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拗らせ王子視点

王太子vs時期宰相

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「アインス様。いってらっしゃいませ。」

次の日の朝、門の前で少し恥ずかしそうにそう言うシェリーを見て、

こんな毎朝が続けばいいと思った。

「シェニー。今日は王宮内でしっかり勉強しとけよ。その、帰りもちゃんと門まで迎えに来いよな。」

ゴホンと咳払いをしてから
行ってきます。と言う。

ただの朝の挨拶にすぎないのに
なんだかすごい照れくさくって
馬車に乗ってからシェニーの顔は見れなかった。

本当の夫婦みたい。

こんなニヤついてる顔は絶対にシェニー
には見せたくない。

天気は今日も快晴。
俺も学園なんか行かずに
シェニーと中庭の薔薇園で優雅に紅茶でも飲んでのんびり過ごしたい。

やつの顔を一日中拝むのかと思うと心は曇り空になる。


◇◇◇


「以上で演説を終わります。」


案の定演説会のメインは
マーケル・ノイッシューで
やつの議題をテーマに永遠と論ずる時間で一日は終わる。


悔しいことにやっぱりあいつは
時期宰相ということだけあって
この国の未来のことを考えている。

俺も王太子で次期国王に
なるつもりだから、
やつの提示した議題は
とても面白いものだった。
すごく興味が湧いたし
シェニーのこと抜きにしたら純粋に
やつとこの国を守り、より豊かにしたいと思う。

だからこそ。

何が何でもやつからシェニーを近づかせねーようにしないとな。

とりあえず今日はこれで終わりだ。
城に帰ると可愛いシェニーが待ってると
思うと足取りは軽くなる。



ガタゴトと馬車は城の前に止まった。

門をくぐると


「アインス様!お帰りなさいませ。」

パタパタと慌ててやってくるシェニー。

いや、だから。
可愛すぎませんか?

「っただいま。シェニー。」

朝も思ったけどこんな普通のあいさつすら照れ臭いなんてな。

可愛すぎるシェニーのほっぺを
これでもかっていうくらい強くつねると

「アインスさま、いたいです。」

少し涙目になるのがまた可愛い。

「うるさい。さっさと食事にするぞ。」

そう言って足早に歩いていく。

父王も母上も今いなくてよかった。
もしいたら絶対こんな俺を見て嘲笑うだろうな。

そして、次の日ついにやつと対面する。



◇◇◇


「やぁ、アインス王太子様。ご無沙汰しております。昨日はどうでしたでしょうか?」


今日も朝から可愛いシェニーの見送りで
幸せな気分だったのに学園について
交流会が始まった途端、気持ちは一気に急下降。

その原因はこいつ。

交流会が始まった瞬間真っ先にやってくるマーケル。
俺が王太子だからというのもあるが、、、。

「ああ。昨日の演説。とても面白いものだった。ああいう考えは未来のこの国にとってより良いものになると思う。次期宰相期待しているぞ。」

引きつり気味の笑顔でいう。

「それはそれは。王太子様にそう言ってもらえてとても光栄です。ぜひ期待に応えられるよう精進してまいります。」

「ああ。そうしてくれ。ではこのへ「ところで。」

さっさと話を切り上げてその場を去ろうとした時、やつは言葉を被せてきて

「シェニー様は昨日からおやすみでしょうか?姿が見られませんね。」

やっぱりきたか。と

「シェニーはこないだの体調不良を考慮して休ませた。シェニーも大変残念がっていたよ。」

引きつり笑顔がさらにひきつる。

「そうですか。先日のベンチの時に風邪でも引いてしまわれたのかと思いました。」

こないだのあれな。
あれのおかげで今日ここにはいないんだよ。
と言いたくなる気持ちをぐっとこらえて。

「まぁ大事をとってこの2日は王宮で王妃教育を受けている。俺の婚約者の事を心配してくれてお前はいいやつだな。」

"俺の婚約者"

ここ重要。

一瞬マーケルの眉がピクリと動く。

「王宮で、ですか。そうなんですね。一昨日はシェニー様の態度がえらく変わってたみたいでてっきり婚約破棄されたのかと思ってましたがまだされていなかったんですね。」

"まだ"を強調してくる。
すげー腹立つ。

「ちょっと軽い喧嘩しただけだ。たまたまシェニーの腹の虫の居所が悪かったんだ。それに婚約破棄する気はこの先もまずないんで、お前もさっさと嫁を探したらどうだ。」

正直、一昨日のシェニーは俺も驚いた。

今まで一度も欠かさず俺のとこに
来ていたシェニーが一回も来なかった。
休み時間も昼食時も。

さすがに俺もやりすぎていたところは
認めるがあれはさすがに驚いたな。

まぁ昨日の城での態度とか見ると
大丈夫そうだと思うが。

昨日の食事時や、朝晩の送り迎えの時の
シェニーを思い出して顔がにやけそうになるが、慌てて無表情を貫く。


「...そうですね。いい人が現れればそのうち婚約すると思います。でも僕はまだ初恋を忘れられていないので。その気持ちが消えない限り誰かを娶る気はありません。」

一瞬マーケルの顔が曇った気がした。

「さて、では私はこれで失礼します。シェニー様にお身体にお気をつけください。とお伝えください。それでは。」

軽い会釈をしてやつは
他のものに声をかけにいった。

初恋を忘れられていない?

やつはシェニーを好きだと思っていたが
他に好きな奴がいたのか?

シェニーとやつは一昨日がほぼ初対面なはず。
初恋がシェニーであるわけないよな。




その後、他の貴族と意見交換してから
時間になったのでそのまま帰宅する。


帰ると今日もシェニーは門前で待っていた。

ただ昨日と違うのは門の前で
アンシュタイン家の馬車が停まっていた。

「アインス様。おかえりなさいませ。」

帰り支度を済ませて出迎えてくるシェニーを見て寂しい気持ちになる。

「ああ。じゃあシェニーまた明日。学園で。」

このままここにいると行くなって言いそうになってしまう。

素っ気なく言うと

「...はい。それでは2日間お世話になりました。また明日。」

しゅんっと下をむいて今にも泣きそうになるシェニー。


咄嗟に彼女の手を引いて自分の胸に引き込むと大きな目がさらに見開いた。

「あ、あ、アインス様!?」

すぐに体を離してから彼女の頭を
両手でこれでもかーってくらい
グシャグシャにして

「次来るときはもう一生帰れない覚悟で来いよ。」

その言って笑いながらシェニーの両頬を強くつねると

「いたいです。いっしょうかえれないってなんかこわいですわ。」

と言いつつも耳まで真っ赤なのは
頬を強くつねっているせいではない。

泣きそうな顔だったシェニーは
ニコッと微笑んでアンシュタイン家へと帰っていった。
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