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リリシアの事情を知った

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 今度はリリシアの夢を見た。

 彼女は子爵令嬢だった。
 可もなく不可もないシーベル子爵家の、これまた平凡な娘。
 見た目は一応貴族令嬢らしく、そこそこ整っていたが、目を惹くほどの美貌はない。
 緩やかな巻き毛の茶色い髪と、薄茶の瞳。身長は平均的。体格は少し細め。
 性格は少し、というか大人しく気が弱い。

 だから押し付けられた縁談を断れず、望まない結婚をする羽目になった。
 本来は本家のシーベル伯爵家の縁談だった。だが、従姉妹のベリンダ・シーベルが嫌がって、分家のリリシアが嫁ぐ事になってしまったのだ。

 従姉妹のベリンダには、幼い頃から振り回されてきたのに、結婚まで押し付けられた。
 そして嫁ぎ先のサルマン伯爵家では、不本意な嫁取りであったせいか、格下の子爵家の娘リリシアを冷遇した。

 更に、夫となったカイン・サルマンは横柄な男であった。
 淡い金髪と青い瞳の貴公子は、見た目は美男子だが性格が災いし、独身令嬢から敬遠されているような男だ。

 常に命令口調で、口答えを許さず、気に入らなければ暴力にも訴える。
 リリシアは身を竦めて過ごしていたが、乱暴な閨事数回で無事懐妊した後は、そっとしておかれた事が唯一の救いであった。

 しかし、カインはたまに思い出したように部屋にやって来ては暴言を吐き、調度品に八つ当たりをして行く。
 カインに壊された食器や椅子などを発見されては、リリシアが叱られた。

 姻家の義両親、使用人にも見下され、夫からは怒鳴られ暴力を振るわれる生活。その上食事すら満足に与えられていない為、医者からは「もっと栄養を取る様に」と指導された事をまた叱責された。

 リリシアは心身とも疲弊していた。
 離縁する事も出来ず、嫌いな夫の子を産む絶望感。
 生まれた子も、きっと不幸になる。

 ――もう、消えてしまいたいと思った。



 ***



「うっわー、不憫!!」

 リリシアの生い立ちを、夢という形で見た訳だけど、不憫の一言に尽きるわ!
 ああ、もう疲れちゃったんだね。
 わたしも疲れてたけどさぁ。

 子供の頃から勉強勉強、大学には奨学金で進学して、生活費をバイトで稼いで勉強バイト勉強バイトのループ。
 卒業したら今度は奨学金返済が待っていて、進んで残業して、休日出勤までして完済したのに、その結果が過労死って。

 あーあ、楽しい事ってあんまりなかったなぁ。
 旅行とかも行けなかったし、趣味を楽しむ余裕もなかったし、とにかくゆとりがなかったわよねぇ。

 そ れ な の に !

 別の人生でやり直しじゃなく、不憫なリリシアちゃんの人生を引き継いだだけって!!

 リリシアちゃんは現在十九歳。妊娠七か月。
 妊娠期間十か月っていうのは地球と変わらないから、あと三か月ほどで出産かぁ。
 それまでに心構えをしておかないとねぇ。
 それに生活環境もね! 妊婦なのに栄養失調ってどういう事だよ、こら!


 ――真に願った事が実現するギフト。


 これでどこまで出来るかなぁ。
 あの暴力夫を、部屋から追い出すことは出来たよね。
 それにちょっと押しただけで吹っ飛んで行ったわ。これって“肉体強化”のおかげ?
 今度、暴力を振るわれそうになったら、反撃しよう、そうしよう。

 しっかしアイツ、最低だな。
 訳分んない文句を言ってたけど、改めて思い出すとクズの発言だったよ。

 名前は忘れたけど、愛人関係にあるメイドに、わたしが嫌がらせをしているって怒ってたのよねー。
 なんだそりゃ。
 肩身の狭い思いをして、小さくなっていた大人しいリリシアちゃんが、そんな事出来る訳ないだろうが!!

 しかも具合が悪くて寝ていたのに叩き起こしやがって!
 そういえば心神喪失・仮死状態だったって言ってたわね。かなりやばい状態だったのに、全くあのクズは!

 そのクズの子供を産むのかー。嫌だなぁ。
 わたしにとっては見知らぬ赤の他人だし。

 ……いや、待てよ?
 リリシアちゃんはお腹の中の赤ちゃんになったって言ってたよね!?
 つまり、リリシアちゃんをこの世に、真っ新な状態で誕生させる訳よね!

「それならやりがいあるかもね」




 
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