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シェニー視点
好きだからこそ
しおりを挟む意を決して伝えると
お父様は驚いて目を見開く。
「なんだって?一体どうして。王太子様と婚約してるんだぞ?」
「わかっています。
婚約はおそらく破棄されると思います。
それにマーケル様の話を聞いてどうしても外の世界を見てみたいのです。」
海を越えた大国がどんなものか
それに少しだけ興味はあった。
この国は島国。
王都から離れたところで住むとしても
すぐに彼らの耳に届いてしまう。
ならいっそのこと国をでて大国で暮らそうと思った。
アインス様に私のことを知られないように。
こんな何も知らない箱入り娘の私でも、
一応前世の記憶を活かせば
なんとかやっていける気がする。
マーケル様を理由にして申し訳ないと
思うけど
「婚約破棄・・。あの拗らせ王子は絶対そんなことしないと思うけど・・・。」
お父様はボソッと何か言ったけど
よく聞き取れなかった。
「というか、シェニー、マーケル殿と話したんだね。」
「あ、はい。最近はマーケル様も一緒に昼食をとってます。」
そういうとまたお父様は目を丸くして
「よくアインス様が納得してるね。」
アインス様?
たしかに二人は不仲だけど。
「そんなことよりお父様。お願いです。どうか留学をお許しください。」
「うーん。とりあえず、アインス様と国王様に相談しないと。」
「そのことなんですがアインス様には私が留学するまで内緒にして欲しいのです。」
もし留学のことをアインス様に伝えて
引き留めてもらえるかも。と淡い期待が
裏切られてしまったら。
彼の口から直接気持ちを聞くのはすごく怖い。
サラさんの隣で笑う彼を思い出す。
直接彼からサラさんを好きだと聞くのは
まだ勇気がない。
今もこんなに好きなのに。
好きでこんなにも胸が痛いのに。
聞いてしまったら恐らく
物語のシェニーの結末を辿ってしまう。
だから彼には黙っていたい。
お父様はそれを聞いて
少しの間うーんと唸りながら黙った。
そして、真剣な目に変わる。
「シェニーはアインス様のことが嫌いなのかい?」
嫌い?
そんなことないわ。
大好き。大好きだからこそ
どんなに多少の誤差が生じようと
物語は強制的に進んでいく。
このままだと私は本当に
アインス様を傷つけてしまう。
だから私は彼から離れないといけない。
「…好きじゃないですわ。」
嫌いなんて言えない。
唇を噛み涙が出る前に瞼を閉じる。
強く握ったドレスはそこだけが皺になっていく。
お父様はまた少しの間黙って、
「わかった。とりあえずアインス様には黙っておこう。婚約のことも理由をつけてしばらく延期にしてもらうよ。」
「延期?延期をされたら困ります!」
延期なんかしてしまったら
アインス様を縛り付けてしまうわ。
「とりあえずだよ。彼がもしシェニーが留学中に婚約破棄をするって言ったらその時は素直に受け入れる。だけど彼から言わなかったら延期でいいね。」
彼に婚約破棄をしようと今言えば
すぐに二つ返事で了承を得られると思う。
だって彼はサラさんが好きなんだもの。
彼がサラさんに向ける目と
私に向ける目は違う。
彼女に向ける目はいつも穏やかで優しくて。
彼はいつも傲慢でたまに優しいけどすぐに意地悪になる。
そんな彼がサラさんにだけは違うの。
ずっと幼いころからアインス様だけを見てきた私には
彼がサラさんを好きなのは一目瞭然だった。
直接聞くのが怖いから
だから留学中ならと思ったのに。
「これに了承してもらえないならアインス様に言うよ。」
お父様なりの譲渡だ。
私はアインス様に知られたくない。
こくりとだけ頷いた。
「じゃあ、とりあえずシェニーが留学したいことは国王様に伝えるね。あと婚約の延期のことも国王様の許しをもらわないことには留学なんてもってのほか。」
そのとおりである。
流石にこればかりは国王様次第。
「もし許可が下りればシェニーはいつ留学にいくんだい?」
「色々準備が出来次第、今すぐにでもと思っています。」
なるべく早く。
「そうか。許可が下りたら留学かー。寂しくなるな。」
そう言ってお父様は私の横に座り
頭を撫でてくれる。
途端に寂しくなって私はお父様にしがみつき
涙を流した。
溜まっていたものが溢れたかのように
たくさん泣いた。
涙とともにアインス様への気持も一緒に流れてくれればいいのに。
そう願ってもこの気持ちは消えてはくれなかった。
お父様はただ黙って私の頭を撫でてくれていた。
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