44 / 199
44.Bask in the afterglow④
しおりを挟む
さっきの話が藤澤さんの話したかったことなのかと思いきや、もう1つ。
「三浦さんの方は29日って納会ですか?」
最初、『納会』と言われてピンとこなかったけれど。
「...確か...そんなことを田山さんから聞きましたが、納会って何をするのでしょうか?今年の営業の最終日ですよね?」
それについての内容の詳細を一切知らされておらず、参加だけは義務付けられていたのを思い出す。
田山さんは参加さえすればいいよと言う口ぶりだった為に、アドリブにめっぽう弱い私は、少し不安だった。違う所属だけれど、藤澤さんなら何か知っているかなと期待を込めてチラリ。勘のいい彼は私の不安をすぐに察してくれた。
「懇親会みたいものですよ。まあ、今年もお疲れ様といって、会社でおおっぴらに飲むだけなんですけどね」
...なんだ、本当に参加するだけ。
私はほっと胸を撫で下ろし、気になったのでもう少し詳しく。
「...その納会は遅くまでかかるのでしょうか?」
「得意先周りが殆どないので、夕方くらいで帰る人と残って飲む人に別れます。だから、その時に帰れますよ。ただ、その日の当番にあたっていると夕方には帰れません。三浦さんは当番ですか?」
うちが年内の営業を終えてもお客様はまだという場合もあり、電話番と品物配達を当番制で数人の営業が受けることになっている。
彼が聞いてきたのは、私がその当番に当たっているかどうかという事だった。
「いや、違っていたと思います」
「それなら...」と彼は言いかけ、珍しく周りを警戒しつつの小声になる。
「その日にどこかで待ち合わせして、帰りにデートしませんか?」
...え、え、え!?
これにはすんなり返事を返せなかった。
「だから、行きたい所を考えておいて下さいね」
藤澤さんは殆ど周りに人がいないからと、お茶目にウィンク。
せっかく自分なりにドキドキを抑えていたというのに、こんな素敵なお誘いに、また、挙動不審状態に陥る。
思ってもみなかった初デート!!
勤務時間中だというのに「どうしよう...」と、真剣に悩んでしまう。
ただ、彼が出来たら是非行ってみたいと思っている場所もいくつかあったので、お伺いを立ててみる。
「あの...本当にどこでもいいのでしょうか?」
すると、藤澤さんは笑顔で「もちろんですよ」と即答してくれた。
「それなら...」と遠慮がちに伝えたのは、夜景の見える展望台。
「展望台?そんな所でいいのですか?」
彼はもっと違うところを想像していたのか、意外といった風に聞き返してくる。
「は、はい...実はデートで行くのが、ずっと夢でして...」
流石に子供っぽいかと恥ずかしくなり俯いてしまいそうになったけれど、ふとある可能性が脳裏を過ぎった。
「...そこの展望台に行かれた事はありますか?」
デートスポットでもとても有名な場所だったから、彼自身はもしかしたら他の誰かと何度も行った事があるのではと気になってしまう。
彼の返事を真剣に待ってしまうと、柔らかく笑われた。
「...そうですね、友人と一度だけ行ったくらいでしょうか。それも大分前のことだから、どんなのかは忘れました」
彼の否定とも取れる言葉に安堵して、ホッとする。
「それなら、良かったです」
「えぇ。だから、是非行きましょう」
勤務時間中にも関わらず、デートの約束をしてしまうなんて。
付き合っている事を秘密にしてと話すわりに、藤澤さんは大胆だった。
それとも、私が寂しくないように気を回してくれたのかなとも思う。
いつも、藤澤さんの方が大人で一枚上手だから、自分も同じように大人になりたい。
そうなったら、なんでも気軽に話せる関係になれるのかな思っていると、向かいから白衣姿の男性がこちらに駆け寄ってきた。
「主任、探しましたよ。どこいってたんすか?」
松浦に声をかけられ、私と彼は顔を見合わせる。
そんな私たちの間に松浦はズケズケと入り、彼の持っていた段ボールを奪っていった。
「なんで、三浦のくせに主任に荷物待たせてんだよ?」
相変わらずのすごい言われように私は開いた口が塞がらない。彼は松浦の横柄な態度に苦笑いしつつも、私の手から紙袋を受け取った。
「これは俺たちが責任持って運んでおきますので。三浦さん、またね」
軽く手を振ってくれると、そのまま彼は松浦と2人で研究所へと向かう。
私が今にもスキップしそうなくらい浮かれて戻ったのは、言うまでもない。
「三浦さんの方は29日って納会ですか?」
最初、『納会』と言われてピンとこなかったけれど。
「...確か...そんなことを田山さんから聞きましたが、納会って何をするのでしょうか?今年の営業の最終日ですよね?」
それについての内容の詳細を一切知らされておらず、参加だけは義務付けられていたのを思い出す。
田山さんは参加さえすればいいよと言う口ぶりだった為に、アドリブにめっぽう弱い私は、少し不安だった。違う所属だけれど、藤澤さんなら何か知っているかなと期待を込めてチラリ。勘のいい彼は私の不安をすぐに察してくれた。
「懇親会みたいものですよ。まあ、今年もお疲れ様といって、会社でおおっぴらに飲むだけなんですけどね」
...なんだ、本当に参加するだけ。
私はほっと胸を撫で下ろし、気になったのでもう少し詳しく。
「...その納会は遅くまでかかるのでしょうか?」
「得意先周りが殆どないので、夕方くらいで帰る人と残って飲む人に別れます。だから、その時に帰れますよ。ただ、その日の当番にあたっていると夕方には帰れません。三浦さんは当番ですか?」
うちが年内の営業を終えてもお客様はまだという場合もあり、電話番と品物配達を当番制で数人の営業が受けることになっている。
彼が聞いてきたのは、私がその当番に当たっているかどうかという事だった。
「いや、違っていたと思います」
「それなら...」と彼は言いかけ、珍しく周りを警戒しつつの小声になる。
「その日にどこかで待ち合わせして、帰りにデートしませんか?」
...え、え、え!?
これにはすんなり返事を返せなかった。
「だから、行きたい所を考えておいて下さいね」
藤澤さんは殆ど周りに人がいないからと、お茶目にウィンク。
せっかく自分なりにドキドキを抑えていたというのに、こんな素敵なお誘いに、また、挙動不審状態に陥る。
思ってもみなかった初デート!!
勤務時間中だというのに「どうしよう...」と、真剣に悩んでしまう。
ただ、彼が出来たら是非行ってみたいと思っている場所もいくつかあったので、お伺いを立ててみる。
「あの...本当にどこでもいいのでしょうか?」
すると、藤澤さんは笑顔で「もちろんですよ」と即答してくれた。
「それなら...」と遠慮がちに伝えたのは、夜景の見える展望台。
「展望台?そんな所でいいのですか?」
彼はもっと違うところを想像していたのか、意外といった風に聞き返してくる。
「は、はい...実はデートで行くのが、ずっと夢でして...」
流石に子供っぽいかと恥ずかしくなり俯いてしまいそうになったけれど、ふとある可能性が脳裏を過ぎった。
「...そこの展望台に行かれた事はありますか?」
デートスポットでもとても有名な場所だったから、彼自身はもしかしたら他の誰かと何度も行った事があるのではと気になってしまう。
彼の返事を真剣に待ってしまうと、柔らかく笑われた。
「...そうですね、友人と一度だけ行ったくらいでしょうか。それも大分前のことだから、どんなのかは忘れました」
彼の否定とも取れる言葉に安堵して、ホッとする。
「それなら、良かったです」
「えぇ。だから、是非行きましょう」
勤務時間中にも関わらず、デートの約束をしてしまうなんて。
付き合っている事を秘密にしてと話すわりに、藤澤さんは大胆だった。
それとも、私が寂しくないように気を回してくれたのかなとも思う。
いつも、藤澤さんの方が大人で一枚上手だから、自分も同じように大人になりたい。
そうなったら、なんでも気軽に話せる関係になれるのかな思っていると、向かいから白衣姿の男性がこちらに駆け寄ってきた。
「主任、探しましたよ。どこいってたんすか?」
松浦に声をかけられ、私と彼は顔を見合わせる。
そんな私たちの間に松浦はズケズケと入り、彼の持っていた段ボールを奪っていった。
「なんで、三浦のくせに主任に荷物待たせてんだよ?」
相変わらずのすごい言われように私は開いた口が塞がらない。彼は松浦の横柄な態度に苦笑いしつつも、私の手から紙袋を受け取った。
「これは俺たちが責任持って運んでおきますので。三浦さん、またね」
軽く手を振ってくれると、そのまま彼は松浦と2人で研究所へと向かう。
私が今にもスキップしそうなくらい浮かれて戻ったのは、言うまでもない。
0
お気に入りに追加
1,080
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
おじさんは予防線にはなりません
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」
それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。
4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。
女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。
「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」
そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。
でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。
さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。
だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。
……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。
羽坂詩乃
24歳、派遣社員
地味で堅実
真面目
一生懸命で応援してあげたくなる感じ
×
池松和佳
38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長
気配り上手でLF部の良心
怒ると怖い
黒ラブ系眼鏡男子
ただし、既婚
×
宗正大河
28歳、アパレル総合商社LF部主任
可愛いのは実は計算?
でももしかして根は真面目?
ミニチュアダックス系男子
選ぶのはもちろん大河?
それとも禁断の恋に手を出すの……?
******
表紙
巴世里様
Twitter@parsley0129
******
毎日20:10更新
【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。
しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。
そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。
渋々といった風に了承した杏珠。
そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。
挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。
しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。
後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。
▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる