アリアの旅日誌

積雪の銀ギツネ

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飛び立つ羽

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お婆さんが暖炉の前にある椅子に腰を掛けながら、
赤い毛糸で編み物をしていました。
灯りは暖炉の火だけでした。

そこへ小さな女の子が目をこすりながらお婆さんの所まで、
ゆっくり近づいて行きました。

それに気がついたお婆さんは
「目をさましてしまったのかい?」と聞きました。

女の子は小さくうなずき、お婆さんの膝下に顎だけを載せて言いました。

「お婆ちゃん、お話して」
そうしてくれないと、私寝てあげないよ。

「仕方ないねえ」
お婆さんはとても優しい顔になって、編み物の手を休めずに語り始めました。

「昔、王様には三人の息子がいました。
その三人の息子はとても健やかに育ちました。
皆、それぞれ国をもっと豊かにしたいと考えていました。

ある日、その三人は噂を聞きつけました。

街から少し離れた静かな場所で、少し前から三人のとても美しい娘が住んでいると。
息子たちはひと目見てみようと考えました。
夜、皆が寝静まり返った時にこっそりと城を抜け出しました。

暗い夜道には丸い月の明かりが照らされていました。
そのおかげで、すんなりと娘たちのいる家を見つける事ができました。

息子たちは窓の隙間から家の中を覗いてみると、
それはとても美しい娘がいました。

一目惚れでした。

息子たちはさっそく三人の娘を嫁にしようとしました。
翌朝、娘に会いに行きました。

しかし、娘たちに断られてしまいました。

息子たちは、どうしても娘と結婚したいと思いました。

三人で話し合った結果、ある事を思いついたのです。

娘たちが大切にしている宝物を盗もうと。

息子たちは娘の居なくなった時をまち、
家の中に勝手に入ってしまいました。

そして、娘たちが大切にしていそうな宝物を三人は見つける事ができました。

少し時がたち、娘たちが家に帰ってきました。

そこへ息子たちがやってきて言いました。

宝物を返してほしければ、結婚するしかないと。

娘たちは、」

お婆さんは話聞かせながら、そっと女の子の顔を覗き込みました。
「おやおや」

小さく息をして、気持ち良さそうに眠っていました。

「仕方のない子だね」
どこか嬉しそうになりながら、お婆さんは自分の肩にかけていた布を女の子にかけてあげました。

ーーーーーー

「コンコン」
王が寝室の扉を静かに叩いた。

「入っていいわよ」
すると、とても弱々しい声がかすかに聞こえた。

ゆっくりを扉をあけると、ベッドに横たわる女性がいた。
年齢はすでに70,80くらいだろう。
白髪がとても似合う年齢だ。
肩あたりまで切られている髪の毛が、窓から差し込む月の光で輝いてみえそうだ。

王が寝ている女性に近づいていき、横に立つと
「大丈夫かい」と囁いた。

「ええ、ありがとう、あなた」
女性がそっと王を見上げた。
王もまた、風格ある容姿だった。

横たわっている女性は、王妃だ。

王はそっと王妃の手を握りしめて、
どこか寂しそうになりながら「本当にいいのかい」と訪ねた。

王妃は目と顔だけで頷き「あの人の為にきっとなるはずだから」と言うと、
目をつむり、静かに眠りについた。

ブロンド色の長い髪、透き通る様な金色の瞳。
自分の姿を鏡にうつして決意を固める。
アリアは自分を見つめて言い聞かせていた。

「必ず、解決してみせます。」

私は王妃に育てられた。
だから、貴女をこのまま暗闇の世界で失いたくないのです。

次の日の朝、玉座に呼び出された。
王はアリアに形式として、この世界に起こっている元凶の調査の命令をいい果たした。

そして夜になり、アリアは身支度を整えた。
「これでよしっと」
準備はできた。いつでも私は出発出来る。
正直、不安でしかないこの先の旅路を押し殺して立ち上がる。

最後に挨拶をする為に、王妃の寝室に足を運んだ。
手を軽く握りしめ、扉を叩こうとしたら
「入ってきて頂戴」と弱々しい声が部屋の中から聞こえた。

慎重に扉を開き、中の様子を伺いながらも入って行く。

そこには王様とベッドに横たわっている王妃の影が見えた。

「あの、」アリアから話しかけようとしたが、
「来てくれてありがとう」と王妃が先に声をかけた。
とても暗い部屋の中で、表情が分からない。

「いいえ、私はこれから少しここを留守にします」

「ええ、そうね」
すでに知ってるのだから、当たり前の返答だった。

「もう少し、近くによってきてくれないかしら」
王妃はそういいながら、自分の首につけている首輪を取り外した。

「これを貴女にあげるわ」
私はそっと王妃の手に持っているモノを受け取った。
「これは」
人の血液を連想させるような赤い色のした一本の糸が、
汚れないどこまでも真っ白な白い羽を通していた。

「私、いいえ、貴女の大切なものよ」
そう言って王妃は私の手を力なく握りしめた。

王様はうつろな目をし、拳に力を入れた。
「アリアよ、無理はしなくてい。」
とても震えた声だった。
怒りとも悲しみとも、なんとも言えない声。
「だが、頼んだぞ」

私はそっと王妃の手を振りほどき、
そして首輪を握りしめ寝室を後にした。














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