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第2章

第20話

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「やっぱりあんたんとこの店長怪しいわ。」

卒業を控えた2月の半ば。
大学も残すところ卒業式だけになり
無事に卒論も終えた私たちは
持て余した時間をいつものように
食堂の日向エリアでまったりと
過ごしていた。

あれからやっぱり就職活動はせず
このまま智さんのところで
フリーターから正社員を目指すことに
なった。

それから時間が過ぎて
1年かけて作った卒業論文の発表が
あったり最期の試験があったりと
それなりに楽しい大学生活を送っていた。

「まだ言ってたの?智さんのどこが怪しいわけよ。」


「どこって全部よ!いくらなんでも仕事で忙しいって言い訳はないわよ。ずっと休日まで仕事してるって言ってるんでしょ!?」

「う…うん。新しくオーナーが変わってから忙しくなったとかで休日を返上してでも仕事してるって…」


1年前にお店のオーナーが変わってから
智さんはずっと休日まで仕事を
しているらしい。

智さんが休日の日
デートに誘っても仕事なんだ。と
やんわり断られ続けている。

「もうすぐで付き合って1年記念なんでしょう!?なのに仕事なんてあり得ないわ。」

「でも、彼は社会人だし。記念日に会えなくても仕事場で会えるから!」

「職場とプライベートは別でしょう?」

「まぁ。でも私も一度怪しいなって思って智さんが休みの日こっそりお店見に行ったけどちゃんと仕事してたよ!」

「たまたまいたんじないの?」

智さんとのデートは
いつも仕事終わりの夜だ。
彼が休みの日にデートをしたことがない。
付き合って1年になるにしても
1度だってなかった。

だから私も少しだけ不安になって
1度だけ彼と私が休みが被った日に
お店をこっそり覗きに行ったこと
がある。

ちゃんと調理場で仕事をしているのをみて安心したのだ。

だから礼奈が怪しく思う必要は
ないんだけど。

「それに…あんたは寂しいって思ってるんでしょ?」

礼奈にそう聞かれて言葉に詰まる。


そうなのだ。
実は付き合いだしてから
ずっとどこかで寂しさを感じていた。

「うん…。でも彼は社会人だから…。」

"社会人だから"

そうやってずっと言い聞かせてきた。

社会人だから
学生の自分が我慢するべき。
全く会えないわけじゃないんだから
わがままは控えるべき。

そうやって自分に言い聞かせて
彼の迷惑にならないように
彼に負担をかけないように。
7歳も年下だから
聞き分けのできる彼女でいないと。


そんな風にずっと過ごしてきて
彼と付き合って幸せだったはずなのに
最近は寂しくて無理を続けていた。

「あのね。社会人でも本当にあんたのことを大切に考えてるならどこかで必ず時間を作ってくれるものよ?」

「そうなのかなぁ…。じゃあ私は大切に…されてない…の?」

大学の食堂で大勢がいるのに
私は声を震えさせながら
目の前に座る礼奈に問いかける。

「……一度ちゃんと話し合えば?」

泣きそうな顔で言う私に対して
礼奈は狼狽ながら慰めてくれる。

立ち上がって私の横に座ると
よしよしと頭を撫でてくれた。

「そうだよね。私もそろそろ限界。今日仕事終わりに話してみる。」


「そうしな。大丈夫!何があっても私はあんたの味方だからね。」

礼奈がそんな風に言ってくれる。

味方って敵がいるみたいな
言い方に少しだけ疑問を感じたけど
それでも優しい礼奈の手と笑顔で
元気が出た気がした。





でも結局怖くて智さんに聞けたのは
卒業してから1ヶ月が経った後だった。

それも最悪の形で
確認をとるかのように。

礼奈はきっと彼が私を騙していたことを
知っていたのだろう。
だからずっと警告してくれていたんだ。

彼が…

智さんが結婚していたって言うことを。
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