいな。でも俺はいくら大きくなっても、スノーのようにはなれないよ」
『そうなの? でも大丈夫! スノーがお母さんみたいにもっと大きくなって、もっともっと強くなるの!』
俺の上からどいたスノーが、嬉しそうにパタパタと尻尾を揺らした。
「……なあ、スノー。なんで俺がこの世界に落ちて来た時、気づいて来てくれたんだ?」
確かオースト師匠は、スノーが突然走り出したと言っていた。師匠にも、その理由はわからなかったと。
『んん? あの時、誰かに呼ばれた気がしたの。だからお爺ちゃんに止められたけど、走って向かったの。なんかあったかいものを感じるなと思ったら、そこにアリトがいたの! アリト、あったかいよ。だからスノー、ずっとアリトと一緒にいるの!』
「そうか……。あったかい、か。ありがとうな、スノー。俺を見つけてくれて。俺を選んでくれて。師匠と会わせてくれて。俺もスノーの隣でずっと胸を張っていられるよう、頑張るよ」
『うん! スノーはずっとアリトの隣にいるの!』
やっと最初の目標である、スノーと契約することができた。
だが、まだこれからだ。俺の従魔になってくれたスノーに、相応しい主人であるように。守られるだけでなく、いざという時は大切なものを自分で守れるように。
次はそれを目標に頑張っていこう。
第四話 オウル村
ヒュンッ。……ビシッ。
狙い定めて射た矢は、広場に置いた木の的から少しずれたところに突き立った。
「……外したか」
「動いてない的を、このくらいの距離で外してどうする。森では木と木の間を、針の糸を通すかのように射るのだぞ」
「そうだよなー……。よし、もう一本」
スノーと契約してから半月が経った。相変わらず俺は修練の日々を送っている。
そのおかげで、ついに矢を射る距離が広場の端から端までになった。
最初の頃は十メートルも飛ばすことができなかったが、オースト師匠にビシバシしごかれて、今ではかなりの距離まで届く。
再びつがえ、じっくりと狙いをつけて放った矢は今度こそ的に当たったが、中心より少し外側だった。
「うーむ。ちょっとズレとるが、まあいいじゃろう。次は動く的じゃな。スノー、飛ばしてやれ」
『うん! アリト、行くよーっ!』
「おう、……っと」
返事をする前に森の中から広場の中央へ一斉にバラバラと飛んで来た石を狙って、次々と矢を射る。
そして即座に魔力を練ると意識を風に向け、石と矢が近づいた時にそっと風を操るように魔力を解き放った。
すると矢が石の脇を通り過ぎそうになった瞬間、軌道が少しずれて石に向かっていく。
「うーむ。ほとんど当たらない。まだまだだな……」
結局当たったのは数個だけで、大半の矢はそのまま地面に落ちた。
弓を習い始めてまだ一年も経っていないことを考えれば、こんなものかと思わないでもないのだが……。
「だがアリトは器用だの。儂らでも、追い風の魔法を使って矢を加速したりはするが、軌道修正は滅多にやらん。矢が速すぎて対応しきれないからの」
「……エルフは普通に射って当たるから、修正がいらないだけだよな。軌道修正不可能な速さで射るとか、かろうじて見える距離にある的に当てるとか、俺には到底無理だから。まあエルフにしてみれば、俺のやり方は邪道だろうけど」
そう、俺が使ったのは風を操る魔法だ。魔力操作がやっと形になり、魔法の発現が早くなったからこそできるようになったこと。
ただ、俺の認識より矢のスピードが速かったり、距離の感覚が誤っていたりで成功することは少ないのが現状だ。
時間を掛けて狙いを定めるなら、自分の魔力を矢に宿して射ることもできるが、次の矢には魔力操作が間に合わない。実践で使いものになるまでは、まだまだ遠い道のりだ。
弓の修練が終わると、魔法の訓練に取りかかる。主に、自分の魔力操作だが。
重要なのは即座にイメージを固めて魔力を操作し、魔法を発現させることだ。
水、火、風を生み出す魔法については、やっとそれなりに発動できるようになった。
水は空気中の水分を集めるイメージ。火は火気を集めて一気に燃やすイメージ、といった具合だ。風は一番得意……というか、満足に操作できるのが風くらいしかないというか。
土を操る魔法も、地面に手をついて使えば、落とし穴を作ることや少し地面を隆起させることはできるようになった。
あとは照明やフラッシュの魔法などを光を収束するイメージで発現し、ある程度は維持できるようになったし、自分の影を意識して闇を操り、気配の隠蔽もできる。まあ、動いたらすぐ気づかれてしまいそうな精度だが。
攻撃魔法を教わることになった時、オースト師匠に俺が想像する魔法の話をしたら、だいたいその通りのイメージで再現してくれた。広範囲の殲滅魔法の話もしたが、エルフでも再現できるのは、風と木を操る類の魔法だけだろうとのことだ。それに、さすがに瞬時に発現させるのは無理らしく、結局オースト師匠は殲滅魔法を実践しようとはしなかった。
とりあえずオースト師匠が使ってみせた、ボール系、アロー系、カッター系の魔法は、使えるようになりたいのだが、即座に魔力を属性変換させるのが難しい。こう、もうちょっと何かを工夫すれば、発動が格段に早くなる気がしているのだが。
まあ、今は魔力操作を完璧にできるようになるのが先決だろう。
ちなみに、夜に勉強している薬作りも、今ではこの辺りで採れる薬草を使って作れるようになった。図鑑を見ながら師匠の解説を聞き、この森にない薬草の処理の仕方も教わっている。
そのまま生で使う薬草や、乾燥させたほうがよいもの、あるいは薬草の根や茎だけを使う場合もある。
適した処理をした薬草に自分の魔力を込め、薬草の魔力と調和させて効能を引き出すことで、薬が完成する。その一つ一つの手順を、師匠からしっかりと教わっているのだ。
また治療の仕方なども、浄化魔法を含めて前よりも本格的に習っている。
「よし。そろそろ昼飯を作らないと。今日はこの間の鳥の魔物の肉を使って、から揚げにでもするかな。夜の分も欲しいし、多めに揚げるか」
トンカツを出して以来、揚げ物がお気に入りのオースト師匠に、卵があれば他の種類の揚げ物も作れると言ったら、すぐに村へ買い出しに行った。その時初めて、家から一番近いというその村に俺も連れていってもらったのだ。
一番近いといっても、ここから北へ向かって森を出て、さらに半日以上歩いた場所にある……らしい。俺は正直、今でも距離はよくわからないのだ……。
なぜかと言えば、村には歩いて行ったわけではないからである。
オースト師匠は、ロックバードという軽く十メートルはある大きな鳥型の従魔を呼んだと思ったら、驚いている俺を担いで乗せ、即座に空へと飛び立たせた。
高さと速さに恐怖し、叫んだところまでは覚えているのだが……気づけば村に着いていたのだ。
空の旅が衝撃的すぎて、異世界で初めての集落訪問! というイベントが、何だか呆気なく終わったよな……。
その村はオウル村という名で、小規模だがそれでも家が三十戸ほどあった。
パン屋と雑貨屋の二軒だけだが店もあり、そこで食料と調理器具を買い足して帰ってきたのだ。
その時に初めて狼の獣人を見て、俺のテンションが上がったのはいい思い出である。
おっさん獣人だったのに、本当に犬耳と尻尾があるのを見て、思わず飛びつきそうになってしまった。
まあ、思い出話はいいとして、今は昼飯を作らないとな。
台所に移動した俺は、早速料理を始めた。
塩と胡椒に似た香辛料で鳥の魔物の肉に下味をつけ、それに衣をつけて油に投入する。様子を見つつ揚げ、肉に火が通り衣がきつね色になったら完成だ。俺は醤油味が好きなのだが、いつか食べられる日が来るだろうか。
「よし、できたぞ」
「ではいただきます、じゃ」
いつの間にかオースト師匠が椅子に座っていて、テーブルに置く直前に皿のから揚げをつまみ食いした。まったく……。
「から揚げ、最高じゃのう。お、そうだアリトよ。明日は村に行くからの。今日の午後、森へ行くなら、シラン草も採っておいてくれんか」
「わかった。見かけたら採っておくよ。村に行くなら、必要なもののリストを作るから買ってきてくれ」
「何を言っておるのじゃ。アリトも行くのじゃよ」
「はあ? 別に俺が行かなくたっていいだろ。店で売っている食料なんて、いつ見てもそんなに変わらないし」
「ダメじゃ。儂を師匠と呼ぶなら師匠命令じゃ。明日は昼食を食べたら行くからの」
「……よく食った後すぐに、ロクスに乗る気になるよな」
そう、オースト師匠は毎回、ロックバードのロクスで村へ行く。
あれから何度か村に連れていかれ、俺もやっと気絶はしなくなってきた。
だが、いくらオースト師匠が風魔法で周囲を覆い、ロクスから落ちないようにしてくれているとはいえ、あのスピードを手すりも何もない状況で体験したいとは思わない。
ロクスの羽毛はふわふわ滑らかしっとりしていて、触り心地は最高なんだけどな! うん。いいもふもふなのは間違いない。
「ほっほっほっ。アリトがいつまで経っても慣れないだけじゃ。スカっとする! くらいに思わんのか」
「いつかそうなるとは到底思えないな……」
まあ、こうなったオースト師匠は、俺が何を言ったところでどうせ担いででも連れていくのだ。仕方がないから、今日の採取は明日の分まで集めるとするか。
もっとも、村に行くのがイヤなのは、ロクスに高速で運ばれることだけが理由ではないのだけどな……。
俯くと一年前も着ていた服が目に入り、思わずため息をついた。
ここしばらく、ずっと気になっていること――その原因は、俺が落ち人だからかもしれない。
もやもやとした感情が湧き上がりそうになるのを抑え、目の前のことを片付けるために動き出した。
『えー、アリト、明日はおでかけなの? だったらスノーも一緒に行くの!』
『いいや無理だ。だってスノーは大きくなったから、もうロクスに乗れないだろう? それに村にも入れないし』
『ええっ! それじゃあスノーはアリトとずっと一緒にはいられないの? 大きいと強いのに!』
『そうだなー。村とか人が集まる場所には、大きいと入れてもらえないんじゃないかなー』
『んむぅ。大きい方がいいと思ったのにー』
今日の森の採取について来てくれたのは、エリルと豹系の魔獣のチェンダ。それとリスに似た魔獣のラルだ。ラルは小型だから、木々の間を飛び回って上から警戒してくれている。
チェンダは俺が皆と出会った初日に、エリルの次に撫でさせてくれた個体だ。チェンダも結構な頻度で、俺の採取について来てくれている。
森ではもう二度と油断しないと、スノーと念話で話しながらも警戒し、食用の野草、頼まれたシラン草などの薬草を採取して回った。
『アリト!』
スノーが警戒を促す声を上げ、スウッと前に出るのと同時に、俺は手に持っていた薬草を素早くカバンに突っ込み、肩に担いでいた弓を手にして矢をつがえる。
警戒しながら待っていると、前方の茂みから地響きを立てて猪系の魔物が突っ込んできた。
そいつをヒラリとかわしたチェンダが、すれ違いざまに前脚で胴体を切り裂く。さらに木の上からラルが魔法で蔓を伸ばして絡めとると、待ち構えていたエリルが咬みついた。
断末魔の叫びを上げて倒れた後、ピクピクと痙攣する魔物を見つめ、警戒を解くことなく矢を構えたままチェンダに告げる。
「チェンダ。その魔物の肉は美味しいから、今から一度家に持って帰ってくれるか? 俺は少し来た道を戻ったところで、チェンダが帰ってくるのを待っているから」
「ギャウッ」
頷いて一声鳴くと、軽々と魔物を咥えたチェンダが足音もなく家の方へと消える。
魔獣は魔法も使いこなせるため、チェンダは風魔法で咥えた獲物を浮かせて走っていった。
ちなみにラル以外は、今倒された猪系の魔物も含めて俺よりも大きい。チェンダが四メートルくらい、倒した猪系の魔物も二メートル以上あっただろう。
『アリト、こっち』
流れた血の臭いで他の魔物が集まってくる危険性が高いから、すぐにこの場を離れなければならない。
俺は弓を手に警戒しながら、スノーとエリルに誘導されて移動した。
『ここでいいって、アリト』
「ああ、ありがとう、スノー」
来た道から少し外れた木々の間で立ち止まり、チェンダの帰りを待つ。その間も警戒は怠らず、もちろん俺も周囲に注意を払った。
契約をして言葉を交わせるようになってから、スノーが皆の通訳をしてくれている。そのおかげもあって、随分スムーズに森で採取できるようになった。
弓を持ち、自分の魔力をいつでも使えるように溜めて待機していると――
ピクン。
その時に反応できたのは、視覚よりも優先して、魔力の気配を探って警戒していたからだろうか。ババッと弓に矢をつがえて、上に向けて構える。
『アリト、どうしたの? 敵意のある気配は感じないよ?』
「ん? そうなのか? なんだかこちらを窺っている気配があった気がしたのだけれど……」
スノーがそう言うなら気のせいかな?
けれど、弓を下ろしても、なんだか上が気になってチラチラ目が行ってしまった。
『あ、チェンダが戻ってきた』
「わかった。じゃあ残りを採取して戻ろう」
その後、何事もなく採集を終わらせて家に帰ったけれど、あの時の気配がなぜかずっと気になったままだった。
◆ ◆ ◆
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