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盛夏の頃

その名前

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「正式な企画書が届きました」と後輩から告げられて渡されたのは、開局記念で行われる舞台の企画書だった。舞台の概要とスポンサーの名前から細かなストーリーとスケジュール、スタッフとキャストの名前がびっしりと書かれている。プロデューサーや監督、演出家、脚本家のコメントも寄せられており、舞台への熱意が感じられた。
 十ページほどある企画書に目を通してから、キャストの名前が載るページへ戻る。そこにある自分の名前を見て息を吐き出した。
 明日から、事務所の電話番が大変な思いをしそうだな。
 企画書を見た記者や、まだ話を聞いていなかった俳優たちは今ごろどんな反応を見せているだろうか。
 一足早く、企画書を受け取っていた俳優たちで俺の連絡先を知っている者からは、既に私用のスマートフォンの方に連絡が入っていた。
 メールで送ってくる者もいれば、直接電話をかけてきた者もいる。昔、この舞台で世話になった大先輩から電話がかかってきた時はさすがに生きた心地がしなかった。「どの面下げて帰ってきたんだ⁉」とか言われなくてよかった。
 今も現役の名だたる人間たちが並ぶ履歴を見返して、再び息を吐き出した。
 久しぶりに出るせいか、妙にそわそわして落ち着かない。緊張しているからか、それとも楽しみにしているからかはわからないが、もう後戻り出来ないと焦っているのは確かだ。
 落ち着け、俺。昔みたいにやればいいんだよ。
 二度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
 子どもの名前が通知に表れたのはその時であった。
【お好み焼き】という一言と共に、お好み焼きの写真が届いている。
 今日は終業式だ。大方、学校終わりに友人たちと食べに行ったのだろう。
 大人の名前が並ぶ中、何も知らずにひょっこりと表れた子どもの名を見て、少しだけ気持ちが落ち着いた。
 願わくば、制服を汚さずに帰ってきて欲しい。
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