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いつまでも君を愛してる ~舞美編~
しおりを挟む「好きです!付き合ってください!」
今時、放課後裏庭に呼び出して告白だなんて珍しい。
私は校舎の陰からその様子を見ていた。
本当だったら応援してあげたいこの告白だけど、私はそうもいかないのだ。だって…告白されてるのは、颯なんだもの。
「ごめん。君のこと好きじゃないからさ。だから諦めて。」
「え?」
え?ちゃんと振ってくれたのよね?
でも、待って?この振り方ある?ありえないありえない。
さっすが、ミスタークール王子ともてはやされるほどの一ノ瀬颯。
「…そんな…。わかりました…。舞美さんにはかなわないか…。」
彼女は泣きながら去っていく。
「もう出てきていいよ。舞美。」
颯にそう言われて私は校舎の陰から顔を出した。
「…あんな振り方はないんじゃない?」
「…別に。本当好きじゃないんだから。嘘言って期待もたせんのも変な話でしょ。」
「…そうだけど…」
「ていうか、舞美っていう彼女がいるのに期待持たせたらもっとまずいだろ。」
「あら、よくわかってるじゃない。そうよー。オッケーしたら殴り殺す予定だった。」
「うわ。ミスコンで優勝して今時珍しいほどの清純女子とか言われてる藤井舞美さんが言う言葉ですかね?」
「そんなの勝手に言われてるだけだもの。」
「もう授業始まるよ。行こう。」
ほら、こうやってさりげなく、当たり前のように手をつないでくる彼のことが私は好きだ。さりげない優しさを持っていることを知っているのは私だけ。ずっとこれからもずっとずっと彼のそばは私だけ。
私は藤井舞美。大学一年生の現在19歳。
妹が一人いる。藤井流美。中学一年生の現在13歳。流美には、小六の頃結婚を約束した彼氏が一人いる。我ながら、流美は可愛くていい子だと思う。で、その流美の彼氏っていうのが、私の彼氏の弟。結婚したら姉妹ともに苗字は一ノ瀬になるのよね。一ノ瀬一族は京都を拠点としている大地主でお金持ち。もちろんお金目当てじゃない。小学生の頃からあなたに恋してた。ま、私の話は置いておいて、流美が初めて付き合う相手が、3つ年上のそれもイケメンだなんて。すごいなぁって思ってたけど、わたしの彼氏である颯もイケメンよ。さすが兄弟!そっくりすぎて二人いたらどっちがどっちかわかんないほど。でも、好きだからわかるよ。
「何ぼーっとしてんの?」
「…ほんと、響君とは大違い。」
「?」
颯は響君と違ってとてもクール。
響君はどこから見ても王子様。優しくてレディーファーストで、辛い時寄り添ってくれる。流美が響君を好きなのよくわかる。
でも、颯はぶっきらぼうで、クールで何に関しても無関心。顔は一緒なのに性格はまるで違う。でも、時々見せる優しい笑顔が私は大好き。
似てなくても私は大好きよ。
あ、でも1つだけ似てるところあったわ。
二人ともミステリアスで優雅な王子様
ここまで褒めてる私って変かしら?
「ただいま~!」
「おかえり。お姉ちゃん。」
流美は制服のままソファに座ってテレビを見ていた。
私は流美の隣に座ってお菓子の袋を開けた。
「制服着替えておいでよ。」
「え~?めんどくさいよー。」
「だってシワになっちゃうわよ。」
「でも、それは伸ばせばいいじゃん?」
「そのシワは素人じゃあんまり戻せないわよ?」
「うっ…」
「響君に嫌われちゃうよ?」
「…着替えてくる…」
流美って本当に響君のこと好きなんだ。
こういうとき、響君の名前を出せば一発で言うことを聞く。でも、嫌うわけないよね。響君も流美のこと大好きだもん。
私は、藤井家の初めての子供だった。
私が6歳の頃、流美が生まれて、まそれはそれで楽しかったけど…
いつだったか、私は流美に「大嫌いだ」と言われたことがある。
藤井家の始めての子供だったからか、それはそれは大切に育てられたと思う。そして、自分で言うのもなんだが、私は美人だった。生まれた時から。昔からかわいいだの、美人だだの、お嬢様っぽいだとか、いろいろ言われてきた。そういう周りの人からの噂とかで私のイメージは決まって行った。
周りの人が、私をかわいいといえば可愛くなければならない。
周りの人が、優しいと思えば優しくいなければならなかった。幸い、私は人より勉強ができたし、人より芸術的センスもあった。運動だって普通に出来た。でも、それが、そんな私のみんなからの期待に応えようと思っている自分が、流美にとってはコンプレックスで苦痛だったらしく、流美は私と同じことを決してしなくなった。私が髪を切れば流美は髪を伸ばして、私が髪を伸ばせば、流美は綺麗に伸びた髪をバッサリと切る。お母さんにわざと反抗的になったり、勉強本当はできるくせにわざとひどい点数を取ってくる。それは、私もさすがに堪えた、、。流美はできる子なのにわざと悪い子になっている。それを見ているのがどうしても辛かった。そう思ってる間も私のイメージは出来上がっていって、家での私も学校での私も、いいこで可愛くて優しくて言葉遣いが綺麗で頭が良くてお上品。というイメージに取り憑かれた。無意識のうちにそんな性格になってて本当の性格がどうだったかも覚えてない。
でも、そんな私を拭ってくれたのがあなただったのよ。
颯に出会ったのは、小学校4年生の頃。
お母さんが流美にばかり夢中で私に何も関心を持たなくなった時は一時期あって、悲しくて、家に帰るのが苦痛だった。当時、4歳だった流美は可愛い盛りでおばあちゃんたちも流美ばかりを可愛がった。その間私は公園にいた。放って置かれるのが寂しいから。
学校から帰る時も、早く家に帰りたいとは思わなかった。なるべく、なるべく公園にいてずっとずっと公園で一人で本を読んでた。でも、あなたにあった日は、あいにくの雨で私以外の人は公園にいなくて傘をさしながらずっとベンチに座ってた。雨はどんどん強くなって、風も吹き荒れた。まるで、この公園から出てけというように。私は悲しくなって、傘の持ち手を緩めてしまって傘は風に乗って大きく飛んで行った。もちろん、歩いていけば簡単に取れたけど…その時の私は涙が溢れて止まらなくて苦しくて、泣きじゃくったまま雨に濡れた。もう涙が雨かわからないほど泣きまくった。その時だった。あなたに出会った。
飛ばされた傘を颯は持ってきてくれて私の頭の上でさしてくれた。私が顔を上げると、颯は優しく微笑んで私の手を掴んで無理やり傘の取っ手部分をもたせた。
『風邪ひくよ。』
静かにそういう颯は同い年なのに大人っぽくて、年上かと思った。ぶっきらぼうだけど、彼の優しさがにじみ出てて、心がほっとした。気づいたら颯の姿はなくて、それが私の、私にとっての初恋でした。
もうこれっきり会えないとそう思ってた。
まさか会えるとは思ってなかったから。
彼に再開したのは、それから、7年後の時。私が17歳の時。
あの時、流美は泣きながら家を飛び出した。
毎週行うテストで散々な結果を取ってしまったから家に帰ると同時にお説教で…苦しくなってしまったのだろう。家を飛び出してしまった。思えば、お父さんの私と比べる癖を直してくれれば流美も…私も…わだかまりを作ることもなかった。
流美は、お母さんによく反抗するし、睨んだり、怒ったり、小学生らしい行動をよくする。でも、それは流美の本当の感情ではない気がした。流美は、本当は、感情を出すのが上手じゃなくていや、わざと押し込んで、心の中とは全くというほどではないけれど、違う行動を取ってしまうのだ。だから、あの時、2年前のあの日。流美が泣いてるところを見て違和感を覚えたんだ。いつもの流美とは違うと。あのとき気づいた。流美の本心はこれ。涙が出ちゃう本当は弱々しい守ってあげなきゃいけないんだと。
だから、私は心に決めたんだ。
でも、流美は私に言った。あの日、飛び出した後泣きながら家に帰ってきて、部屋に戻る時、私が呼び止めると、泣きながら、こんな流美は見たことないってくらいの声で、言った。
『お姉ちゃんがいるから…私は褒めてもらえない。お姉ちゃんが私のポジションを奪う…私がどんなにいい点数を取ってもどんなにいいことをしても、お姉ちゃんが…お姉ちゃんがいるから!嫌い…大嫌い!』
あの言葉は、本心だった。
嘘じゃなかった。流美の目がそう言ってた。
そう思われてたことは知ってたけど、実際、面と向かって言われるとちょっときつい。苦しかった。
私のポジションも、苦しいのだと、伝えたかった。言いたかった。言い返したかった。でも、できなくて、そんなことしたらもっと自分が苦しくなるから…言えなくて。結局嫌な気分のまま、学校へ行った。
もちろん、涙で目が腫れて、友達にはたくさん心配された。私は、クラスに居づらくて、2時間目に気分が悪いと行って、保健室に行くと伝えて授業をサボって人気のない中庭に来て一人、泣いていた。
『まさか…あんなに嫌われてたなんて…思わなかった…。』
妹である流美に嫌われるのは、ちょっと、いや、かなり落ち込んだ。
流美が生まれる時、私はあんなに流美を拒んだのにいつのまにか妹っていう存在が大切になってて、流美も同じように姉という存在が大切であるといいななんて思ってた。でも、それは、ただの私の幻想で実際は流美は私のことを嫌ってて、自分の居場所を維持するのに必死だったんだね。苦しかったんだよね。ごめんね。ごめんね。気付かなくて。私は声を立てずに泣いて、なきて泣きまくった。
『風邪ひくよ。』
私の頭上から7年前と同じフレーズが聞こえたんだ。
私は驚いて顔を上に上げると、見たことのない優しい瞳をした、前髪の長いかっこいい男の人が立っていた。
私は、慌てて涙を拭き取る。こんな恥ずかしいところ見られたくなかった。誰だかわからない人にそう言われるほど私は惨め?
『…』
私は黙ったまままた涙が頬をつたった。
その涙を見た瞬間、彼は、私の前に立膝をついて座って私の頬の涙を手で拭った。初対面の人にこんなことしてもらうなんて…恥ずかしすぎる…
『…すみません。』
私はそう言って、立ち上がった。そのまま中庭を出て行こうとしたのに、彼の言葉で私は足を止めた。
『風邪、ひかなかった?』
『え?』
『7年前の、あの公園の雨で。』
『な、なんでそのこと…?!』
私は素早く振り返った。
『…あの時、傘を渡してあげたのに、覚えてないんだ。』
『え?え?も、もしかして、あの時の男の子?!』
『そ。』
え?え?確かに、面影はあるけど、こんな偶然ある?!
『…じゃ、それだけだから。いくらでもここで泣いてなよ。』
『え?い、行っちゃうんですか?!』
『家に帰る。』
『授業あるのに?』
『授業受けなくても理解してるし…寄付金だってあるからめんどくさいことは起きない。じゃあね。』
『え?ちょっと!』
私はとっさに彼の腕を掴んでいて、彼は私の方をびっくりした顔で見ていた。
『あ、あの!名前!名前教えてください!』
暫くびっくりしていた彼も少し微笑んで、言った。
『一ノ瀬颯。2-A。よろしく。藤井舞美。』
『なんで、名前。』
『…ミスコン出てたじゃん。』
『あ、そっか。よ、よろしくお願いします!』
そう言った頃には、もう彼の姿はなかった。
一ノ瀬颯。この名前は私にも聞き覚えがあった。
高等部で絶大な人気を誇っている名門一ノ瀬家の長男。ちなみに中等部では次男の響が絶大な人気を誇っている。
ミスタークール王子という名の下、学園では有名人。
弟の響の方はミスターハニー王子とか呼ばれてる。蜂蜜みたいに優しい、気配りのできるクール王子の反対の人だから。
あの日、彼が私の涙を拭ってくれたから。
今の私がある。
感謝してもし足りないくらい。
おかげで、自分らしく生きれてる。
もちろん、イメージは付いちゃってるから、少しずつ変えていってるけど。彼のおかげで私は、涙を流しても安心なんだ。
あの頃は、まさか颯と交際できるだなんて思ってなかった。まさか婚約するとも思ってなかった。
今が一番安心でホッとする日常。
「お姉ちゃん」
ノックオンがして流美が部屋に入ってきた。
「流美。どうしたの?」
「…あのね。言いにくいんだけど……」
「ん?なんかあった?」
「あ、いや、そんな大ごとじゃないんだけど…お姉ちゃんには言っておいたほうがいいかなって思って。」
「え?」
「あのね…」
「?」
「颯さんが…ね。」
「颯?」
「先週の土曜日に、ね?響と街を歩いてたら、可愛くて、小柄な人と抱きしめあってた…の。」
「…え?」
抱きしめあってた?
可愛くて小柄な人と?
私と正反対な人と?
クール王子って言われてる颯が?私と正反対の人と抱きしめあってた?
そんなこと、あるわけない!
あの、颯だよ?実は優しくて寄り添ってくれる颯だよ。私を抱きしめてくれて、婚約までしてくれたのに今更浮気とかあるわけない!
大丈夫、だよね?だって、颯だよ。
結婚まで約束したんだから。大丈夫。大丈夫。きっと見間違いだよ。
「…み、見間違いじゃない?」
「お姉ちゃん…」
「だ、だって、颯、先週の土曜日は、京都の本家に帰ってたって言ってた…颯は嘘つかないもの。」
「お姉ちゃん…見間違いじゃないよ。だって、その女の子、颯って呼んでた。」
「え?」
「すごく楽しそうな声で、颯って呼んでた。颯さんも、楽しそうに。すごい優しい笑い顔でその女の子に駆け寄ってた。」
「…じゃ、じゃあ、親戚とか、従兄弟とかじゃなくて?」
「響が気付くはずよ…」
そうだ。颯が知ってて響くんが知らないはずない。
じゃあ、やっぱり、赤の他人の女の子と抱きしめあってたの?私とは正反対の子と。
「……ありがとう。流美。ちゃんと聞いてみるから。今は、」
「…わかった。私部屋に戻るね。」
流美が部屋を出て言ってからも私の気持ちは落ち着かない。
信じたいのに…なんで信じれないんだろう。
私、自惚れてた。私の彼氏である颯は、浮気しない人だって、すごく自惚れてた。
ちゃんと聞いてみるとか言って、聞くの怖い。
どんな顔されるか、別れ話とか、そんなのやだ。
依存してるのかなって思うほど、私は、颯を好き。だからこそ、離れるのは嫌だ。流美の言ってたことは、流美の勘違いよ。そうよ。そうに決まってる。颯なんて名前そこらへんにいっぱいいるもん。だから、たまたま見た目が似てて、たまたま名前が一緒で、たまたま、響くんに瓜二つだった…だよね?颯、そうだよね?
…自分を自分で安心させようとしてるけど、無理だ。ここまでタマタマが続くと何が何だか…
「信じて…いいんだよね、」
颯…。颯のこと信じて、いつか結婚していつまでも仲良く、愛し合って生きていけるよね。
そうだよね…。
私と颯は運命で結ばれているはずなんだから。
結局、なんとなく、颯を避けるようになって、颯と私はどんどん疎遠になった。
その間に挟んだテストやなんやらで、私は単位を落としかけることになった。
「舞美…いったいどうしたの…?」
お母さんに呼ばれて、リビングでお母さんと話す私。
「…ごめんなさい。お母さん。」
「…単位は落としてないからいいんだけど…ちょっとひどいんじゃない?流美も頑張って勉強してるから、きっと舞美もって思ってたんだけど…どうしちゃったの…。一ノ瀬くんと婚約が決まったあの頃からずっとこれまでいつも以上に頑張って、単位たくさん取ってたじゃない。一ノ瀬くんと何かあった?」
「…ないよ。ただ、勉強足りなくって。」
「そう?流美に無理させてた私がいうのもなんだけど、次は頑張ってね。」
あれ、私には無理させたって思ってないんだ…。
ついこの前までは…私がこの家での一番だった。いつの間に流美に先を越されたんだろう。
小さなほころびが、大きなほころびを生み始めてきた。
だから…やっぱり流美なんて生まれてこなきゃよかったのよ。私の居場所を奪わないで。
「舞美?聞いてる?」
「…私だって!」
「ま、舞美?」
「…私だって…頑張ってるよ!」
私は椅子から立ち上がって、早くリビングから出たいと思った。扉のドアノブに手をかけた時、
「舞美!どこ行くの!?話終わってないのよ!」
「…頭冷やしてくる。」
私はそう吐き捨てるように言って家から出てきた。
私だって、頑張ってる…
なんでみんな認めてくれないの?
こんなに苦しいのに…どうして…?どうしてみんな私を見てくれないの?頑張ったね。ってどうして誰も言ってくれないの?
思えば、あの日から私の人生は狂ったのかもしれない。
流美が生まれて、お母さんにお姉ちゃんになったんだからお姉ちゃんらしくしなさいって言われて、頑張って頑張って勉強して、それでもそれでも私を見てくれなくて。「舞美はできるから」そう言って私の存在を簡単に切り捨てる。昔のお母さんじゃなくなってた。私はできないよ。誰も褒めてくれない環境の中私は強い人間ではいられないよ。ついつい、流美の前じゃ大人ぶって、自分の気持ちわかんない。流美が生まれてから、私は、自分がわからなくなって、颯に出会ってしまった。流美さえ私の前に現れなくちゃよかった。
私はできないんだよ。何もできない。できるふりをして…必死にもがいて今も溺れてる。でも、誰も助けてくれない。助けてくれたのが、颯だったのに…。そんな颯でさえも私は…失ってしまった。何よりも大切でそばにいて欲しかった。優しい居場所が今の私にはないんだ。
気づくと、私は無意識に大学の敷地内にいた。
私のお気に入りのピロティのお庭だった。
そこは、朝は綺麗な花が太陽に照らされて光って、夜になると、ランプに光が灯されて鈍い光がすごく好きで、人気のないこのピロティが大好きで、いつもいつもこのお庭のベンチに座って颯と…そばで仲良く…
「なんで…」
なんで…貴方がいるの…
今ここに。こんな状況の私のもとに貴方がベンチに眠ってるの?
「…颯…どうして…」
ベンチには本を頭の上において眠っている颯の姿があった。颯の体はビクッと動いて頭の上においてある本を手でとって、大きく伸びをした。
そして、私の顔をじっとみて優しく微笑んだ。
そんな顔で私と正反対のこにまで微笑んだの?
「…舞美。」
呼ばれて、我に返った。
「…颯。どうして…こんな時間までここに…?」
「どうして…かな…。舞美が避けるから…。」
「!」
「…元々俺って講義受けないけど、舞美と出会って俺って講義出るようになったでしょ。」
それは…そうだね。
私は無言で頷いた。
「…だから、舞美に避けられてるってことに気づいてから、講義に出る気なくなった。ずっとここで寝てた。そしたら、夜が来て。もしかしたら、舞美が来るんじゃないかなって思ってたら、来た。俺ってすごいね。」
次は切ない笑顔で私をみた。
そんな目で見ないでよ。私、貴方のこと責めちゃうよ。
涙も出ちゃう。この歳で。大学生にもなったのに、貴方のことで泣くなんて。
こんな、情けな…
「きゃっ」
私はいつの間にか腕を引っ張られて肩を抱かれ颯に抱きしめられてた。
「……舞美。」
「…颯…?」
「…どうして俺を避けてた?」
「…べ、別に…避けてなんか…」
私が颯から離れようとした瞬間に、両肩を颯に向けさせられた。目と目が合わなければならないそんな体制にされた。
「目、見て。」
「……」
私は目をそらしたまま俯く。
「舞美。目、見て。」
なんで、そんな真剣な声で言うのよ。私を、私のこと嫌いなはずなのに。正反対の女の子が好きなはずなのに。どうして…どうして、真剣な声で私を呼ぶのよ。
「…は、離してよ!」
私は、体を思い切りひねって颯の腕から離れた。本当だったら、理屈だったら、男の颯に叶うはずなんてなかった。きっと、わざと手を離してくれた。
私は、颯の顔を見ないで、歩き出した。
「浮気なんてしてないよ。」
颯の思いがけない言葉で私は足を止めて振り返った。
「…っ。颯?」
「響と、流美ちゃんから全部聞いた。本当は全部知ってた。どうして、避けられてんのかも。」
「じゃ、じゃ、どうして…」
「舞美の口から俺に聞いて欲しかった。そうすれば、愛されてるって実感湧くじゃん。」
「……私を…もてあそんだの?」
「まさか。実際抱き合ってたのは事実だし。」
「え?」
「…俺の、先輩だよ。響の知らない先輩。」
「ど…ういうこと?」
颯の言っていたことをまとめるとこういうことだった。
抱き合ってた子は、颯が中学生の頃の習い事の先輩だという。真嶋杏20歳。アメリカや、スイス、いろいろな国で滞在していたという杏さんは、スキンシップが激しく、たまたま街であったため、抱きしめ合うことになってしまった…らしい。
「…そ、そうだったんだ…」
「そ。」
またいつものように、クールな顔に戻った颯は、私の顔をじっと見ている。
「…お、怒ってる?」
「んー?別に。それくらい、舞美が俺のこと好きだってことわかったし。」
「あ、あれは!」
「何?嫉妬以外だったらなんの行動?」
やっぱり…颯は…
「意地悪…」
でも、そんな颯も大好きだったりするんだ。
大好きよ。颯。
「本当に一人で大丈夫?」
「うん。平気よ。」
私と颯は、私の家の前で話をしている。
お母さんから逃げてきたわけだし、お母さんと話さなきゃ。なのに、颯ったら、私についていくとか言って。私に対して親切心なんだろうけど、家の事情に、颯が入ってもねぇ、。
「おばさんに俺から言って聞かせようか?」
「何言ってんのよ。颯。大丈夫だから。私のけじめ、つけさせて。」
「わかった。行っておいで。終わるまで俺も舞美ん家にいちゃダメ?」
「いいよ。来て来て。でも、聞き耳立てたら絶交だよ?」
「聞こえちゃったら仕方ないよね。」
「え?」
「舞美声大きいし。」
「はぁー?声大きくないし!」
「ほら、大きい。クスクス。」
「もう!いいから、早く入ろ。私のけじめつけんのに時間かかりすぎだもん。」
「はいはい。じゃ、行きますか。」
けじめつけるのに遅すぎたってことはないよね?
志を立てるのに遅すぎることはない。スタンリー・ボールドウィンより。拝借させてもらうわ。
「もう!颯さんったら、じっとしててください!」
「兄さん。聞き耳立てるなって言われてたじゃん。座って待っていようよ。」
俺に歯止めをかける流美ちゃんと、弟の響。
階段をコソコソと降りて、舞美の声が聞こえるところまで、降りて来たところだった。
「兄さん!」
「颯さん!」
「しっ!ほら、流美ちゃんも聞いてごらん。今が一番舞美のかっこいい時だよ。」
「え?」
ほら、聞こえて来た。
『お母さん。私は、私よ。私として生きていくの。お母さんの生き方ではきっと後悔する。私は昔のお母さんの方が好きよ。出来たら褒めてくれて、出来なければけじめをつけさせる。そんなお母さんを私は尊敬してる。だからこそ、今のお母さんを尊敬することはできない。お母さんの愛は偏ることが多いよ。どちらかにだけが多い。どうか、分け隔てなく私たちを愛して。私と流美も、同じようにお母さんを愛してるから。だから、お願い。私と流美を分けないで。同じように、一人の母親として愛してください。辛くなったら私たちを頼って、前を向けるようにお手伝いはさせて。無理しないで。私たちを頼って。』
『………舞美』
『私は流美に謝るわ。生まれてこないで欲しかったなんて言っちゃいけない言葉を流美に言ってしまった。まだ、チャンスはあると思うの。謝って、ごめんねを言って、またいつか、前を向きたいの。』
『…』
『お母さん。私を見て。』
『え?』
『メイクも、ヘアスタイルもぐちゃぐちゃでしょ?でも、これが私。実際は何も出来なくて、溺れてたの。もがいてもがいてギリギリの人生だった。でも、そんな私を一度でもお母さんは見てくれた?そんな私を認めてくれた?流美の優しさや良いところに気づいてあげた?どうか、お願い。こんな私たちを見て。目を逸らさないで見て欲しい。良いところを見つけて欲しい。お願いします。お母さん。』
『…ごめんね。ごめんなさい。舞美。あなたにはいつも任せきりで、前を向かせてあげる時間さえもあげてなかったんだよね。流美ばかり見てて、実際の舞美に気づいてあげれなくてごめんなさい。』
「ふーん。なかなかやるじゃん。お姉ちゃん。」
「よく言うよ。流美は。一番心配してたくせに。クスクス。」
響が流美ちゃんにツッコミを入れて笑ってる。
「いや、それは違うよ。響。」
「兄さん?どうして?」
「舞美を一番心配してるのはいつだって俺だから。」
こんなに堂々と、笑っているのはいつぶりだろう。
流美ちゃんのこと大好きな響と、響のこと大好きな流美ちゃん。うん。お似合いだ。
でも、それを上回るほど、俺と舞美はお似合いだ。
自惚れじゃない。本当のことだ。
愛してる。大好きじゃ足りないくらい。舞美を愛してる。
5年後
「舞美。段差気をつけて。」
「心配性ね。颯は。」
私はお腹を撫でながら、颯と手を繋いで歩く。
「…どっちに似るかな?」
「やだ。颯に似て欲しいわ。あ、でも、ぶっきらぼうなクール王子になったらめんどくさいなぁ。性格は私似でよろしく!」
「クスクス。そんな都合よくいくかな。見た目もどっちとも混ざれば良いね。性格も、頭脳もスタイルも。」
「それって最強じゃない?」
最強な子が私のお腹にいる。
どっちに似ても良いわ。案外、響くんや流美に似たりして。それはそれで面白そう。
生まれるまで後、2ヶ月はある。そんな2ヶ月が待ち遠しい。
私の、大切な、双子の男の子と女の子。
性別の違う二人がどう育って、どんな子に育つかは私にはまだわからないけど、楽しみでたまらない。
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