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第2章

その9

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その後も王妃様とアベルの三人での
食事をそれなりに楽しんだ。


(あの会話の後はアベルはいつも通りになってニコリと笑っているだけだったけど)

王妃様と楽しく話していたら
従僕の一人が王妃様に近づいて
耳打ちをした後、王妃様はまぁ!と
呟いて慌てて立ち上がった。

「もうこんな時間なのね!リリアとのお食事は本当に楽しくて時間を忘れるわ。」

「私も王妃様との時間とても楽しかったです。」

「よかったわ。まだそんなに遅い時間じゃないからアベルと二人でもう少しお茶を楽しみになさいね。」

そう言われてリリアは慌てて首を横に振る。

「いえっ、アベル様もお忙しいと思いますので今日はこのまま帰ります。」

王妃様の命を背くのは
不敬罪かとも思うが
アベルと二人きりでのお茶なんて
楽しいはずがない。

それに二人でお茶なんて
今までになかったじゃないか。
いつもは王妃様や王様がいてって
感じだったのに。

どうして急に二人でなんて…。

しかし王妃様はリリアではなく
何故かアベルに視線を向けて
何やら面白そうに様子を伺っていた。

だからリリアもアベルに視線を向ければ
目があってしまう。

視線はすぐに逸らされてしまう。
アベルは咳払いをしたのちに

「たまには私もリリアとお茶がしたい。どうだろう?私の部屋で飲みなおさないか?」

(え!?本当に!?)

リリアは面食らってしまう。
アベルからお茶の誘いは初めてなのだ。

(お茶がしたい。って言ってるのにどうしてこっちを向いて言わないのよ?)

いまだに視線は違う方向を向いている。
とてもじゃないけどリリアとお茶をしたいようにはみえない。

だけど、王族二人から言われてしまえば
断ることはできず。

「かしこまりました。」

内心早く帰りたい気持ちもやまやまに
微笑んで快く了承した。

そんなリリアの返答にアベルは
ああ。と一言だけ言ったのに対して
王妃様はニヤニヤとアベルに悪い笑顔を向けていた。


もちろんアベルはそんな王妃様に
気づいているけれど顔には出さない。


リリアはふぅ。と小さくため息をついた。








カチャリ。


ティーカップをお皿に置くと
小さく音が鳴る。

しんと静まり返る部屋には
小さい音でも響いていく。

部屋にリリアひとりでいるわけではない。

目の前には豪奢なソファに座って
優美にお茶を飲んでいるアベルがいる。


「………。」

「………。」


カチャリ。



アベルの私室に案内されてから
かれこれ数十分。

ずっとこんな感じで会話という
会話は一切ない。

というかこの部屋に来て
一言も話していません。


(…帰りたい。)

カップを持ちながらチラリと
アベルを盗み見る。

スラリとした長い足を組んで
お茶を飲む姿は正直すごく見惚れてしまう。

誰がどうみても彼は美丈夫だ。

キラキラとした金の髪に
青い瞳は物語の王子様そのもの。

本から飛び出てきたといっても
納得してしまいそう。

それくらいかっこいい。

(神様の使いとか言われても納得しそうー)

不躾にジロジロと見ていたら
アベルと目が合う。

気まずくて
リリアは慌てて目線を逸らした。

記憶喪失になってから
アベルに対して一切興味がなかった。
それはもちろん今もそうだ。

彼のことは表面上でしか接して
こなかったし、よくわからない。

前から婚約破棄してもいいかな。って
思っていたけれど
今記憶が戻って夢のためには
婚約破棄は必須だ。

王妃業とブティックの兼任は
おそらくきっと無理だろう。

(アベルが王太子じゃなければ…)

とそんな発想に至りかけて
慌てて首を横に振り分散させる。
なんてこと考えているのだと
今思ったことを記憶の彼方におしやった。

そしてまたアベルの方をこっそりと
見てしまう。

アベルはリリアの前になると
あまり仮面のように笑わなくなる。
勿論挨拶やちょっとした会話の時は
胡散臭い笑顔になるんだけど。

口数も学園にいるときよりも
極端に減るし
前に一度アベルとユリアが話しているところを見かけたことがある。
その時のアベルは仮面のような笑顔でも仏頂面のようになることもなく
もっと柔らかく笑っていたしもう少しお喋りを楽しんでいたと思う。

周りの貴族に対してもそれとなく会話に入り談笑しているのを見かける。

だけどリリアに対してだけは、
アベルは途端に表情を無くし
口数も減ってしまう。

(自分といるのは楽しくないのだろう。)

リリアはこんな不機嫌な男と
お茶は楽しくない。
と段々腹が立ってくる。

いまだに何も話さないアベルから
もう興味をなくして
早く帰りたいなあなんて
思って一口お茶をすすった。

(…お茶こんなに美味しかったけ?)


なんとなく先ほどから飲んでいた
お茶の味がとても美味しいことに気づく。

ほのかに苦味はあるけれど
後を引くようでもなく
お砂糖もそんなに入れてないのに
甘さが引き立つ。
 
よく考えると
いつも淑女であるようにと
心がけていたけどもうどうでもいいやと
投げやりになり気を張らずに
ゆっくりとお茶を楽しんだ。

王宮で出されるお茶は茶葉がブレンドされていると聞いたことがある。

久しぶりに飲むので
この日はゆっくり堪能した。

リリアは途端に機嫌が良くなって
ニコニコとお茶を楽しんだ。
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