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第2章

第18話

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「君は誰だ?…まさかあんなことがあったのに音羽はもう新しい男を作ったのかな?」

智さんが社長に視線を
チラリと向けてから
私に再度視線を戻して
ニタリと嫌な笑みを向けてくる。


弛んだ意識が一気に強張っていく。
瞬時に3年前のことが蘇ってきて
背中に冷たい汗が流れる。

「ちが。社長は私のやと「音羽から話は聞いている。随分俺の大事な音羽を傷つけてくれたみたいだな?」

(社長!?)

私の言葉を遮って話す社長の言葉に
眼を見張る。

社長はひょっとして3年前のことを
知っているのだろうか…?

"ある程度調べている"

と初めて会った日に言われた。
それは私のプロフィールだけではなく
3年前にアルバイトを辞めた理由も
調べ上げていたのだろうか。


それにしても

(俺の大事な音羽…)

ブワッと顔が熱くなる。

こんな場合ではないのに
社長の言葉にドキドキするなんて。

でも幾分かリラックスできた気がする…。

後ろから社長の大きな手が私の
頭を優しく撫でてくれる。

それがとてつもなく心強く感じた。

「大事な音羽‥。」


智さんはピクリと耳が動いてから
ボソリとなぞるように呟いて
睨むように社長を見る。
その顔を見るのは初めてだった。

「お前はお呼びじゃないんだ。さっさと帰れ。」

ふんと小馬鹿にしたように
睨みつける智さんに対して
社長は随分と余裕があった。

「チッ。音羽連絡いつまでも待っているから」

そう言って智さんは踵を返して
去っていった。

その背中が見える前に社長に
引っ張られて社長の胸に顔を押しつけるように
抱き締められた。

「もう大丈夫だ。」

ポンポンと優しく背中を叩かれると
最後まで緊張していたのが
すーっと消えていく。

「ありがとうございます…。」

このまま抱き締めていてほしい。
なんて思考が飛んでいきそうになって
ハッとする。

社長がなんでここにいるのだろうか?

「あの会議は?」

抱き締められた腕を解いて
社長を見上げる。
相変わらず綺麗な顔だ。

「先方が遅くなると連絡があって音羽を駅まで送り届ける時間ができたから追ってきたんだがタイミングが良かったな。」

優しく微笑まれて
胸が熱くなる。

ダメだ。

こんなステキな人を
好きにならないなんて
無理だ。

「助けてくれてありがとう。」

自覚なんかしたくなかったのに。

顔が見れなくて
私はそっと俯いて小さくお礼を
もう一度言った。

「このままタクシーで帰れ。これ。」

そう言って懐から財布を取り出して
私に1万円を渡してくる。

「い、いらない!電車で帰れるから!」

「そんな状態で電車に乗せれるわけないだろ!?いいから乗って帰れ。」


社長は有無を言わさず私に
お金を渡した後
車道を走るタクシーを呼んだ。

「社長!」

「今日はなるべく早く帰るから。しばらく1人になるがお前の好きな漫画でも読んで待ってろ。」

私の背中を無理に押して
止まったタクシーの後部座席に
押し込むように乗せた。

「…あの」

「わかってる。俺はお前のことなら分かっている。だから何も聞かないしお前も無理に話さなくていいから。」

優しく目を細めて笑って
いつもより優しい声で。

「社長ありがとう」

潤んだ瞳で社長を見上げると
親指で目に溜まった涙を拭われた。

「すみません。〇〇マンションまでお願いします。」

タクシー運転手に行き先を告げて
ゆっくり車の扉が閉められ
社長を残してタクシーは発車した。


もうダメだ。こんなに優しくされて
自覚しないなんて無理だ。
心に蓋なんかできない。

私は社長のことが

「‥好き。」


タクシーの窓から流れる景色を
見るともなしにボソリと口から
気持ちが溢れた。


自覚した途端、気持ちが溢れてくる。

いつのまにこんなに
好きになったのだろう。

あんなにクズなのに。




「…智さん。」

暖かい気持ちに溢れかけて
先ほど3年ぶりにあった彼を思い出す。

……彼は私がずっと好きだった人。

優しくてカッコよくて
頼り甲斐のある智さんが
ずっと憧れだった。

見てるだけでよかった。
挨拶の一言二言喋るだけでよかった。

彼のフォローをするのが
嬉しくて。

自分の気持ちしか
考えられてなかった。

私のせいで。
私がちゃんとわかっていたら…。


ぎゅっと目を瞑り
今まで封印してきた過去を
振り返った。


3年前、私がアルバイト先に
居づらくなった理由。


それは私が智さんと奥さんの仲を
引き裂いてしまったから……。

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