False love

平山美久

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帰国の知らせ

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それから近く
ユーフォリアは屋敷に篭った。

アルヴィンの言う通り
夜会にも出ず
お昼のお茶会にも参加しないで
ひたすら屋敷で時間を持て余した。

アルヴィンの計らいで
屋敷に教師を派遣してくれて
妃教育に惜しみなく励んではいるものの
ずっと外に出れないのは
少なからず不満は出てくる。

それでも二人を信じて待った。

屋敷の使用人たちがこっそり
話していたところによると

アルヴィンはその男爵家の令嬢と
時間がある限り堂々と
大衆があるところに出向いているらしい。
たまに夜会ではその彼女と
同伴しているのだと。

突然ユーフォリアの姿が
見えなくなった夜会では
アルヴィンが乗り換えたから
恐らく傷ついて屋敷に篭っていると
忽ち噂が広まったらしい。

人々の目はユーフォリアを
同情しているようだ。

(本当は違うんだけど)


意外だったのは父だ。

父は公爵家の当主だから
あちこちの夜会に参加している。
その噂は恐らく父の耳にも届いている。

なのに父は怒りもせずに
いつもと変わらない様子だ。

婚約を取り消してすぐに
タスリアとの縁談を持ってくると
思っていたのに。


ユーフォリアが屋敷に篭れば篭るほど

ケルヴィンが王女を連れて
帰国すると言う噂は忽ち消え
アルヴィンの噂が尾ひれをつけて
どんどん広まっていった。





ひと月ほどがたち
アルヴィンのお茶の時間に
招待されたユーフォリアは
久しぶりに王城に足を運んだ。

「アル久しぶり。」

珍しく先についていた
アルヴィンは優雅にお茶を飲んでいた。

「ああリア。元気にしてたか?」

「ええ!もう引きこもりすぎて半狂乱になりかけたわ」

「リアらしいな。」

ハハと笑うアルヴィンは
いつも通りだ。

「それで浮気中の王子様はどういうご用件ですか?」

「ちっとも妬いてないくせによく言うわ。」

苦々しいという顔をする反対に
ニヤリと意地の悪い笑みで笑う
ユーフォリア。

「可哀相だとかすごい同情されてるの知ってるのよ。」

醜聞に巻き込まれた意趣返しよ。
というとアルヴィンは肩を竦め謝った。

「ところでリアにはいい知らせがある。」

「何?」

僅かに緊張してしまう。

「兄上が帰ってくるそうだ。」

ドキンと大きく音を立てて胸が鳴る。
それからドキドキと心臓が煩くなっていく。

「ケルヴィン様が…。」

「もちろん共はいるが一人だぞ。」

噂のことで心配していたのを
知っているからこそアルヴィンは
そう言ったのだろう。
だけどそれはユーフォリアに
少し安堵をもたらせた。

「帰ってくるのね。」

やっと会えると顔が緩んでしまう。

だけど…。

「まだ険しい顔だな。会いたくないのか?」

「あ、会いたいけど…」

ケルヴィンからの手紙が滞って
しまって以来
頑張って待つと決めたものの
もう彼の気持ちが心変わりしているのではと
思ってしまう。

「…リア。最後に聞くけど。」

アルヴィンは少し息を吐いた後
真剣な瞳でユーフォリアを見つめる。

「この3年間。どんな理由でも俺はリアの婚約者になれて嬉しかった。
リアはずっと兄上を見ていたように
俺はずっとリアだけを見てきた。」

真剣な瞳に目が離せない。

「だからリアがもしこの3年の間に
兄上ではなく俺を少しでも好きになってくれたならこのまま…このまま俺と結婚してほしい。好きなんだリア!」

じっとその青空のような明るい瞳を
見つめる。
そしてこの3年間の時を思い出す。

ケルヴィンが旅立って
泣いてばかりのユーフォリアを
献身的に支えてくれていた。
アルヴィンがどんな気持ちで
ユーフォリアのそばにいてくれたのか。

手紙が来なくなってからの
不安の日々も
打ち明けるまで黙って待ってくれていた。

アルヴィンは優しい。
口は悪いし意地悪なこともするけど
いつだってユーフォリアを
大事にしてくれていた。





だけど。


「…ごめんなさいアル。私はどうしてもケルヴィン様が好きなの。」

アルヴィンの顔が見れず
思わず目を伏せてしまう。

きっと傷ついていると思う。
でもどうしてもアルヴィンの気持ちに
答えられない。

ケルヴィンが
心変わりしているかもしれない。
もうダメかもしれない。

それでもユーフォリアには
ケルヴィンしかいない。
ケルヴィン以外の誰かに嫁ぎたくない。

「まぁーだよな。」

少しの沈黙のあとアルヴィンは
少しだけ低い声で呟いたあと
おもむろに立ち上がりユーフォリアに
近づく。


パチン

と軽快な音を立てて
アルヴィンがユーフォリアのおでこを
弾いた。
額に痛みが広がり思わず
アルヴィンを見上げる。

「まぁお前は私より兄上のがお似合いだ。」

見上げたアルヴィンは
影になって少し見えにくいけど
いつもと同じように笑っていた。


「父上が今度の夜会で私とユーフォリアの婚約を破棄すると言っていた。
それからこれ兄上から。」

驚きの発言を聞いたものの
渡された手紙を見て
一瞬で意識がそちらに向いてしまう。

手紙を裏返すと
"愛しのユーフォリアへ。"
とケルヴィンの優しい字で書かれてあった。

(愛しの…)

目が滲みそうになる。
内容はわからない。
だけどたった数文字に
胸がときめいてしまう。

「リア。」

アルヴィンの顔をもう一度と
見上げる。

「いつまでも私はお前の味方だからな。」

「ありがとう。アルヴィン。」


風が優しく二人を包む。
あれから3年。

ケルヴィンが帰ってくる。
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