僕の秘密 彼女の不思議

三五八11

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残されたのは

残されて…

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「エンジェルフォール現象」
のちにそう名づけられたと聞いた。
カンナは大量の出血により
昏睡状態に、その血液を
細胞が補おうと働きだした。
これはもしかすると
オクトの子供を宿していたからかも?
と言う学者もいたが
オクトが精子提供を拒み続けるため
研究ができない。
急激にオクトのもつ「不死の細胞」が
活性化したせいなのか
お腹の子供はカンナに吸収されたようだ。
確かに搬入した際に念のために撮った
エコーには受精した卵子があったが
数時間後、念のためをさらに確実にするために再度行ってエコーには、影も形もなかった。
その時にカンナの上半身、特に肩甲骨が隆起し羽のように見えなくもなかった。
その時研究員の一人が「エンジェルフォール」と名付けたらしい。
聞いた時は「人の死さえ、彼らには研究の素材」でしかないのか…と少し気分が悪くなったが、すぐに切り替えられた。
これは死があまりに唐突で、まだ自分で消化できていないのか、それとも心の傷にさえオレの細胞は効くのか?と考えてみたが、自分で答えを求めていなかったらしく、何も思わなくなっていた。

だけど、ふと夜中に目が覚めて
一度だけ、カンナの死に際の映像が頭に浮かんできた。
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上半身の激しい痛みで
暴れるカンナを
武道の達人である葉月と出雲が
押さえきれない
それほどの痛み。と肩甲骨の隆起。
テコの原理というべきか
肩甲骨の先が支点となり
押さえにくい。
なんとか通伏せに寝かせたが
すでに肩甲骨の先は
擦過傷を通り越して
傷となり、血が滲んでいた。
そして、隆起しながら激しく床に
押し付けられたせいか
ドス黒く変色していた。

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オクトが呟いた。
「なにがエンジェルフォールだよ
 あの羽を見て、天使と思うわけない。
 悪魔の様な、黒くて血のついた羽…」
誰に聞いてほしかった?
きかれたくなかった?
聞かれたくない心の闇の吐き出し?
聞いてもらって、慰め程度の同意?
どれも正解で、どれも間違い。
そもそも正解なんてあるのか?
呟いた事自体が間違い?
?だらけの時間がオクトの夜を
睡眠時間をうばう。
一日くらいのオールが辛い年でもないので
考え過ぎかもしれないが
不死細胞が疲れを補っているのか
普通に過ごせてしまう。
重傷の人から見ると、寝不足程度で不死細胞を使うなど「無駄遣い」としか思わないだろう。しかし、その制御や譲渡を自分ではできない。
そして、心の中にネガティブが充満していく。が、その時不思議な程カンナを感じる。
カンナと出会う前なら、母親の顔や言葉で、さらに重くなっていたのに、俺も大人になれたな。と心の中で笑える程オクトは変わった。変わった自分を認識して、さらに笑える程。
なんとなく葉月にLINEをおくってみた。
【墓参りにいきませんか?】
共通の知り合いは、カンナか朝刊、あえて言うなら出雲くらいで、墓参りならカンナしか当てはまらないが、本文に『誰の』を入れていないことを、葉月に指摘され、汗のスタンプだけ返した。

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