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学園の沙汰は委員(おに)次第
覗きが好きです。でも桃娘さんはもっと好きです!
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夕暮れ時の三途の川沿いを、三人の男子学生が連れ立って歩く。
中心に高貴を置いて、彼の右側に剛が、左側には停学処分を受けた葉月レンが並ぶ形だ。
例の雑誌を歩き見ながら、高貴は口を開いていた。
「お前、執行委員会に入りたくてベランダから覗いてたのか? 覗き好きだねえ」
高貴の誉め言葉とも、皮肉とも言えるものに、レンは頬を染め照れた様子で頬を掻く。
「照れる前に、あなたは覗き好きって所を突っ込みなさい」
「覗き好きは事実だ!」
「事実なの!?」
「お前、いつか獄卒に捕まるわ」
「だから、入ろうと思ったんですよ! 自分を更生する為に!」
胸を張ってふんぞり返るレンに、剛は頭が痛くなってきた。
常日頃から、学園の秩序を守って来た執行委員会。
不良達からは目の敵にされてるが、一般生徒からは好奇の目を向けられている。
独自の正義を振りかざし、バッタバッタと悪餓鬼共を退治するその姿は、まさに鬼退治に出た桃太郎のよう。
外から見える執行委員会の姿を、レンは熱を入れて語る。
「桃太郎は勿論伊織様です! そして、彼女に必要なのが三匹の家来たち! しかーし! 今は、二匹しかおりません! そこで、俺が立候補します! 三匹目の家来に! あっ、伊織様は女性ですから、桃太郎と言うより桃娘(ももこ)さんですね!」
長々とした演説に、高貴は冷ややかな視線を向ける。
「本当の理由は?」
「伊織様に殴られたいからです! 彼女に殴られた時、言葉に出来ぬ快感が俺を襲ったんです!」
殴られる度に、体に流れる快感。
ビリビリと自分を痺れさせ、立つのもままならない程。
「あの快感が忘れられず、執行委員になれば失敗をする度にお仕置きをして下さるだろうと思ったのです!」
「それ、ただの変態です!」
たまらず、剛が口を挟む。
この男のせいで、執行委員会は変態の集まりだと思われたら困る。
確かに、伊織は可愛いし、格好いいし、凛々しいし、剛の中でも憧れの存在ではあるけれど、殴られたいと思ったことは一度もない。
三途の川の水を被って頭を冷やした方が良いんじゃないか。
そう言ってやろうとした刹那、高貴が腰を捻り、レンの頬に拳を一発入れる。
殴られた衝撃でレンは吹っ飛び、顔面を地面で擦りながら滑った。
動きが止まり立ち上がろうとするも、後を追って来た高貴に跳び蹴りを食らわされ、うつ伏せに倒れる。
高貴は彼の腰に馬乗りになり、羽交い締めをして彼の背中を反らした。
「彼にも執行委員になりたいって野郎が、個人的な性癖で動くのはいただけねえなあ」
「イダダダッ! ギブギブ! 背中折れる!」
「仮にも執行委員が、授業を堂々とサボってる件についてはどう考えてますか?」
「俺は良いんだよ!」
「委員なだけに!?」
「るせぇっ!」
くだらないボケをするレンに、高貴が手厳しい突っ込みを入れる。
道のど真ん中でそんなやり取りをする彼らを、道行く人が不振な目を向けて通り過ぎて行った。中には、ヒソヒソと話す人もいる。
三途の川の川原で小石積みをしていた小さい子供が「あれはなにぃー?」と獄卒に聞くが、獄卒は「見ちゃいけません」と、目隠しした。
剛は次第に恥ずかしくなる。
このままでは、ただでさえ悪い学園の評判が更にがた落ちだ。
恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、原因である二人を止めに入った。
「も、もうやめましょう二人とも! みんな見てますから!」
馬乗りになっている高貴を、力ずくでレンから引き剥がす。
文句を言いながらも、高貴はレンから腰を上げた。
お互いに息を切らし、レンは制服に付着した砂を払う。
二人の言い合いが鎮まった所で、剛は高貴に質問した。
「高貴さん、あんた僕達を連れて来たい所があって連れ出したんでしょう。行くなら行くでさっさと行きましょう。此処から立ち去りましょう!」
「ああ、そうだったそうだった。早く行かないと、混んじまう」
当初の目的を思い出したのか、高貴は歩き出す。
剛とレンも、彼の後を歩き始めた。
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