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プロローグ
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なんでこんなことになったのだろう……。
森の中の草むらの中を、必死で転がるように駆けながら、頭の中でその問いだけがぐるぐると回っていた。
もう何度も何度も、それこそ数え切れないほどに繰り返し自問したその問いには、未だに答えが返ることはない。それでも繰り返し考えずにはいれなかった
「あっ……!」
穴が開いてボロボロの革靴が丈の長い草につまずき、一瞬の浮遊感の後近づいて来る草むらに咄嗟に手を前へ出して転がることは逃れることができたが、鋭利な草の葉でざっくりと剥き出しの腕を切ってしまった。
「いぃっ……!!」
身体が感じた痛みに悲鳴が口から零れ落ちそうになり、無理やり意識の力でぐっと堪える。それでも間に合わずに漏れてしまった声に、最悪なことに追跡者に気づかれてしまったようだ。
「いたぞっ、こっちだ!」
「……っ!!」
撫でるようにスッと切れた腕の傷は思いのほか深く、たらたらと流れ出た血を腰布を解いて縛り、無理やり押さえ、ズキズキと傷む傷口を抱えながら音を立てないようにそのまま草むらの中を這って進む。
丈の高い草は、しゃがんでいれば完全に姿を隠してくれている筈だ。そう思いつつどんどん近づいてくる何人もの人の気配と時折聞こえる声や物音に、叫びだしそうな焦燥感を覚えながらも堪えて気配を殺し、そろりそろりと進んで行く。
「どこへ行きやがった、あのガキ!見つけたら全員で可愛がってやった後は娼館に売り飛ばしてくれる!」
「はっ!あんなみすぼらしいガキ、買い取って貰えるかね」
「娼館が無理でも奴隷商に売れば女なら飲み代くらいにはなるさ」
ガハハハハ、と笑う下品な声と、草を剣で切り払うガサガサという音がどんどん近づいてくるのを、両手で自分の口を押さえながらなんとかたどり着いた大木の根元の藪に身を潜め、そして心の中で強く念じることしか出来なかった。
ーーー結界!どうか、見つかりませんように!
自分の周囲の狭い範囲が結界で包まれたことを確認し、更に気配を殺した。
この結界は攻撃を通さないが万能ではなく、繰り返し衝撃を与え続けられると割れてしまうし魔力を使うのでずっとは張り続けることはできないので、結界を張ったからと言って安全ではないのだ。
「クソッ!依頼のボアの討伐にも失敗したし、せっかく今日の酒代を見つけたと思ったのによっ!」
「これ以上奥に行ったら魔物が出るし、今日は引き上げようぜ。まあ、どうせあんなボロボロのガリガリじゃあ、たいした金にはならなかったさ。次からもここら辺に来たら探してみりゃああいいさ」
「そうだな。どうせ孤児院からも逃げて来たガキだろうし、行く場所なんてないんだろうさ」
「ハハハハハッ!ザッカスの街じゃあ、裏通りにはガキが溢れてやがるからな!この間も娼館に行く時に邪魔しやがったから蹴り飛ばしてやったぜ」
男達の下品な笑い声が少しずつ遠くなるのを聞きながら、私はいつのまにか口を塞いでいた手を溢れた涙が濡らしていたことに気づく。
「うっ、うううっ……」
とうとう抑えられなかった泣き声が次々と零れ落ちる。
なんで、どうして、こうなっちゃったの……?確かにあの時、神の問いに考えてしまったのは私が悪かったけど、それを希望した訳ではなかったのに。いくら能力を貰ったって、それだけじゃあ生きて行けないじゃない!ねえ神様、私、こんな転生、望んでなかったっ……!!
もう何度内心で叫んだか分からない叫び声を上げながら、私の、前世の佐藤乃蒼としての意識を取り戻してからのことを思い出していた。
森の中の草むらの中を、必死で転がるように駆けながら、頭の中でその問いだけがぐるぐると回っていた。
もう何度も何度も、それこそ数え切れないほどに繰り返し自問したその問いには、未だに答えが返ることはない。それでも繰り返し考えずにはいれなかった
「あっ……!」
穴が開いてボロボロの革靴が丈の長い草につまずき、一瞬の浮遊感の後近づいて来る草むらに咄嗟に手を前へ出して転がることは逃れることができたが、鋭利な草の葉でざっくりと剥き出しの腕を切ってしまった。
「いぃっ……!!」
身体が感じた痛みに悲鳴が口から零れ落ちそうになり、無理やり意識の力でぐっと堪える。それでも間に合わずに漏れてしまった声に、最悪なことに追跡者に気づかれてしまったようだ。
「いたぞっ、こっちだ!」
「……っ!!」
撫でるようにスッと切れた腕の傷は思いのほか深く、たらたらと流れ出た血を腰布を解いて縛り、無理やり押さえ、ズキズキと傷む傷口を抱えながら音を立てないようにそのまま草むらの中を這って進む。
丈の高い草は、しゃがんでいれば完全に姿を隠してくれている筈だ。そう思いつつどんどん近づいてくる何人もの人の気配と時折聞こえる声や物音に、叫びだしそうな焦燥感を覚えながらも堪えて気配を殺し、そろりそろりと進んで行く。
「どこへ行きやがった、あのガキ!見つけたら全員で可愛がってやった後は娼館に売り飛ばしてくれる!」
「はっ!あんなみすぼらしいガキ、買い取って貰えるかね」
「娼館が無理でも奴隷商に売れば女なら飲み代くらいにはなるさ」
ガハハハハ、と笑う下品な声と、草を剣で切り払うガサガサという音がどんどん近づいてくるのを、両手で自分の口を押さえながらなんとかたどり着いた大木の根元の藪に身を潜め、そして心の中で強く念じることしか出来なかった。
ーーー結界!どうか、見つかりませんように!
自分の周囲の狭い範囲が結界で包まれたことを確認し、更に気配を殺した。
この結界は攻撃を通さないが万能ではなく、繰り返し衝撃を与え続けられると割れてしまうし魔力を使うのでずっとは張り続けることはできないので、結界を張ったからと言って安全ではないのだ。
「クソッ!依頼のボアの討伐にも失敗したし、せっかく今日の酒代を見つけたと思ったのによっ!」
「これ以上奥に行ったら魔物が出るし、今日は引き上げようぜ。まあ、どうせあんなボロボロのガリガリじゃあ、たいした金にはならなかったさ。次からもここら辺に来たら探してみりゃああいいさ」
「そうだな。どうせ孤児院からも逃げて来たガキだろうし、行く場所なんてないんだろうさ」
「ハハハハハッ!ザッカスの街じゃあ、裏通りにはガキが溢れてやがるからな!この間も娼館に行く時に邪魔しやがったから蹴り飛ばしてやったぜ」
男達の下品な笑い声が少しずつ遠くなるのを聞きながら、私はいつのまにか口を塞いでいた手を溢れた涙が濡らしていたことに気づく。
「うっ、うううっ……」
とうとう抑えられなかった泣き声が次々と零れ落ちる。
なんで、どうして、こうなっちゃったの……?確かにあの時、神の問いに考えてしまったのは私が悪かったけど、それを希望した訳ではなかったのに。いくら能力を貰ったって、それだけじゃあ生きて行けないじゃない!ねえ神様、私、こんな転生、望んでなかったっ……!!
もう何度内心で叫んだか分からない叫び声を上げながら、私の、前世の佐藤乃蒼としての意識を取り戻してからのことを思い出していた。
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