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飛べない動物と武官

4 ノーニス② その他現生生物とすべての共通の祖先を意味する。

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 私は会場の奥に設置された簡易な厨房へ戻ろうとする給仕の女性を呼び留める。ウサギの様な耳を持った彼女は慌てて振り返ると、一杯しか残っていなかったシャンパンを薦めた。私は、そのフルートグラスを受けとる仕草で彼女の手首を掴む。驚いてトレイごとグラスを落さないよう、強い力で。彼女は怖気づいた顔で私を見上げ後退ろうとした。私はそれを許さず、廊下脇の小部屋へ引きずり込む。

「な、なんなんですか、貴女は!?」

 給仕が大声を上げる。長い耳がぷるぷると震えていた。それを横目に見ながら私はグラスを傾けた。料理と違って馴染みのある味。酒はエナンティオから取り寄せたのかもしれない。そう言えばイベロメソルの住人は酒を飲まないらしい。

「他市の人間が飲み食いするのは不快だろう」
「いいえ、私はこの城に雇われています」
「そう?仕事熱心なことだね。
 君は新しい責任者がエナンティオから派遣される前から働いているんでしょう」

 私がそう言うと、彼女は怒りに任せて開いた口をぐっ、と噤んだ。

「君は玉座の間で火事があった時その場にいたはずだ」
「……私には何の話か…」
「分からないって?ひょっとしたら君は今日も行ったんじゃないかな。落雷の後に」
「なっ、何を根拠にそんなことを言うの!?この城の従業員は一新されたのよ!」

 給仕がきっ、と睨んでくる。

「根拠ね、勿論あるよ。君のその靴、どうしたのかな」

 思わず私の視線の先を追った彼女が自分の靴先を見て驚愕する。彼女の靴は所々青く変色していた。

「それは玉座の間のタイルが溶けたものだろ?
 君は火事の現場にいた。しかもかなり近くで目撃していたはずだ。最初の火災でタイルが溶けていたのは舞台の上の一部分だけだったからね。舞台の上に上がって、     
 …力を使った?木材を燃やして地下への通路を塞ぐために」
「私は2の質よ!この城で火の力は使えないわ!」
「では、君がしたのは落雷後に通路を塞ぐことか。5の力なら壁を変質させることが出来るだろう」
「………」

 給仕は今更ながら押し黙った。これまでの彼女の様子を見ると、激高して叫んだり、明らかに狼狽したりと、とても犯罪に手慣れているとは思えない。犯行も大事で人目に付きやすいものだった。単独の犯行ではないだろう。

「地下の書物を隠すだけにしては大げさじゃないかな?一体なぜこんな事をしたんだか」
「……貴女達よそ者には分からないわ」

 私を睨む彼女の目に強い光が灯る。

「貴女達にこの城の本当の価値なんて分かる筈がない!
 ここには私達が住む世界の歴史があるのよ。
 大切に保管された書簡は、何代も、何代も、書き加えられてきたもの。
 砂と共に生きて来たこの記憶は私達だけのものだ!
 エナンティオの兵器にはさせない!」
「…エナンティオの兵器だって?」
「知っているのよ。エナンティオに古書が集められているって!隣国にでも攻め入るつもりなんでしょ!?カラ城の貴重な書物をそんな道具にされるなんてごめんだわ!」

 物騒な話に私は眉を顰める。

「声高に話す内容じゃないな。今すぐ古文書の隠匿の罪で捕まえても良いんだぞ。
 ……それは誰の入れ知恵なんだ?そいつが放火の犯人か?」
「……皆知っていることよ。
 私達は指定管理者制度が導入され一時解雇された時に、地下室の事を秘匿してこの城を去った。私や一部の従業員は、隠蔽工作や見張りの為に残ったけど。やっぱりあんたみたいなエナンティオの犬が来るのね」
「あいにく鼻が効くんでね」

 給仕が再び噛みつくように口を開こうとした時、城内に爆音が響いた。
 二人とも弾かれたように顔を上げる。
 給仕の腕を掴んだまま廊下へ出ると、城内の客や従業員が出口を目指して退去していた。しかし、ここは城の最奥で爆発は恐らく中央部分。警備員が大声で人々に会場へ戻るように誘導している。賊が正面から壁を越えて襲撃している旨が聞こえて来た。
 玉座の間が狙われた!
 上空にいくつもの稲光が走るのを見て焦る。
 爆音も断続的に続いている。
 激しい攻防の中で輝く金髪を容易に想像できた。
 突然、夜空が赤く染まる。

「書庫が!」
 
 給仕が小さい悲鳴を上げる。
 燃え上がる火柱を見て思わず緩んだ私の指を振り払って給仕が走り出した。
 長い耳が後方に揺れる姿が、会場へ戻る人波に逆らって走る。
 私も直ぐに後を追った。
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