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CAPÍTULO2

Episodio0. 三の無い二は無い

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 闇を深めるフクロウの鳴声。
 不吉な金切り声を上げるサギ。
 夜の虫が木々を這いまわり、
 獣が息を潜める。
 辺りに灯の入った家は無く、
 人は寝静まる深夜。

「どうして私がこんなことをしなくちゃいけないんですかねぇ!?」

 若い女の声が一帯に響く。

「静かに手を動かしていただけませんかね?ケラス・ティーバ少尉」

 俺は女を振り向きもせずに言った。

「婦女子をこんな夜中に呼び出すなんて……!」と、ケラスが怒っている気配がする。
 何が婦女子だ。ケラスは工廠最強の戦闘乙女。並みの男が敵うはずがないし、彼女の実力を知る者は彼女をどうこうしようなんて恐ろしいことは考えないだろう。
 しかし、ケラス・ティーバは海軍中佐の護衛武官だが、若く美しい女性だ。豊満な体にぴっちりした軍服を身に着けているのも良い。黒い海軍のお仕着せがストイックなセクシーさを演出している。こんな夜更けに良い女と二人きりなら、俺のテンションが上がってもおかしくない筈だった。

 

 俺は溜息を吐きながら、手に持ったスコップで足元の地面を掘り返す作業を続ける。向かいのケラスもしぶしぶ作業を手伝っていた。二人のまわりには掘り返された土が積もっていて、それはうっかり踏みしめると足を取られる程柔らかかった。
 当然だ。

「こんな仕事ばっかり。もう俺が手を貸すのもこれっきりだ!」
「何を甘い事を。二度あることは三度あるっていいますから覚悟を決める事です」
「それを言うなら三の無い二は無いだろ。変に転生ナイズされやがって」
「懐かしいから良いじゃですか」

 俺もケラスも日本で生活していた記憶がある。前世と言うか。俺は前世の自分の姿を思い出せないでいるが、ケラスの前世の人物は知っていた。
 小西大樹。
 ケラスは性別も性格も全く違う風に転生したが、へらりと笑う仕草は懐かしさを伴った。
 俺達は他愛ない言い合いをしながら手を動かす。
 暫くすると、こつん、と音がした。
 スコップの先が硬質なものにぶつかったのだ。
 二人、顔を合わせると、急いで周辺を掘り進めた。
 出て来たのは立派な棺。
 俺はその蓋を取り外した。
 棺の中を開いてごくり、と喉をならす。
 そこには、永遠に眠りにつく白骨が納められていた。
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