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清風の頃
飴色
しおりを挟む「いやさ、ほんとさ、変化っていうのはよーうわからんな」
幼馴染みの一人、寺の孫が腕を組ながら神妙な表情をしてうんうんと頷く。
その様子に苦笑しながら、俺は冷凍の玉ねぎみじん切りタイプをフライパンに投入した。油に触れてパチパチと水分が弾ける。
「特にお前たちはよーうわからん。うちでカレー作ってる理由もな」
「カレーじゃなくて、キーマカレーだよ」
「種類の問題じゃねえ」
「はいはい」
寺の孫の話を聞き流しつつ、玉ねぎを炒める。飴色を目指したいところだが、今日は素を使って作るキーマカレー。飴色の手前、透き通った色になれば良いと素に書いてある。玉ねぎに火が通ったところで、挽き肉を投入し、肉の表面が白っぽくなるまでしばし待つ。入れて直ぐだと混ぜにくいのが肉だ。しばしなら、玉ねぎも早々焦げることはない。
肉の色が変わるのを待ちながら、寺の孫の疑問をうーんと考える。
寺の孫の部屋で、キーマカレーを作っている理由……というよりも、料理をしている理由。
実家のキッチンは母と姉の城であり、父や弟は手を出せない領域であった。が、一人暮らしが決まってからは簡単に作れるおかずを習ったり、時短できる素を教えてもらったりと、とりあえずこれさえできればどうにか生きていけるという知識を叩き込まれている。役立つ機会は早々訪れないかもと思っていたが、あいつが俺の家に来てから少しだけ意識が変わった。
「ご飯のひとつやふたつ作れたらさ、あいつが困っても大丈夫だろうと思って」
あいつができなくても、俺ができればどうにかなる。
パパとママがいなくても、どうにか生きていける。
「そろそろ巣立つと思うんだ、あいつ」
その為に、練習がしたいと言われてもいいように、俺ができるようになっておく。
俺の甘えたな話を聞いて、寺の孫は呆れた表情を見せていた。
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