魔界姫は歴史を変える

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二話

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 お兄様が帰ってきてから4日たったある日のこと。お兄様の婚約者候補の方が私のところに訪ねてきた。

 その方は婚約者候補の中でも上位の令嬢。家柄は、魔界の四大公爵家のひとつで、種族は竜族。お兄様の横で戦うにも申し分ない戦闘力を持つその令嬢の名は、ライリー・エイドリアン。

 そんな彼女が前もって予定を取りつけることをせず、急に押しかけてきた。追い返そうと思ったが、将来、私のお姉様になるかもしれないし仲良くしとこうと思い、咎めもせず部屋に招待した。

「ごきげんようエイドリアン公爵令嬢。お日様が顔を出したばかりですのに、何か急用でも?」

 こんな朝っぱらから何の用だと言う意味を込めた。少しぐらい意地悪してもいいよね?

「ごきげんようアシュレイナ姫様。突然の訪問を受け入れて下さりありがとうございます。少しお聞きしたいことがありまして…」

 エイドリアン公爵令嬢のキリッとした鋭い瞳が私を頭からつま先までじっくりと見ている。

 成人して大人の姿のエイドリアン公爵令嬢、竜族とゆうこともあり圧がすごい。私は33歳だけど、人間で例えると13歳程の大きさだから体格差が結構ある。

 まるで品定めされているようで、エイドリアン公爵令嬢の目は気持ち悪いし、気分が悪くなる。

「アシュレイナ姫様の御前です。失礼な行為はお控えください」

 専属侍女のベラが私の前に立ち、失礼な行為をしているエイドリアン公爵令嬢に控えるように注意した。だが公爵令嬢は、悪びれた様子もなく笑っている。

「…失礼しました。"レオ様"がとても妹君を可愛がっていると聞きまして、アシュレイナ姫様にとってレオ様はどんな存在なのか教えて頂いても?内面は分かりませんがまあ顔は綺麗ですから心配でして…ああそれと、婚約者として将来妹君になる姫様にご挨拶をと思いまして」

 あまりにも失礼すぎて笑うしかできない。

「ご挨拶は結構ですわ。あなたみたいな失礼な人をお兄様が選ぶ訳ありませんから。それと四つほど言いたいことがあります」

「まず一つ、お兄様はあなたがレオと愛称で呼ぶことを許可したのか。答えは否。なぜならお兄様は、家族にしかレオと呼ぶことを許していないから。そして、婚約者候補でしかないあなたに呼ぶことを許可するメリットは無い」

「二つ目は、「私にとってお兄様がどのような存在」かでしたか?この質問に対して私があなたに答える必要性は感じません」

「そして三つ目。あなたがお兄様の婚約者になることは決してありません。先程も言いましたが、あなたみたいな失礼な人をお兄様が選ぶことはないですし、選んでも私が許しません。ありえない話ですが、もしお兄様があなたを選んだとしても、家族全員の許しがないと結婚どころが婚約者になることは出来ないのですよ。そして今あなたは私を怒らせました。この時点で私がエイドリアン公爵令嬢を支持する理由が無くなりました」

「最後に私のことを顔だけと言いましたね。仮にも四大公爵家のひとつの家名の令嬢です。そんなあなたが礼儀を知らないとは驚きました。私のことを顔が取り柄の弱く馬鹿な姫と思っていましたか?だから、こんな無謀なことが出来たのでしょう?あいにく私は、馬鹿でありませんしあなたよりは強いですよ。それにしてもここまで侮辱されたのは久しぶりです。このことがお兄様やお父様が知るとあなたはどうなると思いますか?恐らく殺されますわね。その前に私が殺してもいいのですが、今血は見たくありませんから。とても残念です。私は将来、お姉様になるかもしれないエイドリアン公爵令嬢と仲良くしようと思っていましたのに。…あなたの顔を見ていると気分が悪くなるのでお帰りください。婚約者候補殿。…ああ、"元"婚約者候補でしたわね」

 エイドリアン公爵令嬢は、顔を赤くし拳をプルプルさせている。いい気味ですわ。

「レオ様は必ず私を求めるはずですわ!アシュレイナ姫様ではなく私を!そして私をお姉様と慕うことになりますわよ!」

 しつこいわね。ここまで言われてもまだ諦めない精神は褒めてあげますわ。

「何事だ」

 もうめんどくさいから血がかれるまで飲んでやろうかと考えていたところにレオお兄様がやってきた。

「レオ様!聞いてください。アシュレイナ姫様が私を侮辱するんです!」

「…この者は?」

「まあお兄様。ご自分の婚約者候補の方も覚えていないのですか。彼女はエイドリアン公爵令嬢ですよ」

 お兄様に覚えられていないことに可愛そうとも思うが今はスッキリする。あんなに慕っているのにお兄様は見向きもしていない。

「そ、そんな。この間、花束を送ってきてくれたじゃありませんか」

「ああ、この間のあれか。執事がうるさいから花束を送っただけだ。特に意味は無い」

 エイドリアン公爵令嬢は、涙を流しながら膝から崩れ落ちた。少し可哀想な気はするわね。まあ自業自得だけど。

 エイドリアン公爵令嬢は侍女に連れられて家に返された。

「ところでお兄様は何故ここに?」

 疑問に思っていたことを口にした。今は、帰ってきたばかりで忙しいはずなのに、こんなところにいていいのかしら。

「久しぶりにアシュレイナを食べたい」

 ああなるほど。お兄様は、私と同じ吸血鬼で淫魔だ。私たちは血を食事とし、精気を活動力としている。お兄様は好き嫌いが激しく、私の血や精気しかあまり食べない。

 この1年間は、戦うため仕方なくメイドの血や精気を食べていたらしい。

「いいけどこの後、用事があるからちょっとだけにしてくださいね」

 わかったと言いながら私の手を引っ張り、膝の上に座らせて後ろから私を抱きしめた。

「んッ」

 首筋に息がかかり、熱い舌が冷たい肌をぺろぺろと舐めている。くすぐったくてもじもじしていたらチクッと首筋に痛みが走った。

「いっ…んッア!」

 ジュルッと音とともに鉄の匂いがした。お兄様が牙を肌に突き刺したのだ。快楽と痛みに我慢できず、お兄様の黒い髪の毛を思わず掴んでしまった。

 吸血鬼の牙には相手を快楽に落としてしまう作用がある。その快楽の強さは、人によって違う。

 お兄様は、私の血を夢中で飲み続けた。その結果、貧血で倒れてしまいその日私は、眠り続けるのであった。
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