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シェニー視点

意地悪な顔

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がさっと目の前に影ができる。
前を向くと視界には茶色の紙袋が見える。
 
「どれも美味そうだったから全部買った。」
 
そういって袋を広げて見せてくれると
たくさんのマフィンで紙袋はいっぱいだった。
紙袋を渡されるとずっしりと重い。
 
「とりあえず、一種類ずつ買ってる。何個か食べて残りは
アンシュタイン家で食え。」
 
そういってアインス様は袋の中に手を伸ばしひとつマフィンをとる。
 
「え?いいんでしょうか?」
 
「城に持って帰りたいけど父上に黙って町にでたことがバレると困るからな。護衛にもこのことは内密にっていっているし。アンシュタイン家の賄賂だ。」
 
なんの賄賂だろうかと思いながら私も袋からマフィンを取り出そうと手を伸ばす。
するといきなり紙袋はアインス様に奪われてしまう。
 
「シェニーは太るといけないので俺と半分ずつな。」
 
そう言って食べかけのマフィンを私の口に近づける。
 
間接キス。
 
瞬時にそのワードが頭をよぎり
みるみる顔が熱くなっていく。
 
まじまじとマフィンを見つめ一向に食べない私に
意地悪な口は
 
「どうした?食べないのか?おなかすいてるよな?」
 
チラッと彼を見上げると口角をあげて
意地の悪い目で私を見ている。
 
確かに今日は放課後サラさんと町を散策するため
学園内のアフタヌーンティーを抜いたのでお腹はすいていた。
 
「食べますわ!」
 
食べると言ったもののなかなか目の前のマフィンを食べようとしない。
じっと見る彼の前でかじりかけのマフィンを食べるなんて
恥ずかしすぎる。
 
「あー、なるほど。食べさせてほしいんだな?」
 
追い打ちをかけるかのように悪魔は囁く。
 
「はい。あーん。」
 
綺麗な顔で口を軽く開けながらぐいぐいとマフィンを私の口元に持っていく。
 
ええい!と意を決してそれをぱくりと一口かじりついた。
 
「美味しい。」
 
口いっぱいに甘さと少しの塩気が広がり
しっとりとしたマフィンはとても美味しかった。
 
「よくできました。」
 
意地悪い瞳を輝かせて親指で私の口元を吹いてくれる。
こんなことでさえときめいてしまう。
ただ苛められているだけなのに。
 
「うちのマフィン気に入っていただけたでしょうか?」
 
いつのまにか若いお姉さんと店の男の人が隣に立っていて
一連の行動を見られていたということに更に恥ずかしさを増していく。
 
「は、はい!とっても美味しかったです!」
 
クスクス頭の上で笑うアインス様。
あなたのせいで私はこんなに恥ずかしい思いしているのに!
 
「それはよかったです!また是非いらしてください。」
 
「スターチスのお花、大事にしてくださいね。」
 
優しい二人は肩を組みにっこり頬えんだ。
おそらく二人は夫婦なのであろう。
さっきは見えていなかったけど二人の左手の薬指には
きらりと光る指輪が輝いていた。
 
「ぜひ、また彼女ときます。」
 
アインス様は紙袋を持つ反対の手で私の手を握り
二人を真っ直ぐ見ながら言った。
嬉しいはずなのに
もうその日が来ることはないのだと思うと
悲しみで胸があふれた。
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