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リリアンヌの場合

わたくしの婚約者様。

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わたくしには婚約者がいます。


この国の第一王子であらせられる
グレンリード様。
それはもうどの殿方を差し置いてでも
素晴らしい才能をお持ちで
勉学は秀でているし
剣術も誰よりもうまく、
それでいて誰にでも分け隔てなく
接してくれる優しさがあり
ご容姿も金色に輝く艶のあるお髪に
同じく金色に光り輝く瞳。
柳眉で筋の通った鼻筋に
思わずその唇でキスして欲しくなるような
薄すぎず熱すぎない唇…キャッ。

わたくしったらはしたないわ。
キ、キ、キ、キスだなんてッ。


と心の中で絶賛ベタ褒め中の
グレンリード様は目の前に優雅に
紅茶を啜りながら座っている。

彼を見ながら表向きは無表情で
同じく紅茶をすすっているのは
わたくしことリリアンヌ・マドリーノ。

ええ見ての通り逢瀬ですわ。

本日も楽しく。楽しく
婚約者様と逢瀬を致しております!


あぁ紅茶を飲む仕草まで
まるで絵画のようにお美しいわ。
この方がわたくしの婚約者で
将来は…旦那様になるなんて
キャッ。なんたる幸せなのかしら。

あら?なに。あの侍女は?

こっそりグレンリード様を
覗き見していると視界に入るのは
チラチラと彼の後ろ姿に
熱い視線を送る女。

「ちょっと!そこの侍女!ここから出ていきなさい!」

キッと睨みつけて立ち上がり
扇子で女を指し示せば
女は慌てて頭を下げて出て行った。


全く!侍女のくせに
わたくしのグレンリード様を
不躾にジロジロと熱い視線を
送るなんてなんたる不敬。

そしてなんたる不愉快!


「リリアンヌ。君はどうしてすぐ怒るんだ。」

憤怒していれば目の前のグレンリード様は
カップを置いて珍しく
行儀悪く肘を突きながらため息をして
らっしゃる。


「そんなことよりグレンリード様。そのような行儀の悪い態度はいけませんわ(その姿もとっても素敵!…ではなくてッそのような態度をされれば傲慢に見えてしまうわっ)」

「はぁー。」

しかしグレンリード様はまた
深いため息をはくと
なにも言わずに立ち上がり
今日はお開きだとさっさと
部屋から退出されてしまった。

ひとり取り残されてしまったわたくし。


今日はもう少し一緒に
居たかったわ。

そんなことを思うも決して
口にしてはいけない。

将来はこの国の頂点にたつ女に
なるには
これくらい我慢しなくてはいけないのよ。

多少寂しいと思いこそすれ
決して顔にも口にも出してはダメ。

あぁ早く結婚したいわ。
グレンリード様。












「なんですって!?グレンリードさまの周りをうろちょろする女がいるの!?」


燦々と照り続ける季節。
日焼けをしてしまって
この陶器のように白い肌に
日焼けの跡を残してはいけないと
自室に籠り切りだったある日
わたくし専属の侍女が
不穏な情報を届けてきた。


「うろちょろ…えぇそう見たいですよ。
侍女仲間から聞くところによりますと
殿下の周りに最近仲良さげにされている方がおられるらしいです。」

「まぁ!そんなこと初耳だわ!学園にいてもそのような噂聞いたことありませんわ!」

「お嬢様は学園内でも常に日焼けを気にされて中庭などには寄り付きませんからね。どうもお二人は中庭で密会されてるそうです。」

「密会…」

目の前が暗くなるのを感じましたわ。

「お嬢様!?」


名実ともにその日わたくしは
あまりの衝撃で目眩を起こし
倒れてしまいました。


あれほどグレンリード様の周りに群がるハエ達を
駆除していたはずなのに。

それほどまでに魅了してしまう
グレンリード様は
なんて罪深いお方なのかしら。



そんなところも…好き。




そして、たっぷり3日ほどたった
学園のお昼休み。

早速、わたくしは密会されているであろう
中庭にやってきました。


そこには案の定仲睦まじく
お二人で楽しそうに話してらっしゃいます。


わたくしはその光景をみて
胸が張り裂けそうに痛くなりました。

だってグレンリード様は
わたくしにあのように微笑まれたことは
ないんですもの。


ぎゅっと持っていた扇子を
強く握りしめ
わたくしは踵を返しました。

普段ならあの場に行って
無理やりでも引き剥がそうとします。

だけどどうしても今日は
それができませんでした。

あまりにも衝撃で顔に力を入れてなければ
目から水が出てきてしまいますもの。

そんなことをすれば
いずれこの国の母になるわたくしは
矜恃が許されませんわ。


とりあえず今日のところは退散です。


…グレンリード様はあんな風に
笑われるなんて知りませんでした。

思えば彼はわたくしに一度たりとも
微笑まれたことはないことに
この時初めて気付いてしまったのです。

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