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結末

幸せな結婚式を。

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穏やかな晴天の正午。
メリージャ国にある王立学園の中庭は
たくさんの人で溢れかえっていた。
学院生はもちろん上流階級から下級階級の貴族の大人たちも
みな笑顔で今日のこの日を迎えている。



中庭の真ん中にある噴水の前で
簡易的な祭壇が置かれている。
その祭壇に立つのは少し膨よかな神父。
そして目の前には
太陽の陽光でキラキラと輝く
金色の髪をした青年がひとり。
真っ白の正装は背の高い彼が着ると
様になっていて後ろ姿ですら
ここにいる全ての女性が溜め息をもらすほど。
そんな彼は今か今かと愛しい人を
待ちわびていた。


背後で扉が開かれた。
ざわざわとしていた中庭が
一瞬静まり返る。
しかしそれは一瞬でたちまち
ワァーと歓声が上がる。

後ろにいる参列者の声は
歓声とともにうっとりとするような
感嘆の声も口々に聞こえてくる。


今更愛しい人の花嫁姿を
最初に見なかったことに後悔する。

自分と結婚する
花嫁姿のシェニーを見るのが
少し恥ずかしくてどうしても
控え室の衝立の向こうまで入ることができなかった。

長年の拗らせ具合は
そう簡単には治りそうもない。

それでも今自分以外の者たちが
先にシェニーの花嫁姿を目にすることに
憤りを感じるあたり
ずいぶん自分勝手だなと自嘲しそうになる。

どうしてもシェニーだけに関しては
自分はとんでもなく愚かになってしまう。


とにかく早くシェニーを見たい。


そんな気持ちでドキドキと
うるさいくらいに心臓が早鐘を打つ。

歓声と感嘆の声は
次第に大きくなりアインスは
恐る恐る後ろを振り向く。


ゆっくり爪先から徐々に視線を
上に上げていけばそこには
大輪の花のように美しい花嫁姿のシェニーがいた。

アンシュタイン公と共に
ゆっくりとこちらに向かってくる。

ベールに包まれているシェニーの顔は
少しばかり見えにくい。
けれどもベール越しに見える
可憐な瞳は真っ直ぐに自分を映している。

そして時間をかけて自分の横に立つと
そっと左腕にシェニーの細い腕が組まれる。

2人して壇上を1.2段登る。


「これよりアインス・メリージャならびにシェニー・アンシュタインの結婚式を執り行います。」


慈愛に満ちた安らかな神父の声と共に
静粛になり
優しい声音が辺りに響く。

「清きよき日にこの国を担う・・・」

つらつらと言葉を発する神父の声には
正直右から左に流れていく。
左に立つ自分よりも頭ひとつ分低い
シェニーにしか意識がいかない。

こんなに緊張したのはいつぶりか。

神父の言葉は
静まり返った中庭に粛々と進んでいく。


「誓いますか?」

「はい。誓います。」

一生をかけてシェニーを守り
一生をかけてシェニーを愛する。

・・・いや一生なんて足りないかもしれない。

いつか年老いて朽ち果てても
来世でもまたこうして彼女を愛し続けたい。

どうしてこんなに彼女が好きなんだろう。

こんなにも自分の心を占めるシェニー。

シェニーには申し訳ないけど
いつまでもずっと自分のそばにいて欲しい。こんなに執着してる自分をどうか見捨てないで欲しい。

「誓いますか?」

「はい。誓います。」

「では指輪の交換を」

シェニーの誓いの言葉に余韻に浸っていて、神父の言葉を聞いていなかったアインスは、数秒遅れてしまう。
シェニーが組んでいた腕を離したことで
自分が何をしなければいけないのかを
思い出し表情にはおくびも出さずに
慌ててシェニーに向き合う。

渡された指輪はお互いの瞳の色で
選んだもの。

シェニーのつける指輪は
アインスの瞳の色のサファイア。

アインスのつける指輪は
シェニーの瞳の色のルビー。

アインスは震える指で
細くて綺麗なシェニーの薬指に
そっとはめていく。

薬指には何度も思い出がある。

指輪をはめる数秒だけど
これまでのことを少しばかり思い出す。

最後まではめた薬指をみて
胸が熱くなる。
幼い頃の約束がこうやって
実現できたこと。

自分の左手を向けると
シェニーも震える指で指輪をはめてくれる。

ベールに包まれたまま
自分の薬指に目線を下げているので
今どんな顔をしているのか
わからない。
けれども震える指先が自分と同じように
緊張しているのかと思うと
幾分か緊張がましになってくる。

自分の薬指にはめられる
シェニーの瞳と同じルビーの指輪が
太陽に照らされてより輝いて見えた。
自然と顔が綻んでしまう。

「では誓いのキスを」

その言葉だけはしっかりと耳に届く。

指輪交換の時に震えていた指先は
今はしっかりとシェニーのベールを掴む。

そしてゆっくりベールをあげて
シェニーが顔をあげる。

その表情はほんの少し朱みを帯びた頬に
潤んだ瞳。
可愛い唇は優しく弧を描いている。


「シェニー。綺麗だ。」

シェニーの両頬に自分の両手を添える。


さっきまで一番最初にその姿を
見なかったことを後悔していたが
今こうしてその姿を最後に見れることに
喜びを感じる。

ようやく。


ようやくシェニーと。



潤んだ瞳をじっと見つめていると
ふいにシェニーが少しだけを目を瞠る。

「・・・アインス様?」

名を呼ばれた瞬間
自分の頬に一筋の冷たいものが流れる。



・・・ああ。そうか。


頬に添えた手にほんの少しだけ
力を入れて真っ直ぐにシェニーの目を見ながら


「シェニーずっとずっと愛している。」

つたい落ちた涙をみたシェニーは
一瞬狼狽えたが
その言葉を聞き満面の笑みで

「はい。私もアインス様を愛しています。」


その笑顔をいつまでも絶やすことなく。


アインスは目を細めて
シェニーを見つめた後首を少し下げて
シェニーの唇に優しくキスをする。



来世でも今世でも・・・前世でも。
俺は一生シェニーを愛しているよ。



静まり返っていた中庭が一斉に
歓声と拍手の音で溢れかえる。


名残惜しむように唇を離し
参列者の方に目を向けると
皆が自分たち2人を祝福してくれていた。



この日。
メリージャ国の王太子殿下アインスと
アンシュタイン公爵家の令嬢。シェニーが幸せな結婚式を挙げた。

この国の・・・この世界の誰よりも幸せな結婚式を2人は迎えた。




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