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アインス視点

同士

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シェニーにサラのことを好きではない。とはっきり言うと
最初は信じてくれなくて
物語が、とか小説の中の世界とか。
夢のような話をしだすのを見てそこまで俺は追い詰めていたのかと後悔した。
 
シェニーに嫉妬してほしくてサラと仲がいいように演じていたが
最近では無機質な表情になっていて全然効いていないのではと思っていた。
だけどさっきシェニーは泣きながらサラのことが好きなんでしょって
聞いてきて、
ずっと彼女は嫉妬していたんだということがわかると
無性にシェニーが可愛く見えて。
それがすごく嬉しくて。
自分のことを考えてくれていたんだと思うと
必死に話しているシェニーに申し訳ないと思いつつ
にやけるのが止まらなかった。
 
だからマーケルに彼女のこと何も見えていない。と言われて
はっとした。
 
自分が嬉しいのあまりシェニーは今も不安で聞いてきてくれたのに
それにこたえてあげられていなかった。
 
だからもう一度ちゃんとサラを好きじゃないといったら
物語がと言い出したので俺は慌ててシェニーの頬をつまんだ。
 
自分の左胸に彼女の手をもってきて
俺の心臓の動きを伝えた。
そしてもう一度はっきり好きじゃないと答えると
やっとシェニーは納得してくれた。
 
俺はシェニーに対していつも意地悪したりちょっかいかけたり
独占欲でしばりつけてしまう。
シェニーがいつもそんな俺を受け入れてくれていたから
俺は言葉にするのを怠っていた。
それをシェニーは不安に思っていたんだ。
 
マーケルの彼女を見えていない。とは
恐らくそういうことなのだろう。
 
そういえばまだ俺はちゃんと自分の気持も伝えていないな。
シェニーに好きだって言ってない。
 
今はマーケルたちもいるし
ちゃんと二人きりになったときに伝えよう。
 
伝えるのが怖くてマーケルの言うとおり
拗らせていたけどシェニーは勇気を振り絞って
俺にサラのことを聞いてきたんだ。
 
だから俺もちゃんとシェニーに言わなきゃいけない。
シェニーを好きだって。
 
 
「マーケル。すまない。シェニーと話してきて留学はなくなった。」
 
少し離れたところに俺が乗ってきた馬とシェニーの御者とマーケルは立っていた。
近寄ってからそうマーケルに告げると
マーケルは呆れたように
 
「もう。二度と痴話げんかはやめてくださいね。」
 
と少しだけ寂しそうに笑って言った。
 
「すまないな。お前の気持をおれは知っているのに。」
 
「それを今言うなんてあなたはほんとに意地悪な人ですね。」
 
そうマーケルは言うと笑顔が一瞬消える。
 
「ではユリー様に一刻も早く伝えてあげないと。彼女待っていますからね。
 仕方ないので僕が伝えに行きます。全く世話の焼ける次期国王夫妻だ。」
 
呆れたように笑った。
 
「すまない。…ありがとう。」
 
 
「この借りは宰相になったときに返してもらいますので。
 アインス王太子様。シェニー様を大切にしてくださいね。」
 
「当たり前だ。」
 
「シェニー様を泣かせることがあれば速攻で攫いますから。」
 
「それは・・・・無理だ。シェニーの泣き顔も俺は好きだからな。」
 
「だから。王太子様は拗らせすぎなんですよ。」
「シェニーが好きだからそうなっても仕方ない。」
 
はぁっとマーケルは大袈裟にため息を吐くと
「じゃあもう僕は行きます。」
とようやくいつものマーケルになった。
 
「俺王宮を馬一匹で飛び出してきた。
従者たちが俺をとめようとしたけど振り切ってここまできた。
だからおそらく少し待てば従者もやってくるし
お前はこれに乗っていけ。」
 
そういって木陰で休んでいた馬を連れてきて
マーケルに手綱を渡す。
 
「わかりました。ではまた学園で。」
 
颯爽と軽やかに馬に乗るとゆっくりと馬を走らせていき
少し振り返って手を振ってから
スピードを上げて王都のほうに向かった。
 
「よし。ということですまないな。御者のもの。少しだけ待っててくれ。」
 
今まで俺たち二人を傍観していた御者のものに声をかけると
彼は頭を深く下げて礼を言った。
 
そろそろシェニーも落ち着きを取り戻しているころだろうし
従者も来る頃だ。
呼んで一緒に外でまとう。
 
またシェニーの乗っている馬車のほうに戻ろうとした時。
 

視界の端で小石が落石してくるのが見えた。
すぐに山を見上げると
大きな岩が今にも落ちてきそうになっていた。
 
「シェニー!!今すぐ馬車から降りろ!!」
 
俺は走ってシェニーのところに向かう。
俺が叫んだのをきいて
シェニーが馬車の扉を開けた瞬間
大きい音とともに大きな岩が勢いよく
シェニーのいる馬車のほうに向かって落ちてくる。
 
 
「シェニー!!‥‥にな!!!!」
 
 
間に合ってくれ!
 
 
ドーンという大きな音と共に
馬車は落ちてきた岩で押しつぶされてしまった。
 
 
 
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