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二章 増えた住人達

18話

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 エーデルドさんが里の人達を連れて戻ってから、一月が経った。

 ヤヴォ用の飼育小屋は予定通り初日に完成し、今は畑の予定地を全員で開墾し終え、一番大きな集会所の建設にとりかかっている。
 着いて五日目にはガラードさんと他二人がヤヴォを連れて里へと戻り、少し前に今度は新たに十五人と建材を積んだ荷車を倍に増やして戻って来た。
 今回は来ている人の世話をする女性も五人一緒だったので、一気に賑やかになった。

 その女性たちは、集落へ入ると伐り開かれた広い土地に、この地の安全を確信できたのか涙を流していた。
 今までは息を潜めて生活していたのだろう。ひとしきり涙を流した後は、何度も頭を下げられた。これで子供たちを自由に走り回らせることが出来る。そのことがとてもうれしい、と。


「ここは本当にいい処だなー、リザじょうちゃん。木も土も、それに水まで生き生きしてやがる。これは腕がなるってもんだな!なあ、じょうちゃん。早く鍛冶場も造りてぇな!俺は本業は鍛冶師なんだぜ」

 そう声を掛けて来たのは、私と同じくらいの身長にがっしりした体とお腹に太い筋肉がついた腕、そして長い髭を生やしたドワーフの特徴そのままのダリルさんだ。
 ダリルさんや最初に来た職人さんたちはとても手際が良く、煉瓦を提供すると土台に使って基礎をあっという間に終わらせた。

「おおっ!ダリルさんの本業は鍛冶師さんなんですね!集落に鍛冶師がいなかったので、今まで鍛冶場はなかったんですよ。だからうれしいです!あ、でも近くに石切場はあるんですが、鉱石が取れる場所がここら辺にあるかは分からないんですよ……」
「ああ、それは大丈夫だ!里の近くに掘れる場所があるから、最悪運んでくればいい。それにこっちに向かいがてらあちこち見て来たが、ここからはちょっと離れるが掘れそうな場所はあったからな!」
「本当ですかっ!あ、もしかして石炭もありそうですか?」

 鉱石がありそうな場所があるのは、とてもうれしい!鉄があれば、作りたい物がたくさんあるのだ!
 でも、鉱石があるなら石炭だってあるかもしれない。石炭があれば火力を上げるのに木炭を作らなくて済むし、コンクリートも作れる。
 地下資源ばかりに頼るつもりはないが、快適に暮らす為に物造りには活用したい。

「ん?石炭ってのは白いヤツだよな?まあ探せばあると思うぞ。あれは何かに使えるのか?まあ、鍛冶場を建てるめどが立てば、掘りに行って来るぞ」
「やったぁ!色々欲しい物があったんです!鍛冶場は住宅の建設と水路が終わってからになりますが、頑張りましょうね!」

 石炭が見つかれば、公衆浴場も夢じゃなくて現実的になって来るわ!絶対にお風呂はかかせないもの!
 エーデルドさん達に改めて地図を見せ、建てる工房などを検討している時、公共浴場とは何だと聞かれ、お風呂について力説していたらぽかーんとされた。

 森の中では水も貴重だし、里には当然お風呂なんて無かった。でも、私がお風呂の素晴らしさをこんこんと伝えたら、皆も乗り気になってくれていた。
 ただ、お湯を沸かすのに薪を大量に使うので、その問題が解決しないと造れないということにその時は落ち着いたのだ。

「おお!頑張ろうな、じょうちゃん!よっしゃ!そうとなったら、速度を上げてどんどん建設するぞ!」
「「「「おおっ!」」」」

 気合を入れたダリルさんの声に、つられて歓声が上がった。今回も追加で建設に長けている人が五人やって来たので、建材も来たことからそろそろ集会所が建て終わるだろう。そうなると次は住宅へととりかかることになる。
 集会所を優先したのは、畑の収穫が採れるまでは全員で食事をする予定なのと、住宅が全て建て終わるまでの宿泊所にする予定だからだ。

 ドワーフはやはり想像通り、物作りが得意な種族なのだそうで、集会所は二階建てでかなり大きな建物にしたのに、数人で一月かからずに建ててしまった。
 これなら冬が来る前に、完全に移住が完了するかもしれない。雪が降る前に、移住を終わらせないと移動が大変になるからだ。
 今回来た人達の半分は畑の方をやる予定なので、なんとか春の収穫できる野菜を増やしたい。そうしないと、ずっと食糧不足のまま秋まで我慢することになってしまう。


「あ、リザさん!畑の作業を教えて下さい!」
「はーい!じゃあ、ダリルさん。こっちはお願いします!」
「おうよ!こっちは任せておけ。立派なのを建ててやるからな!」

 呼ばれて一緒に畑へと移動しながら、畑の準備の説明をする。
 里は森の中で、最低限しか木を伐らずに家を建てていたそうで、畑も少しだけしか作っていなかったそうだ。結界がない為、農作物が動物に狙われやすいのだ。
 育てていたのは少しの小麦と森に自生している芋がほとんどで、後は森で野草や果物を採り、狩りで得た肉で全員賄っていたそうだ。

 その少ない畑を動物に荒らされてしまった時は、ほんの少しの食べ物を分け合ってなんとか食いつないでいたそうだから、ここでは皆がお腹いっぱい食べられるようにしたい。
「成程。今回新しく耕した畑以外は、森から土を持って来てまぜるんですね。里はほぼ森の中でしたから、あまり考えてなかったですが、確かに同じ場所で何度も収穫すると、芋が採れづらくなっていた気がします」

「あとは、耕す時は石を丁寧に取り除いて、できたら膝くらいまでの土を掘り起こして土を柔らかくするの。その時はなるべく空気を入れるようにかき回すといいわ。種を蒔く時は畝、そうね腕の手首から肘くらいまでは土を盛り上げてそこに間隔をおきながら蒔くと収穫が上がるのよ」
「ああ!あの小麦畑のようにですね!」
「そうそう。全ての作物は、あんな風に植えるようにするの。あと、同じ作物を連続して植えないように、翌年は別の物を植えるのよ」

「「「「「分かりました!」」」」
 こんなまだ少女ともいえる若い女の子の言葉に、里から来た人は皆従ってくれている。それが不思議だけど、今はとりあえず環境を整える方が先決だ。
 食事の用意にしても、私の作る料理を楽しそうに一緒に作って食べている。

「次にガラードさん達が連れて来るのは、お年寄りと子供のいる人達だったかしら?」
「はい。寒くなる前に優先して連れて来る予定です。里の管理にも人がいるので、あと二、三回程往復すればほぼ人の移住は終わると思います」

 移住を先導するのは、ガラードさん達獣人の血が濃い人達だ。往復しながら木の枝を払い、草を刈って道を作って簡単な道を作っているそうで、往復するにももっと短縮できそうだと言っていた。
 今の優先順位が一番なのは、住宅もそうだが畑だ。食料確保が当面の問題となる。
 里からも持参して来てくれているけど、冬を越すには足りないわよね。何度か村へ行って、買い付けて来た方がいいかもしれないわ。

 集落にも小麦などの貯蓄はある程度あったが、百人も増えれば一瞬で無くなるだろう。野草や果物を採るにも限界がある。
 ……今回来た人達も、皆いい人達だった。『誓約』をしなくても、大丈夫かもしれない。
 でも、まだ全員を確認した訳ではないから、ここを離れて村へ行く不安もある。
 種や苗を買いに、一度は絶対に行かないとならないんだけどね。

「なあに。まーた悩んでいるの?リザは好きにしていいのよ?彼等と『誓約』してもしなくても、私達が見守っているから、心配なんてしなくていいわよ」
 そう、まあ、彼等の行動を監視することは実は容易い。私が精霊たちにお願いすれば、皆こぞって見ていてくれるだろう。
 精霊って間諜としては最優秀よねー。まあ、そんなことをお願いするつもりはないけど。

「ピュラこそそこまで気にしてくれなくていいのよ?私の気持ちの問題だってこと、分かっているもの。まあ、今年の冬の食料にしても、ピュラに森の恵みを教えて貰えば乗り切れるのも分かっているけど」
「そうよ?この森にはそれなりに果物が生る木も多いし、食べられる野草かなりあるわよ。確かに全て採りつくされると、鳥や動物達も森の住人だから困るけれど」

 私達にとって獲物だったり襲われる相手の森の動物達は、精霊にとっては人と同じ生物だ。だから私の我儘でどちらかを選ばせるようなことにならないようにしなくてはならない。
「うーん。でも、野菜の種や苗が不足しているのも間違いないし。ロムさんにもまた顔を見せると約束したから、次の人達が来たら一度村へ買い出しに行って来るわ。シルバーに乗って行くから、一度に買って来れる量はそれ程ないけどね」

 優先順位は種と苗だ。布はなくても毛皮はあるから後回し。あとは小麦粉が欲しいけど、持って帰って来れるのは一度に一袋よね……。それでも全員で食べても十日くらいは持つかしらね。
「ロムはあの行商人ね。あの人なら信用出来るわね。まあ、いいわ。リザの好きなようにしらたいいのよ」
「うん。いつもありがとう、ピュラ」

 一度村へ買い出しに行き、その後落ち着いたら里へ結界を張りに行こう。シルバーには負担を掛けちゃうけど、頼めば喜んで乗せてくれるだろうし。
 その準備も始めなきゃね。

「さあシルバー、今は頑張って畑を耕してしまいましょ!私達もやるわよ!」
「ガウッ!」
 結局その日は、夕方まで畑をずっと耕していたのだった。



*****
そろそろストックが無くなります。(構成を変更した為、時間がかかっています)
なので書き終わり次第更新となるので、時間はまちまちになると思います。
毎日更新を目指しますが、更新できない日もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします<(_ _)>

 
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みんなの感想(5件)

伊予二名
2020.03.09 伊予二名

異種婚姻譚もいいんじゃないかな(๑╹ω╹๑) 伏姫と八房な感じで。

カナデ
2020.03.10 カナデ

獣と姫ですね!まあーそこはネタバレ注意でお願いします!
あの短い鳴き声で、シルバーがどんなことを言っているのかご想像下さい。基本、ピュラが呆れていますので!

改稿前とはエピソードを追加する予定で、かわいいもふもふな子の登場が少し延びてしまいますが、人が増えて嫉妬するシルバー具合をお楽しみ下さいね!( ´艸`)
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>

解除
ぬこ大好き
2020.03.07 ぬこ大好き

専門学校やその手の職業に就いてる人なら兎も角
現代の情報がスマホ頼りのよくいる若者が転移・転生したら
「高校生とかがこんな内政チートとかなんて出来るわけないよなぁ・・」
と色々な作品を見て常々疑問に思ってる。

でもご都合主義でもいいじゃない、フィクションだもの。
面白けりゃそれでいいのさー、HAHAHA(゜▽゜)

カナデ
2020.03.07 カナデ

はい、その通りですよね。
まあ、できるのは朧気な記憶を頼りに手仕事で作れる物を作るか依頼するかくらいですかね。
この作品を最初に書いた時はタイトルのインパクトで内政チートとした記憶がありますが、どちらかというとぼっちでも森の中だし好き勝手やっていいよね!異世界だし!が意訳です( ´艸`)

チートというと特殊な能力のイメージですが、うちのリザさんは精霊と話しが出来る以外はほぼないです。
知識も朧気ですしね。
まあ、異世界、現実じゃない。ご都合主義でいいじゃない!
と開き直るのが肝心です!一番都合がいい合言葉は異世界だし、ですからね!

少しでも楽しんで読んでくれたらうれしいです!次章から住人が増えますが、それ以上は増えません!
よろしくお願いします<(_ _)>

解除
吉良
2020.03.04 吉良

なろうからずっと更新楽しみにしてました。

こっちで見られるの嬉しいです

頑張ってください!
応援してます。(^○^)

カナデ
2020.03.04 カナデ

どうもありがとうございます!!
大変お待たせ致しました……<(_ _)>

待っている、と言って下さった方が何人もいてくださって、『もふもふと~』の方が終わったら絶対完結まで内政トートの方も書く!と決めていました。
頑張って思う存分リザとシルバーを駆け回させます!
改稿にあたって大幅に書き足していますが、その分読みやすくなっていると思いますので、よろしくお願いします!

解除

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