上 下
6 / 73

未定

しおりを挟む
私は2人を見てからふっと
視線を元に戻した。

別に2人が一緒にいるのなんて
気にしない。見ない。聞かない。

胸がずんと重たくなるのを感じても
彼を私の視界にいれない。

私の態度にも周りはどうして?
というばかりになってなおさら騒ぎだしていった。

そんな中当の本人、アインス様は
わざと大きな声で話していく。

「今日の昼はゆっくり過ごせたな。一週間しかふたりだけでのんびりできないと思ったが今日もできたと思うと今日は最高の日だな。」

ズキズキと胸が痛んでいく。

私が療養かねて一週間休んでいた間にも
アインス様はサラさんと2人でランチを
楽しんでいたんだわ。
一週間、会いたい、寂しいと思ってたのは私だけだったのね。

そう思うとまた涙が溢れそうになって
そのまま椅子から立ち上がって近くにいた人に
病み上がりでしんどいから医務室に行くわと告げ教室を後にした。

いくらか長い廊下を足早に歩いていくと
授業開始の鐘がなりそれまで
騒がしかった学園は先生の声だけを残し
静かになっていった。


はじめてサボっちゃった。


途端にゆっくり足になってトボトボとガランとした長い廊下を歩いていた。


どこ行こうか。
このまま廊下をただ歩いていたら疲れてくるし
もし先生に見つかったら家に報告されちゃう。
怒る親ではないけど申し訳なくはなるわ。


ふとこないだ倒れた時にアインス様たちが座っていたベンチを思い出した。


あそこなら奥にあるし見つかりにくいよね。


そう思うと踵を返して中庭の奥のベンチを目指した。

ふぅと息を吐いてベンチに座る。
木の下のベンチは中庭に照りつける
太陽の日差しがちょうど木に隠れて
暑さを感じなかった。
風がひゅーっと心地よく吹いて
ここってこんなにステキな場所だったんだなと改めて思った。

学園に入りたての頃は
それこそアインス様にはもっと賢くなってもらわないとと意気込んで
今よりもっと厳しく接していた。

授業をサボろうとする彼を全力で止めたり
宿題を私に押し付けようとするものだからそれを怒って終わるまで
遊びに行かさなかったり。
それになにかとちょっかいをかける彼に色々注意してた。

そんな私を疎ましく思った彼にはよく
怒られてたっけ。
そんな毎日、毎日、アインス様に
費やしていたら時々疲れちゃって
たまにの放課後にアインス様が帰るのを
見送った後自分の馬車が来るまでの間
ここのベンチでゆっくりとした時間を過ごしていた。

それは少しの時間だったけど
アインス様の婚約者、シェニーではなく
ただのシェニーになれる唯一の時間だった。

でもサラさんが転入してきて数ヶ月後に
2人がここでランチをするようになってからはたとえ放課後で2人がいなくても
ここに来るのは躊躇っていた。

少しでも2人がいた形跡を見たくなかった。
2人が仲良く話をしているところを想像してしまう自分が嫌だった。
そう思うと放課後に自然とここに足を運ぶことはなくなった。


木の隙間から差す光はキラキラ輝いているのに私の心だけはどんよりと暗くて厚い雲がかかったようだった。

私は左手を掲げてまた薬指をじっと見つめていた。


アインス様はあの時のことを
覚えていますか?
私は今でもずっと忘れていません。

高く掲げていた左手をそっと下ろし
薬指の部分に優しくキスをした。

この想いは本当に時が経つにつれ
消えていってくれるのだろうか。
いつか思い出として笑ってあんなことも
あったねと思える日が来るのだろうか。

忘れたい気持ちと忘れたくない気持ちが
交差して耐えきれなくなって
また一粒雫が頬を伝っていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

処理中です...