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結婚することにしました
しおりを挟むそれからわたしたちは、予定通りの服飾店へ行き、冬物一着購入後、マシューに連れられて宝石店へ足を延ばした。
「婚約指輪は我が家に代々伝わるものだけど、サイズ調整しなくちゃいけないし、どうせなら普段付けられる指輪も買いたいなーと思って」
言いながらもわたしの左手を取り、薬指に大き目なサファイヤが輝く年代物の指輪を嵌めてくるマシュー。
うっ、ちょっときつい。なんか悔しい。
それにしても持ってきていたのか。準備が良いことで。
マシューは自分の瞳の色である青い小さな石が付いた指輪を、何種類か店員に見せてもらう。
そうか、お互いの色を持つのね。
「じゃあ、わたしの瞳の色の石が付いた腕輪をマシューに贈るね」
婚約・結婚に際して、女性は指輪、男性は腕輪を身に着ける。
わたしの瞳の色は榛色……トパーズあたりかな。
仕事の邪魔にならず、石が袖口に引っかからなそうな、シンプルなデザインを二つさっさと選ぶ。
ゴールドとプラチナ。シンプルなのに、なかなかのお値段。まぁ、何とか許容範囲。
まだ指輪を選んでいたマシューに、「どっちがいい?」と照れもせずに訊いた。
「そういう所だと思うよ、ミリーちゃん」
「なにがよ」
「実務的、かつ合理的に、情緒もなく物事を決めていく所。
さっきの店でもすぐに二着選んで『どっちが似合う』って訊いてくれたのに、結局僕が選ぶ前に取捨選択して決めてしまったよね」
「あら、女が『どっちが似合うと思う?』って訊いてきた時は、大抵もう決まってるのよ。
自分が選んだ方を彼氏にも選んで欲しい、後押しして欲しいっていう、若干相手を試すような行為は時間の無駄だと思うの。
因みにこの二つの腕輪なら、マシューにはプラチナの方が似合うと思うわ」
忙しい経理事務の仕事を捌いていくうちに身に染みついた行動ですが、え? 元からこんな性格だった?
なんでそこのベテラン店員さん、残念なものを見る目でわたしを見つめるのよ!?
確かに可愛げがないと振られたりしたわよ!
でも、容姿が可もなく不可もなく、中肉中背、ダークブラウンのストレートヘアに榛色の瞳っていう華がないわたしが、甘える仕草をしたってなんか自分で気持ち悪いんだもん。
「はぁ。僕が迷いがちだから、ミリーちゃんみたいにズバズバ決めてくれると助かるんだけど、何だかもうちょっとあれこれ楽しみたいっていうか」
つまりイチャつきたいって事かな?
ご要望にお応えして、ピッタリ隣に寄り添って、マシューの肩に頭を凭せ掛けてみた。
びくりとして、マシューの体が強張った感じ。あれ、違った?
「そういう事じゃなく……でもこのままでいいよ」
ちらりと見上げると、マシューが恥じらって顔を赤くしていた。可愛い。
そんな感じでお互いの意志が噛み合っていない所はあっても、ちゃんと指輪を選んだし、お互い嵌め合いっこして手を繋いで店を出る頃には、店員さんに生暖かい目で見送られたわ。
カフェでお茶もしてから帰宅。
いつの間にか伯母さんまで居たので、お互いの指輪や腕輪を見せて、「結婚することにしました」と皆に宣言しました。
そうなるだろうと予想していた母と伯父さん伯母さんは、笑顔で「おめでとう」と言ってくれたけど、お父さんはへの字口で、「そうか」と一言。
あれ? 父母よ、予定があるとか言ってなかったか?
既に一時解散して再集合したと。そうですか。
「公的なお披露目は、来年の年始の大舞踏会だな。結婚式の日取りも決めないと」
王宮で年に一度、年始に王家主催の大舞踏会が開かれる。
最初に王様から挨拶があり、前年の反省と今年の抱負が語られ、叙爵や受勲式が行われ、ダンスへと進行するそうだ。
その前に、明日から伯母さんが、貴婦人たちの社交・お茶会で息子の婚約が調ったことを触れ回るんだとか。
もちろん、伯父さんもマシュー自身も同僚たちにそれとなく話しておくんだって。
なんでそんなにする必要があるのか不思議だったけど、例のマシューの上司は侯爵様だそうで、結婚式前に横槍を入れる隙を与えないためなんだって。
昔は貴族の婚約は、然るべき部署に届けなければいけなかったけど、今は簡略化されて届けが必要なのは結婚のみとなっている。
だから婚約だけだと、力業でなかった事にさせる貴族もいるらしい。
どうやら切羽詰まっているらしい侯爵様には油断大敵って事ね。
お母さんと伯母さんが、舞踏会の衣装とかウェディングドレスの件で、本人そっちのけで喧々諤々言い合っているのを尻目に、これからの予定を、お父さん伯父さん、マシューとわたしで話し合った。
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