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第1章

第3話

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悶々と悩んでいるといつのまにか
日が暮れかけていたので
慌てて支度を始め家を出た。


駅前に着くとまだ少し早く着いたみたいで
柱に寄りかかりながら礼奈を待つ。


通りすがる人たちをぼーっと眺めながら
幸せそうに彼氏と手を繋ぐ女の子たちを見て
いいなと思ってしまう。

私にだって昔彼氏と仲良く歩いていたのに。


そう思ってハッとする。
過去の自分に縋るなんて惨めにもほどがある!

「はぁー。」

ため息が溢れて思わず下を向いた。

「何ため息なんてついてんのよ。」

「礼奈!」

聞きなじみの声に顔を上げると
先ほど電話していた礼奈が立っていた。

「ごめんね!お待たせ!さっとりあえず行きましょう」

「うん!」

茶色に染まった髪に長い前髪を流している
礼奈は立派なOLの仕事をしている。
その佇まいは洗練されていて
よくファッション雑誌に特集されているような
できる女風である。

その時点で私とはえらい違いなんだけど。

近く2人して話しながら
いつものお店に向かった。

2人してさっそく生を頼んだ後に
とりあえず適当に食べたいものを
頼み終えた後さっそく話を切り出した。


「で!礼奈!どういうこと?結婚て。どうして教えてくれなかったの!?」


机に向かい合って座るも
つい前のめりになりながら礼奈に詰め寄った。

「ごめんって。ほら音羽と私は同士だったからつい言いづらくって。」

眉根を下げて顔の前で手を合わせながら
謝る礼奈の左手薬指には
立派な指輪がキラリと光っている。

「むー。そうだけど!それでも一番に教えて欲しかったのに!」

ムゥと頬を膨らませれば

「ごめんごめん。許して!」

「わかったよ。そのかわり最初から最後まできっちり説明してよね!」

「うちの母みたいに言わないの!…ほら生きたわよ。」

店員さんが先だしと一緒に
水滴がたくさんついたジョッキ2本を
それぞれ礼奈と私の前においてくれた。

「そうね!とりあえず礼奈!結婚おめでとう!」

ジョッキの取っ手を持って
軽く上げてから満面の笑みで
礼奈にお祝いの言葉を向けると
礼奈はすごく嬉しそうに
ありがとう!
そう言ってカァン!と2人でジョッキを
ぶつけて一気に生ビールを飲み干した。

うん。とりあえず
今の礼奈の笑顔だけで
数百倍幸せになれたから
今はそれだけでよしとする!


そのあと注文した料理が運ばれて
礼奈の彼氏との馴れ初めから
結婚に至るまでの話を
根掘り葉掘りお酒を交えながら
聞きまくった。

もう幸せそうに話す礼奈が可愛くて可愛くて。
自分のことのようにこっちまで嬉しくなった。

2人でわいわいと話していると
机に置いていた礼奈のスマホがブブブとなる。

「あ、ごめん彼氏!ちょっと出てもいい?」

「うん!いいよ!」

そう言って申し訳なさそうにしながら
席を立つ礼奈。
しかしその仕草はどこか浮き足立って
いるように見える。

(はぁ。幸せそうだなぁ。本当に)

礼奈は綺麗だしかなりモテる。
だけどそれ故に軽い男たちばかりが
寄ってきたことで
軽い男性不信に陥っていたから
男なんていらない!私は仕事に生きる!
なんて宣言していたのに

そんな礼奈が恋する乙女の顔を
するのは新鮮であり
庇護欲をそそるのだ。

(マジで礼奈の彼氏。礼奈を泣かせたらしばく。)

そう悪態を心の中でついていたら

「音羽!ごめん彼氏が来ちゃった!」

「こんばんわ!すみません来ちゃいました!」


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