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第3章
第24話
しおりを挟む部屋に入ると
天宮社長の匂いがして
ホッと安心する。
とりあえずさっき社長が
早く帰るって言ってくれたから
晩御飯の用意をしようと思い
キッチンに立つ。
ここの家政婦になったんだから
最低限の仕事はしないといけない。
そう思って色々こしらえていたら
ピッという音がして
社長が帰ってきた。
「音羽ただいま…ってこんな時に料理なんてしなくていい。」
社長は入ってくるなり
すぐに私に駆け寄ってきて
混ぜていたお玉を取り上げてくる。
「いや!これは私の仕事だから!」
取り返そうとした手を社長は掴んで
無理やり社長の方に向かされる。
「今日はもういい。書類も持ってきてくれたし。あの男にだって会っただろ。だから今日は俺がする。」
「え!?」
社長はそう言うと私の背中を押して
キッチンから追い出した後
いそいそと手を洗ってから
お鍋をかき回し始める。
私は社長にさせてはならないって
思いつつもその言葉に甘えてしまう。
「今日はカレーか。」
そう言って匂いを楽しむように
焦げないように混ぜる姿を見て
思わず笑っちゃう。
(あの天宮社長がカレー鍋回してるわ。)
クスクス笑ってるとそれに気づいて
少しだけムッとした社長が
なぜかとっても可愛く思えた。
「笑うな。とりあえずお前はテーブルを拭いてスプーン出して。」
「はーい!」
私は素直に社長の言葉に従った。
テーブルを拭こうとして
布巾を片手にテーブルに向かうと
そこには社長が買ってきた食材の入った
袋が乗っていた。
「もしかして社長なにか作ろうとしたんですか?」
「ん?あぁ。」
短い言葉だったけど
それだけで社長は今日私を
労ろうとしてくれていたのがわかった。
嬉しくなってつい顔が緩んでしまう。
その私の顔を社長は嬉しそうに
見ていたことを私は知らない。
「さっさと拭けよ。もう持ってくから。」
「はや!はーい!」
そうして私よりも綺麗に盛り付けられた
カレーを見て少しだけ苦笑いになったものの
いつのまにか智さんのことは
すっかり忘れて社長とのひと時を
楽しんだ。
そして社長は宣言通りに
私に智さんとの事を
一切聞いてこなかった。
その心遣いが嬉しくて
今日一日だけで
社長への気持ちがどんどん増えていった。
カーテンの隙間から差す日差しに
キラキラとまう埃の中
私はいつになくぐっすりと眠れていた。
心地よい部屋の温度によって
幸せな夢を見ていたと思う。
前日の嫌なことを忘れたように
幸せな眠りの世界に浸っていた時
突然私の耳元にわっ!!っという
大きな声が響いて私は飛び起きる。
「なっ!なっ!なにっ!?」
慌てる私を後ろからぎゅっと
抱きしめてくるのは紛れもなく
この家の家主である天宮蓮社長しかいない。
「音羽ちゃん。おはよう。」
そう言って低音で耳元に囁かれて
ドクンと心臓がなる。
朝っぱらから本当に
心臓に悪すぎる!
驚かされっぱなしだ。
「音羽耳まで真っ赤だぞ?」
カプリと耳を齧られて
肩がびくりと震えた。
「しゃ!社長!?」
腰に回されていた腕を振りほどいて
振り向くと意地悪な笑顔で
ペロリと唇を舐めるものだから
朝なのにとんでもなく
色気がダダ漏れである。
(なんちゅー男なの!?!?)
はくはくと口を動かしても
言葉が出てこなかった。
もう顔や耳どころか全身が
リンゴのように真っ赤になった気がする。
「ふっ。ブスめ。さっさと起きろ。行くぞ。」
ニヤリと笑って社長は
私を起こすとそそくさと出て行く。
「どっどこにいくんですか!?」
もはやブス呼ばわりされても
それどころじゃない。
最近の社長のスキンシップは
過度すぎなのだ。
「いいからさっさと仕度。あぁ。俺が着替えさせてやろうか?」
そう言って部屋から出ようとしていた
足が再びこちらに向かってきては
至近距離になりまた耳元で囁く。
「けっけっっ結構です!!」
社長が私のパジャマのボタンを
外しかけたところで
慌てて部屋から追い出した。
本当に危険すぎる。
こんな私にまで手を出すなんて。
…いや着替えさせようと
しただけなんだけど。
…。
……。
………!
(無理!無理!無理!恥ずかしい!)
一瞬、ピンクな妄想をしかけて
思い切り頭を左右に振って
思考を無理やり遮断させた。
そしてモタモタしていたら
本当に着替えさせられると思って
急いで身支度を始めた。
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