False love

平山美久

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敵わない2人。

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国王様の発表に
その場にいる貴族たちは
驚愕の顔をして
3人に視線を向ける。

いきなり第一王子が帰国したことも
まだちゃんと皆に伝えていない中の
立太子宣言とユーフォリアとの婚約。
それもアルヴィンとの婚約破棄直後。

驚かない方がおかしい。

恐らくは国の重臣たちは
話を聞かされているだろうが
それ以外の貴族たちには
寝耳に水だろう。

これまで王位継承問題で
第一王子派と第二王子派に
別れて対立していた貴族達は
この知らせで今後の展開に
頭を抱えることになる。

特にこれまで留学していた
ケルヴィンよりも
王の元で立派に政務をこなしていた
アルヴィンを時期王にと躍起になっていた
第二王子派の貴族達には
頭がいたい話である。

大勢の前で声高々の立太子宣言で
覆すことも容易ではなくなる。
国王様はおそらくそれを狙っての
今夜の夜会なのだ。
後からグチグチ言われるのも
想定内だと思う。


ユーフォリアに関しては
もともと王家に次ぐ権力をもつ
アルマニー家だから
どちらと婚約しても支障はない。
父である侯爵は隣国タスリアとの
貿易を他の貴族達に斡旋していたりと
何かと取り計らっているので
アルマニー家を陥れようという
考えは基本的に持ち合わせていない。
敵に回してしまえばその後ろに
王族、タスリア国がいるので
簡単に手を出せるものはいないのだ。
心中は何を考えているかは
わからないけども。

それまで静まり返っていた舞踏室に
誰かの拍手をキッカケに
皆が盛大にケルヴィンとユーフォリアを
歓迎しだす。

ユーフォリアはケルヴィンに
寄り添われ涙を流しながらも
皆の祝福を受けた。

そしてケルヴィンに誘われ
ホールの真ん中まで行くと
それを見計らったように楽団達の演奏が
はじまる。

2人は互いに見つめ合いながら
優雅にダンスを披露した。

なんだかんだ振り回された貴族達も
真の対であるように寄り添う2人に
感嘆の声を漏らす。

まるで一枚の絵画のように
優美で高貴であるように。

「やっぱり兄上には敵わないな。」


アルヴィンは寄り添い合う2人を見て
諦念の気持ちで呟いた。
その瞳には切なさと羨望に揺らめいている。

「私が癒して差し上げますから。」

メリヤはアルヴィンの腕に回した手に
わずかに力を入れ
見上げながら伝える。

「…期待はしてない。」

メリヤに返事を返すも
アルヴィンの目線はいつまでも
ユーフォリアだけを見つめていた。


メリヤはそんなアルヴィンから
背けて下を俯く。

「私が頑張りますわ。」

ポタリと地面に一雫の涙を零して
誰に聞かれるでもなく
そっと呟いたあと、
もう一度顔を上げて今度は元気に
アルヴィンに笑顔を向けた。

「さぁ!私たちも踊りましょう!」

メリヤに腕を引かれながら
2曲目に流れ始める頃
他の貴族達と紛れて2人は
ダンスを楽しもうと輪の中に入っていった。









「リア。綺麗になったな。」

「ケルヴィン様は更にかっこよく
なりましたわ。」


ユーフォリアとケルヴィンは
1曲めのダンスの後
続けて2曲めに突入していた。
涙は引っ込んでいた。

「3年は長すぎた。」

「全くですわ。手紙もよこさずに」

踊りながらじとっと睨むと
ケルヴィンは苦い顔で
すまん。と言った。

「悠長に構えていたら3年で終わらないことに気づいてそれからは馬車馬のように働いてたから。」

「そんなの言い訳です。」

それでもやっぱり寂しすぎた時間を
思えばどうしても簡単に許すのが
躊躇われてしまう。

「そうだな。言い訳は良くないな。どうしたら許してくれる?」

耳元で少しだけ掠れた
低音で囁くものだから
ユーフォリアは顔を赤くする。

「ひとつだけありますわ。」

顔を赤くしながらも
頭一つ分背の高いケルヴィンを
見上げる。

「なんだ?」

「もう私を置いてどこにもいかないでください。」

切実に願う。
ユーフォリアの目は
ケルヴィンをじっと見つめた。

「ふっ。」

そんなユーフォリアを見て
ケルヴィンは小さく笑ったあと

「仰せのままに。私のリア。」

ぐっと腰を引き寄せ
口づけられるほどの至近距離で
ケルヴィンは穏やかに言った。

ドキドキと胸が高鳴る。

いつだってユーフォリアの
胸をときめかせてしまうのは
ケルヴィンだけなのだ。

2人は笑いあって
ひとときのダンスを存分に楽しんだ。




ダンスが終われば代わる代わる
お祝いの祝辞を述べに
2人の元にやってくる貴族達の
相手をしてその晩は
忙しく結局きちんとした話は
次の日にということになり
遅い時間にお開きとなった。

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