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3章 森の中の家

38 それぞれの過去2

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「……そう、だね。最後に僕がスキルを確認したのはお母さんが亡くなる前だけど、その時には体術系のスキルはあったから、先天性の才能はそっちなのかもね」

 そう呟いたラウルの瞳が更に暗く、自分がラウルの過去に触れてしまったことを自覚した。
 ラウルとリサちゃんの兄妹の事情は簡単にだけは聞いたが、それだけでもまだ七歳だというのに、何度も何度も悲劇を繰り返している。だからあえてお互いに詳しい事情は話していなかったのだが。

「そ、そっか。ランディア帝国では八歳で教会で洗礼を受けて初めてスキルが分かるから。あっ、ラウル、もうすぐ八歳になるんじゃない?」
「えっ?あ、ああ、確かに。母が祝ってくれていた時は、毎日雪が降るようになった頃だったから」
「ふふふ、じゃあ、お祝いね!たくさんごちそうを作って、皆でお祝いしましようね!」

 驚いてキョトンと目を丸くしたラウルの瞳からは、先ほどまでの暗さは消えていた。

 ああ、良かった。リンゼ王国のこととか色々気になるけど、何がラウルの過去に触れるか分からないから安易に聞かない方がいいよね。やっぱり自分から話してくれるまでは、ね。だってラウルももうすぐ八歳、私が春で九歳、急いで将来を決めるには、まだまだ早いもの。

「あっ!リサちゃん、足元にモグナが……って、さすがだね。ねえ、モグナってお肉、美味しいのかな?」

 ニッコリとラウルに笑ってみせると、ちょうど先を行くリサちゃんの足元に気配を感じたが、土を巻き上げて突き出て来たモグナを、リサちゃんはヒラリとよけると、かかと落としを決めてあっさりと倒していた。
 この兄妹は体術に才能があるんだろうな。その姿を見つつ自分にはちっとも体術の才能はありそうにない、と諦め、尻尾を持って持ち上げて首を切って血抜きをしだしたリサちゃんの元へと駆け寄ったのだった。



 それから三日、夜に雪はちらついてもほとんど朝には積もらず、朝アダを干してムグの実を採りに森へ出かけるのを繰り返した。
 ムグの実はかなりの数を集めることが出来て、気分はほっくほくだ。この三日洗濯をする時に使っているが、ほぼ石鹸のような使い心地だった。今からシャンプーとして使えるように出来るか楽しみだ。

 そうして四日目。今日も積雪はほとんど無かったが、朝から薄暗い雲に覆われている空を睨み、ラウルが今日はアダの加工をする、と宣言した。
 この三日はそこそこいい天気に恵まれていたので、刈り取った時よりも更に葉は茶色くしおれている。

 そのアダの葉ごと、茎の皮を一枚くるりとキレイに剥がしていく。これがまるでネギを剥くかのようにキレイに剥がすことが出来て驚いた。
 ただ大量にあるので、この作業は根気との闘いだ。

「あーーー……。まだあとこんなにある。ねえ、これをまだ加工するんでしょう?半分ずつじゃダメ?」
「多分今日の夕方から大雪になるよ。だからそれまでにある程度終わらないと、今年の冬の作業に使えなくなるから。……そうだな。じゃあ午後からは僕はこのアダを加工するから、リサとノアはどんどん皮を剥いてってくれ」

 なんとか午前中に三人で大量に昨日まで干しておいたアダの三分の二の皮を剥き、簡単なスープを食べた後は川岸に一枚石板の設置を頼まれて置くと、ラウルがアダの束を持ってざぶざぶと小川に入り出した。

「ラウルっ!川に入るなんて、凍えちゃうよ!」
「まだギリギリ大丈夫だよ」

 朝起きて最近では魔法で水を出して顔は洗うようになった。そして川の薄氷が溶けたら洗濯をしているのだ。しかも今日はくもり空だ。かなり水温は低いに違いない。

 ザバザバとアダを川の水で洗うラウルを見ていると、どんどん濡れた手や足が赤くなって行く。それを心配しながら見守っていると、洗い終わったアダを抱えて川岸へ上がり、今度は設置した石板の上でアダの茎を両手で持つくらいの大きさの石で叩き出した。

「え?ラウル、何しているの?」
「こうしてばらしているんだよ。ほら、どんどん茎が細い糸みたいになってきただろう?」

 そう言われて覗きこんで見ると、確かに最初に叩いた先端部分は、かなり細い繊維に別れていた。
 下から上へと順に叩いて細い繊維の束にすると、根本だけ残した処を握り、川でさっとすすぐと草むらの上に広げて干した。

「これを布に織るんだ。冷たい水でこうして洗った方が、しなやかな糸になるんだよ」
「へえー。凄いね。でも、大変じゃない?」

 いくら獣人で力があるとはいえ、これだけの量を一本一本叩いていたら、かなりの重労働だ。

「リサも交代するよ!去年もリサ、やったもん」
「そうなのね?凄いね、リサちゃん。何でもできるのね」

 そう言って頭を撫でるとえへへへへと照れ笑いを浮かべたリサちゃんが可愛すぎる!けど……。

 こんなに小さい子でも手仕事を手伝わないと暮らして行けなかったってことだよね。集落での暮らし、ってどんなだったのだろう?

 そっとラウルの方を見ると、リサちゃんの方を見ながらやはり複雑そうな表情を浮かべていた。

 結局一日で作業は全ては終わらず、半分程終えたところで夕方になった。後は天気を見ながらやると言っていた。
 そしてその日の夕方からはラウルが言っていたように、雪が降り出した。ちらちら降り出した雪に大慌てでアダを収納に全てしまい家に戻ったが、ウィトが夕方の見回りから戻って来た頃にはふぶき出していた。

「これは明日も吹雪そうだね……。すごいね、ラウル。良くわかったね」
「雨とか雪とかはね、なんとなく匂いで分かるんだよ!あとは耳と尻尾の毛並みとか。でもリサはまだ雨が降るとかしか分からないの!お兄ちゃんは大抵当てるから、凄いんだよ」
「へえー。匂いで分かるんだ。ラウルはやっぱり凄いんだね」
「うん!」

 部屋の奥に繊維にして干したアダを棚に並べて掛けているラウルの方をちらりと見ると、何やら照れくさいのかちょっとだけ挙動不審だった。
 ラウルはしっかりしているから年齢を忘れそうになるけれど、そういう仕草を見ると子供らしさが垣間見えてほっとする。

「そうだ、リサちゃん。ちょっとこっち来て。内緒話しよう」
「内緒のお話?なあに、お姉ちゃん」

 お肉を切るのを止め、野菜を洗って貰っていたリサちゃんをそっと呼び寄せ、しゃがんで耳元に口を寄せる。

「ねえリサちゃん。ラウルの誕生日ってこの時期なんでしょう?明日は雪で何も出来そうにないし、せっかくだからごちそうを作ってお祝いしよっか?」
「お祝い!うん、お母さんがいた時は、雪が降ってた日、お兄ちゃんのお祝いしてた!お母さんが死んじゃってからは、お祝いしなくなっちゃったけど」

 リサちゃんが五歳になったばかりだと言っていたから、お母さんが亡くなったのは三歳か四歳になったくらいか。その少ない思い出の中でもお祝いしたことは楽しい思い出なのか、リサちゃんもしっかりと記憶しているようだ。

「……リサちゃんとラウルとは家族になったんだから、家族のお祝いは皆でしようね。春には私の、秋にはリサちゃんのもね」
「わあ、お祝いがいっぱい!楽しみだね、お姉ちゃん!」
「ふふふ。最初はラウルからね。じゃあ、リサちゃんも明日はお料理を作るお手伝いをお願いするね」
「うん!リサ、たくさん、たくさん頑張るね!」

 お祝い、お祝いー!と楽し気にフンフン歌うように野菜を洗うリサちゃんの姿に、これではすぐにバレそうだな、と思いつつも楽しい思い出になってくれたらうれしいな、と思う。

 せっかくこうして家族として暮らしているんだから。楽しい思い出をたくさんつくらないとね。……お父さんとお母さんが私にたくさんの思い出を残してくれたように。大人になっても思い出して慰められるような思い出を作れたらいいな。

 と、楽し気なリサちゃんの姿を見ながらそう思ったのだった。








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今日は遅れませんでした。ただ……気温差で体調が波があり、ストックがかなりヤバいです!
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どうぞよろしくお願いします!
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