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シェニー視点

彼の冗談

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「王太子様のことは好きですか?」

彼は目も合わせず聞いてきた。
トクンと胸がなる。
 
「…大好きです。」
 
そう伝える声がなぜか少しだけ震えてしまう。
 
マーケル様は一瞬目を見開き
すぐにまた元に戻る。
そして目の前の私と目が合うと
 
「そうですよね。お二人はとてもお似合いだと思います。」
 
いつも穏やかに笑う彼は
悲しい目をしながら笑った。
 
「そうだと、いいですわね。」
 
素直にそうでしょ。とは言えなかった。

悪役令嬢である私は、本来はアインス様とはいっしょにはなれない。

華奢で可憐なサラさんのほうがアインス様には合っているのではと思ってしまう。
 
「でも彼の横にいつまでもはいれないと思います。」
 
「…サラ様ですか?」
 
「はい。きっと彼はサラさんのことを愛していると思います。サラさんに接するときの彼はすごく優しい目をしています。」
 
言いながら喉の奥がきゅーっとなっていくのを感じる。
言葉にするだけでもこんなに胸を締め付けるなんて。
 

 
マーケル様は手をぎゅっと強く握り
また少し間をあけ決心したように
 
「もしその時が来たら。
僕があなたを支えます。僕が一生をかけてあなたを幸せにします。」


先ほどの愁いを帯びた瞳から一転して鋭く強い意志をもった目で
私を見つめていた。
 
 
まさかマーケル様が
そんなことを言うなんて。
 
じっと見つめる視線に耐え切れず
彼に何も言えず、視線を逸らしてしまう。
 
「・・・まあその時が来たら。の話です。ところで今日の食堂のアフタヌーンティーはアップルパイらしいですよ。シェニー様。アップルパイ好きですよね。後でぜひ行ってみてください。」
 
声色がパッと明るくなって”アップルパイ”なんていうのだから
冗談かと数回瞬きをしたあと
彼を見ると先ほどの悲しい笑顔から
いつもの穏やかな表情に戻っていた。

やっぱり冗談だったのか。
私はつい安堵してしまう。
 
彼が私に対してそんなことを思うはずはない。

小説のマーケル様も
サラさんを好きになる。
だから今ここにいる彼だって
きっと・・。
 
だから先ほどの真剣な表情はきっと私の勘違いだ。
 
「はい。大好物です。後でクラスの皆さんと行ってみますわ。それでは私はそろそろ戻りますね。」
 
それでもなんとなくいたたまれない気持ちになって机にある資料などを片す。
 
「ええ。では。また明日お昼休みに。」
 
いつもの穏やかな表情に戻った彼は右手をあげたのをみて席を立ち
会釈をした後、後ろを振り向いて扉まで向かった。
 
 
「ほんとになんでこんなに好きなんだろう。」

去っていく際、マーケル様が何か呟いていたけどそれは何も聞き取れず図書館を後にした。


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