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第二章 俺tueeee!王子と婚約者候補たち編

第3話 性格が悪いというより他人の痛みが分からないヤツだった!

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 ――威圧を掛けられてる!!

 咄嗟に理解したのは、前回この王子に掛けられているから。

 いきなり何してくれちゃってんの!?
 すぐに防御魔法を展開したけれど、それでもかなりきつい。

 バタバタと倒れるような音に、ガシャンとティーセットがぶつかったか割れたような音がする。
 微かな唸り声も聞こえるわ。

 アリーチェさんは椅子に仰け反る様にして、気を失ったのか動かない。
 リリアーナさんはテーブルに伏しているけれど、肩や腕が動いているからまだ意識があるのね。
 レイチェルさんは椅子から体が斜めに投げ出されているのに、戻る気配がないから多分失神している。
 カタリーナさんはずりずりっと椅子から、ああっ、落ちちゃったわ!

 手を伸ばそうとしたけれど、無理だった。動けないから。
 テーブルに肘を突いて、何とか上体を起こしているだけで精いっぱい。
 前回よりも圧が強いのよ。

「へぇ、やっぱり耐えられるんだ」

 一人、なんていう事もなさげに、傍観者のような発言をする元凶。
 こンのぉ! 何そこで優雅に茶なんて飲んでるのよ!
 周りを見なさいよ!
 侍従さんや護衛騎士さんも膝を着いて苦しそうなのに!

 真っすぐわたしを見て、楽しそうに笑みを浮かべるクソ王子が席を立った。
 まずいと思いながらも目が離せないでいる。
 ざわざわと全身が粟立つ。何か目に見えない物に全身を撫でられているみたいな不快感。そしてそれよりも押しつぶされそうで息が苦しかった。

「体の周りに防御魔法か。魔法と精神両方ね。物理は入れないんだ。出来ないのか、今は必要としないと判断したのかな?
 魔力量八十? もう一つ上がったのか、早いな。それに……これは……ハハッ」

 何が楽しいのか知らんけど! 人が苦しんでいるのを見て笑うなんて加虐趣味でもあるの!?

「――面白い」

 まさか心を読まれた!?
 見上げるわたしに更に顔を近づけてくるその表情は、好奇心に溢れた子供みたい。
 わたしは息をするのも苦しいのに!

「君はすごく興味深いね。さぁ――」

 圧力が増した、そう思った時、いきなりバチンと衝撃音を響かせて、目の前のクソ王子が光る縄で拘束された。
 周囲に展開された魔法陣の中心に、王子はポカンとして座り込む。

 魔力の圧がなくなり、呼吸が出来るようになったんだけど、急に息を吸い込んだからか激しく咳込む羽目になったわ。
 でもまあ、とにかく助かったぁ。

 王子は多分、王宮の至る所に設置されている攻撃魔法防御魔法陣に捕えられたんじゃないかしら。
 あれだけの魔力放出をし続けていたから、魔法陣の起動条件に入ってしまったんだと思うわ。

 本当に理解しがたいけど、もしかしたらこの王子って、「俺Tueeee!!」で力をひけらかしたい子供なのかも。
 十五歳と言えば日本の中学三年生。『厨二病』とか引きずってそうなお年頃だもんね。
 ただ、日本の男の子と違って体格はいいし、何より帝王学を学んでいる世継ぎ(予定)の王子だ。単純に比較は出来ないけどさ。

 でもなぁ、もう物事の良し悪しの判断が出来なければならない年でもあるでしょう!? 教育係ぃ、何やってんのよぉ!!

 わたしはもう限界で、テーブルに突っ伏した。
 そんな所に乱暴に扉が開かれた音と共に、大勢の足音が聞こえて来た。

「何事ですか!!」
「ご無事ですか!?」
「殿下は…………は?」

 あー、防御魔法陣が起動したから、一大事だと駆けつけて来たんだろうな。
 そしたら、捕えられているのが王子! だから混乱しているんでしょうね。
 ふふっ、ちょっと笑えるわぁ。


 ――と、ここでブラックアウト。



 ***



<第一王子視点>


「第一王子殿下、一体何をお考えであのような事を為されたのですか!?」

 普段なら、このような小言を言ってくるのは筆頭侍従なのだが、生憎彼も現在医務室に運ばれている。
 威圧を掛けるのは令嬢たちだけにするつもりだったのだが、どうやら思いの外魔力が溢れ、部屋にいた全員被害に遭っていた。

 壁際に控えていたメイドたちが、バタバタと倒れた時に気づければよかったが、真正面のに集中していた為気が回らなかった。

「妃候補たちが、どれほど魔力耐性があるのか試してみたくてね。だが、思いの外弱かったようだ。
 わたしの側にいる事になるのに、何かにつけ魔力に当てられて倒れていたら、将来差し障りがあるだろう?」

 五人中三人がすぐに失神した。
 リリアーナ嬢は気を失わないよう堪えていたようだが、体を起こす事もままならない様子だった。

 そんな中、ただ一人、真正面から威圧を受けたにも関わらず、テーブルに伏せる事もせず正気を保ち続けたベアトリス嬢。
 つい、どこまで耐えられるのか試してみたくなったのだが、さすがにまずかったか。

 部屋にいた、わたし以外の全員が医務室に運ばれて行った後、父上の執務エリアの応接室に場所を移された。

 今ここにいるのは、父上と、護衛に駆け付けた第一騎士団長、現場に駆け付けた第二騎士団団長と副団長、それから何故か姉上が険しい顔でこちらを睨んでくる。

 冒頭の小言を言ったのは第二騎士団長で、わたしの問いにもならない問いかけに答えたのも彼だ。

「みだりに威圧を掛けないで頂きたい。将来困るですと? 困る事はありませぬ。殿下が魔力を完璧にコントロールすれば良いだけです」

「わたしに相応しくあろうと努力するのは妃側ではなく、わたしが下に合わせていくのか?」

「その通りです。殿下は誰よりも圧倒的に魔力量が多い。殿下程の魔力量を誇る者は滅多に存在しませぬ。
 だからこそ、感情のまま魔力が漏れ出るのを防ぐよう、訓練をしなければならないのです。殿下より弱き者と共存していく為にも」

 父上が溜息を吐きながら頷く。

「確か、魔力制御は完璧だと、教師からは報告を受けていたのだがな。
 意図した方向以外にも影響を与えてしまうというのなら、それは完璧ではない。改めて訓練を申し付ける」

「あら、お父様、魔力制御の訓練だけしても意味がありませんわ。
 シオンは自分が優秀だから、他人の心や痛みが分からないのです。
 ですから平気で人を試す事もしますし、自身の合格ラインに届かない者は切り捨ててしまいますの。今までどれだけの侍従や護衛が代わったと思ってますの!
 身の回りの世話をする上級メイドなど、専属には出来なくて持ち回りですのよ!
 本当に、冷酷で傲慢なのですわ!」

 ここぞとばかりに姉の口撃が痛烈だ。ただ、わたしにも言い分はある。

「わたしの要求に応えられない者を、いつまでも側に置いておく方が、双方の時間の無駄というものです」

「コレですわ」

 肩を竦めて父上に視線を送る姉上。一体何が悪いのか、わたしには分からない。
 父上は顔を顰めてるが、やはりわたしが悪いという事か?

「……なるほどな。ここでの言葉のやり取りだけでもそれが窺える……シオン、おまえは優秀だが、誰もがおまえと同じように出来る訳ではない。それは理解しているか?」

「はい」

 わたしと同じレベルで語らい、魔法訓練が出来た者は未だに居ない。
 剣術は達人の域には程遠いが、元々ある程度の使いこなせる程度で良い事になっていたし、それは騎士の務めである。

 教師曰く――
 魔力量が極端に多い者は、溢れる魔力により心身が強化され、早熟でもあるそうだ。

 確かに勉学において、聞いたり教えられた事は一度で理解し覚えられる。教育課程の座学は既に修了していた。
 つまり、貴族学院に通うのは義務で致し方がないが、授業はとてもつまらないものだった。
 後は実技だけだが、学院の授業なので無理をさせられる事もない。

 皆が第一王子は天才だ、優秀だと誉めそやすが、自分が特別なのだとは思っていなかった。
 簡単な問題で頭を抱える姉や弟を見て、不可解だとは思っていた。

「これ位、出来て当然だろう?」

 何故解らないのか、と言うと睨まれる。
 兄弟が自分と同じように出来ないのなら、血の近い従兄妹たちはどうか、祖父母に叔父伯母などにも様々な問いをしては、どのような反応が返るのか試して行った。

 更には身分の差にも関わるのかと、侍従や従僕、メイドなどにも質問を投げかけてみたが、身分が下がるにしたがって、問いかけの内容よりも、わたし自身に恐れを抱いているのだと気づいた。

「殿下が無表情であられると、その美貌も相まって、不快に思われているのだと勘違いされてしまいます。殿下、微笑ですよ。教わりましたでしょう? アルカイックスマイルです」

 ある時、侍従長にそう注意されたのだが、なるほどと合点がいく。
 それからはほとんどの場合、薄く微笑むようにしたら、相手の態度が軟化したのだ。
 どの程度の表情が有効か、という事も研究した。
 それが功を奏して今では“人当たりが良い”と言われるほどだ。
 令嬢や夫人方では、微笑みかけると頬を赤らめる者まで居る。

 言葉運びも柔らかく聞こえるように、様々なパターンを瞬時に連想し言葉に乗せる。
 言い方一つで相手の態度が変わるのだという事も実証済みだ。

 ただ、時には面倒になる。

 そういえば、ベアトリス嬢との初対面の時がそうだったかもしれない。
 明らかに相手に非がある事柄ではあったが、無表情に威圧を掛けていた。
 しかし、その時はどう思われようが構わなかったんだ。

 今日は興味が先走り、かなり視野が狭くなっていたせいで追い詰め過ぎた。
 だってそうだろう?
 こちらの威圧に対抗して、瞬時に防御結界を構築したり、そのせいで鑑定がし難かったから間近に迫ったら、思いがけない印を見つけたんだから。

 滅多にいないスキル保持者だが、文献に“ソレ”はスキルだと記されている。
 しかし、神殿での魔力鑑定でも、固有魔法の鑑定でも、“ソレ”は見破れないモノだという。

『神の恩寵』持ちを見つけられるのはただ一つ、体のどこかに刻印されている『神の御印』を探す以外ないのだと。

 そして見つけた。
 蒼褪めてこちらを凝視する青灰色の瞳の中に、銀色の御印が確かに浮かんでいた。

 さて、どうしたものか。
 今の話の流れで行くと、ベアトリス嬢は婚約者候補から降ろされてしまうかもしれない。
 元々五歳も年下なのだから、本来ならアンリの候補者である方が自然だ。でも、わたしはあんな面白い物を譲る気はない。

 わたしを睨む面々を見回す。
 まずは反省の姿勢を見せるべきだと思考を巡らせ、実行に移した。





 ++------------------------------------------------------------++

 <作者より>

 書いている内に予想以上にクソ野郎になってしまった王子に頭を抱えておりました。
 悩む事一日。
 なんとかこんな感じに収めましたがどうしたものでしょう(汗

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