此岸の華

百尾野狐子

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清音⑦

此岸の華

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鬱蒼とした森の中は禍々しい気配に満ちていた。
「…何だ…此処は…」
常人ならばただの鬱蒼とした森に見えるだろうが、俺のような異能者の目から見ると、この地はまるで異界に見えた。
観光名所である鎌倉に、まさかこれ程負の気が蟠っている場所があるとは知らなかった。黄泉の国よりも更に底にある世界の、怨念のような禍々しい気配が地の底より滲み出て、森どころか山全体を覆い尽くそうとしているように感じた。
こんな場所に囚われている水音を思うと憔悴に鳩尾が焼かれる。
早く助け出さなければ、水音の精神がもたない。
審神者である者が傍にいればまだ何とかなるだろうが、それでも長時間はもたない。
はどうする腹積もりじゃ?』
肩に留まった式神が俺に問い掛けた。
勿論、水音を救出し、尾張の長の息の根を止めに来たが、この場所の様子を肌で感じた今、短絡的に尾張を壊滅させるわけには行かなくなった。
「水音を先ず助け出します…が、弟媛様、この気配は何ですか…」
『…分からぬか?これは水蛭子ひるこの怨念じゃ』
「水蛭子…?」
予想外な名を耳にした俺は、思わず肩のカラスに視線を向けた。
水音の右目の色とよく似たカラスの目の色に、俺の憔悴は益々強くなった。
『まだ目覚めてはおらぬが…時間の問題じゃ。淡島あわしまが目覚めたようじゃから』
「淡島…?」
ちょっと待て。水蛭子と淡島?何故その名が出て来るんだ?
「何故、尾張が?何のために…」
『汝は薄々気付いているのではないか?尾張が何故橘に反目するのか』
「…いや、しかし…現実的には有り得ない推測に過ぎず…」
『神の声を聞き、異能を持ち、異界の存在を知る者が何を言う。常世の理など砂塵の粒の如き小さな物…汝はまだ番の儀式を済ませておらぬ故、吾の口から話す事は出来ぬが、儀式を済ませれば全て知る事となる』
弟媛様の言葉は、式神の範疇を越える物だった。
儀式を済ませれば知る事が出来る?
それは橘一族の全てと言う事か?
「…弟媛様…貴方は何者なのですか?」
『…それも全ては、儀式を済ませれば分かる事。真に神子の番となり、橘一族の審神者となった者にしか真実は告げられぬ。告げたところで、それ以外の者の記憶に真実を留めておく事は出来ぬ故、語るは無駄な事』
つまり、水音を抱けば、一族の全てを嫌でも知る事となると。番以外は、一族の全てを知る事は出来ないと言う事か。
ならば、俺が先ず成す事は、水音を救出する事だ。尾張の事は後回しだ。
闇深い森を見渡し、神経を集中させる。
水音とは違い、俺には遠くの思念や残留思念を読み取る事は出来ない。
微かな尾張の式神の気配を辿るが、水音の居場所を特定出来る手掛かりは掴め無い。
「弟媛様…水音の居場所を辿れますか?」
『…途中迄なら』
「それでも構いません」
『禍々しい気配が最も濃い場所を目指せ』
弟媛様の言葉に神経を集中させ、進みたくない方角へと瞬間移動した。
俺がこの山中に瞬間移動した時に、恐らく張り巡らせた結界の警告が発動して、俺の侵入は尾張側の知る事となっているだろう。
能力を使い続ければ体に負担は掛かるが、今は一秒でも早く水音の元へ行く必要がある。
一際深い闇を感じて移動を止めると、そこは二階建ての現代風ではあるが、瀟洒な洋館だった。
中から慌ただしい気配がし、見知った気配が洋館から遠ざかるのを感じた。
「この気配は…尾張の長か」
後を追おうとしたが、弟媛様の呟きに俺は動きを止めた。
『志音め…無茶をする…躰がもてば良いが…』
「父さんが何ですか?」
俺の問いに弟媛様は首を傾げた。姿はカラスだが、その仕種が妙に女性らしくて、この神の正体が何者なのか確信した。
『…志音はこの館に囚われておる。志音を優先するならば、水音の行方を追うのは難しくなるが、汝はどうする?』
「囚われ…どういう事です?」
『汝には感じられぬか…志音の躰は形代として使われておる』
形代と聞いて俺の中で様々な疑問が繋がり、憔悴の中で燻っていた怒りが爆発した。
俺は怒りのままに力を放出して、洋館から放たれる禍々しい気を力任せに祓った。
その時、物理的に洋館の一部が吹き飛び、辺りに爆音が轟いた。
洋館の中から悲鳴と怒号が響く。
父さんを残して水音の元へ行くのは辛いが、俺はあの人の力を信じている。
父さんが諾として形代になったとは思えない。底知れないあの人の思惑が何なのかはまだ確信が持てないが、俺の推測通りなら今は水音を優先するべきだ。
力業だが一旦禍々しい気を祓ったから、尾張の思惑を一時的だが妨害する事が出来た筈。
俺は洋館を通り過ぎ、尾張の長が向かった先へと急いだ。
辺りに張られた結界と封印の罠の処理は式神である弟媛様に全て任せ、俺は走った。
革靴にスーツで全力疾走をする羽目になるとはついぞ思わなかったが、疲労は感じなかった。
鬱蒼とした森の中に隠れるように建つロッジ風の建物が視界に入り、その中に入ろうとしている見知った男の姿に抑えていた怒りが再び爆発した。
死んでも構わないと思いながら力を使って男の体を吹き飛ばした。男も伊達に一族のトップを張っているわけでは無かったらしく、致命傷は避けたようだが気を失って倒れた。
弟媛様が俺の理性を繋ぎ留めるかのように、俺の肩に再び留まり、一声鳴いて教えてくれた。
『水音と成人はあの木の後ろじゃ』
弟媛様は羽根を羽ばたかせて空を翔び、木の枝に留まってまた一鳴きした。
『この下じゃ』
暗闇の中で微かに揺れる影を凝視し、逸る自身を抑えながら近付くと、逢いたく堪らなかった愛しい存在を確認出来て思わず拳を握り締めた。
逢わない間に伸びた髪は、水音の細い顎先のラインを隠していた。
漆黒と淡い紅茶色のオッドアイが、俺に向けられている。
触れると柔らかな赤い唇が震えていて、声にならない声で清兄と紡がれた。
激情が胸を熱くするが、水音が俺以外の人間の手を取っているのを見て嫉妬に頭が沸いた。
例え少年でも、俺のモノに触れる事は許容出来ない。
素早く二人の身なりを確認し、衣服に暴行の後が無い事を見て安堵して溜め息を飲み込む。
しかし案の定、水音は立ち上がる事も出来ない程消耗していた。早くこの禍々しい場所から連れ出さなければならない。
足早に近付き、涙を溢れさせて俺を見つめる水音を抱き上げて能力を使おうとしたが、水音に頬を触れられた瞬間理性が飛んだ。
無意識に水音の唇に自身の唇を重ねていた。
久し振りに触れる水音の唇の甘さに俺は溺れた。
柔らかな唇を食み、水音の口腔内を舌で確かめるように舐め尽くし、水音が意識を飛ばすまで貪ってしまった俺を、弟媛様は苦笑混じりに見守っていてくれた。
「…待たせてすまない」
成人少年は辺りを警戒しながら俺達の再会の抱擁が終わるのを待っていてくれた。
噂に違わず、優秀過ぎる程優秀な少年のようだ。
「…いえ。お久し振りです」
成人少年は淡い栗色の髪を気まずげに掻き上げながら苦笑した。
「私を覚えていたとは光栄だ」
成人少年と俺は毎年元旦に藤堂一族が催す新年のパーティーで、挨拶を交わすだけの面識しかなかった。
そのパーティーは本家、分家、遠縁と、藤堂一族総出の恒例パーティーで、橘一族を代表して筆頭審神者である俺が出席していた。
医師が本業だったため、都合がつかずに香音に代打を頼む事も多く、俺が成人少年とパーティーで逢ったのは二度だけだった。それでも俺を覚えているのだから、彼の優秀さが本物だと言う事が分かる。
「橘さんに一度お逢いしたら、忘れる方が難しいかと」
成る程、確かに一理ある。
俺は良くも悪くも印象に残りやすい。美形だらけの藤堂一族の中でも、橘の美貌は趣が異なって目立つのだろう。なんせ、あの藤堂一族は揃いも揃って西洋人の血が濃く出ているから。
「水音が大分世話になったようだな」
腕の中で疲労感も濃く深く眠る水音の額に一度口付けを落とし、見上げて来る成人少年に軽く頭を下げた。
「いえ。僕の方こそお世話になりました」
「詳細は後で聞かせて貰いたい。取り敢えず、私の腕に捕まってくれ。移動する」
俺の言葉を聞いた弟媛様が、再び肩に留まって一鳴きした。
それを合図に成人少年は慌てて俺の腕を掴み、それを確認してから俺は能力を使った。
三人の人間を長距離で瞬間移動するのは初めての事だ。
近年稀に無い程の疲労感に倒れそうになったが、俺は何とか奥宮まで瞬間移動を成功させた。
流石に体力の限界を自覚し、成人少年を香音に任せると、香音が準備してくれていた儀式を行う為の宮へと水音を運んだ。
祭壇の奥に絹の褥が用意されており、俺は水音をそこに寝かせた後、自分も水音の横に並んで目を閉じた。
今は抱きたくても水音を抱く体力が無い。水音もいつ目覚めるかは分からない状態だ。しかし番の儀式を済まさなければ、尾張を始めとする今のこの状況を打破する事は出来ない。
『水音…すまない…』
俺が目覚めたら、例え水音の意識が戻っていなくても抱くつもりで、俺は束の間の休憩に身を委ねた。



「…にぃ…清兄…愛してるよ…」
水音の囁く声が聞こえた。
ゆっくりと眼鏡が抜き取られた感触に、意識がゆっくりと浮上して行く。
閉じた俺の目尻に柔らかな感触がして、泣き黒子にキスされた事が分かった。
優しく俺の髪を指で梳き、水音は俺の耳にも口付けを落としてまた囁いた。
「愛してる…」
衣擦れの音と共に繰り返される優しい口付けの心地好さに、俺は寝た振りを続けた。
どうやら水音は俺より早く目覚めたようだ。俺の鼻孔を擽る爽やかな中にも甘さが感じられる香の薫りは、水音の体臭と混じり合って俺の官能を揺さぶる。
俺の体を慰撫するような水音の動きによって擦れる滑らかな衣服の感触が、水音が纏っている衣服が絹の単であると分かった。
恐らく水音は目覚めた後に、湯浴みを済ませて初夜の準備を終えているのだろう。
本来なら身なりを調えて、一族が見守る中で祭壇に奉られた始祖に二人揃って挨拶をする。一般的な神前式の結婚式と同様に三献の儀を行い、二人揃って神具である青銅の鏡で一族繁栄の吉凶を占ってから、初夜となる番の儀式に移る。
番の儀式の場所は、神子殿の奥に建てられた番の儀式の為だけの宮で行う。
この小さな宮には、橘の木が植えられている。この木を護り囲うように宮は建てられており、この宮に入れるのは限られた人間だけだった。
その御神木の前に褥が敷かれ、神子と審神者は番の儀式を行う。
まぁ、儀式と言っても、普通に子作りするだけなのだが。
水音が初夜の準備を済ませているとするならば、俺はどれ程長く寝ていたんだ?
水音の誕生日を祝いもせずに寝こけていたと言う事か?
「…清兄…早く起きて…じゃないと僕が犯しちゃうよ?」
水音が不安気に呟きながら、俺の額に温かなタオルを置いた。ゆっくりと拭き清めるように、水音は俺の顔にタオルを滑らせ、傍らに置いているであろう桶でタオルを洗って搾り、今度は首筋にタオルを当てた。
ワイシャツのボタンを外して俺の胸元をはだけさせた水音が、タオルで拭きながら俺の胸元に口付けを落として行く。
自分の体重を俺に乗せないように俺の心臓付近に耳を当て、啜り泣くような溜め息を洩らして水音は暫くじっとしていた。
「…ちゃんと動いてる…良かった…清兄…」
俺の鼓動の音を確かめる切な気な水音の呟きにこれ以上狸寝入りをきめこむわけにも行かず、俺は水音の背中に腕を回して抱き寄せた。
「いつまで俺を、兄と呼ぶ気だ?」
「あ…」
水音は涙で濡れた瞳を見開いたまま俺を見上げ、唇を震わせた。
「すまない…心配かけた」
俺は水音の体を強く抱き締め、濡れた目元に唇を這わせて涙を拭った。
水音は俺の首筋に顔を埋め、ワイシャツを握り締めた。
「…良かった…目覚めないかと思った…」
「…誕生日を何日過ぎた?」
「昨日が誕生日で…今はもう直ぐ二十四時になるところ…僕も今朝目覚めたばかりで…昨日は二人揃って眠っていたって」
水音は俺の胸元に頬を当て、囁くように説明した。
ほぼ丸二日間眠っていた事になるか。
「…水音」
「ん?」
「…誕生日おめでとう。…愛していいか?」
今現在何が起きているのか、水音も知りたいだろう。だが、今は説明よりも俺達が番になる事が先決だった。
水音は顔を上げて俺を見つめると、淡く儚く微笑んだ。
「ありがとう…うん…いっぱい愛して…」
番になる必要性だけでなく、愛しているから俺は水音を抱きたい。水音の気持ちも同じ筈だ。
俺の上にいた水音を、体を返して敷布に仰向けにさせ、俺は水音の唇にまた唇を重ねた。
水音も俺の首裏に腕を回して体を密着させ、顔の向きを変えながら俺の舌に自ら舌を絡めてきた。
クチュクチュと粘膜が擦れ合う淫靡な音が溢れ、官能を刺激する口付けは自然と深く熱くなって行く。
何も知らなかった水音が、今ではこんなに淫らな口付けをするようになった。
興奮と羞恥に顔を赤らめ、一生懸命に俺と口付けを交わす水音を見て、俺の胸は罪悪感よりも達成感に満ちた。
俺しか知らない水音。
俺が教えた通りに応える口付けに、俺の独占欲が満たされる。
飲みきれない唾液が水音の柔かな唇を濡らし、頬を伝って滴った。
一旦唇を離し、舌先で唾液を拭った俺の頬に指を這わせた水音は、トロンとした潤んだ瞳を細めて微笑んだ。
「…清兄の無精髭…」
髭の濃い方では無いから、二日剃らなくても見苦しくはならない筈だが、流石に少しは当たるのだろう。
「痛かったか?剃るか?」
「平気…」
そう言って水音は俺の髭に舌先を滑らせて、両足を開いて俺の腰に足を絡ませた。
「早く繋がりたい…」
羞恥よりも強い欲望に逆らわず、水音は下半身を俺の中心に擦りつけた。
絹の単は既に着崩れ、水音の華奢な胸元や足元は露出している。密着した下半身の感触で、水音が下着をつけていない事が分かり、俺は唇を引き上げた。
「脱がすのも楽しみの一つなんだが…?」
水音の既に硬くなった中心に俺自身を擦り合わせながら笑い混じりに囁くと、水音は耳まで朱色に染めながら目を逸らした。
「ん…だって…」
「だって?」
「あっ…んっ」
小刻みに腰を揺すって水音の中心に刺激を与えながら、露になった水音の小さな耳殻に舌を這わせて舐った。
「本当に…ん、早く…あっ…ほ、欲しくて…」
ピクピクと俺の愛撫に体を震わせながら、水音は熱い息を吐きながら囁いた。
華奢な首筋に吸い付き、紅い鬱血の痕を散らしながら、俺は水音の言葉を確かめるべく、下半身に手を滑らせた。
「あ!や、待って…っ」
「はっ、凄いな、グチョグチョだ…」
水音の滾った中心の下にある膣と奥の孔は、想像以上に泥濘んでいた。
「このまま指で一度達っておくか?」
そう言いながら、水音の膣襞に親指を潜り込ませ、同時に人差し指の先を奥のすぼまりに埋めた。小刻みに擽るように刺激すると、水音は俺の首裏にまた腕を回して眉を寄せた。
「んんっ!ん…っ…やっ、意地悪しないで…っ」
周期が来る度に水音の体に男を受け入れられるように快楽を教えてきた。
まだ解していないが、水音の両筒は既に俺を受け入れる用意が出来ているようだった。
「…俺が寝ている間に…自分で中を解していたのか?」
俺の問いに水音は一気に赤面した。俺の視線から自分の顔を隠すように顔を背け、首裏に回していた腕をずらして俺の後ろ髪を引っ張った。
「もう…っ…だったら何?!分かってるなら、早く入れてよ!」
やけくそ気味に叫ぶ水音の言葉は可愛げは無いが、その表情は反対だった。
羞恥で強く閉じた目から涙を滲ませ、俺に嫌われたくないと想う気持ちが滲む眉の歪みと唇の震えが幼気で一途で可愛くて堪らない。
「水音」
俺は水音の額に口付けを落とし、彼の名を呼んだ。水音は一度下唇を噛み、俺の呼び掛けに応えるように目を開いて俺を見た。
漆黒の瞳と薄い紅茶色の瞳は濁りのない透明感で、神秘を内包していた。
欲望を隠せない水音の、いっそ清々しいまでに俺を求める真っ直ぐな想いは、俺の中に微かに残っていた躊躇を払拭させた。
「…本当にもう、手放してやれないからな?」
「それは僕の台詞だよ。僕以外の誰とも、死ぬまでヤれないからね」
「…望むところだ。先ずは、こっちからだな」
俺は泣きそうな顔をしながら睨んでくる水音の唇に口付けながら、膣奥に人差し指をゆっくりと埋めて行く。
「んんっ!」
水音が自分で解したと言っても、道具を使わない限りは奥まで解せてはいないだろう。案の定、奥の隘路は潤んではいるが俺自身を受け入れられる程には解れていなかった。
初夜懐妊が目的の番の儀式は、孕みやすい日を計算して日程を決められる。
水音の誕生日が偶々計算上最も水音が孕みやすい日である事から、この日に番の儀式は決められていた。
水音の体はホルモンバランスが崩れ易いため、多少の誤差はあるだろうが、俺が定期的に検診して得たデータを元にして割り出しているから、誕生日を一日過ぎていてもかなりの高確率で水音は今夜孕むだろう。
なるべく快楽だけを与えて儀式を終えたいところだが、水音の狭さを実感するとそれは難しいだろう。
「水音…そうだ…上手いな…何本飲み込んでるか分かるか?」
俺の中心も水音同様に硬く滾り、痛みを覚える程に昂っている。だが、ここが我慢のしどころだ。
「んふ…っ…あ、はぁ…さ、三本…っ」
ぐちゅぬちゅと指で膣の中を俺にかき回されながら、水音は喘ぎながら律儀に答えた。
まだ理性は飛んでいないようだ。
鈴口からダラダラと先走りを垂らしている水音の男の証を舌で舐めながら膣を解し続けていたが、もう少し理性を飛ばしておいた方が痛みは軽減されるだろう。
「あ、や、嘘っ…駄目」
右手で膣を解し、左手で後ろのすぼまりに中指を埋めて行く。
既に柔らかく濡れている後ろも、水音は自分で抱かれるために準備していた。指一本を抵抗無く飲み込む孔は、膣とは違う分泌液で濡れていた。
俺の指をぎゅうぎゅうと締め付けながら奥に迎い入れようと蠕動する孔の淫猥さに、俺は思わず笑みを浮かべた。
俺を欲しがる可愛い水音。
恥ずかしがり屋のくせに、俺を求める事には躊躇いを見せない潔さは、水音が両性具有だからこそかもしれない。
「…水音、指を増やすぞ」
「ひゃっ!あ、あ、あうっ…ああっ!」
膣内に四本の指を入れ、痛みを拡散させるために後ろの孔に埋めた指で前立腺をピンポイントで刺激した。
水音は顎先を上げて背中を反らし、敷布を手繰り寄せながら体をガクガクと震わせた。
前立腺を刺激されて水音の中心は腹に付く程に反り返った。俺は後ろの孔から指を引き抜き、射精寸前の水音の中心の根元を強めに握った。
「やっ!ひっ、あ、あうっ」
射精を途中で遮られる辛さは、俺も知っている。
水音はボロボロと目から涙を溢し、口をハクハクと動かして喘いだ。
乱れた漆黒の髪が、汗で濡れた繊細な額に貼り付き、尖りきった胸の先端が着崩れた単から露になって酷く煽情的だった。
「水音…」
過ぎる快感に苦悶に近い表情を浮かべた水音の震える唇にまた唇を重ね、膣に挿入した四本の指を蠢かせながら奥を開いた。
「んんっ!んっ!」
水音の中心がびくびくと震え、快感の涙を新たに鈴口から滲ませた。
暫く膣奥を指で解し、吸い付いてくる肉襞の感触に喉が鳴る。
水音の甘い口腔から顎先へと舌を滑らせ、首筋から鎖骨の線を辿る。紅く熟れた小さな胸の尖りを舌で押し潰し、小刻みに振動を与えた後に強めに吸い付くと、水音は堪えきれなかった愉悦を吐き出すような声を放った。
「んん~っ」
自然に出た水音の声の甘さに俺の我慢も限界だった。
膣内に埋めていた指を全て抜き、濡れてふやけた指でスラックスのジッパーを引き下ろした。
腹に付く程にしなった自身の欲望を水音の泥濘に押し当てて、水音が力む前に一気に挿入した。
「…くっ…」
「き、よ…に…っっ」
ひゅっ、とした喉の音が水音の細い喉から聞こえたが、俺は躊躇を捨てて最奥まで一気に貫いた。
「あ、ああっ!」
最奥の一番奥の手前に一際強い抵抗を感じたが、水音の中心を縛めていた指を弛めて上下に擦り立てながら腰をグッと奥に進めた。
水音は背中を弓なりに反らし、全身を強張らせて遂情した。
俺のシャツと水音の腹に飛び散った白濁の熱さに俺は昂った。
堪えに堪えた射精の欲求に身を委ね、俺は水音の子宮に最初の精液を注いだ。
動かさなくても下半身が蕩けてしまう程強烈な快感を与えてくれる水音の膣内は、貪欲で淫らだった。男に吸い付き収斂する熱い処女地は、破瓜に傷つきながらも欲望に素直だった。
一度射精しても萎えない俺自身を誘い、絡み付いて更なる愉悦を求めてくる。
「…水音」
「清兄の…熱い…」
登りつめた愉悦で弛緩した水音の体を抱き締め、腰に巻き付いた彼の脚を拡げて深く折り曲げた。
水音は熱い呼吸を繰り返しながら、噛み締めるように笑った。
「やっと…繋がれた…」
間違いなく痛みを感じているだろうが、水音はそれについては何も言わなかった。
痛みを長引かせたくなくて一気に奥を貫いたが、水音の中が俺の形に馴染むまでは動かずにいた。
「…そうだな…やっとだな」
俺も堪えてきた年月を思い出して微笑んだ。
「清兄、愛してるよ」
熱い吐息混じりに呟く水音の額に口付けを落とし、目、鼻、頬の順番に唇を滑らせてから唇にまた唇を重ねた。
柔らかな唇を何度も啄み、愛してるの言葉も落とす。
射精し、破瓜の痛みで萎えていた水音の中心が、ゆっくりとまた力を漲らせてくる。
男の体で好ましいのは、この嘘をつけない証しだ。
両性具有のこの体ほど美しく、淫らで、正直な体は無い。
俺は水音の中心を再び握り、ゆっくりと上下に擦りながら腰を揺らした。
「あ、はぁ…っ」
水音は素直に快感に喘ぎ、再び俺の首裏に腕を回して体を密着させてきた。
「も、動いて…」
「…大丈夫か?」
「奥が疼いて…苦しいんだ…」
確かに、愉悦を求めて水音の最奥は柔らかく蕩けてきた。初めてで奥で感じる事が出来るなら、今後の性生活に遠慮はいらなさそうだ。
「淫乱」
クスリと笑った俺の髪をまた引っ張った水音は、膣内の俺の滾りを意識的に強く引き絞った。
「…っ、こらっ、挑発するな」
「まさか、一回で…おしまいにするつもり?」
誘うように俺の唇を舌で舐め、眉を寄せながら腰を揺らす水音に、俺は苦笑を洩らした。
奥が柔らかくなってきたと言ってもまだ痛みはある筈だ。俺に抱かれたい水音の想いの切実さを感じて愛しさが溢れた。
「大人の本気を舐めるなよ?覚悟は良いか?」
水音の舌に吸い付き、両足を肩に掛けて腰を後ろに引いた。
「ん、や、やぁっ」
繋がりを抜かれると思ったのか、慌てて声を出した水音だが、再び奥に挿入された俺の昂りの圧迫感に喉を詰まらせた。
「あ、あ、あうっ、や、嘘、何?あ、はぁ、ま、待って、あ、んんっ!」
水音の中心を擦りながら長いストロークで膣内を蹂躙する。
浅い場所も奥も、俺に突かれて水音は悦んだ。
一度膣内で射精されている水音の中は濡れに濡れ、膣から分泌される愛液も加わって、俺が動く度に卑猥な水音が立った。
熱い水音の中は至高だ。
ずっとこの中で、この至福を味わっていたい。
「清にぃ、きよ…にぃ、また来ちゃう、あ、嘘、何これ?」
「好きなだけイけ…っ」
「や、やぁ、一緒に、一緒にイッて」
「水音っ」
「あ、い、清にぃ、の、快い…っ…にぃ、は?僕の中、快い?」
「…っ…最高」
「ひぁっ!」
水音の望み通りに二人で極みに達するためにタイミングを見ながら水音を穿ち、一際強く膣内が俺を締め付けてきた時に最奥に滾りを打ち込んで射精した。二度目でもまだたっぷり出る精液の量に我ながら苦笑が洩れた。
水音の脚を敷布にそっと下ろし、体重を掛けないように抱き締めながら息を整える。
水音と俺の呼吸音以外は聞こえない、隔離された空間で、滑稽な程に真摯に互いの躰を求め合う。
自分でも驚く程、欲望が溢れ出てくる。
淫蕩とまでは行かないが、それなりに爛れた過去を振り返ってみても、これ程誰かを強く求めた事は無い。
水音を抱きたくて抱きたくて堪らない。
射精した筈の欲望が、再び力を取り戻してきた。
「…んっ…」
「…はっ」
膣に挿入したままだった自身を抜き、欲望を落ち着かせるために息を吐く。
枕元のお盆の上に水差しとグラスが用意されており、俺は体を起こしてグラスに水を注いだ。
一気に水を飲み、またグラスに水を注いだ。
「水音、飲めるか?」
まだ息を乱し、ぐったりと体を投げ出すように敷布に横たわっている水音に声を掛けた。
既に着ていた単は脱げて床板に落ちていて、水音は生まれたままの姿になっていた。
水音自身の吐精の残滓と、汗で濡れて光る華奢で白い裸体に散る赤い鬱血の痕に、俺の劣情がまた揺さぶられる。
俺は口に水を含んで水音の口にゆっくりと唇を当てた。水音は目を閉じながら唇を薄く開き、注がれた水を嚥下して行く。
喉仏の無い水音の細い喉が上下する様にまた劣情を刺激されて、慌ててそこから目を逸らした。
『まずいな…理性が崩壊寸前だな…少し落ち着け…このままだと水音を抱き潰してしまう』
俺は桶の中にあったタオルを絞り、ぐったりと投げ出されている水音の足元に膝を突いた。
脚を拡げて下半身を露にして、その淫靡な性交の名残に目眩を覚えた。
「…清…にぃ?」
「汚れたから、少し拭く」
血混じりの粘液にまみれた水音の下半身から匂い立つ淫靡な薫りが、俺の理性をまた揺さぶる。
初めて男を受け入れ、赤く腫れた膣の入り口が俺を誘っているように見える。
「もう…おしまい?」
水音は瞳を潤ませて俺を見つめてくる。
「これ以上は、お前の体に負担がかかる。中、痛むだろ?」
「清兄の大きいんだもん。まだ奥に挟まったままみたいな感覚」
「…その…すまん…」
「フフ、何で謝るの?痛いのはしょうがないよ、だって僕初めてだし?でも、凄く気持ち良かった…もっとして欲しいよ…」
水音は羞恥を抑えて明るく笑った。俺の罪悪感を無くすために敢えて何でも無い事のように振る舞っている。
「水音…」
水音の健気さにどんな顔をすれば良いのか困った。
「ギュってして」
水音は両腕を俺に差し出した。
俺は引き寄せられるようにまた水音の体に覆い被さった。
水音は俺の背中に腕を回して満足気に息を吐いた。
「僕を孕ませて…」
俺の耳殻を食みながら、吐息混じりに囁かれた水音の言葉を聞いた瞬間、俺の理性は焼き切れた。
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