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サラの片思い

サラの片思い9

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昨日の演説会が終わった今日は
先輩方との交流会だ。

プチ社交界を催したこの
交流会は
将来、社交界で役立てられるようにと
学園のカリキュラムの一環だ。

故に本物の社交界と同様に
煌びやかなドレスをきて
ダンスや談笑などを楽しむ。

…楽しめるのかは微妙だけども。


私も朝早くから侍女さんに手伝って
もらって
お爺様が用意したドレスを着た。
淡いレモンイエローのドレス。

基本は同伴者と一緒に入場するのだけど
私には相手はいない。

アインス様は一緒に行くか?
と聞かれたけど
丁重にお断りしました。

シェニー様に嫉妬してもらうために
私たちは一緒にいるのだから
いないときに二人でいるのは
周りにさらに誤解が生まれていくから。

…マーケル様にも見られちゃうのは
ちょっとね。

ということで一人でくれば
今度は王太子様にすてられたとか。

嘲笑われるわけで。

気にしないといえばしないけど…。


お友達がいないのはこういうとき
寂しいなーって思う。


早々に壁の花に徹して
会場をぼーっとただ眺めた。


するとただなんとなしに
見てただけなのに
マーケル様を見つけてしまう。

今日の彼はアイスブルーの
スーツで銀色の髪の色との相性は
抜群だった。

髪は後ろに撫でつけて
凛と背筋がのびていて
本当に紳士さながらだ。

社交界を出ればたちまち
ご令嬢が取り巻くであろう。
今でさえ彼の周りにはご令嬢がたくさん。


そんな彼は彼女達の相手もそこそこに
立ち止まることなく歩いている。

どこに行くんだろう?

疑問に思ったのも束の間
誰かの前で止まる。

周りにいた令嬢たちは
止まった先にいる人をみて
慌ててお辞儀をしてから
早急に去っていった。

視線を横にずらせば
そこにはアインス様がいた。

ここからでは話の内容が
全然聞こえてこないけど
どちらも笑顔で話している。

……アインス様は完全に作り笑いね。

何言か話したあとマーケル様が
先に会釈を終えると踵を返して
別の誰かに話しかけていた。

アインス様はしばらくその場から
離れなかったけど
ハッとしたようにさりげなく
周りの令息の方達と談笑を始めていた。

何か喧嘩になるんじゃないかと
不安になったものの
大事に至らなくてよかったと一安心。

ほっと胸を撫で下ろして
再びマーケル様の方に視線を戻す。


銀色の髪が遠くからでもキラキラと
輝いていてまるで大聖堂で
お祈りしていたら舞い降りてくる天使
みたいに綺麗で。

学園にきて
彼とは一度も話したことはないし
接点すらない。

身分差があまりにも離れすぎていて
さらに学年も違う。

彼の想い人であるシェニー様の
婚約者のアインス様とは
仲良くさせてもらってるけど。

そこからマーケル様までは
かなり遠い。

彼の視界に入りたい。
名前を呼んで欲しい。
話しかけて欲しい。
私だけを…。


元平民で好きな人を傷つける女である
私は彼にとったら
きっと悪役なのだろう。


ふぅ。


ため息がついこぼれてしまう。

もうマーケル様を見るのはやめて
端に置かれているスイーツを
楽しむことにした。

本物の社交界を模した形だから
置かれている料理やスイーツも
かなり気合が入っているように見える。

どれも美味しそうで
目移りしちゃう。


あの苺のケーキもいいし
パウンドケーキも美味しそう。
あっちのシフォンケーキも…。

お皿を片手にどれにしようかと
迷っていたら

「こんにちわ。レディ」

後ろから声がかけられたので
振り返った瞬間
心臓がとまりそうになった。

夢なのかと。
幻なのかと。

持っていたお皿を
落としそうになったとき
彼が慌ててお皿を受け取った。

「おっと。」


視界から彼が消えたかと思えば
下を向くとお皿を受け取りながら
上を向く彼と目が合う。


心臓が急速に早くなっていく。


「はじめまして。僕はマーケル・ノイッシュー。ノイッシュー公爵の嫡男です。」

すっと立ち上がると私の手を取り
お皿を渡される。

触れられた手が熱くなってしまう。


「あ、えっと、はじめまして。私はサラ・アシェリー。アシェリー子爵の孫になります。」

慌ててカテシーをとる。

"はじめまして"


やっぱり彼は私のことを
覚えていないのだと気づく。


それもそうだ。


もう何年も前。
しかも二人ともまだ子供で
たった一度一言、二言交わしただけ。

覚えているわけないよね。


「少し僕と話さない?」


マーケル様はそう言って
微笑みをむけてくる。

胸がドキドキと高鳴って
夢なんじゃないかと
今すぐ自分の頬をつねりたくなる。

「は、はい!喜んで!」


思いの外声が大きくなって
周りにいた人たちが
チラチラとこちらに視線を向けてくる。

やってしまったと恥ずかしくなって
モジモジしていたら

すっとお皿を取り上げられて
何かと思えば
マーケル様はそのお皿に
何個かケーキを乗せていた。

いくつか取り終えてから
こちらに向かって

「ここだとあれだし外で話そうか」

そう言ってバルコニーから
庭に向かって歩き出した。

私もその後を追うように
彼についていった。


まさか彼と話せるなんて。
嬉しくて嬉しすぎて
彼がどうして私に声をかけたのか
そんなこと全然考えれてなかった。

この時はただただ
ずっと夢に見てた
もう一度彼と話したい!と
思っていたことが
叶えられた幸せに
頭が働いていなかったのだ。
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