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サラの片思い

サラの片思い12

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「やぁ。ご機嫌よう。」


爽やかに挨拶をしてきたのは
私の片思いの相手マーケル様だった。

彼はベンチから立ち上がると私たちの前までやってくる。

「なんで、お前がいるんだよ。」

アインス様は一瞬唖然とした後に
いかにも嫌々しそうにマーケル様を睨みつけている。

こないだ二人が話していたところを遠目で見たけれど
どうやら二人はあまり仲がよろしくないのかもしれない。

「今日から僕も皆さんと一緒してもいいですか?」


不機嫌なアインス様をよそに
私をチラ見と見た後にシェニー様に和かに言った。

こうして異色な4人でのランチがスタートした。


シェニー様の家からもってきた大きな布を地面に敷いて
4人座っての食事が始まった。


最初はみんな黙々と食事をとっていた。
その沈黙を破ったのはマーケル様だった。

彼はシェニー様にしきりに話しかけていた。

彼がシェニー様に話しかけるたびに
自然と心が沈んでいく。

「シェニー様。お身体はもう大丈夫なんでしょうか?」

「あ、はい。おかげ様で元気になりました。」

「それは良かった。交流会の時に会えず残念でした。」

本音を隠し切れていないのか本当に残念そうにする
マーケル様を見て胸がズキリと痛む。

交流会の時にマーケル様と話せたことは
私の中では恥ずかしい思いもしたけれど
嬉しかった。

でもマーケル様にとって私との会話なんて
なんとも思っていないんだろうな…。

サンドイッチを口に運ぶ気になれないで
膝の上に置いたままじっと見ていたら横から
声をかけられる。

「サラ!それ食べさせて。」

「え、…んーわかりました。はい、あーん」

急に言われて焦ったけれど
いつもはアインス様はこんな事要求しない。

またいつものシェニー様への嫌がらせだということに
気がついてチラッと二人をみてから
普通に渡せばいいものを何も考えずに
自然とアインス様の口に持っていった。

アインス様は横目でシェニー様の方を見ながら
サンドイッチを食べた後

「ふ。シェニーも食べさせてやろうか?」

「結構です。」

シェニー様はそう言ってそっぽを向いてから
自分のお弁当を食べた。

私はまたやらかしてしまったことに気づく。

あーんなんてなんで言ってしまったんだろう!
恥ずかしくて顔を上げることができなかった。

「おや、シェニー様。お口についてますよ。」

マーケル様の声がして前をむけば
シェニー様の口元にそっと手を出してパン屑を取るところを
見てしまう。
シェニー様はされたことに恥ずかしくなったのか
顔を真っ赤にさせていた。

そんな彼女を愛しそうにみるマーケル様を
私は暗い気持ちでじっと見つめるだけしかできなかった。

こうやって目の前でマジマジと見せられると
嫌でも自分は蚊帳の外だと思い知らされる。

どんどん食欲はなくなって
私はまだ残っていたサンドイッチをバスケットの中に
そっとしまい込んだ。

朝から張り切って作った大好きなサンドイッチなのに
食材を無駄にしたこともさらに気分を曇らせる一因となる。

マーケル様とシェニー様のやりとりをみた
アインス様はあからさまに態度が降下して
マーケル様に食ってかかりそうになっている。

「マーケル…。お前そろそろ生徒会室に戻れよ。昼はいつも生徒会で仕事してるって聞いたぞ。」

「ああ、大丈夫です。副会長にませているので。それに私はシェニー様と一緒にお昼をしたかったので。」

「だから。シェニーは俺の婚約者だからむやみに近寄るなって言ってるだろ。」

「王太子様だってサラさん連れてきてるじゃないですか。ならシェニー様の話し相手くらい僕がやりますんで、どうぞお二人は仲良くお話しください。」

マーケル様の言葉が太い針となって私に突き刺さる。
今にも泣き出してしまいそうになる。
マーケル様は私の気持ちは知らないのだから。
そう言い聞かせなければ…。

「別にお前がシェニーの相手をしなくていいんだよ。というかお前に関係ないだろ。」

「いや、全然関係あるんで。シェニー様の相手は僕がします。なので王太子様はお好きなだけサラさんと仲良くしてください。」

その言葉が決定打になり
耐えていた涙が膝にポタリと落ちる。
タイミング良く鐘がなったことで
私が泣いたことは気づかれなかった。

ここで泣いてしまったのがバレてしまえば
みんな私がアインス様を好きだと誤解してしまうから。

さっと濡れた頬を誤魔化すように拭ってから
気持ちを切り替えるようにお弁当を包んでいた布を片している間に
シェニー様はこの場を辞した。

それを後を追うようにアインス様が追っていけば
自然とこの場にマーケル様と二人きりになる。

「・・・・・。」
「・・・・・。」

正直今は彼といたくなくて
私は急いそと片していく。

「・・・・すまない。さっきは君の気持ちも考えずに
ひどいことを言ったね。」

びくりと肩が動く。

好きな人に他の人と仲良くしろなんて
言われて傷つかない子なんていない。

「・・・・いえ大丈夫です。」

いつものように笑えなくて私は下を向いて
片しながら応えた。

「本当にごめん!」

「本当に大丈夫なので。」

そう言って立ち上がって顔を見るともなく
私は一礼をしてからその場をあとにした。

今はマーケル様の顔なんて見たくなかった。


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