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「ねえ」

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 黒いタンクトップの上に、厚い生地で出来た詰襟の白い半袖。襟や袖口には蔦模様の刺繍が青白い色の糸で施され、タンクトップと同じ色のパンツにも、ポケットの縁から太ももにかけて流れ落ちるように、蔦模様が刺繍されている。靴は革で作られた、ハーフブーツ。
 満月の夜空と森を表した衣装を着た子どもは、「見て見て」と鏡の前で両手を広げた。

「どう?」

「うん、似合ってる」

「当然」と、満足そうに子どもは頷く。
 今日は、サイン会兼ミニライブの日。地元のショッピングモールの広場に作られた小さなステージが、今日の舞台だ。
 サイン会は事前に行われた抽選式で、ゲストは既に集まっている。
 大きなイベントには何度か出ているが、単独でのイベントは初めてだ。この日の為に何度も確認して準備をしてきたが、現役の時以上に俺は緊張してる。やっべえ、これで失敗したら俺の首が魔女に絞められて飛ぶ。
「しっかりやってくれよ」と念じたところで、子どもが「ねえ」と口を開いた。

「なんだ?」

「俺、いつまでパパの家に居ていいの?」

 俺の顔を見上げる目が、不安で揺れ動いている。
 当人も、慣れない個人イベントに緊張して、喋っていないと落ち着かないのだろう。それで出した話題がこれだ。
 俺とよく似た色の髪、頭に生えた細くて小さな角。似ている部分は多いのに、どうしてこいつと俺は血が繋がっていないのか不思議だ。生まれて来る家を間違えたんじゃないか?
 角の先が僅かに見える頭に、ぽんと手を置く。

「好きなだけ居ていいよ」

「パパが結婚してからも?」

「そうだよ」

 あいつも、きっと同じ答えを出す。
「あの子に独り暮らしさせたら、毎日お菓子でご飯を済ませるから」という言葉は、彼女の方から出たのだ。
 それを伝えると、子どもは少々頬を膨らませるも「わかった」と言うように頷いた。
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