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サラの片思い

サラの片思い

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私の名前はサラ・アシェリー。
元平民。

お父さんが実は貴族である
子爵の嫡男だったんだけど
子爵家の侍女だった
お母さんに惚れ込んで駆け落ちをした。

そして二人が駆け落ちをして
2年後に私が生まれた。

お父さんは純粋な貴族だったはずなのに
街の人たちと一緒に
朝から晩まで私たちを養うために
働いてくれていた。
 
駆け落ちで着のみ着のまま
飛び出したものだから
もちろん一銭もないところからの
平民生活スタートだったらしい。

本来は貴族であるお父さんは
貧乏とは無縁なはずなのに
お母さんと出会ってしまったがために。
私が生まれてきてしまったために…
お父さんは忙しく働いていた。

私が学園に転入するまで
お父さんが貴族だったことは
知らなかった。

私の中でのお父さんは
よく働いてよく笑う大好きなお父さんだった。

貧しいけど家族3人で
過ごす時間はかけがえのない
宝物だった。


彼に出会ったのはまだ私が幼い頃。


お母さんと二人で市場に
買い物に出かけた時のこと。


りんごが大好きな私にお母さんは
うんと真っ赤なリンゴを買ってくれた。

ほんとはすぐに食べたかったけど
帰ってからと言われていたので
落とさないように大事に大事に
胸に抱えていた。


真っ赤なりんごを早く食べたくて
お母さんが買い物をしているのを
急かすように早く帰ろうと
スカートの裾を引っ張ったの。

そしたら、何かの拍子に
腕に抱えていたりんごがコロンと
車道に転がってしまった。

車道はよくお貴族様達が
馬車を通る道で
あまり人が通ることはない。

この国は島国だけど
恵み豊かですごく栄えている。
だからこの辺鄙な街でも
車道を通る馬車は少なくない。


私は転がっていくりんごを
半分諦めの気持ちで見ていた。


(あーせっかくお母さんにりんご買ってもらったのに!)


スカートにシワができるほど
ぎゅっと掴んで
下唇を噛みながら
涙目になっていたら…。


やってきた馬車が途端に目の前に止まったの。


りんごが車輪に潰される前に。


そしてその馬車から
私より少し年上?くらいの
男の子が出てきて
車道に落ちた私のりんごをひょいと掴んだ。

私はただそれをジッと見ることしか
できなかった。

男の子はそれを拾ってシャツの袖で
汚れを拭ったあと私のほうを見て
ニコリと微笑んで近寄ってくる。


ドクン。

男の子の笑顔を見た瞬間
胸が大きく高鳴った。

その笑顔は天使のようで。

近づくその後ろから
太陽の光で照らされていて。

キラキラと銀色がゆれるふわふわの髪。

少しずつ私の顔に影がさした時

「これキミのりんごでしょ?はい。」


ニッコリと微笑んで
私の前にりんごを渡してくる。


ボボッと全身の熱が一気に
顔面に集中してくるのがわかったけど
そんなことも気にならないくらい
目の前の男の子に見惚れていた。

(ステキな男の子だわ。)


「ん?君のじゃないの?」

いつまでも受け取らない私を
訝しんで首を傾げる。

私は慌ててそのちいさな手に乗っている
真っ赤なりんごを受け取った。

「あ!あっありがとう!」

「どういたしまして。今度は落とさないようにね?」

またニコリと微笑んだあと
自然に私の頭を優しく撫でてから
颯爽と踵を返して馬車に乗って行く。



私は馬車が走り去るまで
その場から離れることができなかった。


私が生まれてきてまだたったの10年。

10年ぽっちだけど
生まれてはじめて
あんなにきれいな男の子を
見たことがなかった。

まだ胸はドキドキが止まらなくて。


(馬車に乗ってたからきっと貴族の子息よね…)


平民だから不幸なんて一度も
思ったことなんてない。

私はこの町が好きだし
お父さんもお母さんも大好き。
大人になればこの町の誰かと結婚して
この町で働くつもりだ。

だけど…この胸の高鳴りを
知ってしまった。

10歳そこらの子供の私だけど
この気持ちがなんなのか
はっきりとわかる。


あぁ。私はあの男の子に
恋に落ちんだ。


一目惚れなんてないって思ってたのに。


貴族…なれないかな?

なんて思ったのは
親には内緒だ。




そんな幼いながらに
実にませた子供だったなぁと
入学前の自室のベッドで
横になりながら考える。


あの頃抱いた気持ちは今も
継続中でたった一度、
それもほんのすこし。

だけど今でもあの男の子の顔は
鮮明に覚えている。

学園に入学すればあの男の子…
ううん。あの彼に会えるのだろうか。


平民からいきなり貴族の世界に
入るのは怖いけど…。

あの10歳の時に抱いた
片思いの結末が迎えられるなら
この不安も少しだけ和らぐような
気がした。
















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