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アインス視点

か弱い少女

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「アインス様。素敵な時間をありがとうございました。」
 
数日前、学園の帰りに寄った海でシェニーが言った言葉を思い出す。
 
泣きそうな声で震えそうになるのを耐えながら
笑って言う彼女になんて答えていいか分からなかった。
そのまま彼女が学園に戻っていくのをただ眺めるしかなかった。
一度も振り向かずに。
 
自室の窓際に置いてある椅子に腰をかけ
紅茶を飲みながらこないだから降りしきる雨をじっとみつめ、ため息をつく。
 
 
 
ここ最近のシェニーを思い出す。
 
サラを苛めているのはシェニーだ。
というウソの噂が流れた。
 
そんなものははなから信じていなかった。
 
小さいころから俺にはうるさかったが
他人を欺くようなそんな人間ではないのは
ずっと隣にいた俺ならすぐにわかる。
 
たしかにサラとすこし距離があるのはわかっていた。
でもサラが少しでも苛めにあえばシェニーはいつも心配そうな目をしていた。
 
サラを守るためとはいえ片時もサラから離れずにいた俺に対して何も咎めはしなかった。
 
普通だったから、
だからシェニーは大丈夫だと思った。
 
噂は瞬く間に広がり、正直自分の好きな人のそんな噂を流されて
いい気はしない。
一刻も早く犯人を捕まえたい気持ちでいっぱいだった。
 
サラが私は大丈夫だからシェニー様のところに言ってください。と言っていたが
ほっておくと、命の危険に及ぶほど苛めは過熱していっていた。
 
サラのことは友達以上に妹のような存在になっていた。
 
恋愛感情は相変わらずない。
俺の好きな人はシェニーただひとり。
 
だけど俺は直接手を出されているサラを優先して守った。
 
一週間、ずっとサラと共に過ごしたが
俺の目を盗んではサラにひどい苛めを繰り返す。
 
犯人はだれかわかっていた。
 
最近よく昼食を共にするようになった
マーケルの追っかけだ。
 
マーケルと一緒にいるサラを憎んだのだろう。
二人はたまに昼食以外でも話していると聞いたことがある。
 
マーケル自身も自分が原因だということはわかっていたみたいだ。
 
だけどシェニーに対しての噂を流す原因がわからなかった。
おそらく噂のでどころもそいつらの仕業だ。
 
シェニーは俺の婚約者なのにどうしてシェニーまで巻き込んでいるのか
理解できなかった。
 
一週間シェニーと話すのが少なくなってさすがに我慢の限界が来た俺は
アンシュタイン家に連絡もせずに足を運んでいた。
 
アンシュタイン公はそんな俺を快く出迎えてくれて
彼女の部屋の前にやってきた。
彼女の侍女がシェニーに俺が来たことを伝える。
 
伝えると同時に半ば強引にシェニーの部屋に入った。
 
一週間、あまり彼女の顔を見る時間はなかった。
だから少し久しぶりのように感じた。
シェニーは俺の突然の訪問にすごく驚いていた。
 
俺は彼女が寝ているベッドまで行き
ふかふかのベッドに腰かけた。
 
「アインス様。どうして。」
 
「今週はお前にあんまり構ってやれなかったからな。」
 
そんなのは言い訳だ。単純に俺がシェニーに会いたかっただけ。
シェニーの綺麗なピンクブラウンの頭に手をのせ軽くたたく。
 
シェニーの顔は心なしか沈んでいるように見えた。
 
サラは大丈夫かと聞いてくる。
ほら、やっぱりシェニーは陥れるような奴じゃない。
 
優しく彼女の頭をなでていると
急に彼女は今にも泣きそうになりながら
少し震える口で
 
「噂…はご存じでしょうか。」
 
髪をなでていた俺の手が止まる。
シェニーは噂を気にしていた。
 
俺から目を背けるように下を向くと
瞳からは涙があふれそうになっていた。
 
その瞬間、俺は後悔した。
何がシェニーは大丈夫だ。
 
こんなおびえて今にも泣きそうな彼女に
どこが大丈夫だというのか。
 
シェニーはいつからこんな弱い女の子になったのだろう。
俺のいたずらや意地悪に顔を膨らますことはあっても
いつも勝気、強気にふるまっていたはず。
 
なのに今目の前にいるのは今にも泣き崩れてしまうほど
か弱い少女になっていた。
 
「ばーか。お前がそんなことする犯人なんて、これっぽちも思ってねぇよ。
お前はそんな器用なことできねぇだろ。」
 
わしゃわしゃと彼女の頭をなでた。
なぜかこうすることで彼女は元気になることを俺は知っている。
 
だけどこの日のシェニーは顔を上げると
途端に涙が溢れ出して
 
「なんだよ。泣くなよ。いつもこれしたら泣き止んでなかったか?」
 
涙をとめたくて両手でさらに頭をなでると
ようやくシェニーは泣き止んだ。
 
「それでいいんだよ。」
 
シェニーの目の残りの涙をぬぐうと
シェニーは少しぎこちなく微笑む。
それに少し疑問に抱きながらも
笑顔が一番だといった。
 
仮にシェニーが犯人だとしても俺はシェニーを見捨てるつもりはない。
シェニーだから。シェニーだけは俺は何があっても手放すつもりはない。
 
マーケルであっても誰にも譲る気はない。
 
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