優しい空の星

夏瀬檸檬

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5番星 2度のキス

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優しい空の星

5番星

「兄が君のところへ?」
翌日、アルが私の部屋にきた時にお話をすることに決めてた。
「キルベール王子来たの。キルベール王子はどんな方?きっとお優しい方なのかしら。」
「優しい?」
「はい。だって、この簪をくださったのですもの。」
そう言って髪から簪をとりアルに見せた。
「キルベール様は、継承権がアルより下だとお聞きいたしました。ですが、それに関して何も動じないキルベール様に私は驚きました。元より、上の立場に参ろうと思わない方なのでしょうか。」
「…兄は、立場がたとえ低くても、押し上がれるほどの能力や頭脳をお持ちの方。いつでも、王位を私から奪い取ることも可能だろう。それと、」 
そう言ってアルは私の持っている簪を奪い取った。少し不機嫌そうな顔をしていた。
「え?アル。それは、キルベール様から頂いた簪っ…」
私が話している途中、口をアルの手で塞がれた。
「アル?」
「君に…兄の選んだ簪は似合わない。私が改めて新しいものを用意する。」
「え?」
「もう仕事に戻る!」
「は、はぁ。いってらっしゃいませ。」
何を怒っているのか…全然わからない。
その後、少しからかうような顔をしながら笑みを浮かべてイザベルは部屋に入ってきた。
「犬も食わないなんとかってやつですか?ふふ。」
「ちがいます!」
私が即否定をするとまた悲しそうな表情になりながらもまたからかうような笑みを浮かべた。
イザベルもアナスタシオも、年頃の娘だものね。恋とか、愛とか、そんな言葉に敏感に反応するのよね。恋とか愛か…。私には、選ぶ余地はない。アルと婚約しているのだから。でも、私は自分で好きな人を見つけたいっていう気持ちは誰よりも強いはずなのに、権力や、地位とかに立ちはだかると私はそんな苦しい壁からは避けて逃げてしまう。私の悪いところだ。
「そう言えば、アナスタシオ、イザベル?」
「はい。オリビア姫?」
アナスタシオが不思議そうに聞き返す。
「あなたたち二人は、郷に恋しい人はいて?」
「それは、恋愛の意味でしょうか?」
イザベルが笑いながら聞く。
「ええ。そうよ。」
「私はいません。これから、この宮中で相手を見つけるのも良いと思いますし、仕事を終えてから見つけるのも良いと考えてます。」
アナスタシオが真剣な顔をしながら言っている。真剣な顔だが、目は微笑んでいる。
「…そう。宮中で早く見つかると良いわね、ここにはたくさんの優しい殿方がいるのですもの。」
「はい!」
「イザベルは?いる?」
「私はいます。大切な幼馴染でもあり、恋人がいます。ですが、郷にはいません。同じ宮殿で、大切なお役目をしています。私が、仕事に順調に慣れてきたらその時、結婚しようと約束しました。」
「そう。それは、楽しみね。結婚式するなら、私も呼んでね。」
「もちろんですわ。姫君。」
我ながら、なんでこんな質問したんだろう。と考えてしまうが、私の心の中にある想いは一つ。イザベルとアナスタシオが羨ましい。それだけ。たくさんの男の人たちを自分で選べる。人に決められた生き方じゃない。それが無性に羨ましいんだ。
久しぶりに馬に乗って飛び回りたい。
馬の足音を聞きたい。
「ねぇ…?イザベル。アナスタシオ。」
「はい?」
「馬を見たいの。馬小屋へ案内してほしいの。」
「「馬小屋?」」


「おやめくださいませ~。あぶろうございます!」
みんなが必死に私を止めている。
でもそんなの知らない!
「あはは!楽し~い!」
久しぶりに大好きな馬に乗って私は上機嫌!
本当に楽しい!
そう思った瞬間馬の手綱を上手に誰かに引かれて馬が走るのを止めた。
振り返ると、
「キルベール様?!」
「やあ。ヤンチャな姫だね。」
「あ、申し訳ありません!お見苦しいところを…、」
「敬語じゃなくていいって。普通にアルベーサのこともアルって呼んでるんだし、俺は、キルって呼んでよ。あと、普通に話してね。ほら、手をかして。そのドレスじゃおりにくいでしょ?」
キルは、先に馬から降りて私に手を貸してくれた。確かに、このドレスだと、おりにくい。如何やって私は馬に乗ったんだ??
「あれ?簪は…」
「あ、すみません。アルにとられてしまって。」
「…アルか。ううん。いいよいいよー。それより、タメ口だって言ったでしょ。早速敬語使ってるよ。」
「あ、ごめんなさい。」
あれ、怒ってないのかな。
さっきのは見間違い?なんだか、不機嫌そうな顔をしたように見えたんだけど…

「へぇ。オリビアは、村生まれなんだ。」
「はい。もとは、前の王朝の末裔だったんですけど、今の王朝になってからは、家名が没落して。」
キルは中庭に行こうと私を誘った。
噴水のベンチに座りながら私とキルは話す。
「ねぇ。キル。今度は私の話ではなくキルのお話を聞きたいわ。」
「俺のか?なんかあるかなぁ。」
「私もお母さんのお話をしたんですもの。キルのお母さんのお話を聞かせて?」
「俺の母上の話か。うん。いいよ。」

母上は、誰もが認める美人だったらしい。
母上は、貴族の中でも身分の低い家柄だったけど、いつも優しくて美しいブロンドの髪が揺れていて太陽に光って美しかった。このブロンドは母上から受け継いだのさ。アルも私の母とは違うがブロンドの巻き毛だった。
美しい容姿だったから、父上のパーティーに行くと必ず目立っていたんだよ。すぐに父上は目をつけ、側室にした。それからは、幸せだった…。母上が殺されるまでは。
母上は、殺されたんだよ。
王妃、つまり、アルの母親の命令を受けた刺客に。母上の遺体はまだ見つかっていないんだ。海に流されたか、或いは…、身を隠し生きているか。

「母上がいなくなってからは、俺の権力も衰退してきたんだ。アルが生まれてアルが跡継ぎになって、俺はこれまで自由きままな人生。意外に楽しいもんだぜ。」
無理に笑ってるの?キル。
辛いんでしょう?これまで心の内を誰にも打ち明けず、奪われていく権力を見て、寂しく一人で生きてきたんじゃないの?
「…何だよ。如何してそんな悲しい顔をする?」
私は、自分でも気付かなかったが泣きそうな顔をしていたらしい。キルにほおを触られてハッとした。
「…キル。貴方は王位に就きたかったんじゃないの?キルはこんなに優しいんだもん。すぐ王様も認めてくださるわ。」
「俺は、王になりたいんじゃない!立派なこの国を守る人間になりたいんだ!」
「…キル。」
キル。それが貴方の願いなのね。
やっと言えたんだね。言えなかった貴方の願い。
「キル。帰りましょうか。冷えてきましたし。」
「ああ。…いや、俺の御殿へおいで、」
「え?王子殿へですか?」
「ああ。あそこは唯一アルにはない宮殿だからね。」
王子殿ー世子殿とも言う。
第一王子が暮らすキンキラキンの黄金にまとわれた宮殿。元庶民である私にとって入るだけで緊張に包まれる宮殿だった。
「そんな緊張しないでよ。俺にとって自慢の家だからさ。」
「。はい。」
宮殿の中も銀でできるものや、大理石、全てにおいて一級品の高級品。私はめまいがしちゃいそうだった。
外の空気を吸おうと、バルコニーの窓を開けると清々しい春風がかかった。
そして、そこには美しい花壇で整頓されている中庭が見えた。
「うわぁー!もう春ですね。」
「ああ。」
「あの美しいお庭は、庭師の方が作られたんですか?」
そう聞くと、静かにクスッと笑われた。
「いや、俺が作ったんだよ。」
「え?あれを一人で?」
「もちろん庭師と相談しながらだけど、母上がいなくなってから、母上の大切にしていた庭がどんどん廃れていったんだ。俺も、悲しくて立ち直れなくて、本当に久しぶりに窓を開けると廃れた庭が見えてね。母上が丹精込められて作った庭だからね。如何しても元に戻したくて、母上の好きな花は中央に置いてあるんだよ。」
そう言ってキルは指をさした。
「アネモネですね。」
「…ああ。アネモネの花言葉は、儚い夢。母上が戻ってくるように願いを込めた。」
宮殿は、不思議なところですね…。
切ない思いが、飛び交っている。切なくて苦しいところですね。
「戻ってくると、いいですね…。」
「…ああ。ありがとう。」
「ー様?!何故ーーーここは、ーーですよ!」
廊下からメイド達の騒がしい声が聞こえた。
「何だろう?」
私が不思議に首をかしげながらキルを見た。
キルは、扉を開けようとした私の手を捕まえて、肩に抱き寄せて、私の方を捕まえるように持った。
「キル?」
その途端、バタン!扉が開いた。
「兄上。何故のお帰りですか。私の妃になるオリビアと共にいるとは。」
そう言ってアルはキルの首元をつかむ。
お帰り?ということは、キルは宮殿にいなかったの?
「やめなさい。アルベーサ。オリビアを困らせるんじゃない。」
キルは、力強い目でそう言った。
その数秒後アルはキルの首元を離した。
「…。兄上はいつもそうだ。何をしても兄上らしく、大人の対応。世子である私を馬鹿にしているおつもりか…」
「アルベーサ…?」
「兄上は、継承権こそ私より低いが、兄上は家臣からの信頼も厚く、いつ私が世子から降ろされてしまうかわからない。兄上と私が同じ場所で殺されそうになったら、家臣たちは、きっと、兄上を助けるでしょうな…。」
「…」
「あ、る…。」
「オリビア。王宮殿に戻るよ。ついて来なさい。」
「は、はい。それでは、キル。王宮殿に戻ります。失礼します。」
私は軽く頭を下げて部屋を後にした。
アルの歩くスピードは、早い。
キルは歩幅を緩めてくれるか、数歩離れたら止まって待っててくれるというのに…。
これが…キル様と、アルの大きな違いなのだろうか。
二人とも本当に優しくしてくれるけれど、アルの優しさと、キル様の優しさは全くの別物だ。
アルは、王子様みたいに優しいし民のことも深く考えてくれる。でも、何となく…話しかけづらいオーラがあるというか。何というか。
キル様は、お兄様のような優しさを持っている。村娘であった私にも気をかけてくれた。考えが大人で、背が高くて、レディーファーストでいてくれる。アルは気づかなかったドレスの歩きにくさもキルはすぐ気づいてくれた。家族に対する愛もキル様の方が上。人を妬ましく思ったりしなくて、信頼があって、人の上に立つことが上手い人。
あ…あれ?どうして、キル様の方が色々想像できるのだろう。
どうして…?
「君は…」
はっ!アルに話しかけられて私は我に返った。
「は、はい。何?」
「君は、君もやはり、兄上の方が魅力的に思えたか…?」
「え…。あ、そうではないんですけど、何故、キルが継承権が一位でないのか不思議に思いました。例え側室の息子だとしても、あそこまで人の上に立つのが上手で信頼されている王子だというのに、何故、王位に就けないのか…。不思議でなりません。」
「…君も…そう思うのか。」
「え?」
「私は…兄上に叶うことは許されないのだな。」
「アル?」
「先に宮殿へ帰っていてくれ。私はやることがある。」
「え?あ、はい。いってらっしゃいま…せ!え?」
私は言い切る前にアルに唇を奪われた。
頭が真っ白になって何も考えられない…。
「こういう時は、行かないでって言えよ!」
「へ?」
アルとは思えない口調だった。
「オリビアは…私のことどうも思ってないのか…?」
「…え?」
そう言い捨てて、アルは馬を用意させた。
「アル?」
「ちょっと馬で掛けてくる。頭を冷やしてくるよ。何も言わないでいいからさ。」
そう言って馬に乗って宮殿から出て行った。
「…アル?変なの。」
「オリビア。」
「え?」
「宮殿まで送るよ。」
「キル!」
キルが後ろに立っていた。
キルは周りを見渡して少し俯いてから私に聞いた。
「オリビア。アルと何かあったのか?」
「え?キルは本当に察しがいいなぁ。うん。ちょっとね。アルに怒られちゃった…。」
やばい…
涙が出ちゃうよ。キル様に見られる。
私がドレスの袖で涙を拭きとろうとしたら、気づいたらもう、キル様の腕の中に私はいた。
「…キル?」
「袖だと汚れるだろ?泣いていいんだよ、見ないでいてあげるからさ。そろそろ両親が恋しいんじゃない?」
「キル…キル様!あぁぁぁー!」
私はこれまでにないくらい大泣きした。
この歳でキルの腕の中で大泣きするのは恥ずかしかったけど、見ないでいてくれたキルの心遣いが嬉しかった。

「キル…ごめんね。ありがとう。もうすっきりした。」
「そう。よかった。じゃ、送るよ。」
「あ、ううん。いいよ。大丈夫。ありがとう。」 
そう言ったら顔は笑っていたキルは少し目つきを変えた。
「…オリビア…きみは、やはり、アルに渡したくないな…」
「え?」
その瞬間だった。数秒もない。
その一瞬で私は、キルにキスをされたのだ。
アルみたいに目を閉じてくれないキルは少し笑いながらキスをした。
やっと唇が解放されて、キルは私を見る。
「…き、」
「オリビア。君は絶対俺のものにするよ。」
「え?」
「絶対に。君を好きになったみたいだ。」
神様。これは、俗にいう告白ですか?
アルベーサ第二王子とキルベール第一王子。
この二人には何かありそうです。
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