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アインス視点

はつこい

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あいつは初恋を忘れられない。と言っていたが
あいつのシェニーを見る目は恋以外の何物でもなかった。
 
あいつはシェニーが好きだ。
 
そう確信したのはサラが水を浴びさせられた日の放課後。
サラは気が動転していたから医務室で落ち着くまで彼女のそばにいた。
それは放課後までかかった。
幾分か落ち着きを取り戻し、彼女をまつ馬車まで送るため
サラの荷物をとりに教室に行こうとした時
 
「アインス王太子様。」
 
医務室をでてすぐマーケルに呼び止められた。
 
「マーケル。シェニーはあのあと教室に戻ったか?」
 
鋭い目線で俺をみていたマーケルは
静かに俺の前にやってくる。
何か怒っているようにみえる。
 
「ええ。僕がちゃんと彼女を送りました。」
 
マーケルにシェニーを頼んだのは不本意だったが
あの時はサラをどうにかしてやりたいという思いでいっぱいだった。
 
「アインス王太子様はシェニー様のこと何もわかってないんですね。」
 
何を言っているのかわからなかった。
シェニーの隣にずっといた俺が何もわかってないなんて
最近共にするようになっただけのお前に言われたくなかった。
 
「どういう意味だ。」
 
「あなたはシェニー様を手放すべきだ。そして彼女は僕が守ります。
僕はシェニー様をお慕いしています。」
 
マーケルははっきり俺に言った。
 
今まで学園内でも遠巻きにシェニーを魅入っている奴らは何人もいた。
でもそんな奴らを俺は牽制するように誰一人シェニーに近づけさせなかった。
 
この国の王太子がそんなことをするのだから
頭のいい奴らはシェニーに近づかない。
 
だがマーケルは違った。
いつのまにか俺たちと一緒に食事を共にし
俺の前で堂々とシェニーに好意を向けていた。
確信は持てずにいた。
だが今こうしてはっきり俺に言うマーケルを見て
 
やっぱりかと思った。
 
「誰であろうとシェニーは渡さない。」
 
マーケルの目をじっと見て視線を逸らさずにはっきりという。
マーケルも俺の目線から逸らしはしなかった。
数秒にらみ合ったあと、奴が視線を外して
 
「・・・ふぅ。ならシェニー様をもっとよく見てあげてください。」
 
ため息交じりにそういうと
マーケルは俺にサラのカバンを渡して踵を返して帰っていった。
 
今思えばマーケルはシェニーの不安な気持ちを知っていたんだ。
だから奴は俺にもっとシェニーを見ろといっていたんだ。
 
俺は悔しかった。
マーケルなんかに俺よりシェニーを知っていたことが。
 
だからマーケルとは仲良くなんかできるわけがなかった。
シェニーはそれを望んでいるが、
俺はそんな優しい人間じゃない。
自分の好きな女に好意を向けてるやつと仲良くなんて到底できるわけがない。
 
「それはシェニー次第だからな。」
 
 
一刻も早く証拠を見つけてシェニーを安心させたかった。
 
次期国王になるため最近は父上の下で執務補佐をしている。
国王になったときにすぐに柔軟に対応できるように。
 
本当は学園に行かなくていいように
入学前にすべて就労している、
だけど、シェニーが学園で勉学を学びに行くと言うものだから
変な虫がつかないように父上に無理を言って
学園に通わせてもらっている。
 
学園も残り1年半。
そろそろ本来今学ぶべき執務を急ぎ足で学ぶため
最近は毎日のように学園の帰り後明け方まで執務をこなしていた。
片手間にサラ達を陥れたやつらの証拠を探し。
そんな日々を過ごしていたため
馬車に乗るなりすんなり寝てしまっていた。
 
シェニーから香る彼女のにおいに癒されて
なぜか遠い遠い昔にもこんな風に彼女と過ごしたような気がした。
 
馬車で別れた時のシェニーは昨日怯えていたとは思えない
いつものシェニーに戻っていた。
 
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