上 下
81 / 101
清風の頃

飴色

しおりを挟む

「いやさ、ほんとさ、変化っていうのはよーうわからんな」

 幼馴染みの一人、寺の孫が腕を組ながら神妙な表情をしてうんうんと頷く。
 その様子に苦笑しながら、俺は冷凍の玉ねぎみじん切りタイプをフライパンに投入した。油に触れてパチパチと水分が弾ける。

「特にお前たちはよーうわからん。うちでカレー作ってる理由もな」

「カレーじゃなくて、キーマカレーだよ」

「種類の問題じゃねえ」

「はいはい」

 寺の孫の話を聞き流しつつ、玉ねぎを炒める。飴色を目指したいところだが、今日は素を使って作るキーマカレー。飴色の手前、透き通った色になれば良いと素に書いてある。玉ねぎに火が通ったところで、挽き肉を投入し、肉の表面が白っぽくなるまでしばし待つ。入れて直ぐだと混ぜにくいのが肉だ。しばしなら、玉ねぎも早々焦げることはない。
 肉の色が変わるのを待ちながら、寺の孫の疑問をうーんと考える。
 寺の孫の部屋で、キーマカレーを作っている理由……というよりも、料理をしている理由。
 実家のキッチンは母と姉の城であり、父や弟は手を出せない領域であった。が、一人暮らしが決まってからは簡単に作れるおかずを習ったり、時短できる素を教えてもらったりと、とりあえずこれさえできればどうにか生きていけるという知識を叩き込まれている。役立つ機会は早々訪れないかもと思っていたが、あいつが俺の家に来てから少しだけ意識が変わった。

「ご飯のひとつやふたつ作れたらさ、あいつが困っても大丈夫だろうと思って」

 あいつができなくても、俺ができればどうにかなる。
 パパとママがいなくても、どうにか生きていける。

「そろそろ巣立つと思うんだ、あいつ」

 その為に、練習がしたいと言われてもいいように、俺ができるようになっておく。
 俺の甘えたな話を聞いて、寺の孫は呆れた表情を見せていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

妊娠したのね・・・子供を身篭った私だけど複雑な気持ちに包まれる理由は愛する夫に女の影が見えるから

白崎アイド
大衆娯楽
急に吐き気に包まれた私。 まさかと思い、薬局で妊娠検査薬を買ってきて、自宅のトイレで検査したところ、妊娠していることがわかった。 でも、どこか心から喜べない私・・・ああ、どうしましょう。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...