自伝であり遺書である。

とまと

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10話

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建物が崩壊した直後にトットは家族の待つ家へと飛んで行く。それを木村は朦朧とした意識のなか確認する。

「やれやれ」

身体を起こし、状態を確認する。唐突に電話がなりスマホを取り出し出る。

「もしもーし、さっきの電話何ですか?じいさんを殺せってタチの悪い冗談。全く面白くないですけど」

スマホからハナの声が聞こえる、いつもの丁寧な喋り方ではなく、少し小馬鹿にした様な言い方だった。

「あぁ悪い、お前が暇だろうから笑わせようと思ってな。」

タバコを取り出し火を付ける。どうやら身体に痛みはないようだ。辺りを見回すと、木村の周りにだけポカンと空間があった。

(たくっ、故意なのか偶然なのか…)

「ちょっと聞いてますか?そちらの状況は?」

小沢一家を発見し、2人で倉庫まで移動している事はメールで知らせていた。

「あぁ、問題ない、ちょっとスーツが汚れたくらいだ。」

(…くそっ!気に入ってたのに)

そのスーツは以前、珍しくハナに褒められていた。

「はいはいスーツがね、それで彼の能力は確認できましたか?」

ハナには倉庫で彼の能力値を計ると言ってあった。

「確認した。予想通り毎日倍々に上がってやがる。今じゃ倉庫を吹き飛ばすほどだ」

瓦礫をかき分け外に出る。車が無事な事に安堵する。

「えっ…吹き飛んだって…タロさん本当に無事なんですか!!?」

全く怪我がない事を伝え、事の経緯をかいつまんで話す。

「どうして!どうしてそんな危ない事をしたんですか!?一歩間違えれば死んでたかもしれないのに…」

怒鳴り声の後に鼻を啜る音が聞こえる、泣いているようだ。無駄に心配をかけた事を謝る。

「悪い、だが奴の本質を探る必要があった。確かめるには、怒らせるのが手っ取り早い」

理性のブレーキが効かない状態で、彼がどちらに舵を切るのか確かめる必要があった。人類の敵となりうるか。結果として木村は悩む、暴走した状態の彼を前に怪我一つない事に。

「…それで、タロさんの判断は??」

泣いた事を悟られないように声を出す。

「半々だな…これからの状況次第じゃどちらにでも転び得る。《上》には警戒レベルを最大限に上げるよう報告する」

半々と言ったが『0』で無い以上、木村の中では排除する事に躊躇はなかった。




トットは急いで自宅へと戻っていた。目には涙を浮かべ、ポロポロと後方へ飛んで行く。
30分程飛びもう少しで家に着く距離で、ブルブルとポケットでスマホが震えている事に気付き、急いで止まる。画面を確認すると『ジジさん』と出ていた。

「おーう時寺《とうじ》おめえずっと電波届いてなかったがどこ行ってたんだ?」

スマホから聴き慣れた声が聞こえてくる、脳の理解が追いつかずに停止する。

「まぁそんな事はどうでも良い。それよりな昨日宿に戻ったら携帯電話がない事に気付いてよう、あっちゃこっちゃ探すが無ぇ。旅先だしどうしたもんかと悩んだが、カメラはあるしどうにかな…」

ジジの声は聞こえるが、内容が全く入ってこない。ただ無事な事にボロボロと涙が溢れてくる。

「…んでそこの飯屋がビックリするくらい旨くてな!今度カカさんとミーも食いに連れてってやるからな!」

どうでも良い話しを長々と聞かされ、少しだけ落ち着きを取り戻す。

「そんでよ、全部食ったから会計しようとゴソゴソカバン漁《あさ》くってたらな、何があったと思うよ?」

唐突に問題を出される、笑って「知らねぇよ」と答える。

「なんとな携帯電話があったんだよ!がっはっはっは!」

面白いだろと言わんばかりに豪快な笑い声が聞こえる。

「俺もとうとうボケてきたな。喜べ時寺《とうじ》、お前のじいさんの老い先は短いぞ」

縁起の悪い冗談を言い、再度豪快に笑う。

「遺産も無いくせに何言ってんだよ!まだまだ長生きしてくれよ、ミーがおばあちゃんになるまで元気でいろよ…」

そう言うと又ポロポロと涙が溢れる。

「何だお前、泣いてるのか…?ミーがばあちゃんってそりゃ、無理だろ」

2人で笑い通話を切る。


家に戻り事の経緯をカカに話す。ジジが無事な事に安堵しヘナヘナと座り込むカカ。

「心配かけたね、ゴメンよ」

返事がない代わりにカカがトットの首に手を回し抱きしめる。1分程2人で無事を喜んでいると、後ろから「ミーは?」と声をかけられ2人は顔を見合わせ大笑いする。

その日は3人で早めの布団に入る。カカとミーの寝息を聞きながら考える。身体はいつになく疲れていたが、脳が眠る事を拒否していた。

(貴方の意思に関係なく簡単に人を殺す事が出来る)

木村の言った言葉が、幾度となく現れては消えていく。

(今日俺は……あの人を殺した。意志があったのか無意識だったのか分からないが、あの人は死んだ)

繰り返し循環される言葉の渦

次第に眠りへ落ちていく

死と連れ合いながら堕ちていく

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